梅雨が明ければ、暑い夏がすぐにやってくる。冷房がフル稼働して電気代が跳ね上がるのはやむを得ないが、エネルギーコストを会社全体でできるだけ切り詰めたいと考えるのは経営者として当然のことだろう。省エネ診断制度や各種補助金制度の概要、優れた省エネ活動の取り組みで生産性を向上させた中小企業の事例をリポートする。

省エネ対策徹底研究

 日本は世界で最も省エネが進んでいる国である。図表1(『戦略経営者』2017年6月号9頁参照)は日本のエネルギー効率を1とした場合に各国と比較したグラフだが、日本よりエネルギー効率が良い国は英国しかない。しかし日本は、エネルギー消費量の多い製造業の割合が英国より多い。実質的なナンバーワンは日本といってもよいだろう。

 日本企業の省エネに対する努力の結果は、オイルショック以降の国内総生産(GDP)の伸びとエネルギー消費の水準を比較すれば一目瞭然である。図表2(同9頁参照)は実質GDPの伸びと最終エネルギー消費の推移を1枚のグラフにまとめたものだが、オイルショックが発生した1973年から2015年にかけて実質GDPが2.4倍になる一方、最終エネルギー消費は1.2倍にとどまっている。要するにエネルギー効率は2倍になっているわけだ。血のにじむような先人たちの努力によって、経済成長と世界最高水準の省エネを同時に達成したのである。

 このようにハイレベルな省エネ社会を実現してきた日本だが、「ぞうきんから絞りとれる水は残っていない」と誇らしげに言うことができないのが、化石燃料のほぼ全量を輸入している無資源国としての宿命である。資源エネルギー庁省エネルギー課の吉田健一郎課長はいう。

「政府は東日本大震災後にエネルギー政策をゼロから見直し、経済産業省が2015年7月に公表した『長期エネルギー需給見通し』では『2030年度のあるべき姿』が示されました。そこでは徹底した省エネにより、エネルギー需要を原油換算で5000万キロリットル削減することとされています。これは2013年度時点の家庭部門のエネルギー消費まるごとに相当する量です」

 このような省エネを実施するためには、石油危機後に達成したエネルギー消費効率改善と同等のペース(35%)で省エネを進めなければならない。もちろん中小企業における省エネの取り組みも継続支援しており、吉田課長はこれら支援策の有効な活用を勧める。

「日本の省エネ政策は『エネルギーの使用の合理化等に関する法律』(省エネ法)を中心として推進されてきましたが、定期報告等の義務は、ある程度規模のある事業者に限定されています。そこで対象外となっている多くの中小企業や小規模事業者については、さまざまな補助金等の支援策の仕組みも活用して省エネを促す政策をとっています」

 省エネ法によって年に1度省エネについての取り組みを報告する義務等が課せられているのは、年間1500キロリットル以上のエネルギーを使用している事業者。この基準はコンビニエンスストアのエネルギー使用量に換算すると20~30店舗分になり、多くの中小企業は義務の対象外になるとみられる。そうした中小企業の間でも省エネが進むよう、使い勝手のよい支援策の仕組みが次々と誕生しているというわけだ。

「最近の例では27年度補正予算で実施した『中小企業等の省エネ・生産性革命投資促進事業費補助金』で、交付決定件数の7割以上を中小企業が占めました。既存の省エネ補助金が工場や事業所単位で省エネ効果を計算する必要がある一方、この補助金では個別の設備単位の投資での申し込みができるなど、かなり簡易な形で使うことができたためだと考えています」(吉田課長)

 実際の投資内容は高効率照明や高効率空調の更新が大半を占めたが、補助事業名に「生産性革命」の文字が入っているのがポイントである。省エネとはエネルギーを効率良く使うことにほかならない。すなわち省エネは環境問題に対する企業の行動であると同時に、競争力強化のための経営戦略の選択肢の一つでもある。そして補助金を上手に活用して初期コストを抑制できれば、生産性向上が見込める蓋然(がいぜん)性はかなり高まるに違いない。

 補助金活用の有無にかかわらず、最新の省エネ機器を導入すれば電気代の使用量は大きく低減できる(『戦略経営者』2017年6月号P14の倉持産業の事例参照)。しかし会社全体での目標共有がしやすい中小企業の場合は、大がかりな投資をするまでもなく、創意工夫とコツコツとした努力で高い省エネ効果を生むことができるのも事実である(同P12の栄光製作所の事例参照)。スマートメーターなどを導入し電気の「見える化」を実施することでさらに成果が出やすくなるかもしれない。

 ただ組織的かつ実効的な省エネの実績がない企業にとって、そもそもどこから手を付けていいか分からないという企業もあるだろう。そんな会社におすすめなのが、国や自治体が行っている無料の省エネ診断事業を活用することである。

「省エネ政策のもうひとつの大きな柱として経産省では、一般財団法人省エネルギーセンターを通じて工場や事業場の省エネ診断や節電診断を無料で行う省エネ支援サービスを展開しています。年間800件程度の工場・事業場を診断しており、診断結果に基づいた省エネの実行により大きな効果を上げた中小企業の事例も増えてきています」(同課)

 確かに同センターが運営している省エネ・節電ポータルサイト「shindan-net.jp」は、一見の価値がある。業種別・設備別に200件以上の詳細な診断事例が紹介されており、自社で可能な省エネ対策のヒントを見つけるのに最適だからだ。ほんの一例を紹介してもらおう。

「工場の診断結果でよく見られる省エネ提案項目の一つが、コンプレッサーの圧力の適正化です。出口の圧力を測ってみると過剰な圧力をかけていることが多く、これを最適な数値に調整するだけで効果が見込めます。また蒸気をつなぐ配管からのエア漏れも重要なチェックポイントで、ちょっとシュッと音がするだけで年間数十万円のエネルギーロスをしている可能性もあります。蒸気配管に近づいた時に暖かいと感じる場合は、配管の断熱が十分でなく無駄なエネルギーを使っている証拠といえるでしょう」

 事例にはもちろん、照明のLED化や空調機の配置場所の工夫など製造業以外にも応用が利く種々の省エネ手法が収録されている。また診断の実際についてはP18(『戦略経営者』2017年6月号P18)から東京都のケースで詳しくリポートしているのでぜひ目を通していただきたい。

契約変更で電気代38%減も

 省エネの大きな目的の一つがエネルギーコストの削減だが、省エネをしなくても費用を削減できる方法がある。より安価な電力会社に切り替え、エネルギー自由化の恩恵を最大限に受ける道である。電気料金見積もりサービスを提供するエネチェンジは、中小企業の関心がここ最近急速に高まっているのを実感しているという。同社の巻口守男副社長はいう。

「当社は、オンラインの比較サイトでお客さまの電力使用状況を入力してもらうと、数百以上ある電気料金プランから最適な料金メニューをランキング形式で提示するという家庭向けのサービスを主力としていますが、今ではむしろ法人向けの売り上げが7割を超えています。法人向けの見積もりサービスでは、全国約20社ある提携電力会社のうち電気代が下がる複数社から見積もりを取得しお客さまにご提案しています。これまで2万件以上の電力切り替えをお手伝いしてきましたが、平均して7~10%、最大で38%の電気代を節約した事例もあります」

 例えば関東地方に3つの製本工場を保有するフォーネット(埼玉県)は、新たな機器の増設などにより電気代が膨らんだことからエネチェンジに相談。電力会社を変更した結果、年間電気代を437万円(削減率6.4%)削減することに成功した。また大阪府で商用ビルとマンションの管理を行うミルキーウェイは、電気代削減による入居者負担の軽減を目的にエネチェンジに見積もりを依頼。電力保安協会に継続対応してもらえる電力会社へ切り替え、同時に年間112万円(削減率4.5%)の電気代カットを実現した。こうした中小企業からの問い合わせは月間200~300件に達し、成約件数とともに目標を超えるペースだという。

 実は法人向けの50キロワット以上のいわゆる「高圧電力」はすでに2004年に自由化されている。ところが昨年4月に家庭向けでも電力会社が自由に選べるようになり、メディアなどで「完全自由化」の文字を頻繁に目にすることが多くなった。こうして再び中小企業経営者の電力コスト削減への関心が高まり、同社への問い合わせや新電力への切り替えが増加しているというわけである。

 さて電力会社の切り替えで着実にコスト削減を果たすために注意すべきことは何だろうか。巻口副社長は、自社の電気使用の年間パターンを正確につかむことが肝心だと話す。

「一番重要なのは、電気料金の明細をきちんと保管しておくことですね。動力なのか照明なのか、それとも冷蔵庫中心なのかなど業種によって電気の主な使い方はまったく違います。それぞれの会社の使用状況に最適なメニューを展開している電力会社を適切に選択するためにも、少なくとも季節性を把握できる1年分は提出してもらうことにしています」

 通常電力会社は、負荷率(平均電力と最大電力の比)が高い場合、つまり月によって使用する電力の振れ幅が小さい場合に得になるように設定された料金プランを用意している。ところが中小企業の場合、繁忙期と閑散期の差が大きかったり、元請け企業の都合で特需が一定の時期に集中して発生したりするなど電力使用量を計画的に平準化するのはなかなか難しい。こうした負荷率の小さい企業に対し既存の電力会社は一律のメニューしか提供してこなかったが、自由化によって複数のプランから自社の電気の使い方に最も適したものを選択することができるようになった。最適のプランを選ぶ際に大前提となるのが、自社の電気使用における特性を正確に知っておくことなのである。

(本誌・植松啓介)

掲載:『戦略経営者』2017年6月号