日米貿易摩擦の再燃が懸念されるなど、先行き不透明感が高まっていますが、今夏も賞与を支給したいと考えています。中小企業の相場を教えてください。(酒小売業)

 賞与の行方を左右する企業業績の動向を、まず確認しておきましょう。財務省の「法人企業統計調査」によれば、2016年10~12月の全産業(資本金1000万円以上、金融機関を除く)の経常利益は、前年比+16.9%と2四半期連続の2桁増となりました。

 製造業では輸出が持ち直すなか同+25.4%と、前期まで4四半期続いた2桁減からの急回復でした。また、非製造業では、景気が緩やかな回復を続けるなかサービス業が堅調だったほか、卸小売業がプラスに転じ、同+12.5%と2四半期連続の2桁成長となりました。

 もっとも、こうした好業績にもかかわらず2017年の春季労使交渉では、大手企業で16年実績を下回る賃上げ幅や一時金の減少で決着する例が続出しました。自動車、電機などの輸出産業では、16年秋口まで続いた円高傾向が16年度下期の業績下押しに作用するとの見通しが、引き上げ抑制要因となりました。

 さらに、米国のトランプ政権の発足や、英国のEU離脱、欧州諸国における保護主義的な政策を掲げる政党の支持拡大などの動きが、日本企業の輸出や現地生産に悪影響をもたらすとの懸念を生み、賃金引き上げに慎重な企業が増えました。今春闘に際しても、安倍晋三首相から産業界に対し4年連続の賃上げ要請が行われましたが、アナウンスメント効果は薄れたといわざるをえない状況です。

 一方で、今年の春闘では賃金以外の処遇改善が労使交渉の主な議題となる動きが広がりました。昨年末に政府が「同一労働同一賃金」のガイドライン案を公表し、3月には「働き方改革」の実行計画をまとめるなか、これらに沿った非正規雇用者の待遇改善、長時間労働の是正、育児・介護休暇の拡充、定年の延長などの施策が実現する例が増えました。

 本来、賃金の引き上げと賃金以外の処遇改善は二者択一のものではありません。しかし、足元の景気動向をみると回復基調が維持されているとはいえ、海外発の不透明要因をはね返せるほどの内需の好調が実現されているとは言いがたい状況です。むしろ、金融緩和と財政出動による景気押し上げ効果が一巡するなかで、回復ペースは鈍化しています。このためベースアップや賞与の拡大は見合わせ、賃金以外の処遇改善にとどまる企業が増えました。

 こうしたなかで、17年夏の賞与(厚生労働省、従業員規模5人以上ベース)は全体では+0.4%と2年連続のプラスは確保するものの、総じてみれば、所定内給与の改善を反映した小幅な伸びにとどまる見通しです。

中小で強い上昇圧力

 以上は、大手企業を含む全体的な状況ですが、中小企業にかぎると今夏の賞与の伸び率は平均よりも高めとなる見込みです。

 これは中小企業の賞与が、支給時期直前の収益状況を反映して決まる傾向が強く、大企業のように労使で時間をかけて交渉して決まる例が少ないためです。16年秋口以降、円安が進展したため、収益環境の改善効果が大企業よりも強く今夏の賞与押し上げに作用するとみられます。

 さらに、大企業以上に人手不足感が強く、人材流出リスクが高まるなかで、賃上げ圧力が強まっています。賞与算定の基本となるパートを除く一般労働者の所定内給与の伸び率は、16年に従業員規模100人以上の企業では前年比+0.1%にとどまりましたが、5~99人の企業では同+0.9%と上回っています。

 以上から、今夏の中小企業の賞与伸び率は前年比+0.5~1%程度になると予想されます。

掲載:『戦略経営者』2017年6月号