TKC会員による経営承継支援

経営承継計画 失敗しない「経営承継基本方針書」の作り方・進め方

◎税理士 増山英和

経営承継のパターンは大別して3つある

Q1 中小企業にとって「経営承継」は会社を存続・発展させるうえで極めて重要なテーマなのに、なぜ多くの企業では「承継対策」が行われていないのでしょうか。

 理由はいくつかありますが、第1は、そもそも「相続」というのはいつ起こるかわからないため、どうしても目の前の仕事に追われ、先送りされてしまうきらいがあるということです。
 2つ目はそれに関連しますが、「相続は自分(経営者)が死ぬときを想定する話」なので、承継対策を立てること自体が縁起でもないとか、ネガティブに捉えられてしまう側面があるということです。
 とくに創業者の方は自分が好きで始めた仕事ですから、「生涯現役」とか「死ぬまでやるぞ」と思っている人が多い。還暦を過ぎてもやる気満々の姿勢を見せられれば、後継者の方は「話」を切り出しにくいところがあります。下手にそれを言い出せば、「私をやめさせるのか。ふざけるな……」というようなことになりかねません。
 その反対に子供(後継予定者)のほうが、親(社長)が資金繰りに奔走して苦労している姿を見たり、会社の将来性を考えたりすると、「しんどい思いをするだけ」ということで、敬遠する向きが最近増えてきています。このことが承継対策を(経営者が)やろうにもなかなかできていない、第3の理由だと思います。

Q2 経営承継のパターンを教えてください。

 一般に社長の仕事というのは、「今後、我が社が進むべき方向性」(将来ビジョン)を示し、それを実現するための「戦略」を考え、戦略を具体的な「経営計画」(短・中長期)に落とし込み、成果をあげることです。ビジョン→戦略→経営計画という流れで舵取りするわけですが、それはとりもなおさず「継続的に黒字企業にする」ということであり、後継者の目線でいえば「継ぎたくなるような(魅力的な)会社にする」ということにほかなりません。これが経営承継を行うにあたっての大前提です。
 そのうえで図表1のロードマップを用いて、経営承継対策を進めるといいでしょう。まず、経営者は自分の「思い」(経営理念)とかビジョンを受け継いでくれて、かつ経営の舵取り役に適した人(後継予定者)が社内にいるのかどうかをチェックして、社内にいれば「親族内承継」か「親族外承継」かという選択になります。親族外とは、「番頭」とか「幹部社員」などを指します。が、中小企業の場合は図表2の通り、「息子・娘」に承継させるケースが圧倒的に多く、次にこれが難しい場合に親族外承継が考えられ、それもできない場合に「M&A」という方法が取られるということです。
 したがって、優先順位は、(1)親族内承継(息子・娘、娘婿)、(2)親族外承継、(3)M&A、の順番だと思います。ただし、社長の子供がまだ学生であるとか入社して間もない場合は、妻や兄弟、番頭格にワンポイント・リリーフで社長をやってもらうことはあります。
 実は、親族内承継が多いのは「借金の問題」が背景にあります。これまで中小企業経営者の場合、大企業経営者と違って、金融機関から資金を借りるとき、個人保証などを求められるのが半ば当たり前でした。要するに、赤の他人である先代経営者が作った何千万円とか何億円もの借金を背負ってまで承継することに、二の足を踏む人が多かったということです。逆にいえば、ここの部分をクリアできれば親族外承継はかなりやりやすくなるのではないかと考えられます。

図表1 経営承継サクセスのためのロードマップ 図表2 後継者の続柄

「承継対策」は社長・後継者・顧問税理士の3者で行うべし

Q3 経営承継がスムーズに行われるためのポイントというのは……。

 第1は今いいましたように「誰」を後継者にするかであり、第2はその人に「いつ」「どのよう」に地位と財産を移転していくかです。
親族内であろうと、親族外であろうと、後継者に問われるのは「経営力」があるかどうかです。というのも、以前に比べ企業を取り巻く環境は激変しており、トップの力量しだいで会社の消長が大きく左右される時代になっているからです。それは前述したビジョン→戦略→経営計画という形で舵取りができる人であり、そういうセンスのある人、もしくは鍛えればできそうな人が親族内にいるかどうかをまず考え、どうしてもいなければ親族外に後継者を探すというのがオーソドックスなやり方でしょう。
 そういう形で後継者が決まれば、次に地位と財産をいつ、どのように移転するかになるわけですが、それを行うにあたって、一番いい方法が「経営承継基本方針書」(図表3参照)を作成することです。この方針書はあくまでも経営計画の一部であり、経営承継の中身を「見える化」したものにほかなりません。

図表3 経営承継基本方針書

Q4 経営承継基本方針書は、どういう方法で作成すればいいのでしょうか。

 第1ステップは「己を知る」こと、すなわち「現状分析」を行うということです。その切り口は、(1)会社について、(2)経営者について、(3)後継者についてであり、社長・後継者・顧問税理士の“3者”で行うのが望ましい。なぜか――。社長は自分の意思で物事を決めてきたので、現状((1)、(2)、(3))については把握していますが、後継者の方は断片的にしか知らない場合があるからです。なかには、決算書を一度も見せてもらったことがないというケースすらあります。実際、その会社の社長に「なぜ後継者に決算書を見せないのですか」と聞くと、「見せたら継ぐ気がなくなってしまうから」と言われたことがあります。
 後継者に「恥ずかしい姿」を見せたくないのであれば、いい会社にするしかありません。また、会社の上っ面だけを見せ、「いい会社だな」と思わせて引き継がせた後で、裏側の汚れた部分がどんどん見えてきたりすれば、後継者に失望、後悔させることになるでしょう。これでは後継者はもとより、従業員にとっても不幸なことです。だから、そういう事態にならないようにするためにも、まずは「会社の棚卸し」をしっかりやって継ぐ本人に己を知ってもらうことが大事なのです。その際、例えば親と子の2者で現状分析を行うと、親子だけに互いに我を張り、本音がむき出しになって、まとまる話もまとまらなくなる恐れが出てきます。そこで、会社の経営状況から社長の個人資産まで熟知している顧問税理士が両者の間(ニュートラル)に立って行えば経営承継を段取りよく、スムーズに進めていくことができるでしょう。

Q5 後継者に課せられた「役割」とは何でしょうか。

 社長(父親)、後継者、顧問税理士の3者で会社の現状について話をしているとき、社長から「私も頑張ってきたが、ここまでだ。後はおまえ(息子)に任せるから、立派な会社にしてくれ……」というようなことを言われたら、息子は「よしっ!」という気持ちになるのではないでしょうか。ここに、会社を継続させることの根本的な意味、素晴らしさがあると思います。
 誰しも限りある人生のなかで、できることには限界があります。仮にX氏がある思いを持って会社を立ち上げたものの、「志」なかばで倒れた場合、そのときに誰も継ぐ者がいなければX氏の思いは潰えてしまいます。けれども、誰かがその思いを受け継ぎ、X氏が夢見たことを実現すれば途切れません。つまり、夢をバトンタッチさせていくことが経営承継であり、その担い手が後継者ということになります。
 言い換えれば、後継者(息子)は初代(親)が作った会社の人・物・金・情報などの「経営資源」を引き継いで、革新し続けるということです。初代のときに売れた商品が、今後もそのまま売れ続けるとは限らないからです。常にお客様のニーズをつかんで、オリジナリティー溢れる商品を開発していかなければ、会社の存続・発展をはかることはできません。それができるかどうかは、ひとえに後継者の腕(経営力)にかかっています。

後継者に地位と財産を移転させていくには

Q6 具体的に地位と財産を、後継者に移転するやり方を説明してください。

 経営承継基本方針書は図表3を見てもわかるように、「会社」「現経営者」「後継予定者」が、それぞれ「何年に何を」行うかをスケジュール化したものです。
 ここでは、関東地区に本社を置く和菓子メーカー・A社(架空)をケーススタディにして、経営承継基本方針書の作り方を説明してみましょう。A社は本店で和菓子を製造・販売するとともに、市内のショッピングセンターにテナントとして2店舗出店していて、現在の正社員数は17名、年商は5億円です。
 同社の社長は日本一郎氏(60)で、妻の愛子さんが専務(56)、長男・守氏(35)が後継予定者で現在Y店長を務めており、次男の勤氏(30)は他社に勤務しています。A社は数年前にZ税理士に顧問をお願いし、今年、一郎社長が還暦を迎えたのを機に承継対策に乗り出しました。最初に行ったのは、A社、一郎氏、守氏に関する現状分析(図表4参照)で、これをベースに経営承継のシナリオを考えました(図表5参照)。
 その際、重要なのは「ゴール」(引退時期)を決めることです。目的(ゴール)と手段ではありませんが、これに向かって、いつ、何をするのかを決めていくわけです。わかりやすくいえば、(白紙の状態の)経営承継基本方針書のなかに、会社・現経営者・後継予定者がそれぞれ行うこと、つまり現状分析を基にして考えた経営承継のシナリオを書き込んでいくということです。
 まず「会社が行うこと(検討項目)」としては、売上高や資本政策などがありますが、TKC会計人であれば従来から『継続MAS』というシステムを使って、「5カ年経営計画」を関与先企業の社長にヒアリングしながら作成しているので、その「数字」(売上高・経常利益)をそのまま記入すればいいでしょう。
 A社の場合は、5年後(平成25年)に売上高を6億円、経常利益を2500万円にする計画を立てています。資本政策としては、まず21年に定款変更して「相続人に対する売渡請求条項」を設けることにしています。これは株式を相続した者が会社にとって好ましくない場合、会社がその相続人に対して株式を売り渡すことを請求できるというものです。次に、会社設立時からA社の株式を持ってくれていたB氏、C氏からそれぞれ株式を買い取ることにしています。守氏が社長になったとき、より盤石な体制にするのが狙いです。
 他方で、一郎社長は7年後の27年に守氏に社長を譲り、会長に就き、29年に相談役となり、30年に引退することにしています。実質的なゴールを10年後に定めたわけです。ポストの移転と同時に、自分が所有するA社株(90%)を守氏に贈与していきます。具体的には21年~26年までは「暦年課税制度」を使って毎年5%ずつ贈与し、社長交代を行う27年に「相続時精算課税制度」を使って40%を譲り渡す計画です。結果、守氏の持株割合は70%に達し、経営権の安定化をはかることができます。
 さらに一郎社長は、長年自分の参謀として仕えてくれた甲常務については一緒に退任(26年)してもらい、代わって守氏の右腕として乙氏の起用を考えています。《新しい酒は新しい革袋に盛れ》といわれるように、人心も一新するわけです。

図表4 日本一郎社長の現状分析 図表5 A社の経営承継基本方針書の設定

Q7 後継者(息子・娘)が「経営力」をつけていくためには……。

 1つは「外」で修業させるのがいいかと思います。仕入先や得意先などで数年間修業すれば、技術や営業スキルを身につけるだけでなく、何よりも会社経営で重要な「人脈」を築くことができるからです。2つ目は部門長として自ら目標を設定して、いわゆる「PDCA」を実践させることです。
 A社の守氏の場合は店長(一般社員)→店舗統括(取締役)→総務担当(専務)→営業担当(副社長)という具合に各部門を経験する一方、外部の「後継者塾」や「経営革新塾」にも参加してマネジメント力をつけていくことにしています。

社長の座を譲ったら口出ししない

Q8 相続が「争続」にならないようにするためには、どうすればいいでしょうか。

 経営承継を行うにあたり、注意しなければならない点が2つあります。1つは「指揮命令系統は一元化する」ということです。
 なぜこのことに注意しなければならないのかといえば、子供に社長を譲ったにもかかわらず、相変わらず現場に口出しする方(会長)がいるからです。社員の前で社長を叱ったり、異なる意見を述べたりすれば、会長のほうに実権があると思われてしまいます。社長からの指示命令がないがしろにされる恐れが出てきます。これでは役職名が変わっただけで、いったい何のために経営承継が行われたのかということになりかねません。このため、先代はひとたび社長を譲ったのであれば、腹を決めて温かく見守り、徐々に自分の色をフェードアウトさせていくことが肝心です。
 ある会社の創業者は、息子に「おまえ、明日から社長をやれ!」と言ったきり、1年間会社に姿を見せませんでした。何でそんなことをしたのかと(後で)聞くと、「私が会社にいなくなったら、指揮を執るのは息子しかない。息子なら絶対にそれができるだろうと思っていたから、任せることにしたんだ……」と話していました。つまりライオンが、我が子を千尋の谷に突き落とすように、後継者に“修羅場”を体験させれば、経営者として一回り成長させることができるというわけです。
 もう1つの注意点は後継者以外の相続人に対して、予め手を打っておかなければ後でトラブルが起こるかもしれないということです。先ほどのA社のケースでいえば、次男の勤氏に対して、どのようにケアするかです。一郎社長がとった対策は、(1)非課税範囲で現金を毎年贈与する(有期定期金の贈与とならないように注意)、(2)アパート1棟を相続させるというものです(図表6参照)。
 ところで、今年5月に「中小企業経営承継円滑化法」が成立しましたが、同法の柱の1つに「民法の特例措置」というのがあります。これは関係者全員(推定相続人)が「合意」していれば、被相続人が後継者に生前贈与した自社株式などを「遺留分算定基礎財産から除外できる」というものです。そこでA社の一郎社長も、この特例措置の適用を受けようと考え、社長交代が行われる7年後に「合意書」を作成することにしています。
 ともあれ、《転ばぬ先の杖》ではありませんが、大事な会社を継続させたいのなら、最低10年くらいのスパンで「承継対策」を講じていくのが望ましいかと思います。

図表6 A社の

(インタビュー・構成/戦略経営者編集部・岩﨑敏夫 戦略経営者2008年9月号より転載)

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