監査法人出身会員に聞く

「会計の力」で地域社会の活性化に貢献していきたい

梅田公認会計士・税理士事務所 梅田雅彰会員(北陸会福井県支部)
梅田雅彰会員

梅田雅彰会員

監査法人を退職後、留学・起業等と多様な経験を経た後、地域活性化に貢献したいと地元の福井県に戻って公認会計士事務所を設立した梅田雅彰会員。「『会計の力』を経営者に分かってもらえた瞬間が一番うれしい」と笑顔を見せる。

震災ボランティアで人生の一回性を痛感

 ──開業前、監査法人勤務のほか多様な経験をされているとうかがいました。そもそも公認会計士を目指した背景は?

 梅田 小さい頃から「自分で会社を経営してみたい」と思ってきました。商学部入学後に資格の本を見ていて、「難関」「高給」など、自分のチャレンジ精神を刺激する言葉が多く書かれていたのが、公認会計士でした。それで「格好いい会計士になろう」と思い、大学1年生の時に専門学校に入学、4年生の時に現役で公認会計士試験に合格し、卒業後に大手監査法人に入社しました。

 ──監査法人での印象深いお仕事はどういったものがありましたか。

 梅田 4年ほど勤めていた中で、楽しかったのは現場視察ですね。例えば住宅メーカーの監査では、売上が工事完成基準に基づいているかどうかを現場へ確認しに行く。一軒の建物で、売上は軽く数千万円変動するので、本当に建物が完成しているか、引き渡しがされているかを一軒一軒見に行くのは本当に面白かった。棚卸しの立ち会いで大工場に行ったこともありますし、何より自分の目と耳で直接見聞きできる業務が好きでしたね。

 ──なぜ退職を決意されたのでしょう。

人生の一回性の実践者となる

 梅田 平成23年に東日本大震災がありましたよね。それで東北へボランティアに行ったのですが、連れて行ってくれたボランティアの団体がクリスチャンの方で、世界中からボランティアとして来ていました。彼らの「助けたい」というその一心で自腹を切って日本に来ているのを目の当たりにして、衝撃を受けました。それなら人生は自分のやりたいこと、すべきことを躊躇なくやるべきなんだと強く思ったんです。
 ボランティア後は以前よりも一層ポジティブな気持ちで仕事に臨んでいたのですが、ちょうどその頃、法人の早期退職の募集もあり、もともと「海外で活躍する会計士になりたい」「英語が話せるようになりたい」という思いがあったことや、さらに東北での経験から「人生は一度きり」という考えも強くなっていたため、思い切って早期退職に手を挙げたんですね。そして、その退職金で1年ほどサンフランシスコに留学しました。
 サンフランシスコを選んだのは、ITスタートアップ企業が多くて興味があったのと、起業したい人が集まる場所なので、そこで出会った人と何かビジネスを始められたらいいなと思ったからです。サンフランシスコでは一人ひとりがとっても楽しそうに生活していたのが印象的でしたね。

新規創業支援をしたくて開業を決意した

 ──帰国後は何をされたのですか?

 梅田 「自分で会社を経営してみたい」という夢も叶えようと思って、大阪で起業しました。サンフランシスコの街を思い出し、「一人ひとりが活躍できる社会づくりをしたい」「日本の良いものを世界に広めたい」という思いで、アマチュア漫画家の漫画を集めて電子書籍で配信する事業です。ただ、収益化はなかなか難しく、2年ほど経った頃に撤退しました。
 その後、故郷である福井県池田町に戻り、就職し、地域活性化のため地域のイベントへの参加等をしてきたのですが、私は「これじゃ地域は活性化しない。必要なのは経済を回すことだ」と強く危機感を感じ、退職しました。そして、「経済を回すために自分は何ができるか?」を考え、私は自分の会計のスキルを活かすことに決めました。会計の力で新規創業のお客さまを支援し、そして成長する姿を近くで支援するのが自分の一番の幸せかなと思い、平成27年4月に池田町で開業。同年6月に、越前市に事務所を移転しています。

 ──まさに「即断即決、即実行」の人生ですね。開業していかがお感じですか。

 梅田 「帳簿をつけててよかった!」と、会計の重要性をお客さまに分かっていただいた時に、大きなやりがいを感じます。開業前には会計を作業としてとらえている人と出会うことも多く、会計がリスペクトされていないことがすごく気になっていたんです。私は「会計の力」を伝えていきたいと思って開業したので、地域で「会計の力」を信じる人が増え、そして成長していく姿を目の当たりにできるのはすごくうれしいし、誇りを感じます。開業してよかったなとつくづく思います。

会員・経営者を「孤独にしない集団」に魅力

 ──先生のお考えは「会計で会社を強くする」というTKC全国会の方針と一致しています。以前からご存知でしたか。

 梅田 いえ、実は全然知らなかったんです。移転前の事務所にTKCのセンター長が来て名刺交換したのが始まりです。
 その後、センター長から「事務所経営を考えるセミナーに来てみませんか」と誘われて、ちょうど空いていた日だから行ってみたんです。そうしたら懇親会で酒井雅幸先生(税理士法人アイ・タックス福井事務所所長)と出会い、スキーの話で盛り上がって後日一緒にスキーに行くことになりました。リフトでいろいろな話をする中で、酒井先生の仕事の考え方や姿勢が「すごく格好いいな」と思ったんですね。実は、税理士登録はしたものの税理士の仕事内容がよく分からなくて、記帳代行や申告書作成など「作業代行人」というイメージが強かったんですが、酒井先生は「TKC会員はそうじゃないよ」と。
 何より、「血縁的集団」という言葉が胸に響きました。「TKC会員は血縁的集団。会員を孤独にさせないのが地域会の役目」と。実は自分で事業をしていた時のことですが、孤独を感じて先が見えなくなった時に「もうダメだな」とやる気がなくなり、事業の終わりが見えたんです。だから「孤独は事業の敵」というのが自分の中にあったのですが、TKC会員は血縁的集団であり絆が強く、経営者に対しては巡回監査で毎月必ず会いに行き、孤独にさせないという仕組みになっています。TKC全国会は、孤独が敵だとよく分かっている集団なんだと腑に落ち、TKC入会を決めました。今では、酒井先生をはじめ福井県支部の先輩会員と年齢に関係ない交流をさせてもらっています。

 ──現在の事務所経営はいかがですか。

 梅田 今年の1月に巡回監査担当者を採用しました。業務の標準化をしたいと思い、OMS巡回監査支援システムを入れましたが、やはり巡回監査の流れに乗せるには絶対に巡回監査支援システムは必要だと思います。このシステムがあれば、職員が入ったその日から何をすればいいか分かるので、すぐに戦力になってくれる。職員が増えても大丈夫という安心感があります。
 職員には、「KFS以外しなくていい」と言っているんです。「記帳代行を頼まれても、それはうちの事務所じゃなくてもできるから」と。お客さまの役に立つと明確になっているKFSだけ実践すればいい。それにTKCのフィンテックサービスも始まりましたし、FX2巡回監査支援システムで「入口」の部分はかなり省力化できるようになりました。その分、「出口」の数字をきちんと見て、経営者と話ができる時間に充てられるのはすごくいいなと思っています。

 ──税務についてはどうでしょう。

 梅田 税務は日々勉強ですね。でも、どんなに税務のエキスパートでも、税制改正は毎年あるので分からないことがゼロになることはありませんよね。だから「引け目」を感じる必要はないですし、慢心せず、ひたすらに勉強を積み重ねていくことが大切だと思っています。

真の「会計士」として生きるならTKC!

 ──開業を検討されている公認会計士の先生方にアドバイスするとしたら。

 梅田 本当に「会計士」として生きていきたいなら、TKCに入るしかないと思います。結局、学ばないと「正しいこと」は分かりません。私も入会していなければ、記帳代行をやってあげるのが会計士の仕事だと思っていたかもしれません。まずTKCに入って、何が正しいのか、自分の思う「正しさ」は本当に正しいのか、客観視する機会を持つことをお勧めします。「正しさ」の入り方を間違えると、ずっと間違えたまま突き抜けてしまうので、TKC全国会が目指している「会計で会社を強くする」という「正しさ」を身につけたほうが、伸びるのが早いと思います。「正しくないことはしたくない」という正義感がある人なら、TKCの方向性はきっと合うはずですよ。

 ──先生の夢をお聞かせください。

 梅田 やっぱり、地域活性化ですね。社会の中で自分が果たす役割を見つけられないと、どんな仕事でも生きていくのは難しいと思います。私の場合、自分の役割は会計を活用した新規創業支援だと考えているので、地元で新規創業したい人がたくさん集まって成長していく環境をつくり上げていきたい。そして会計を大事にする経営者とともに、事務所も発展していったらいいなと思います。
 それから、会計人の一人ひとりが誇りを持って活躍できる業界をつくりたいですね。TKC会員として「自利利他」の実践に邁進し、「会計で会社を強くする」という正しさを広めて、この会計人業界を盛り上げていきたいと思っています。

(TKC出版 篠原いづみ)


梅田雅彰(うめだ・まさあき)会員
平成19年監査法人入社、平成23年退職。留学・起業等を経て、平成27年4月開業。
趣味は読書、フットサル、スキー。
梅田公認会計士・税理士事務所
 住所:福井県越前市府中2-2-23 Sビル2階南
 電話:090-9286-8663

(会報『TKC』平成28年8月号より転載)