TKC会員による経営承継支援

黒字決算「黒字経営」こそ経営承継の第一歩

◎税理士 齋藤保幸

 日本には創業100年超の長寿企業が推計で5万社以上も存在していると言われる。これは世界的に見ても突出した多さだという。

 とはいえ、一方で「会社の寿命30年説」があるように大多数の企業は設立から一代程度で消えてしまうのもまた事実だ。果たして100年続く企業と一代で廃業する企業とではいったい何が違うのだろうか。

 その答えはいたって単純だ。黒字決算を長きにわたって継続できるか否かである。

 黒字倒産というケースもあるが、原理的には黒字決算を続けることで必然的に会社は存続・発展していく。会社が発展すれば社員は増え、顧客や取引先からの期待も大きくなる。その過程で経営者は、会社が社会的な存在であること、自分が社会的責任を負っていることを自覚し、存続のために経営承継対策を考えるようになる。そうして次代へと引き継がれた会社は、黒字継続によってまた新たな発展のステージへと進んでいく。つまり毎期の黒字の積み重ねこそが、結果として100年企業を生み出すのである。

業績管理体制構築の4ステップ

 このように黒字決算は企業の存続・発展の大前提だが、現実には国内の実に約7割が赤字企業となっている。

 赤字の要因は、グローバル化による競争激化や昨今であれば原油高、原材料高などさまざまあるだろうが、中小企業が赤字に陥るもっとも大きな要因は黒字を出すための仕組みが整備されていないことだ。

 では黒字化実現のための仕組みについて、順を追って説明していこう。

 黒字を出すためには、「『売上高』の継続的な実現」(必要条件)と「しっかりした『業績管理体制』の確立」(十分条件)の2つをクリアしなければならない。この2つは双方密接に関連しているが、土台となるのは業績管理体制のほうだ。

 しっかりした業績管理体制は、(1)月次決算の実施(2)PDCAサイクルの定着(3)経営者の財務分析能力の向上(4)部門別業績管理体制の構築―の4つのステップで作り上げていく。

(1)月次決算は、自社の正確な現状(業績)をタイムリーに把握するために行う。要は毎月儲かっているかどうかを確認するわけだ。

 これを行うには、適切な経理処理体制の整備が不可欠になる。具体的には、証憑書類の整理・保存、現金管理、起票(入力)といった基礎を学んだ経理担当者が適時、正確に処理を行い、それをTKC会計事務所が月次巡回監査でチェックするといった流れだ。経理担当者の育成に関しては、TKC会計事務所が「初期経理指導」を行っている。

(2)PDCAサイクルの定着とは、経営(利益)計画の策定と予算実績(予実)管理の実践である。

 月次決算で正確な財務データを掴んでも、何らかの判断基準がなければ評価ができない。そこで利益計画を立てて月別の予算(P:プラン)を設定し、次ぎにそれを営業活動(D:ドゥ)の結果である業績と照らしあわせて(C:チェック)、差異があれば原因分析し改善策を実行する(A:アクション)のだ。

 経営計画には、単年度の利益計画のほかにも「中長期経営計画」(3~5年)、「長期経営計画」(10年)がある。利益計画が「今を知るためのモノサシ」であるのに対し、中長期経営計画は「現状から見た将来を示す」ものだ。現状が変われば将来も変化するから、中長期経営計画は毎年見直すのが理想である。

 対して長期経営計画は、「10年後にどうなっていたいかを示す」もので、経営方針や長期的なビジョンにあたる。「経営承継計画」もこの一部と言えるだろう。

 TKC会計人は、『継続MAS』というシステムで経営計画の策定支援を行っている。

“SY社長”から卒業せよ

 PDCAサイクルが社内に根付くと、社長が決断した打ち手と業績との因果関係が徐々に理解できるようになり、(3)経営者の財務分析能力の向上へと繋がっていく。

 TKC会計人が導入を勧める財務管理ソフト『FX2』には「社長専用ボタン」があり、これをワンクリックすれば経常利益の伸びや直近の資金繰り予定などを即座に確認できる。こうしたツールを活用し経営判断を行うことで、「売上高」の継続的な実現へとつなげていく。

(4)部門別業績管理体制の構築は、(3)をさらに発展させたものだ。

 財務データから問題を抽出し改善していくには、全社業績だけでなくより細分化された数値が必要だ。そこで店舗別(地域別)や事業部別、商品種類別などのセグメントごとの損益計算書で業績を把握する。

 例えば飲食店なら『FX2』で店舗別業績管理を行い、収益性の良い店舗と悪い店舗それぞれの成功要因と失敗要因を把握するといった使い方。成功要因は他店にも採り入れさせ、失敗要因は排除して今後同じことが起きないよう対策を施す。これで売上拡大と儲け損ないの回避の可能性が広がる。

 また部門別業績は即ち部門責任者の業績でもあるので、責任者の士気を向上させる効果もある。業績管理能力も向上するから人材育成にも有効だ。これは経営承継における後継者育成に関係するだろう。

 いくら経営承継を目指しても、後継者が継ぎたくなるような魅力的な会社でなければ、それは単なる空念仏で終わってしまう。黒字化なくして経営承継はありえない。

 ところが驚くことに、赤字を恥ずかしいと思わない社長もいまだに存在する。経営数値が読めないから、事の重大さを理解できないのだ。私はこうした社長をKY(空気読めない)に擬えて“SY(数字読めない)社長”と呼んでいる。

 黒字化するにはとりもなおさずSY社長を卒業する必要がある。これが経営承継の第一歩なのだ。

(インタビュー・構成/戦略経営者編集部・千葉博文 戦略経営者2008年9月号より転載)

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