TKC会員による経営承継支援

知らなきゃ損する「事業承継」9つの視点

◎税理士 今仲 清

チャプター1:経営承継円滑化法

Q1 今年度の税制改正の目玉の1つは、「事業承継税制の抜本拡充」といわれていますが、その内容について教えてください。

中小企業経営承継円滑化法骨子

 中小企業は、今も昔も地域経済を支える中核的な存在です。なかには、独自の技術力をウリにして世界的に高く評価されているところも数多くあります。ところが、肝心の、会社存続上きわめて重要な「事業承継」問題で躓くケースが、近年、増えてきています。例えば『中小企業白書』(2006年版)によれば「年間廃業社数約29万社のうち、約7万社が後継者がいないことを理由に廃業している」とのことです。これは日本経済にとって憂えるべき事態だと思います。そこで経済産業省ではこうした事態が起こらないよう、相続時の遺産分割や資金需要、税負担の問題などに対応するため、総合的な“支援策”を講じることにしました。それが今国会に提出された「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律案」(中小企業経営承継円滑化法)です。
 この法案の柱は、(1)民法の遺留分に関する特例、(2)金融支援、(3)相続税の課税の特例、の3つです(図表1参照)。今国会で法案が通れば、今年10月1日に施行されることになりますが、実際に(1)の民法の特例が適用されるのは公布から1年以内、(2)の金融支援に関しては今年4月1日から一部スタートします。(3)の相続税の納税猶予制度に関しては21年度税制改正で創設されますが、その適用は20年10月1日に遡ってできるようにされる予定です(図表2参照)

特例適用のスケジュール

Q2 中小企業経営承継円滑化法の対象となる企業は……。

中小企業基本法の中小企業

 この経営承継円滑化法の適用対象企業は「中小企業基本法」に定められている中小企業です。すなわち図表3の通り、製造業であれば資本金が3億円以下または従業員数が300人以下、のいずれかを満たしている企業です。
 ところで、相続税は一定金額以上の財産がある人にしか課税されません。この一定金額というのが遺産にかかる基礎控除額で、「5000万円+1000万円×法定相続人の数」です。現在、1年間に死亡する人はおよそ100万人で、そのうち相続税を納めなければならないほどの財産を持っている人(被相続人)は約4万4000人です。つまり、相続税が課税されるのは全体(相続発生件数)の約4.4%ということです。けれども、被相続人が中小企業経営者に限ってみれば、この割合はもっと大きくなると思います。理由は、会社を設立して30年、40年と事業を行っている企業の場合は、内部留保がかなりあると考えられるからです。
 非上場企業の株式は、「類似業種比準方式」か「純資産価額方式」かのいずれかで評価されますが、内部留保の大きいところは当然、一株当たりの評価額は高くなります。また、自社株式だけでなく、土地(本社や本社工場等)も、地価が一時に比べ下がったとはいえ、1960~70年代に取得したものであれば評価額は相当上がっているはずです。したがって、仮に創業約30年、ここ10年以上にわたって年商が10億円を超え、経常利益率も数%といった企業では、たとえ資本金が1000万円でも、遺産総額が基礎控除額を上回る可能性は高いと考えられます。にもかかわらず、大方の中小企業経営者は生前に相続税対策、経営承継対策を行っていないのが実態です。

<非上場企業の株式評価法>

非上場企業の株式評価法

東証やジャスダックなどに株式を上場していない会社の株価は、どのように評価すればいいのか――。その税務上の評価方法は2つある。1つは「類似業種比準方式」、もう1つは「純資産価額方式」である。
 前者は仮に自社が小売業であれば、株式を公開している小売業の平均株価をもとに、(1)の式によって算出される。一方、後者の純資産価額方式は総資産価額から負債などを引き、発行済株式数で割って算出される((2)参照)。「対象企業」は従業員数や取引規模などによって、大・中(さらに大・中・小)・小会社のいずれかに区分され、区分に応じて(1)と(2)を複合して自社株式を評価するのが原則である。

チャプター2:民法の特例と金融支援措置

Q3 民法上の2つの特例について説明してください。

 1つは「贈与株式等を遺留分算定基礎財産から除外できる」こと、もう1つは「贈与株式等の評価額を予め固定化できる」ことです。民法は法定相続及び法定相続分を原則としていますが、遺言によって、これらと異なる相続・遺贈を指定した場合、民法では相続人に一定割合の財産を保証しています。これを「遺留分」といいます。例えば相続人が配偶者と子供1人の場合、それぞれ法定相続分は2分の1で、その法定相続分の半分が遺留分です。
 セミナーなどを行っていて、よく経営者の方から質問されるのは「10年も20年も前に贈与した自社株式が何で相続に関係があるのか」ということです。贈与税には、「暦年課税制度」と「相続時精算課税制度」の2つがあります。暦年課税制度は暦年(1月1日~12月31日)ごとに、その年に贈与された価額の合計に対して贈与税を課税するものですが、相続開始3年以内に贈与されたものに関しては相続財産に加算して相続税を課税します。これに対し、03年に導入された相続時精算課税制度は贈与者から贈与を受けたときは贈与税を納め、その贈与者が亡くなり相続が起こったとき、その贈与財産を相続時の財産に加算して相続税額を計算し、その相続税額からすでに支払った贈与税額を控除するというものです。
 要するに、暦年課税の場合、相続開始3年以前に贈与されたものに関しては、相続財産に加算しなくていいわけです。だから「10年も20年も前に贈与した自社株式なのに、何で今さら関係するんだ」ということになるわけです。相続財産に“贈与分”が加算されるかどうかによって、遺留分の額は違ってきます。しかし、いま述べたことはあくまでも税金(相続税)に関する話であり、民法上の捉え方は異なります。
 民法上の贈与、すなわち「特別受益」は期間に関係なく、全部足して遺留分の計算を行います。わかりやすい例でいえば娘が結婚するときに与えた持参金も、その娘がマイホームを建てるときに支援したお金も、それらが10年前だろうが20年前だろうが、すべて民法上は相続時に特別受益として加算して遺留分が計算されるということです。それを、今回の経営承継円滑化法では法的(民法)に、後継者に贈与した株式などを遺留分算定基礎財産から除外できるようにしたわけです。事業承継が行われやすくするために、です。
 例えば相続人は子供3人(長男・次男・長女)だけで、長男が後継者、遺産総額は6億円、うち4億円が自社株式、残りが現金、相続が起こる2年前に長男に自社株式を贈与したとします。この場合、遺留分は〔6億円×(法定相続分3分の1×2分の1)=1億円〕ですが、民法の特例が適用されれば[(6億円―4億円)×6分の1=約3333万円]となります。
 つまり、極端にいえば生前贈与された自社株式以外の現・預金をすべて長男に相続させる遺言があったとしても、現行法では次男と長女が遺留分減殺請求を行えば、長男は1億円ずつ払わなければなりませんが、経営承継円滑化法が施行されればその3分の1(約3333万円)ずつで済むということです。

Q4 この特例が適用されるための条件というのは……。

 全員が「遺留分算定基礎財産から、生前に贈与された自社株式等を除外する」ということについて合意し、それを文書にまとめ、経済産業大臣の確認を取り、家庭裁判所の許可を得なければなりません(図表4参照)。経産大臣の確認を得るためには、贈与時に後継者が経営者でなければなりませんが、贈与前にすでに議決権株式の過半数を保有していれば対象とされないなど、図表5の要件を満たす必要があります。

民法特例適用の手続き
旧代表者・後継者の要件

 先ほどの例を使って説明すれば、現経営者(父親)が後継者の長男に贈与した自社株式4億円を、遺留分算定基礎財産から除外することについて、次男と長女から合意を取りつけるということです。しかし、普通に考えれば長男に4億円を贈与しておきながら、2人に何も贈らなければ合意しないでしょう。したがって、合意を得るためには2人が納得できるようなものを、生前に父親が贈与しておくことが必要でしょう。

Q5 贈与株式等の評価額を予め固定化できるとは、具体的にどういうことなのでしょうか?

 仮に先代から自社株式を贈与してもらったとき、一株当たり評価額は1万円だったとします。その10年後に先代が亡くなり、改めて一株当たり評価額を調べてみたら5万円に上がっていた、と。確かに会社の基礎を作ったのは先代(被相続人)かもしれないが、株価を1万円から5万円に高めたのは後継者の才覚によるものといえます。
 ところが、民法上は亡くなったときの評価額で相続財産を計算することになっています。つまり、この場合は5万円で行うわけですが、これではまるで後継者は相続財産を、自分以外の相続人(弟や妹など)にたくさんあげるために頑張ってきたようなものでしょう。それはおかしいということで、今回、民法の特例として「自社株式等を贈与したときの評価額」で計算できるようにしたわけです。ただし、条件があって、それは先ほどの特例と同様、全員が合意し、その旨を文書にしておくことです。

Q6 金融支援措置について教えてください。

 金融支援策には、大別して(1)法人による自社株式等の取得資金融資制度創設、(2)後継者個人による経営権安定化のための制度融資創設、(3)M&A支援に関する制度融資の拡充の3つがあります。
 非上場の株式は、前述したように類似業種比準方式か純資産価額方式かのいずれかで評価されますが、会社の財務体質がよければ、自社株式の評価額は当然高くなります。相続が起こったとき、後継者にお金があれば、自社株式の評価額が上がり多額の相続税が発生したとしても、納税資金に苦労することはないでしょうが、現実は逆。税金が払えずに物納するケースもあれば、代が替わったのを機に取引先や金融機関の態度が豹変することもあります。
 そこで経産省では、こうした問題を解決する方法として3つの金融支援策を打ち出したたわけです。(1)に関しては、a)後継者から株式や事業用資産を取得するケース、b)非後継者から株式や事業用資産を取得するケース、の2つがあります。今年4月1日から、中小企業金融公庫・国民生活金融公庫(今年10月以降は日本政策金融公庫)から融資を受けることができます。
後継者個人による経営権安定化のための制度融資創設 一方、(2)は後継者個人が制度融資を受けることができるもので、これにはa)後継者個人が株式等を取得するケース、b)個人によるMEBO(マネジメント・エンプロイメント・バイ・アウト)の、2つがあります。a)のケースは、例えば相続人は長男(後継者)、次男、長女の3人で、長男が次男、長女から自社株式・事業用資産を買い取るとき、日本政策金融公庫からお金を借りることができるというものです(図表6参照)。貸付限度額は図表6の通り、中小企業金融公庫7億2000万円、国民生活金融公庫7200万円で、貸付金利は特別利率が適用されます。ただし、この制度融資が受けられるのは今年10月1日からで、経済産業大臣の認定を受けることが要件となっています。また、b)のケースは経営者の親族内に後継者がおらず、代わりにその会社の役員・従業員が引き継ぐという場合です。貸付限度額、金利などはa)と同じです。

チャプター3:納税猶予制度の創設

Q7 今回「納税猶予制度」が創設されるそうですが、その概要について説明してください。

 これは一言でいえば、「相続により取得した議決権株式(相続等までにすでに保有していた議決権株式を含めて発行済議決権株式の3分の2に達するまでの部分)にかかる課税価額の80%に対応する部分の相続税額が納税猶予」されるというものです。具体的には図表7の通り、まず相続が発生すると、後継者は申告期限(10ヵ月後)までに経済産業大臣にその旨を申請し「認定」を受けなければなりません。次にここから5年間、経済産業大臣によるチェックが毎年行われます。それは(1)代表者であること、(2)雇用の8割以上を維持すること、(3)相続した対象株式を保有し続けることです。これが後継者に課せられた要件です。このため、例えば従業員が40人の会社であるなら、この間に9人辞めて8割を割れば納税猶予が打ち切られることになります。なお、この制度が適用されるにあたっての「被相続人の要件」は会社の代表者であったこと、発行済株式総数の50%超の株式を同族関係者とともに保有、かつその中で筆頭株主(経営承継相続人を除く)であった場合です。

納税猶予制度の全体像

 しかし、5年経過すれば(1)の代表者を辞めてもいいし、(2)の雇用の8割を切ってもかまいません。ただし(3)の相続した自社株式に関しては保有しなければならない。つまり、後継者が死亡した場合は猶予税額が免除されますが、(5年間の継続要件が過ぎた後)自社株式を譲渡した場合は、その割合に応じて「納税猶予税額+利子」を納めることになるということです。

Q8 納税猶予税額はどうやって計算するのでしょうか。

 仮に相続人は長男(後継者)、長女の2人で、遺産総額は5億円、うち4億円を長男、残り1億円を長女が相続。長男が相続した4億円のうち、3億円が自社株式で、それは発行済株式総数の3分の2であったとします(長男は相続開始時点で株を持っていない)。この条件設定の場合、現行の「法定相続分課税方式」で計算すれば相続税の総額は1億3800万円で、うち長男の相続税額は1億1040万円。これに対し、納税猶予制度の創設に伴って導入が検討されている「遺産取得課税方式」で計算すれば長男の相続税額は1億3550万円となり、現行方式より2510万円増えます(図表8参照)。

相続税の課税方式

 では、この場合の納税猶予税額がいくらになるのかを計算してみると、(1)自社株式のみで計算した相続税額は[(3億円―3500万円基礎控除)×0.4(税率)―1700万円(控除額)=8900万円]。(2)納税猶予(80%)部分を除いた20%部分にかかる相続税額は[(3億円×20%―3500万円)×0.15-50万円=325万円](基礎控除がこの段階で行われるか否か、基礎控除額がいくらか等は不明。あくまでも仮定計算)。これにより納税猶予税額は「8900万円―325万円=8575万円」、長男が納める相続税額は「1億3550万円―8575万円=4975万円」となります。長男は自分が亡くなるまで、その株式を持ち続ければ8575万円は免除されますが、5年経過後に、仮に半分を第三者に譲渡すれば「4287万5000円+利子税」を支払わなければならないということです。
 ところで、相続税の課税方式の変更が検討されているのは、現行の法定相続分課税方式のもとで納税猶予制度が導入されると、不合理な点が出てくるからです。法定相続分課税方式とは相続税の総額を法定相続人の数と法定相続分によって算出し、それを各人の取得財産額に応じ案分して課税するというものです。このため、納税猶予制度で80%引きが行われると全体の税金が下がり、結果、後継者以外の相続人の税額まで下がってしまいます。で、この点を解消する方法として遺産取得課税方式(各人が取得した遺産を課税物件として課税する方式)の導入が検討されているわけです。が、それはあくまでも検討段階であり、現行の法定相続分課税方式のもとで納税猶予制度が創設される可能性もあります。

Q9 事業承継を円滑に進めるためにはどうすればいいでしょうか。

 事業承継の方法には、大別して親族内承継、従業員等への承継、M&A(企業の合併・買収)の3つがありますが、中小企業の場合は親族内承継が圧倒的に多いかと思います。その際、社長(現経営者)が第一にやらなければならないのは、後継者を誰にするかということと、ゴール(引退時期)を明確にすることです。ゴールに向かって後継者を一人前の経営者に育てる一方、自社株式等の財産を徐々に委譲していくわけです。会社を委譲するにあたり、今回の経営承継円滑化法で謳われている、民法の特例や金融支援措置、納税猶予制度を上手に活用すれば、スムーズにバトンタッチすることができるのではないかと思います。

(構成/戦略経営者編集部・岩崎敏夫 戦略経営者2008年5月号より転載)

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