独立開業編

KFSによる質の高いサービスで価格競争に巻き込まれず関与先を拡大

NMS委員会座談会

とき:平成27年11月5日(木) ところ:TKC東京本社

TKC会員事務所での勤務経験を持ち、資格取得後に関与先ほぼゼロで独立・開業した3名の会員に、関与先拡大手法や職員育成など、開業から数年間の取り組みを語っていただいた。

出席者(敬称略・順不同)
 八森恵一会員(平成25年5月入会・北海道会・37歳)
 井上雅登会員(平成24年10月入会・東京都心会・36歳)
 能美太一会員(平成21年11月入会・千葉会・36歳)

司会/TKC全国会ニューメンバーズ・サービス委員会
 委員長 田口 操会員(東・東京会)

座談会

どんな事務所に頼みたいか社長の目線で考えた

 ──本日は、開業から数年となる3名の会員にお集まりいただきました。まず自己紹介と、事務所の特長からお聞かせください。

井上雅登会員

井上雅登会員

 井上 東京都心会四谷支部に所属している井上雅登です。もともとTKC会員事務所に職員として8年間勤めており、3年前に開業しました。月次の関与先は法人33件、個人が4件で、職員として妻が手伝ってくれています。
 事務所は飯田橋のTKC東京本社から徒歩5分の場所にあり、交通の便がよいのが特長です。学生時代から飯田橋近辺に住んでいて土地勘があったので、事務所も自宅近くがいいと思い事務所を借りました。現在、支部の書面添付推進委員を務めているのですが、SCGサービスセンターや事務局が近いので研修や会合の際も便利ですね。

 能美 千葉会千葉支部の能美太一です。千葉会ではシステム委員会副委員長を務めています。職員は巡回監査担当2名とパート2名の計4名です。月次関与先は法人と個人を合わせて約60件。開業は平成23年なので現在5年目になります。
 事務所のある市原市は人口約28万人の小さな町ですが、東京湾沿いに多くの工場があるので中小企業が多い土地柄です。私はもともと千葉市出身で、職員時代には袖ヶ浦の勝畑元宏先生の事務所でお世話になっていました。出身地である千葉市と実務で慣れ親しんだ袖ヶ浦市の中間でもあり、税理士登録人数に対して比較的TKC会員が少ない地域であることから、現在は五井駅前で開業しています。

 八森 北海道会札幌西支部の八森恵一です。私も開業するまで3件のTKC会員事務所でお世話になり、平成25年5月に今の場所に事務所を構えました。職員は5名、月次関与先は法人75件と個人27件です。
 事務所は札幌市内の地下鉄の駅から徒歩3分の場所にあります。お客さまが来るときに便利だし職員も通いやすいと考え決めました。雰囲気は職員同士が仲良く風通しが良い事務所だと思っています。
 TKCの役職は、北海道会システム委員会副委員長とニューメンバーズ・サービス委員、そして札幌西支部の企業防衛推進委員長を兼任しています。

 ──皆さん、事務所の立地にはこだわりを持っていますね。

 能美 自分が会社の社長としてどんな税理士事務所に依頼したいかを考えると、やはり事務所の雰囲気や利便性などをチェックすると思います。最初は安いアパートで開業したのですが、実際に関与先社長や経理部長が来所することも多いですし、早くきちんとした事務所に移転しようと考えていました。

 八森 私も開業当初お金がなかったのですが、TKCに入会し参加した「入会セミナー」で田口先生のご講演を聞き「やはりきちんと事務所を借りて、職員も雇い、責任を持ってお客さまと対峙しないといけない」と感じて、駅前の物件の契約を決断しました。

 ──そうでしたか。自分の都合ではなく、いかに社長の目線で考えられるかということが大事ですよね。

職員時代、自計化による業務効率アップを実感

 ──税理士を目指した理由と、TKC入会の動機をお聞かせください。

 井上 私はちょうど大学卒業の時期が就職氷河期だったこともあり、何か資格を取ろうと考え税理士を目指しました。卒業後は会計事務所に就職したのですが、偶然そこがTKCの事務所だったのです。
 当時その事務所ではパソコン会計をメインで使っており、TKC自計化システムへの移行に取り組もうとしていたところでした。私が在籍した8年間でほぼ関与先の自計化が完了し、記帳代行の時と比べて格段に効率が良くなったという実感があったので、独立したときは迷わずTKCに入会しました。
 実は開業日と入籍日が同じで、しばらくは妻の収入もあるのでのんびり仕事をしようと思っていたら、妻が仕事を辞めてしまったんです。無収入で新婚生活がスタートし「これはまずい」と思って必死でお客さまを探しました(笑)。

 ──それは奥さんに感謝しないといけないね(笑)。

 能美 私は高校時代からアルバイトばかりしていまして、例えば新聞配達や飲食店、着ぐるみをかぶるような仕事までサービス業を中心に10種類以上を経験してきました。大学時代に簿記専門学校から来たDMで税理士という職業を知ったのですが、そのDMにあった仕事内容を読んだ時に、税理士は「経営者に対する高度なサービス業」ではないかと感じ興味を持ったのがきっかけです。
 そして勝畑先生の事務所に就職したのですが、もちろんオールTKCで、私も職員時代から継続MASなどを使っていましたので、資格取得後にⅢ型会員として入会しました。

八森恵一会員

八森恵一会員

 八森 私は出身大学が商業系で、ある授業の単位を取るために簿記3級を取得したことがこの業界に入ったきっかけです。そして卒業後は会計事務所に就職し、その後いくつかの事務所でお世話になったのですが、その中のある事務所の所長が42歳の若さで病気になり廃業することになったのです。その時、関与先の社長が「これから私はどうなるのですか」と非常に不安がっており、自分に資格がないことの無力さを痛感しました。
 そこで資格取得を目指し、次の事務所に入所するのと同時に簿記専門学校に通い始め、数年かけて合格しました。すぐに独立する予定ではありませんでしたが、自分自身も体調を崩したことがきっかけで、「一度しかない人生、悔いのないようにチャレンジしよう」と思い、開業を決意しました。

社長の満足度が高ければ顧問料値上げは難しくない

 ──ニューメンバーズ会員の大きな課題の一つに関与先拡大がありますが、皆さんはどのようにされていますか。

 井上 独立するときに前の所長から2件引き継がせていただきましたが、他はすべてお客さまと知人からの紹介です。
 工夫していることの一つとして、顧問契約前の面談の際、将来成長しそうかどうか、あるいはお客さまを紹介してくれそうな方かどうかを判断し、その場合は少し顧問料を値引きしてでも契約するようにしています。実際、顧問契約から1年以内に、約6割から7割の社長が紹介してくれます。

 ──高い確率ですが、自分から紹介を頼むのですか。

 井上 いえ、自発的に紹介いただくのを待っています。紹介してくれそうな方の具体例としては、小さなコミュニティに所属している方、例えば外国人は同じ外国人同士でコミュニティを作っていることが多いので、そうした方から仲間を紹介いただくことが多いですね。
 また前の事務所では巡回監査担当職員に値上げの決定権が与えられており、当時から値上げは得意でしたので(笑)、最初は安い顧問料で契約し、1年後に値上げするという戦略をとっています。

 ──値上げが得意というのはすごいですね。社長にはどのように話すのですか。

 井上 決め台詞や特別なノウハウがあるわけではありません。たとえ顧問料が安くても、月次巡回監査やKFSといった通常のサービスを、手を抜かずに提供し続けることです。顧問料が安いからといって巡回監査に行かないなどサービスの質を下げてしまうとその値段のまま変えられませんが、質の高いサービスで満足度を高められれば、必ず社長も「この顧問料は安すぎる」と感じてくれるようになります。
 また、ただ「値下げします」と言うのではなく、「○○社長の紹介ですから、月3万円のところ最初の1年は1万5千円でいいですよ」と話すようにしています。そして1年後に3万円ではなく5万円にしていただく。業績が悪い場合などどうしても値上げできないケースもありますが、大半はご納得いただけます。

能美太一会員

能美太一会員

 能美 私はできるだけ多くの人に会うことを心掛けています。例えば地元の商工会議所に入ってお祭りの手伝いをしたり、あるいは地元の金融機関で積立預金をして人脈を作ったりすることで紹介につなげています。
 他に事務所HPからの問い合わせも、年に何件か顧問契約につながっています。HPでは「当事務所では年一決算はお受けできません」と明記しており、顧問料も法人なら月額3万5千円からと書いてあるので、その値段を「高い」と感じる方からの問い合わせはなくなりました。
 顧問契約の際には、顧問契約書に月次巡回監査とTKCシステムによる自計化が前提であることや、初期指導や業績検討会、書面添付等の実践を明記します。顧問料についても、以前粟飯原一雄全国会会長があるご講演で「税理士は関与先の社外取締役のような役割を担うべきだ」とおっしゃっていたので、その言葉を使わせていただき「税理士の顧問料は『社外取締役の役員報酬』のようなものです」とお話ししています。

 八森 私も拡大はほとんどが紹介です。ルートは既存のお客さまのほか、行政書士、司法書士、弁護士など提携している士業の方。また、私もさまざまな場所に顔を出すようにしているので、そうした機会に仲良くなった方から紹介いただくこともあります。
 北海道は札幌一極集中なので会計事務所の価格競争も激しいのですが、その波に飲み込まれたくないと思っています。ただ土地柄からかお客さまの約6割が新設法人で、業績の見通しが立たないことも多いので、顧問契約の際に顧問料を1万円値引きし、半年後に正規料金に戻すといった工夫をしています。
 一方で、私も値上げの成功例があります。ある会社を記帳代行からTKCシステムに移行させてKFSを実践したことでサービスの質が格段に上がり、社長から「値上げしていいよ」と言っていただいて、顧問料が倍になりました。お客さまを増やすのも大切ですが、サービスの質を上げて適正な顧問料をいただくことも必要なのだと感じましたね。

TKCビジネスモデルの実践が事務所の差別化に

司会/田口 操会員

司会/田口 操会員

 ──TKCシステムに移行する際、関与先からの抵抗などはありませんか。

 能美 私は顧問契約の際にTKCシステムを使っていただくことを前提に契約するので、ほとんどありません。

 井上 当事務所もお客さまからの紹介が多く、紹介される側もTKCということを分かっていただいているので、ほとんどないですね。たまに、紹介された社長が「遡って修正できなくなるのは不安だ」と言いますが、紹介者の社長が「ずっとTKCシステムを使っているけど、毎月来てチェックしてくれるから心配ないよ」と説得してくれています。

 八森 お客さまがすでに家電量販店などで市販の会計ソフトを購入してしまっている場合、一応TKCシステムを紹介しますが、難色を示されるとしばらくはその市販ソフトを使ってもらうこともあります。
 ただ、先日そのお客さまにFX2を勧めたところ、意外とすんなり導入が決まったのです。やはりメリットをきちんと説明すれば社長に分かっていただけるのだと実感しました。

 ──「FXシリーズは社長のためのシステムです」と市販ソフトとの違いをきちんと説明することが大事ですよね。
 他に、事務所の差別化戦略として取り組んでいることはありますか。

 八森 普通のことをしていてはどこにでもいる税理士になってしまうので、例えば一つの業種に特化することも検討しました。ただそうすると他業種のお客さまをどうするかという問題が出てきますので、簡単ではないですね。

 能美 私は開業当初「若くてフットワークが軽く、相談しやすい」ことをアピールしていましたが、今はサービスの質の高さ、つまり月次巡回監査やKFSといったTKCのビジネスモデルにしっかりのせることを考えています。TKC会員が少ない地域では、それこそが差別化につながるからです。

 井上 私は顧問契約前の最初の面談で、必ず社長に三菱東京UFJ銀行の「極め」のパンフレットを見せて、KFS等について説明しています。
 やはり「最低金利0.4%」は衝撃的なようで「どうすれば借りられますか」と聞いてくるので、「今すぐは無理ですが、毎月巡回監査にお伺いし、書面添付などの条件が揃えば3年後に0.4%で借りられます。だから自計化をして一緒に頑張りましょう!」と説明します。
 やはり具体的な目標があると社長のモチベーションも違いますし、これが事務所の差別化にもなっていると思います。

座談会2

7000プロジェクトが関与先拡大につながった

 ──職員採用・育成について工夫していることがあれば教えてください。

 能美 最近、多くの事務所が人材の確保に悩んでいるとお聞きしています。私が今考えているのは女性の活用です。というのは、求人広告を出しても税理士志望者は千葉市内や東京に行ってしまうのでなかなか応募してくれないのですが、地元でも働く意欲のある女性は少なくないからです。
 もちろん女性にこだわるわけではありませんが、未経験の方でも働きやすい環境を整え、まずは応募してもらい、採用後に育てていくことで人材を確保しようという方針です。

 八森 当事務所では最近業界未経験の若い男性を採用しました。経験者を雇うべきかどうか悩みましたが、一度若い人を育てるのはいい経験になりますし、事務所の雰囲気も変わると思います。
 あとは、私自身資格がなくて苦い思いをしたので、職員には税理士資格を取ってほしい。勉強のための休暇は極力与え、研修にも積極的に出てもらうなど、人材育成のコストは惜しまないようにしています。

 ──職員が増える前に事務所を借りるのと同じで、人材も先に投資をする発想が大切ですね。
 現在全国会では7000プロジェクトを推進していますが、皆さんはどのように取り組んでいますか。

 井上 お客さまは新設法人が多いため対象企業が少ないのですが、それでも9月決算のお客さまで1社社長の了承が得られました。今後も引き続き実践していきたいと思います。

 能美 今まさに1件経営改善計画を作っているのですが、実はその会社は関与先ではなく、地元の商工会議所から紹介された会社なんです。当然、別に顧問税理士がいるのですが、その税理士には経営改善計画策定支援を断られたということで話をいただきました。
 ただこのスキームは改善計画について社長と膝をつきあわせて話し合わないといけないので、顧問税理士が行うのがベストだと感じています。

 八森 私は現在2件の利用申請が受理され、1件は経営改善計画を作っている段階、もう1件は計画策定が終わってモニタリングをしている最中です。
 予想外だったのは、これが関与先拡大にもつながったことです。たまたま知人に7000プロジェクトの取り組みや意義について熱く語ったところ、その話をまた聞きしたある飲食店の社長が「うちの顧問税理士はそんなことしてくれない」と不満を持ったようで、当事務所に移ってきたのです。

TKC会員同士で連携し総合力を高めていきたい

 ──最後に今後の目標、10年後の事務所のビジョンをお聞かせください。

 井上 今は妻と2人だけの事務所ですが、そろそろ職員を採用し、お客さまをもっと拡大していきたい。10年後には、職員10人弱、お客さまも100件以上にすることが目標です。

 能美 当面の課題は職員育成です。まだまだ自分が動かないといけないことが多く忙しいので、職員の育成と組織づくりをしっかりやって、事務所の底上げをしたいですね。
 もう一つ、もっとTKC会員同士で連携していきたいと考えています。というのは、当事務所だけでできることは限られていますが、同じTKC会員の仲間と連携すれば、例えば中堅企業の難しい案件にも対応できるし、一匹狼にならずに済むと思うのです。他の事務所と協力して支え合うことで、総合力を高めていこうと思っています。

 八森 開業から3年間がむしゃらにお客さまを増やしてきましたが、そろそろ足元を固めなければいけない時期だと感じています。今後は組織としての体制整備、例えば職員による「報・連・相」のルールなど、職員と一緒に作り上げていきたいですね。そして10年後の数値目標としては、職員を10人に増やし、その中から税理士試験合格者を出して税理士法人を設立し、本当の意味で一緒に事務所を成長させていきたいと思います。

(構成/TKC出版 村井剛大)

(会報『TKC』平成27年12月号より転載)