やまと薬局

大和裕武社長(後列中央)をはさんで大和滋明
ゼネラルマネージャー(右)と濱田秀文顧問税理士(左)

カフェと見まがう斬新な内装の薬局を福岡県豊前市に経営する、やまと薬局。小規模薬局ならではのきめ細かいサービスを武器に、高齢者向け住宅の運営にも乗り出すなど、地域貢献を志向する。大和裕武社長、大和滋明ゼネラルマネージャー(GM)に濱田秀文顧問税理士を交え、自計化と書面添付の効果について語ってもらった。

逆転の発想による店づくりで「かかりつけ化」に舵をきる

──薬局らしからぬ雰囲気です。

社長 「長居したくなる薬局」をコンセプトにブックカフェをイメージしたつくりにしました。通りの向かい側にも調剤薬局があり、車に乗ったまま処方薬を持ち帰ることのできるドライブスルー機能をうりにしています。それならばと、うちは逆手にとったわけです。

──食品をはじめ店頭で販売している商品の品ぞろえも豊富ですね。

社長 昨今の健康志向の高まりを受け、低カロリーのレトルト食品などを販売しています。ここ豊前店は眼科クリニックに隣接していて、患者さまのご要望からブルーベリー関連商品も扱うようになりました。また、店内にある一部の本も販売していますが、患者さまの中には薬を受け取る順番が回ってきても読書に熱中するあまり「もう少し読ませて」とおっしゃる方もいます。

──門前薬局という言葉がありますが……。

社長 当社が運営しているもう一店舗の中津店は内科医院が隣にあり、その範疇(はんちゅう)に入ります。近年、かかりつけ薬局とよくいわれますが、体調を熟知した行きつけの薬局で、他の病院の薬も一度にもらおうと来られる患者さまも増えています。
 一般的に、規模の大きな薬局は薬剤師が頻繁に変わる傾向があり、担当者も一定ではありません。当社は、患者さまとのつながりに重きをおき、地域に根ざした薬局を目指しています。モットーは「小さくてもキラリと光る薬局」です。個性ある豊前店は、かかりつけ薬局への期待にお応えする原動力になれると自負しています。

──一方で在宅医療を進める動きもあります。

社長 豊前市では過疎化が進み、空き家の有効活用を促す「空き家バンク制度」を導入しています。空き家を古民家風の店舗に改装し成功している飲食店もあり、われわれもこの制度を活用し、高齢者向けの住居にリフォームする計画を進めているところです。

──地域貢献につながる取り組みですね。

社長 空き家の活用に取り組もうと考えたきっかけは、私の住んでいる団地で高齢者の方が孤独死されたためで、地域社会の一員として過疎化は見過ごせない問題であると感じたからです。高齢者向けの集合住宅を運営することで私たちが入居者を見守る役割を果たし、離れた場所で暮らしているご家族の方には安心感を持ってもらえるでしょう。
 さらにいえば、薬価が毎年下がっている状況で、薬局の運営だけでは先細ってしまうという危機感もあります。こうしたひとり暮らしの高齢者を見守ったり、サポートする事業をもうひとつの柱にしていきたいですね。

──従業員の労務管理で心がけている点を教えてください。

GM 2店舗合わせて4名の薬剤師と5名の医療事務のスタッフが働いていますが、おのおのが担当する業務を切り分け、長時間労働の削減に努めています。例えば書類作成や押印などの業務を医療事務担当者に分担してもらうことで、薬剤師は専門の業務により専念できるようになりました。1月に施行された改正育児介護休業法にも早急に対応していきたいと思います。

薬局風景

タイムリーな仕訳入力で棚卸し業務を省力化

──『FX2』と『PX2』を利用されています。

外観

社長 まず『PX2』を導入しました。タイムカードを元に電卓で給与計算するのはミスが起こりやすいので、自動化する方法を顧問税理士の濱田先生に相談したのがきっかけです。電子申告がスタートすると同時に住基カードを市役所で取得して電子申告を行ったり、電子帳簿保存法による保存書類の電子化も実施しています。新しいもの好きなんです(笑)。導入当初は私がシステムに入力していましたが、今は大和GMに任せています。

──2店舗ありますが、どんな経理体制をとっていますか。

GM 1台のパソコンに『FX2』と『PX2』を登録して利用しています。『FX2』では中津店と豊前店の2店舗を部門として登録し、店舗別の《変動損益計算書》を確認しています。濱田先生から適時記帳の重要性をご指導いただき、タイムリーな仕訳入力に取り組んでいるところです。

──店舗別変動損益計算書で注目している点は?

社長 一番注目しているのは限界利益ですね。例年、春に薬価の見直しがあり、単価の下落に比例して粗利が減る傾向があります。その後、卸売店が販売単価を調整し、夏にようやく本来の限界利益が見えてくる状況です。ですから特に夏以降、前年の限界利益と対比して少しでも変動があれば原因を探っています。
 また、実地棚卸しを4カ月おきに行い、限界利益を圧迫する要因となる在庫の動向に気を配っています。特定の症状の患者さまが来られなくなると、処方がぴたっと止まる薬がよく出てくるんです。デッドストックになるのを防ぐため、高額の薬は返品できるものは極力返品するようにしています。

──棚卸し作業は大変では?

GM 数千点の薬があるので、10時間程度かかります。でも、『FX2』で日々の売り上げをこまめに入力するようになってからは、帳簿上の在庫数と実際の在庫数の間に大きな開きがなくなりました。 

──濱田先生が毎月訪問されていると聞いています。

社長 監査がひと通り終わったころに濱田先生に豊前店にお越しいただき、私のいる中津店あてにPDFファイルに変換した《変動損益計算書》、《要約貸借対照表》、《科目残高一覧表》、《売上高グラフ》をメールで送信してもらっています。会社の最新業績が手に取るようにわかりますから、毎月成績通知表を渡されているような気分です。
 『FX2』には毎期予算を登録していて、濱田先生とは決算期の業績見込みなど将来について話し合うことが多いですね。4月決算ですが、3月上旬にはおおよその見通しがつかめているため、器具やパソコンの購入など設備投資の打ち合わせもしています。

意見聴取結果通知書 表敬状

──書面添付も実践されています。

社長 濱田先生から勧められ、10年以上行っています。昨年には中津税務署から税務調査の必要が今回はないと認められ「意見聴取結果についてのお知らせ」という書類が発行されました。濱田先生から贈呈いただいた「表敬状」とともに額に入れて飾っています。

濱田 書面添付書類には事業内容や店舗ごとの特色、粗利のほか、前年度と異なる事項を記載して提出しました。書面添付を実践できるのも、やまと薬局さまが『FX2』を活用して業績管理をしっかり行われているからこそです。

──今後の方向性は?

社長 薬局事業を柱としつつ、高齢者向け住宅事業を新たな柱として展開し、地域の皆さまに貢献していきたいと考えています。豊前店は開設してまだ日が浅く、カギはいかに口コミを広げられるか。ウェブサイトを更新するなどして認知度を高め、ファンの方を増やしていきたいです。そして濱田先生にはこれからも経営のパートナーとして指導していただきたいと思います。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 やまと薬局
設立 1999年5月
所在地 (中津店)大分県中津市上宮永300-11
(豊前店)福岡県豊前市青豊19-11
売上高 1億2,000万円
社員数 9名
URL http://yamatopharm.wpblog.jp/

CONSULTANT´S EYE
巡回監査の徹底を「書面添付」につなげる
税理士法人濱田会計事務所 顧問税理士 濱田秀文
大分県中津市殿町1438-3
TEL:0979-24-1508
http://www.tkcnf.com/hamadakaikei/

 やまと薬局さまとは創業以来のお付き合いになりますが、設立2期目の決算申告から書面添付を行っています。これまで一度も税務調査はなく、昨年初めての意見聴取でしたが調査省略になりました。書面添付とは、申告書の作成に関して、計算・整理し、または相談に応じた事項を記載した書面を申告書に添付する制度で、税理士にのみ認められている権利です。税理士法35条では意見聴取制度について規定されており、記載内容が良好で意見聴取の結果、税務調査が省略される場合には文書による通知が行われます。それが大和社長の述べられている「意見聴取結果についてのお知らせ」と題する文書です。

 私の事務所では書面添付の実践を税理士の果たすべき使命ととらえ、関与先企業さまに推進しています。そのため、関与先さまが税務調査を受ける機会は非常に少ないのが実情です。書面添付の実践にあたっては、自計化の推進が欠かせません。毎月の徹底した巡回監査が書面添付のベースになるためです。

 大和社長は前職の大手製薬会社では研究職に携われていましたが、医薬分業を進めたいとの方針のもと、やまと薬局を創業されました。以来、持ち前の進取の精神と柔軟な発想力で、斬新な店舗づくりに取り組まれています。如実に表れているのが2014年に開設された豊前店で、カフェのような調剤薬局は近辺では類を見ません。システムの活用にも積極的で、『FX2』『PX2』『継続MAS(店舗別予算登録)』をご利用いただき、電子申告、電子帳簿保存法による書類の電子化にも取り組まれています。

 現在、大和ゼネラルマネージャーが経理業務、給与計算業務を担当され、大和社長も経営をバトンタッチされる意向を持っています。大和GMには当事務所で開催した後継者塾にご参加いただくなど、研鑽を積まれています。多くの人々から選ばれる調剤薬局になっていただけるよう、TKCシステムの有効活用を通して支援していく所存です。

掲載:『戦略経営者』2017年4月号