静岡県袋井市のデンマーク牧場福祉会は、牧場のある敷地内で特別養護老人ホーム、児童養護施設、自立支援ホーム、精神科診療所など複数の事業をおこなっている。キリスト教の精神にもとづき、高齢者や子どもたちに対する福祉活動を展開する櫻井隆理事長、松田正幸施設長、長谷川良行本部事務局長に、TKCの『FX4クラウド(社福)』の活用法などを聞いた。

「牧場」を生かしながら特養など6事業を展開

デンマーク牧場福祉会:櫻井理事長(右から2人目)

デンマーク牧場福祉会:櫻井理事長(右から2人目)

──合計6事業を運営しているとお聞きしました。

櫻井 ①特別養護老人ホーム「ディアコニア」②児童養護施設「まきばの家」③自立援助ホーム「こどもの家」④精神科診療所「こひつじ診療所」の事業に加え、牧場事業もおこなっています。
 なお牧場事業については、⑤「牧場運営部(生産部門)」と⑥「乳製品等販売部(収益事業部門)」の2つに分けることができます。

──敷地内の広大な牧場に目を奪われます。

櫻井 15万坪(50ヘクタール)の広さがあり、そこで牛、馬、羊などが飼育されています。
 1963年に北欧のキリスト教伝道団体が牧場として開墾したのがはじまりです。最初に来日したデンマークのハリー・トムセン宣教師が、デンマーク式の牧場と酪農学校、そして教会を作りました。しかし時代の推移により酪農学校に生徒が集まらなくなったことから、宣教師の派遣も打ち切られ、牧場の運営は日本人の手に委ねられました。その後、酪農学校は簡易宿泊所を経て、80年代には不登校の子どもたちのためのフリースクール(こどもの家)となりました。

──社会福祉法人の認可を受けたのは03年だったとか?

櫻井 特養「ディアコニア」を開所し、デイサービスや居宅介護をはじめました。さらに07年からは、親からの虐待などにより家庭で生活できなくなった子どもたちを支援する目的で児童養護施設(2歳~18歳)と自立援助ホーム(義務教育終了後~20歳)の事業もスタートしました(このタイミングでフリースクールは休止)。

──牧場の仕事を子どもたちが手伝ってくれているそうですね。

松田 自立援助ホーム「こどもの家」で寮生活をしている子どもたちについては、手伝いというよりも、それが自分たちの仕事なのです。彼らは牧場の仕事をしながらアルバイトに出かけ、働くことの厳しさや喜びを知ったうえでやがて自立していきます。ただ、最初から「規則正しい生活を通してお金を稼ぐ」ということは至難の業です。朝5時半から搾乳するといった仕事は、彼らを社会に送り出すための大切なトレーニングのひとつになっています。
 一方、児童養護施設「まきばの家」から近くの小中学校、高校に通っている子たちは、夏休みや冬休みといった長期の休みのときに、草刈りや丸めた干し草を倉庫に運ぶ作業などを通じて、牧場の仕事を体感しています。

──牧場は子どもたちの成長にさまざまな面で好影響を与えているようですね。

松田 ええ。自然のなかで身体全体を用いて暮らすことで、豊かな感性を取り戻しているのは確かです。
 もちろん、お年寄りについても同じことが言えます。施設内に閉じこもってばかりいるよりも、自然のにおいや音を感じたり、動物たちとふれあうことはさまざまな面で利点があります。

──収益事業である乳製品の販売について詳しく教えてください。

松田 低温殺菌牛乳、アイス、ヨーグルトなどの乳製品は宅配を中心に販売しています。購入者の多くは、「その牛乳がどういう環境のもとで生産されているか」にこだわる人たち。搾乳できる量が少ないときは、2本注文しているところを1本にしてもらったりと、いろいろ無理も聞いてくれています。
 もともと収益事業をはじめたのは、フリースクールの経営が苦しくて費用を稼ぐためにも必要だったからです。せっかくの牧場を生かさない手はないだろうという発想から、乳製品の販売をスタートしました。

「新会計基準」にクラウドで完全対応

──財務会計には『FX4クラウド(社福)』を利用されているとのことですが……。

長谷川 以前は、スタンドアローン型の『社会福祉法人会計データベース』を各事業所単位で使っていました。それを今から2年前に切り替えました。

──狙いは?

長谷川 業務の効率化のためです。クラウド型のシステムにすることで、新会計基準が定める区分経理(法人全体、事業区分、拠点区分、サービス区分)により対応しやすくなると考えました。
 従来は、それぞれの事業所ごとにばらばらに管理していたため、法人全体のデータを一元管理することができないし、事業区分(社会福祉事業、公益事業、収益事業)や拠点区分(ディアコニア、まきばの家、こどもの家、こひつじ診療所、牧場運営、乳製品等販売部)別の内訳表などをリアルタイムに集計するのは手間のかかる作業でした。でも『FX4クラウド(社福)』なら、それが簡単にできます。

──公益事業にあたるのはどの事業ですか。

長谷川 こひつじ診療所と牧場運営です。こひつじ診療所は、児童精神科、発達障がいの方々にも対応する精神科、心療内科の外来診療を通して地域に貢献しています。まきばの家やこどもの家に暮らす子どもたちの心のケアにも不可欠な存在となっています。

──「サービス区分」の管理はどのように?

長谷川 たとえばディアコニアの下の階層に、「特別養護老人ホーム」「老人デイサービス事業」「老人短期入所事業」「老人居宅介護等事業」などのサービス区分をぶらさげるようなシステム上の部門構造で管理しています。

──日々のデータ入力はどのような体制で行っているのですか。

長谷川 各事業所(拠点)にそれぞれ1名いる経理担当者が入力しています。法人全体としてみれば、各事業所の担当者が「分散入力」しているイメージですね。
 ちなみに職員の給与計算のデータについては、TKCの給与計算システム『PX2』からデータ連携できるように設定しています。これにより、入力担当者の作業負担はだいぶ軽減されています。

──『FX4クラウド(社福)』には、独自の収益事業に対応した勘定科目を追加登録できる機能がありますが、利用されていますか。

名波良明顧問税理士 乳製品等の販売などに関する勘定科目を追加しました。それらの勘定科目は新会計基準の〝初期値〟にはないんですよ。

「経営」が成り立たなければ大事なものを守れない

──よく見る帳表は何ですか。

長谷川 《事業別資金収支予算実績》をよく見ています。勘定科目ごとに「予算額」「実績額」「予算残高」「執行率」「前期実績」などが一目でわかるからです。
 当法人では年間予算(当初予算)内に経費を収めることや、計画した事業の成果をあげることが求められています。予算に対していま実績がどんな状態にあるかを確かめるうえで《事業別資金収支予算実績》は貴重な参考資料になります。なお、経費の不足や大幅な変更があるときは補正予算を組み直す必要があります。

──今年度は補正予算を作ったのでしょうか?

櫻井 実は昨年末に作りました。いまはなかなか介護の現場に働き手が集まってきません。ましてや当法人は自然環境が良いぶん市街地から少し離れた場所にあるため、そう簡単には人が集まらない。当初考えていた職員数を集めることができなかった結果、予定していた事業がおこなえず、収益の修正をする必要がありました。

──会計事務所のサポートについてはどう感じていますか。

長谷川 月次巡回監査のときに、いろいろ相談に乗ってもらえるのは心強いです。

松田 困っている人を助けるという「福祉」の精神と、利潤を追求する「経営」とは相容れない側面があります。だからと言って、われわれが経営に無頓着であっていいわけではない。お金のことを無視していたのでは、組織が立ち行かなくなってしまうおそれもあります。そうなると、いま大事にしているものさえも守れなくなる。私たちが一番苦手にしている経営面の適切なアドバイスをしっかりいただけることは本当にありがたいと感じています。

──今後の展望は?

櫻井 いま高齢者福祉は、「施設」から「在宅」の動きが強まっています。「できれば最期は自宅で」という希望をもつお年寄りの気持ちに応えていくためにも、在宅ケアの充実なども考えていくことがこれからの課題になると考えています。

(本誌・吉田茂司)

会社概要
名称 社会福祉法人デンマーク牧場福祉会
設立 2003年2月
所在地 静岡県袋井市山崎5902番地の167
TEL 0538-23-0380
社員数 120名
URL http://www.denmark-bokujyo.or.jp/
顧問税理士 名波良明
名波会計事務所
静岡県掛川市塩町7-3
TEL:0537-22-8873
URL:http://www.nanami-kaikei.jp/

掲載:『戦略経営者』2015年2月号