事務所経営

「中小会計要領」で会計人の未来を拓こう!

──会計ルールに則った正しい決算書で中小企業を強くする

平成24年2月1日の「中小会計要領」公表から約5年が経過。国の施策等にも取り入れられ、会員の実践数も伸びているが、金融機関の認知度はまだ不十分であり、全会員を挙げたさらなる「中小会計要領」普及が大きなテーマとなっている。新年にあたり、「中小会計要領」普及推進プロジェクトのメンバーが、「中小会計要領」の活用法や普及に向けた課題等を語り合った。黒岩延峰プロジェクトリーダーが司会を、加藤恵一郎プロジェクト担当副会長がまとめ役を務めた。

出席者(敬称略・順不同)
 原田伸宏会員(関東信越会)
 松﨑堅太朗会員(関東信越会)
 金成祐行会員(西東京山梨会)
 加藤恵一郎会員(中小会計要領推進プロジェクト担当副会長)

 司会/黒岩延峰会員(中小会計要領推進プロジェクトリーダー)

座談会

中小会計要領ができるまで中小企業の会計は混沌とした状態だった

 黒岩(司会)「中小会計要領」普及推進プロジェクトの2年間の活動で、会員事務所の実践数も大きく伸び、20万社を超えました。本日はさらなる普及推進に向けて、これまでの成果と課題や中小会計要領の必要性などについて皆さまに語り合っていただきたいと思います。
 まず、3名の先生から簡単に事務所の概況をご紹介ください。

金成祐行会員

金成祐行会員

 金成 うちの事務所は0から開業して23年目です。いまスタッフの人数は25人、月次の関与先は約300件で、KFSはそれぞれ220~230件です。28年は税務調査が1件もありませんでした。意見聴取も1件だけで、調査省略でした。
 うちは経営助言に力を入れているので、価格競争には巻き込まれていません。関与先数も伸びていますが、職員の育成が追い付いていないのと、事務所が大きくなるに従ってTKCのやり方の浸透度が薄くなってきている。そこをもうちょっと頑張ろうというのが29年の展望です。

 松﨑 私は2代目です。事務所の歴史は古く、母方の祖父が昭和43年に開業したので、48年ぐらい経っています。スタッフは8名で、月次関与は法人70件、個人10件です。長野県駒ケ根市という人口3万人、周辺まで含めても商圏が大体10万人のところでやっています。歴史が古く規模も大きくないので、KPIは大体7割前後のところまで来ています。
 7000プロジェクトで事務所が大きく変われたと思っています。各金融機関と個別で案件を進めていく中で、うちの担当スタッフが金融機関の方と電話で話せる関係ができてきました。金融機関からご紹介をいただくにはそういう環境が必要だと思いますので、7000プロジェクトに取り組んできて、今年以降、ようやく刈り取れるという実感があります。

 原田 私は開業して、ちょうど20年目になります。月次の関与先は約130件でほとんど法人です。スタッフが13名。事務所総合力のKPIは約6割というところです。
 これからの課題は顧客との密着度を高めることだと思っています。感謝される事務所になるためには、やっぱり顧客から目を離してはいけないですし、ちょっとした顔色の変化をしっかり受け止めていかなければいけない。こちらから問いかけていかなければいけない。悩みも先回りして、拾っていかなければいけないだろうなと。そこを事務所経営としてどういう仕組みでいくのかというところがすごく大事だと思っています。

 黒岩 本題に入る前に、決算書の信頼性の保証をめぐる大前提の話を加藤先生からお願いします。

 加藤 諸外国では、ドイツやアメリカのように中小企業であっても決算書の信頼性を担保する仕組みが整っているわけですが、日本の場合はそういう制度が確立されていません。いま日本にある制度というのは、企業数でいえば0.3%の公開企業に向けて公認会計士が行う財務諸表監査しかない。企業数の99.7%を占める中小企業の決算書の信頼性を保証する仕組みは会計参与制度のみで、非常に心許ない状態です。
 そういった状況の中、大多数の中小企業の決算書作成は税理士がサポートしているわけですが、そこで従来機能していたのは「税法基準」で、その適用については税理士の判断に任されていました。税法基準はあまりにも選択の範囲が広く、あいまいでブレも激しい。また、最終的な税金の計算には注意を払うが決算書の数字には気をつかわないといったケースもあり、金融機関からの信頼性も低いものでした。これが、中小会計要領ができる前の課題でした。
 こういう問題が前提としてあって、中小会計要領が税法基準との親和性を維持しつつ一歩踏み込んだ中小企業向けの会計基準として確立され、その普及という話が出てきているという点をまず共通認識としていただきたいと思います。

中小会計要領によって、税理士が真の会計の専門家になった

 黒岩 中小会計要領をなぜそんなに普及しなければいけないのかが、まだ本当に腑に落ちていない会員もいると思います。そもそも中小会計要領をどのように捉えているのか、皆さまのお考えをお聞かせください。

原田伸宏会員

原田伸宏会員

 原田 私も最初は中小会計要領がピンと来なくて、要は減価償却をきちんとやることと、申告調整が関連する賞与引当金を積むこと。こういうことをやれと言っているのだなという程度の認識でした。いろいろな先生方の意見を聞いたりディスカッションしたりする中で、一つ腑に落ちたのは、経営者のための身の丈にあった会計だということ。経営者が自ら会計の数字を読めて使えて見通せるということですよね。自分の業績管理に使える会計としてできたということにすごく意味があるなと。時価主義ではないし、税効果もない、経営者にとって分かりやすい会計が初めてできた。だからこそ、われわれは巡回監査の中で数字を経営者に伝えて、経営者が自社の業績管理をできる。そういうことがまずあります。
 もう一つは金融機関との関係における点です。金融庁が金融機関を監督する基本的な考え方を示す「監督指針」では、中小企業である顧客企業が中小会計要領等に準拠した決算書を作成しているか否かに着目するようにと示されています。「中小会計要領に準拠している」ということは、少なくとも一つのルールの土俵に乗っていて、最低限の品質の保証があるということですね。
 ですから経営者は会計を業績管理に使えるし、外部に向かっても「うちの会社の会計はきちんとしています」と自信を持って理解して伝えられる。そういうものだと思っています。

 金成 私はちょっと切り口が違います。いま飯塚毅全国会初代会長が書かれた『正規の簿記の諸原則』を読み直しているのですが、飯塚先生は「正規に記帳された帳簿は証拠力を享受する」というテーゼをドイツの租税法から導き出しています。日本では、法人税法130条と所得税法155条で帳簿の証拠力を認めて更正しない場合の是認義務を決めており、それを根拠として帳簿の証拠力が重要だというのが基本的認識です。今でこそ改正商法および会社法に「適時性」「正確性」という記帳条件が明文化されていますが、改正前は、そうした規定がなかったため、帳簿の証拠力を弱め、決算書の信頼性を損ねる要因になっていました。
 帳簿の重要性について多くのTKC会員は当たり前のことだと思っていますが、ニューメンバーズ会員やTKC会員以外の税理士の多くはおそらく意識していないでしょう。だから、遡及訂正のできる、証拠力に欠けた帳簿を作る他社会計ソフトを使い勝手がいいと勘違いしてしまうのではないかと思います。
 中小会計要領は「記帳の重要性」について一つの項目を設け、適時性・正確性のある帳簿を前提としています。私は、中小会計要領は、『正規の簿記の諸原則』で飯塚先生が指摘された「帳簿の信頼性」が結実したものだと思っているのです。そこの部分に焦点を当てていくと、中小会計要領に準拠した決算書の信頼性というのは、もっと説得力が湧いてくるのではないかというのが私の考えです。

 松﨑 私は中小企業の会計ルールに関しては、実体験を通じて素直に必要だと思ったところから入っています。それは他の先生方とは違うアプローチでして、海外との比較から入っています。
 2000年当時、長野県は海外進出ブームで、私のお客さまがタイに進出しました。タイでは中小企業も全て会計監査が義務付けられているので、当然、タイの会計ルールに従って全て処理するわけです。例えば棚卸資産の評価方法は日本も継続記録が原則ですが、実際は税法により最終仕入原価法でやっていますよね。タイでは会計の方が税法より強くて、正しい会計ルールを前提に税法ができているのでそれが認められないのです。
 その後2005年にもJICAのプロジェクトでタイに行く機会がありました。タイは税理士制度がありませんから中小企業も公認会計士の方々が見ているのですが、会計ルールがあっても中小企業に対する指導を完璧にできているわけではなくて、すごく迷っているのですね。会計のルールもあるし、監査の制度もあるし、開示も全部インターネット開示でしていますから、枠組みは全部できている。でも、結局のところ実務では中小企業に対する記帳指導ができないということで、すごく悩んでおられました。そこでTKCの巡回監査と書面添付の話をしたら、それを教えてくれということで引きも切らない質問が来たという体験を2005年にしたのです。中小企業に対する保証の仕組みというのは、どうやら監査ではないなと思ったのですね。
 今、日本でも公認会計士協会が、監査基準委員会報告書の800および805という中小会計指針と中小会計要領に対する監査基準を作っていて、諸外国と同じように、枠組みは全部できています。その下の段階のレビューも保証業務実務指針2400という形で出せるようになっているのです。ところが、それを関与先に使えるかとか、一般的に広まるかという視点から見た場合には、難しいだろうというのが、中小企業に接している公認会計士の素直な見方だと思います。タイなどの諸外国と同じように、監査もレビューもおそらく保証の枠組みとしては使えない。書面添付などを活用した日本独自のやり方を考えて、広めるべきだと思っています。

加藤恵一郎会員

加藤恵一郎会員

 加藤 税理士はずっと税務と会計の専門家と言われていました。でも多くの税理士は最終成果物である申告書の形が整っていればとりあえずよしとしていた。途中経過はどうであれ、最終的に税務署に文句を言われなければいいと。
 日本は確定決算主義なので、まず決算書があって、総会で承認されて、そして申告書が作成されるという流れがあるにもかかわらず、その途中経過はほとんどあいまいだったのですね。中小企業向けの会計ルールがない時代がずっと続いていた。その状況に対して、確定決算主義を前提にして、中小会計要領や中小会計指針があって、きちんとしたルールに則って正しい決算をしなければ、正しい申告はできない──という流れが確立したことが、中小会計要領の一番大きな意義だと思います。これで初めて税理士は会計の専門家であると胸を張っていえるようになったということだと思っています。

税理士による税務と会計の判断の積み重ねが決算書の信頼につながる

 黒岩 中小会計要領に則っていることについて、金融機関に対してはどのように伝えていますか。

 原田 中小企業支援委員会で決算書の体系をまとめた「標準決算書サンプル」を出していただきましたが、私の事務所も以前からあのような取り組みをしています。事務所として決算書のあり方を固めて、やっていることを全部詰め込んで、決算が終わったときには、少なくとも決算書を3部は無償でお客さまに渡し、お客さまから金融機関に遅滞なく渡していただくようにしています。会社もしっかりとやっているし、会計人もサポートしているということを知っていただくためのツールとして、やり続けてきたというところがあります。

 松﨑 決算書単体を「中小会計要領に則っています」と言ってお見せしても、金融機関の方々は分からないわけです。実際は合わせ技で、そこには巡回監査の裏打ちがあるとか、継続MASで作った資料がついているとか、原田先生がおっしゃった「標準決算書サンプル」のような形にしてお渡しすると、初めて分かっていただけるというのが現実的な話だと思います。
「標準決算書サンプル」のような形にして、関与先の社長が金融機関に持っていくと、素直な反応として「こんなにすごい決算書を初めて見ました」と言われるわけです。ということは、金融機関はそれまでいかに見ていなかったかだと思うのです。会計事務所の仕事というのは本当に見えないので、自分たちが何をしているかを金融機関に対してきっちり伝えるという意識を持つようにしていかないと、現実には変わらないですね。
 その点については「TKCモニタリング情報サービス」が始まって、ようやく金融機関に全てが見せられる形になったので、これで中小会計要領の活用の実務的なインフラができたのではないかと思います。

 金成 金融機関側が一番評価してくれるのは、毎月巡回監査に行って、月次で決算を締めているという、「記帳適時性証明書」の二重丸の個数ですね。ここに信頼性を感じてくれる。だから適時・正確な記帳を重視する中小会計要領に信頼性を持ってくれているのと同じような意味合いはあると思います。
 帳簿の証拠力を保持するための巡回監査があるから、内訳書もきちんとしたものを作れる。最終的な結果として、税務側に向かっていくと書面添付があって、会計側は中小会計要領。中小会計要領自体が会計と税制の調和を図っているので、切り離して考える必要はありませんよね。書面添付と中小会計要領は表裏一体の形で、ものすごく密接な関わりがあると思います。

 加藤 金成先生がいま強調されましたが、われわれ税理士がこれから10年20年生きる道の大切なポイントは、税務の判断をするのと同時に、会計の判断をするということです。そして判断の積み重ねによって出来上がった成果物を社会が信頼してくれるという流れを作らないと、われわれの生きる道はありません。これが中小会計要領の一番のポイント。
 これをやらない限りは、将来は税理士の存在価値がないかもしれない。だから会員の皆さんには、ぜひそれを意識して、中小会計要領に取り組んでいただきたいということなのです。

金融機関との目線合わせのためにも中小会計要領実践件数を増やすことが必要

 黒岩 いま金融機関は、ゴーイングコンサーンを前提とせず、回収可能性を重視して決算書を見ている。また、金融機関は各金融機関独自のルールで見ているともいえる状況ですが、この点についてはどう思われますか。

松﨑堅太朗会員

松﨑堅太朗会員

 松﨑 税理士も書面添付をしていれば、意見聴取を通じて、税務署と決算書や申告書について意見を交わし、問題ないと認めてもらうことができます。でも金融機関はまず何がおかしいかということも言ってくれませんよね。金融機関にはもちろん金融機関の見方がありますけど、何かおかしいところがあるのだったら、何がおかしいのか言ってくださいという会話を、税理士が金融機関とできるようになってくると変わるのではないでしょうか。

 原田 中小会計要領を持ったということは、ある意味、金融機関に対して「われわれはこのルールに基づいてやっています」と自信を持って言えるようになったということです。それを金融機関が組み替えたければ組み替えていただく。そういう線引きをしっかり持ったというのは大きいですよね。

 加藤 実態貸借対照表をベースにして判断するというのは金融機関の気質です。それはそれぞれの金融機関で独自にやっているので、金融機関の数だけ会計基準があるようなものだということですよね。でも住む世界が違うからということで済ませるのではなく、われわれも歩み寄って、金融機関にも理解してもらうための目線合わせをすることが大事ですね。

 金成 われわれはあくまでゴーイングコンサーンを前提として、中小会計要領に基づいて決算を組む。書面添付や記帳適時性証明書は、定性要因として見ていただく。さらに必要なデータがあれば、私たちが提供しますということでいいのではないでしょうか。適時・正確な記帳に基づく正しい情報は担保しますが、そこから先の融資判断は金融機関さんのご判断ですと。それで独立した公正な立場としての説明責任は果たせると思います。

 黒岩 そういう社会制度にしていくためには、「われわれは中小会計要領をこれだけ使って決算を組んでいます」と、金融機関などの外部にアピールできるだけの件数が必要ですね。だからこそわれわれTKC会計人はさらなる中小会計要領普及をしていかなければならないのです。

TKCモニタリング情報サービスが中小会計要領普及の追い風に

司会/黒岩延峰会員

司会/黒岩延峰会員

 黒岩 中小会計要領とはちょっと離れるかもしれませんが、決算書の信頼性という面で、他社クラウド会計ソフトの台頭についてはどう見ていますか。

 原田 今出てきている他社クラウド会計ソフトのそもそものコンセプトは会計事務所・税理士不要論であって、TKCシステムとはそこが決定的に違うという話を関東信越会の理事会で聞いて、すごく印象に残っています。
 会計はあくまで道具であるのに、そういったソフトは、会計で何をするかという目的論が欠けているように思えます。

 加藤 その通りですね。ツールの話しかしていなくて、目的が見えないのです。飯塚真玄TKC会長も提言されていますが、決算書の信頼性を確保する仕組みが組み込まれた会計システムの利用こそが、われわれ会計人の生き残る道です。そういう意味では、おなじ財務会計ソフトというカテゴリーにあっても、TKCシステムと他社のシステムは決定的に違う。決算書の信頼性を確保するという仕事をしていかないと、この業界の将来は厳しいという大前提にご注目いただき、ご理解いただきたいと思います。

 黒岩 TKCシステムでは、「モニタリング情報サービス」が始まりました。これによってどういう影響が出ると思いますか。

 金成 今までは、金融機関に提出した資料は金融機関の担当者が稟議書を書く段階で見るだけで、担当者レベルで保管されていたと思います。それが「モニタリング情報サービス」では、データとして金融機関のシステムに保管されるので、審査部も上席も全部目を通せるということになりますね。
 真面目にやっている会員が馬鹿を見ない時代になると思いますし、逆に言えばしっかりできていないと低い評価をされてしまう。差別化が進むと思います。

 原田 本質的なことなのですけれども、決算書の信頼性ということを考えている金融マンはまだまだ少数派だと思います。どれだけ素晴らしい決算書を渡しても、100人に1人しか反応しなければ、元も子もありません。情報を紙でなくデータで渡したとしても、受け取る側がそういう情報を活用しようという思考がないと、データがゴミになる。そうなりかねないのではないかという懸念があります。

 加藤 金融機関では、今は紙で出てきたものを審査システムに打ち込んで、紙は全部置き去りにされて、データの一部分だけが行内を回っているというのが実態ですよね。今度モニタリング情報サービスが始まって、例えば書面添付や記帳適時性証明書の情報がデジタルデータで来たとしても、審査システムがそのままだったら、結局、システムに入力項目がない情報は横に置かれて、今までと同じデータだけが回っていくということになりかねないわけです。
 だから対外的にアピールして、行内システムを変えていただくといった活動をしていかないといけないのではないかと思います。

 原田 「中小会計要領に準拠している」ことを金融機関内部のデータ上も分かるようにしていただきたいですね。大転換であるからこそ、その価値をしっかりと伝えるチャンスではあると思います。

 松﨑 実は、金融庁の「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」でも、4年前から「中小会計要領の活用が有効である」と書かれているのですね。これは恒久的なものですし、今までは金融機関側でもあまり意識されてはいなかったと思いますが、今後変わってくる可能性は十分あると思います。
 ただ、金融機関側の現場からすると、中小会計要領に則っているのかどうかをどこで判断するのか分からず、個別注記表で拾うしかないとか、そういう技術的な問題もあります。そこは金融機関との協議会を通じて、われわれがどんどん現場で伝えていく必要があると思います。

 金成 いま各地域会で進めている金融機関との協議会が大切ですし、事務所単位、支部単位でも交流会を開いてアピールしていかないといけませんね。

『移行の手引き』を活用して全関与先に「中小会計要領チェックリスト」の添付を

 黒岩 各会員事務所が中小会計要領に則った会計処理を行うにあたり、留意すべき点、実務上のポイントとなる点について、お聞かせいただけますか。

『「中小会計要領」初年度移行の手引き』<

『「中小会計要領」初年度移行の手引き』

 松﨑 まず所長が中小会計要領を学んでいただくということがないと、職員さんが自発的にやるということはありませんし、金融機関が中小会計要領に則った決算書をくださいと言うことも、残念ながら現状ではないでしょう。だからまずは中小会計要領とはどういうものなのかを所長の腹に落としていただくことが非常に重要だと思います。
 実務上の話でいくと、うちでは先般改訂された『「中小会計要領」初年度移行の手引き』(以下、『手引き』)の中に掲載されている「中小会計要領適用に関する経営者判断確認書」というものを使っています。例えば中小会計要領でも有価証券や棚卸資産のところに強制評価減の項目が入っています。私は監査法人の勤務経験もあるのですが、公認会計士の監査の観点では、棚卸資産や有価証券をすごくうがった目で見るわけですね。要するになぜ評価を落とさないのかと。ところが中小会計要領では、時価の回復に関しては経営者が判断するということになっているのです。そこでこの「確認書」を使って、社長の判断で丸を付けていただくというようにしています。
 あるいは償却の問題にしても、もちろん償却限度額まで実施した方が望ましいのですが、それも社長に確認して、ということが大前提です。こうした観点は税務にはないので、こういう観点が事務所の中で機能するようになるには、まず所長が理解して、回ってきた決算書を見たときに、「これはこういう処理になっているけど金融機関に話をしたのか」と確認するようにしないと、現実的には回りません。各会員が『手引き』を読んでいただいて、事務所内で独立した公正な立場で判断する仕組みを作っていただきたいと思っています。

 加藤 実務上、迷うところというのは決まっていて、減価償却不足の場合の当期・過年度の取り扱い、それから退職給付と賞与の引当金の未計上、それから貸倒損失、貸倒引当金、あるいは重要性の原則をどのぐらいまで適用したらいいのか──というところだと思います。今回の『手引き』には、それを解決できるヒントがたくさん載っているので、事務所内の勉強会でぜひ使っていただきたいですね。それから、所長先生方には迷っている職員さんの背中を押してあげていただきたいです。
 事務所で推進するための第一歩は、「中小会計要領チェックリスト」を法人の関与先に全件作ることです。うちの事務所もそうしています。医療法人や社福・公益など別の会計基準があるところ以外は、全件作る。そうすると適用状況の履歴が残っていきます。適用できていない項目があった場合は、「所見」の欄に、ここの会社はなぜ準拠できていないのか、課題をコメントしておくのです。解決策がある場合、例えば退職給付引当金の引当不足はその年で全額を解決しなくたっていいわけですから、10年間分割で解消すると脚注に載せておけば、立派に中小会計要領準拠といえるわけです。
 チェックリストを作ると、そういう中長期の解決策も含めて、事務所で計画的に取り組んでいくことができるようになる。それが一つポイントだと思います。

 黒岩 『手引き』は先生方にそれぞれの事務所での体験を踏まえながら、深く踏み込んで解説していただいています。ぜひ各会員事務所で中身を再確認いただければと思います。この『手引き』改訂に携わったプロジェクト活動の中で、坂本孝司先生が次のように言われていました。
「租税正義の実現を追求することと、中小会計要領を推し進めることはある意味同じことだと思います。中小会計要領は会計と税制の調和を図るということが、要(かなめ)であり、確定決算主義をはじめ、法人税法の規定を前提に作られた中小会計要領は、租税正義の実現を実務的に図ることといえるからです。われわれ一人一人が中小会計要領を徹底して普及しなければ、税理士業界の職域防衛は図れません」
 この言葉をまとめとして、座談会を終了したいと思います。

(構成/TKC出版 蒔田鉄兵)

(会報『TKC』平成29年1月号より転載)

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