熊本県八代市で社会福祉事業をいとなむ権現福祉会は、保育園から介護老人保健施設まで幅広く手がけている。利用者のニーズに対応したサービスが評判をよび、近年では社会貢献活動にも力を注いできた。松本善孝理事長が進める「地域と共生する組織運営」を探った。

住民ニーズをくみとり新事業に果敢に挑戦

権現福祉会:松本理事長(右から2人目)

権現福祉会:松本理事長(右から2人目)

──社会福祉事業を幅広く手がけられているそうですね。

松本 介護老人保健施設の「向春苑」をはじめ、八代市内8カ所で高齢者、障がい児・者の方向けの施設と保育園を運営しています。拠点を置いているのは、おもに球磨川以南の市内南部地域です。
 われわれはもともと保育園からスタートしました。保育園に重度の障がいを持ったお子さんが入園され卒園後、養護学校に通うようになりました。ご両親が共働きで授業が終わったあとお預かりするため、障がい児・者向けの事業をはじめました。

──近年の経営環境はいかがでしょうか。

松本 八代市は県内有数の有料老人ホームが多いエリアで、民間企業が手がける施設も増えています。権現福祉会では地域の皆さまのニーズにお応えするべく、これまで定員増や事業所の新設をおこなってきました。社会福祉法人としての信頼を損なわない組織運営をしてきたつもりです。

──「世のため 人のため」という経営理念を掲げられています。

松本 地域の人びとから必要とされているのであれば、ほかの組織がおこなわないサービスにも積極的に取り組んでいくというのが方針です。
 8年前に1市2町3村が合併し、現在の八代市ができましたが、当時県内で最も高齢化率が高い坂本村という地域がありました。山間地であり、どの事業者も訪問看護サービスの提供に二の足をふんでいました。採算がとれないと考えていたからです。当初、1時間滞在してサービスをおこない、往復に約1時間40分かかっていたため移動時間のほうが長い状態でしたが、次第に利用者も増え、効率的な訪問スケジュールを組めるようになり、山間地域においてもサービス提供が可能となりました。
 このような姿勢が評価され「権現福祉会ならやってもらえるのでは」という期待が高まってきていると感じています。とくに広告宣伝などしくても口コミで評判が広がっているようです。

──施設の特徴を教えてください。

松本 地域の人びとに「将来利用したい」あるいは「家族に利用をすすめたい」と思っていただける施設づくりを目指しています。たとえばケアハウスの「偕老苑」はゆったりした気分を味わっていただけるよう、温泉旅館をイメージしてつくりました。八代平野を一望にできる展望浴場や、旬の食材を使った料理を味わえる食堂が自慢です。

──職員教育はどのようにされていますか。

松本 通年で採用活動はおこなっていますが、組織として経営理念を徹底させることを第一にすえており、毎月各事業所でテーマを決めて研修会を開いています。いまの時期ですと、感染症や食中毒といった内容が多いですね。どの事業所の職員も自由に参加できるようになっており、外部講師だけでなく、セラピストや社会福祉士、ケアマネージャーなど法人内の専門職種の職員が講師を務めることも多く、お互いのスキルアップを図っています。
 確かに介護業務は簡単なものではありませんが、離職率は高いところと低いところに2極分化している印象を受けます。当福祉会の場合、平均勤続年数は約7年ですから、長いほうではないでしょうか。女性スタッフが8割ほどを占めていますので、産休、育休制度も整備し、復帰直後は時間短縮で働けるなど柔軟に対応しています。職員にやりがいを持って長く勤務してもらうことが、ひいては利用者の皆さまへのサービスの質の確保、向上につながると考えています。

「クラウド」によるデータ一元化で集計負担を軽減

──宍倉会計事務所との関与のきっかけを教えてください。

元嶋 介護保険制度がはじまったのが2000年でしたが、その3年ほど前、組織を発展させるため財務管理体制をしっかりしておきたいと思い、宍倉先生に税務顧問をお願いしました。

──『FX4クラウド 社会福祉法人会計用』を利用されているそうですね。

元嶋 昨年4月に導入しました。以前はTKCの『社会福祉法人会計データベース』と『MX2(医業会計データベース)』、収益事業は『FX2(戦略財務情報システム)』で管理していました。システムごとに勘定科目の体系が異なっていたため、スプレッドシートで法人全体の数字の集計をするのに、かなり手間がかかっていました。

──導入の決め手は?

元嶋 分散していたデータが一元化できたので集計の手間がなくなり、数字がリアルタイムかつ一覧で見られるようになる点が大きかったですね。これまでパソコンを入れ替えるつど、データを移し替えたりして大変でしたが、クラウドのためその必要もなくなりました。ユーザーごとにメニューの閲覧権限を設定できる点も便利だと感じています。

──システムではどのように部門を分けていますか。

元嶋 社会福祉事業、公益事業、収益事業の3つに分け、さらに社会福祉事業として8拠点(向春苑、偕老苑、揚町保育園など)、公益事業として4拠点(居宅介護支援事業所など)、収益事業1拠点(有料老人ホーム 穂の香)の計13拠点を登録しています。事業所が分散していますので、現状に合致したシステムだと思います。

──会議で活用している資料は?

松本 毎月開催している経営者会議では、拠点ごとの実績がわかる業績一覧表で前年比も含めて確認しています。

元嶋 今後は拠点区分だけでなく、事業グループ単位の業績管理もおこなっていきたいと考えています。

──宍倉会計事務所から日ごろどんな支援を受けられていますか。

松本 毎月杉本さんに訪問していただいてますが、《予算実績比較表》の画面を見ながら予算の執行状況をチェックすることが多いです。宍倉先生にも土地取得の際税務上の相談に乗っていただいたり、経営全般のアドバイスをいただけるのがありがたいと感じています。いろいろご指導いただいたおかげで、金融機関からの借入金は5年ほど前に完済し無借金経営になりました。

──社会貢献活動にも力を入れられているそうですね。

松本 近隣の河川環境の改善に率先して取り組んでいます。向春苑のすぐそばには流藻川という水の澄んだ美しい川が流れていますが、川沿いにあじさいを植樹するなど美化につとめた活動が評価され、熊本県が推進しているボランティア活動「くまもとマイ・リバー・サポート」の第1号に認定されました。

湯野 地震や大型台風などの災害時には「ふくしステーション 千の穂」を福祉避難所として提供することも決めています。5年前に八代市と調印しましたが、福祉避難所の認定は当時県内で初めてだったそうです。敷地内に倉庫を設置し、食糧等の物資を常時備蓄しています。

宍倉 権現福祉会様では利用者、地域住民、職員の方々がいわば運命共同体のように、一体となって取り組まれているところがすばらしいと感じています。

──抱負をお聞かせください。

松本 ここ10年ほど、社会福祉法人を取りまく制度はめまぐるしく変化しており、今後民間企業やNPO法人が参入する流れが加速していくでしょう。お互い切磋琢磨することは、利用者へのサービスの質向上につながると考えています。加えて社会福祉法人は高い公益性が求められるので、地域貢献を権現福祉会の使命ととらえ、事業展開をおこなっていきたいと思います。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 社会福祉法人権現福祉会
設立 1979年3月
所在地 (向春苑)熊本県八代市大福寺町2411-1
TEL 0965-33-8660
職員数 約300名
URL http://gongen.org/

CONSULTANT´S EYE
クラウドが使い勝手を高め手放せない意思決定ツールに
所長代理 杉本寿博 宍倉渉税理士事務所
熊本県八代市鷹辻町5-25 TEL:0965-33-3521
http://www.myfavorite.bz/infomix/

 社会福祉法人権現福祉会様は、昭和54年3月に先代の理事長である、松本元善氏が保育園を設置されたのがはじまりです。宍倉会計事務所では、平成9年1月から税務申告のお手伝いをさせていただいています。経営理念として「世のため 人のため」を掲げられ、現在は高齢者・障がい者・児童福祉と幅広い年齢層を対象に、合計20施設を運営されています。権現福祉会様の経営理念の意味するところは、TKCの経営理念である「自利利他」と通じるものがあると感じています。

 松本善孝理事長は日ごろ「いま何が求められているのかを追求し事業展開していきたい」と熱く語られています。地域の人びととの絆を大切にしながら取り組まれているその先見性には、いつも驚かされます。介護や保育の現場では、家庭的な雰囲気を大切にされ、利用者が「心のやすらぎ」を感じられるよう、一人ひとりの「その人らしさ」を尊重したケアを提供されています。権現福祉会様の特徴は、利用者と家族が安心して生活を送れるよう、相談、施設介護、訪問看護、リハビリ、保育といったト-タルサポ-トを実践されている点です。地域密着型のネットワ-クにより「自分らしく生きる毎日」を応援されています。

 『FX4クラウド 社会福祉法人会計用』の利用をご提案し、昨年4月、システム導入と同時に新会計基準へ移行されました。以前は社会福祉法人会計基準、老健会計、訪問看護会計、さらに企業会計と会計処理方法が複数あり、法人全体の収支を一覧比較し、時系列で業績を把握するのに大変手間を要していました。

 「クラウド」導入後、ある職員の方は「システムで経理状況をもっともよく確認しているのは、理事長ではないでしょうか」と話されていました。松本理事長にはクラウドを各拠点の事業概況や、法人全体の動向を把握し意思決定を支援するツールとして活用していただいています。今後はグループ集計機能の活用もおすすめし、権現福祉会様の経営を支援していきたいと考えています。

掲載:『戦略経営者』2013年7月号