国や地方、さまざまな団体が開催している企業コンテスト。入賞すれば知名度の向上だけでなく、社員のモチベーションアップも期待できる。受賞企業のこれまでの歩みと、いまの姿をレポートする。

企業コンテストで勝つ

「働きがいのある会社ランキング(GPTW Great Place to Work)」1位(従業員25~99人部門)、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員会特別賞、「よこはまグッドバランス賞」……アクロクエストテクノロジーのコンテスト受賞歴を挙げると枚挙にいとまがない。70名の社員からなる、システムの受託開発、コンサルティングを手がけるIT企業だ。とりわけGPTWで1位を獲得したのは2018年で3回目。社員も全く予想していなかった。

「エッジの立っている会社ですねとよく言われます」

 新免(しんめん)玲子副社長は開口一番言う。何しろ同社が実践しているのは、社員が話し合って給与額を決めたり、喫煙者を採用しない方針を掲げたり、斬新な取り組みばかり。鶴のひと声で決まったわけではない。「MA(Meeting of All staff)」と呼ばれる月例会議であらゆる事柄を討議し、導入してきた。

 MAは毎月一度、原則全社員参加のもと行われる。25年間開催していて、これまで全社禁煙、「花一輪」などの議題が俎上(そじょう)に載せられた。

「全社禁煙にしたのは01年です。『たばこ休憩で会議が中断するのは非効率で不公平』とか、いろいろな意見が社員から出ました。MAで決まったことは全員実践するのがルール。ヘビースモーカーだった社長の新免も、ニコチンパッチを利用して3カ月がかりでたばこを一切やめました。

 花一輪は誕生日を迎えた社員に全社員がお花をプレゼントして祝う試みで、私が以前提案しました。たとえ社長や私が提案した案件でも、却下されるケースがあるほど民主的。何ごともボトムアップで決めています」

 MAが始まるのは、たいてい17時からで侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を交わす。多数決をとらず、全員が納得するまで話し合う。堅苦しい雰囲気はなく、お菓子が出たり、土曜日に開催される場合は短パン、Tシャツ姿でもOK。発言できないテーマが議題にのぼるときは、次の議題まで退出してもよい。

 会議室にサイレントゾーンという一角を設けているのは、アスペルガーシンドロームの傾向を持つ社員への配慮から。発言しないものの、参加を希望する社員がいたためだ。MA後は自社の運営するレストランに移り、飲食しながら討議内容を振りかえる。そして、最も意義のある提案をした社員を「ベストMA賞」として表彰している。

「議論を徹底した上で決めるので、新しいことに着手するのに時間がかからないし、納得感と責任感を持って実行できます。各社員がどうすれば会社に最も貢献できるか、自主的に考えているんです」

ポリシーが就活生に響く

 システム開発会社というと納期に追われる〝不夜城〟のイメージがつきまとう。かつて同社も例外ではなかった。日にちをまたいで仕事をしたり、土曜日に出勤するときも。風土が変わったのは、05年4月にCMMIレベル3を取得してからだ。CMMIは、ソフトウエア開発プロセスの能力成熟度を示す国際指標。米国の国家機関がソフトウエア開発を外注する際などの基準となる。

「当時の社員数は50名ほどで、レベル3達成企業のほとんどは従業員1000人以上の会社だったため、注目されました。このお墨付きを維持できるよう、社員の意識が改まりました」

 エレベーターで本社のあるフロアに下りると、茶色に統一された床や壁面に描かれた木が目に留まる。MAで話し合い、グレーだった内装を温かみのある色合いに変えたのだ。以前、きれいだと来客から褒められたことがあった。新免副社長は、新入社員がその時発したひと言が忘れられないという。

「『ありがとうございます』と言うと思ったら『はい、がんばりました』と答えたんです。彼はMAに出席して、エレベーターホールの模様替えに要するコストと効果を把握していました。だからこそ、そうした返事になった。ちょっとしたことですが、当社社員のマインドセットは他の会社の社員と大きく異なると思います」

 経営に参加している意識がないとなかなか出てこない言葉である。天気の良い日はオフィス内の電気を消して差し込む日の光で仕事をする。梅雨が明けるとかりゆしウエアを着る。社員は多様な工夫を率先して行っている。喫煙する学生を採用しない方針を掲げると、応募する学生が減るのではという懸念もあったが、杞憂(きゆう)に終わった。東大、京大、東工大など国立大学の卒業生をコンスタントに採用している。売り手市場のいま、会社規模を鑑みると異例といえるだろう。「今までポリシーを力強く打ち出してきた結果」と新免副社長は分析する。

 さまざまな先進的な取り組みでオフィスへの視察が絶えないなか、新免副社長は「組織いきいき実践勉強会」を主催し、職場を活性化する取り組みを詳しく紹介している。本年度の開催で、第4期を迎えた。

「経営者が6カ月間、月に一度集まり、事例を持ち寄って議論しています。勉強会で学んだことを効果的にフィードバックするには、経営幹部の方と一緒に参加していただくのがおすすめです」

 アクロクエストとは「先端を探究する」という意味。数々の受賞歴は、まさに最先端に挑んできた道のりが評価された結果にほかならない。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 アクロクエストテクノロジー株式会社
設立 1991年3月
所在地 神奈川県横浜市港北区新横浜3-17-2
友泉新横浜ビル5F
売上高 10億5,000万円
社員数 70名
URL http://www.acroquest.co.jp/

掲載:『戦略経営者』2018年6月号