音楽グループm-floの活動のみならず、アクセサリー会社の経営者、プロデューサーなど多彩な顔を持つVERBALさん。数々のヒット曲を生み出してきた「フィーチャリング」と呼ばれる手法をビジネス論に展開した近著『フィーチャリング力』の刊行にあたり、社長としての顔やその仕事術に迫った。

プロフィール
バーバル●1999年7月にavex/rhyzm zoneよりデビューした3人グループ「m-flo」のフロントアクトを務めている。音楽活動をする一方、本名の柳榮起(りゅう・よんぎ)として、AMBUSH®等のジュエリーブランドの運営を主とする「有限会社 柳」の代表取締役社長を務め、3Dマッピング等を専門とするクリエーティブエージェンシー「WHATiF」の設立メンバーでもある。
m-flo VERBALさん

m-flo VERBAL 氏

──「フィーチャリング」とはそもそも何のことでしょう。

VERBAL 日本語でいうと「客演」ですね。そもそもm-flo(エム・フロー)はラップMC担当の僕とDJの☆Taku、メーンボーカリストのLISAという3人グループだったのですが、2002年にLISAが脱退してしまいました。ボーカリストがいなくなり、残された僕たち2人では自分たちが想像していたメロディーや歌の感じを表現することができなくなってしまったのです。そこでそれを実現してくれる人を曲ごとにボーカリストで迎え、「m-flo featuring~」というような客演の手法をとることに決めました。もっとも目立つボーカリストが抜けてしまうのは本来だったらマイナス要素ですが、これを逆手にとって新しい形を生み出そうとしたのです。

──それが「loves」プロジェクトですね。

VERBAL はい。海外ではこのやり方はすでに普及していましたが日本ではまだまだ珍しかったので、「『m-flo』って名乗れないよ」「オムニバスじゃん」と最初は誰もうまくいくとは思っていなかったようです。で僕たちは関係者を説得するために企画書を作ってプレゼンしました。「クリスタル・ケイを迎えて、その次に誰も聞いたことのない新人を抜てきし、次にビッグネームを迎えたらドーンと来るはずだ」といった感じで。あまり根拠はなかったんですけどね(笑)。こうして何とかみんなが納得してくれて始まったプロジェクトでしたが、結果好調なセールスを記録し、これまで安室奈美恵さん、BoAさん、倖田來未さんなど総計41組のアーティストをフィーチャリングしてきました。

──それだけの場数を踏むことでフィーチャリング力を養ったと。

VERBAL 「楽曲はおまかせします」とこちらにほとんど任せてくれる人もいますし、一方で根っからのミュージシャン気質の人とは「どういう曲をつくろうか」というところから一から話し合います。顔を合わせたその場で☆Takuが打ち込みを始め、僕が詩を書き出すというようなセッション形式をとることもあります。フィーチャリングの相手も芸能系、ミュージシャン系、インディーズ系とさまざまで本当に多くのスタッフの方々といっしょにお仕事をさせていただきました。そこから学んだのは、常に臨機応変でいなければならないということ。もちろん、自分らしさを持つというのは大前提ですが、そのうえでまずは相手に合わせるということをしないといい曲は作れない。このプロジェクトでは、「もっとブラックなものがやりたい」「英語の歌詞を多くしたい」「ぶっとんだ曲にしたい」など相手の要望に柔軟に合わせられる能力が身に付きました。

──和田アキ子さんとの仕事についてのお話が印象的でした。

VERBAL 「HEY!」という曲ですね。ビッグビート的な派手なミッドテンポのトラックにジェームズ・ブラウンのサンプリングを乗せていた曲を聴いている時に、「こんなの作りたいよね」と話し合っていたのがきっかけでした。ジェームズ・ブラウンを思わせるような野太い声を出せるボーカリストは日本では和田アキ子さんをおいてほかにはいません。もちろんお会いしたこともありませんでしたから、知人を通じてなんとかお話しする機会をセッティングしてもらい、そこでプロジェクトや曲のコンセプトについてプレゼンしたのです。それまでテレビの向こう側の人だったのでとても緊張しましたが、「面白いじゃない」と快諾していただいたので本当に良かった。

──レコーディングはうまくいきましたか。

VERBAL まったくやり方が違ったのでびっくりしましたね。今はコンピューターですべて編集できてしまうので、僕たちは普通何度も録り直しながらレコーディングを進めるのですけど、アッコさんの場合は「デモを前もってすべて完成させてくれ」と言うのです。理由を聞くと「2週間くらい聞き込んですべて覚え、レコーディング当日は2時間くらいで終わらせる」と。昔ながらの一発録りのやり方でやられていたわけです。まさに一球入魂といったレコーディングでした。

──とても元気の出る曲に仕上がっています。

VERBAL 「音楽で面白い機会をくれてありがとう」と声をかけていただいたのはうれしかったですね。しかもその後「お前紅白に出る?」と聞かれました。一瞬質問自体の意味が分からず戸惑っていると、「出たいのか出たくないのかはっきりしろ」と(笑)。もちろん出たくないわけはないので「はい」と返事したところ、なんとその年2005年の紅白歌合戦に出演することができたのです。とてもいい経験になりました。

1+1を10にする

──それだけ多くの方をフィーチャリングすると、どんな状況でも関係者とうまく調整を図りながら仕事を進めていけそうですね。

VERBAL 何でもかんでもひとりでやる、というのがミュージシャンの性分ですが、僕の場合は、お客さまを楽しませるのが最終的なゴール。その目的に向かってもっとも合った方たちに客演として参加してもらう、あるいは協力してもらうというのが、フィーチャリングの醍醐味だと思います。そもそも僕は、自分でできることには限りがあるということが分かっていますから、僕より頭の良い人たち、僕ができないことを出来る人たちに積極的に協力してもらうようにしています。たとえばライブでも「こんなデカいことがしたい」とアーティストは言いたい放題。しかし「このステージでこのセットではウン千万円かかりますよ」という見積もりが出て「誰が金出すの?」という現実的な話になると、みんなシーンとなってしまう(笑)。そうしたとき、自然と僕がスポンサー獲得のための交渉をまとめたりする役回りを担うようになっていたのは確かです。

──その辺りでビジネスマンとしてのVERBALさんの素質が発揮されてきたのだと思います。

VERBAL 個性の強いアーティストが集まる現場では、みんな「私が正しい」と主張します。しかし私は「お前は間違っている」「お前が正しい」といえる分際ではありませんから、そうしたみんなの「正しい」を融合させてよりよい仕事につなげる、いわば相手の能力をうまく引き出し、1+1を3にも10にもして価値を最大化することを常に考えるようにしています。そうすればみんながハッピーになれるわけですからね。

──よくいう「ウインーウイン」の関係ですね。ビジネスの話に入ったところで、現在VERBALさんが経営されている会社について教えてください。

VERBAL AMBUSH®(アンブッシュ)というブランドを中心としたアクセサリー会社「有限会社柳」を経営しています。だいたいアーティストがアパレルビジネスをやるときは、大手企業がバックについてたくさんデザイナーを抱える、というケースが多いのですが、僕たちはリアルに自給自足的にやっています。小さいながらデザインから製造、ディストリビューションや店舗開拓、小売り、プレスなどほとんどすべてのプロセスを自前でやっていますよ。なにしろ2008年の創業当初は自宅マンションから宅配便で商品の発送をしていましたから(笑)。最近では本業の音楽もしっかりやっていこうと音楽制作部門も新たに設けました。スタッフは役員含め現在13人になっています。

──商品の特徴は?

VERBAL ブランドのモットーはポストモダニズムの考え方でもある「エニシング・ゴーズ」(何でもあり)で、派手だけれどもありそうでない、簡単に言えばポータブルアートのようなもの、つまり置いておいても身につけてもかっこいいデザインを特徴としています。大きくて少し変なものを基本に、コレクションごとのテーマに合わせて新作を公開しています。おかげさまでカニエ・ウエスト、ジェイ・Z、BIGBANGのG-DRAGONなど多くの著名アーティストの方に愛用いただいていて世界的にも知名度が上昇しつつあり、全46店舗のうち4割は海外になっています。「ミュージシャンがやっているブランド」として見られる国内とは異なり海外では純粋に商品そのものが評価されるので、海外からの注文が多いのは自信につながりますね。先日はバーニーズニューヨークからまとまった注文が入りました。

──シリーズによってずいぶんイメージが変わりますね。

VERBAL 毎年デザインを変えているので、顧客層が安定していないのが現状です。とにかくアパレル業界のトレンドの変化はとても早い。しかもファストファッションの台頭で「ちょっと面白い」くらいのアクセサリーであればH&Mで200円くらいで売ってたりする時代ですから、どうしても消費者は安いものを買ってしまいます。ですから僕たちは、「これ売れるの?」と言われるくらい思い切った振り幅の大きい変わったものを意識的に作っています。そうしないと差別化できません。

──素材にもこだわっているとか。

VERBAL メード・イン・ジャパンにこだわっていますね。海外生産にすればコストも安くなる、とよく言われるのですが、なんだかんだいって日本の職人技の繊細さは世界でも群を抜いている。そこに誇りを持っているので、日本製を前面に出した製品づくりを貫いています。そうはいっても地金も人件費も高くて大変ですけどね。

ビジネスは最高のアート

──アートとビジネスとは一見矛盾しそうですが、その問題への回答としてアンディー・ウォーホールの言葉を引用されていました。

VERBAL 「ビジネスを成功させることは、最も魅惑的な種類のアートだ。お金を稼ぐことはアートで、働くことはアートで、グッドビジネスは最高のアートだ」という言葉ですね。ただの物欲にまみれた人のコメントにみえますが、「俺は金じゃねえ」というモダニズムの考え方ではなく、「人の心に残るためには売れなくてはならない」というポストモダニズム的な思考ですね。
 たとえばシュールレアリズムで有名なダリ。彼は生前、「こいつは金だけ」と蔑るほどお金にこだわったのは良く知られていますが、今となって彼のことを知らない人はいないほどの存在になっていますよね。ビジネスを成功させて自分が信じているアートをプラットホームに乗せないと次のアートワークをつくる資源もなくなってしまいます。よっぽど素敵なパトロンがいて無限のバジェットがあれば別でしょうが、99%の人はそんなパトロンなどいません。だからビジネスとアートを融合させたシステムをおのおのでつくらなければならないのです。しかもそれはお金儲けのためになんでもやっていい、というのではなく、あくまでも自分の信じていることにあったビジネスモデルを選択するということ。僕はアートという言葉を、自分の持っている個性とやや広い意味で解釈していますが、これを経営者の個性、あるいは企業そのものの強みと言い換えてもいいと思います。

──経営者としての今後の抱負について教えてください。

VERBAL 3年前にWHATiFという会社を立ち上げました。これは壁などにプロジェクターで3Dの映像を投影するプロジェクションマッピングと呼ばれる技術をさまざまな場面で提供することを目的としている会社です。ヨーロッパなどではすでに普及していますが、日本ではまだまだ取り入れているところが少ないので今後チャンスがあると考え参入しました。ジュエリー関連ではコンサルティングの仕事も増えており、3Dマッピングなどの技術系サービスと融合させ、ワンストップでお客さまにアートを提供できるようなサービスが展開できたらいいですね。

(インタビュー・構成/本誌・植松啓介)

掲載:『戦略経営者』2013年5月号