TKC会員による経営承継支援

「出口」を決めて承継プロセスを考える

◎税理士 坂本孝司  ◎税理士 山本和義

今回の税制改正で注目を集めているのが「中小企業経営承継円滑化法」だ。そこで、この法案ができた背景や事業承継問題に与えるインパクトについて、専門家の坂本孝司税理士と山本和義税理士に語ってもらった。

民法上の2つの特例はどっちが使えそうか

坂本 今年10月から「中小企業経営承継円滑化法」(「知らなきゃ損する『経営承継』9つの視点」参照)が施行される見通しですが、資産税のプロである山本和義先生は、この法案をどのように評価されていますか。

山本 相続というのはいつ起こるかわからないので、その対策はどうしても先送りされてしまう傾向があります。「今日元気なんだから明日も元気さ。だったら明日でもいいじゃないか」というふうに……経営者の方は目の前の仕事に追われてしまい、事業承継問題にノータッチというケースが多い。そういう企業で突然オーナー経営者が亡くなると、会社がしっちゃかめっちゃかになることがあります。が、今回の経営承継円滑化法によって、何の対策もできていない会社でもガタガタになるような事態は避けられるかと思います。というのも、今までなら納税資金を賄うため、会社に(後継者が相続した)自社株式を買ってもらったり、資産を売却したりしていましたが、同法を活用すれば「民法の特例」「金融支援措置」「納税猶予制度」が受けられ、“応急処置”ができるからです。

事業所・企業統計調査による開廃業率の推移 坂本 先生と見方は同じですね。なかでも、この国の市民生活の根本法である民法を、特例とはいえ、変えたことはすごい。民法学者からすれば「何をするんだ」とお叱りを受けそうですが(笑)、そこには時代的背景が色濃く反映されていると思います。ここ十数年、会社の廃業率が開業率を上回っていますが、その一因に事業承継問題があります。つまり、日本経済を活性化させるためにも、中小企業を元気にさせるためにも事業承継をいろんな形で支援していかなければ、ダメだということに国も気づいたわけです。

山本 今回の民法の特例には、(1)贈与株式等を遺留分算定基礎財産から除外できる、(2)贈与株式等の評価額を予め固定化できる、の2つがあるわけですが、両方とも「遺留分権利者全員の合意」が前提条件になっています。しかし、全員の合意が得られなければ適用されないということであれば、わざわざこの方法((1))をとらなくても、今の「遺留分放棄」というやり方でいいわけです。

坂本 確かに遺産分割で揉めないケースなら、何もこの特例を使う必要はないかもしれない。

山本 自己主張の強そうな相続人がいる場合には、先に遺留分相当額を贈与して、「放棄」してもらうことがあります。とくに2003年に導入された「相続時精算課税制度」を使えば、一度にまとまったお金(特別控除額2500万円)を渡すことができますからね。だから、今回も合意を得るためには非後継者の相続人に、それなりの「対価」を渡しておく必要があるかと思います。むしろ、(2)の「固定化」のほうが効果は大きいと見ています。
 相続時精算課税制度は毎年8万3000件前後実施されています。そのうちのかなりの部分は住宅取得資金絡みですけれど、3~4割は自社株式の一括贈与と推測しています。その場合、最も多いパターンは先代社長が会長などに勇退し、役員退職金を支払ったときです。つまり、一時的に会社の利益を抑え、株価を引き下げて贈与を行うわけですが、このときの価格(自社株式)で固定化できれば、効果は大きい。

坂本 (1)の自社株式を遺留分から外すということに関していえば、非後継者の相続人がそれを認めれば、自分たちの取り分が減ることになるので、進んでやりたがらないところがあります。その点、固定化のほうは丸々減るわけではないので、合意が得られやすいわけですね。
 一般に相続税を納めなければならないのは、全体(相続発生件数)の数%といわれています。このため、中小企業のなかには、今回の経営承継円滑化法ができても「うちは関係ない」と思っている経営者もいるかもしれません。しかし、相続税がかかるかどうかに関係なく、すべての事業承継に、今回の遺留分に関する特例は使えますから、ぜひそのことは経営者のみなさんに知っていただきたいです。

金融支援の目玉は後継者向けに創設された融資制度

山本 同族会社の事業承継で、後継者の方が苦労されることの1つは相続税の納税です。経営権の確保を狙って自社株式を相続しますが、非上場会社の株式は換金処分できない財産の代表例ですから、納税資金に困るわけです。で、どうするかといえば、金庫株(会社が自社株式を買い取ること)にして現金を得、それで納税するというパターンが多い。けれども、安易にこの方法を使えば、会社の財務体質の悪化を招くのでよくありません。

坂本 そこで今回の経営承継円滑化法では、(1)法人による自社株式等の取得資金融資制度の創設、(2)後継者個人による経営安定化のための制度融資創設、(3)M&A支援に関する制融資の拡充、の3つを“支援策”として打ち出したわけですが、(2)が1番の目玉でしょう。というのは、これまで金融機関が融資対象にしていたのは主に「会社」であって、「個人」向けの融資はせいぜい住宅ローンとか教育ローンくらいしかなく、後継者個人に貸し出すものはなかったからです。これは新しい金融スキームが作られたということで、素晴らしい話です。

山本 おっしゃる通り。ただ、融資を受けることができても、最終的には返さなければならない(笑)。

坂本 ええ。だから後継者は大変でしょうが、業績を伸ばして、給料、役員報酬がたくさん払えるような会社にしていかなければいけない。

山本 実際、この後継者を対象にした融資制度は、いろんな利用法があると考えられます。1つは生前に先代社長から自社株式を買い取るケース、2つ目は相続が起こったとき、兄弟(非後継者の相続人)などから自社株式を買い取るケースです。また、自社株式の他に事業用資産を買い取る場合にも使えます。

坂本 これまでは自社株式を分散させるというのが(相続対策の)1つのテクニックでした。なるべく薄めたほうが税負担が軽くできるからですが、逆に、経営がやりにくくなったというのも否定できない。

山本 気がついたら知らない株主がたくさんいたと(笑)。

坂本 そう(笑)。自分の子供の段階なら、まだいいわけです。例えば長男が後継者で、次男、長女が株式を持っている分にはね。しかしその下に行くと、いとこ同士だから他人に近くなり、見たこともない株主がいっぱい出てくるわけです。
 それから事業承継に関していいたいことは、これは日本人ならではの感覚かもしれないということ。よく英語には「事業承継」に当たる言葉がないといわれますが、アングロサクソン流の経営は「会社」もモノの1つとして捉え、売り買いの対象にしているのに対し、日本の場合は創業の思い(経営理念)を身内につなげたいというのがあります。

山本 だから、日本には100年以上も続く老舗企業が何万社もあるのかもしれませんね。

納税猶予制度を誤解している経営者が意外に多い

坂本 経営承継円滑化法では「納税猶予制度」の創設も謳っていますが、これについては誤解されている経営者がかなりいるようですが……。

山本 ええ。相続する自社株式に関しては、80%評価減になって、20%の評価額で計算された相続税だけ納めれば、あとは「免除」と思っている方がいますが、それは誤解です。免除ではなく、あくまでも「猶予」にすぎません。このため、猶予の適用要件(5年間は代表者であり、雇用の8割以上を維持すること。相続した対象株式を保有し続けること)を満たさなくなったら、猶予されている税額と利子を合わせて納めなければならない。
 また、自社株式以外の、その他財産(事業用資産等)も相続した場合には、それも含めた全体の相続税額を算出し、そこから自社株式に関しては20%の評価額、その他財産に関しては通常通りの評価額で行い、差し引いたものが納税猶予額となります。したがって、その他財産の占める割合が大きければ大きいほど、納税猶予額はそれほど大きな金額にはなりません。さらに、この制度は発行済議決権株式総数の3分の2に達するまでの部分を「上限」としているため、すでに後継者の方が3分の2近くまで株式を持っていれば、納税猶予税額は大した金額にはならないでしょう。

坂本 おそらく後継者のなかには、猶予ということに対して、「気持ちが悪い」と感じる人もいるのではないかと思います。

山本 不確定な債務をずっと背中に背負っているようなものですから、その気持はよくわかります。最後まで、自分(後継者)が亡くなるまで持ち続ければ免除になるわけですが、5年経過以後に、その株式を売れば(その間の)利子も納めなければなりませんから、大変です。

坂本 事業承継問題は、ポスト(地位)の移転と財産の移転の2つが絡む話ですが、今回の経営承継円滑化法は後者(財産の移転)のほうにスポットを当てていますね。

山本 冒頭でも少し触れましたが、多くの経営者が事業承継問題についてどれだけ正しく認識しているか、危機感を持って取り組んでいるか、ここが甚だ疑問なわけです。ときどきふっと思いついたように「これは大変な問題だ」と言っておきながら、3日後に行ってみたら、そんなことすっかり忘れているというケースはよくあります(笑)。このため、中長期的な観点からこの問題を捉え、計画(事業承継計画)を立て、それを実行するにあたっては、経営者の横にアドバイザーがついていなければうまくいかないと思います。その1番いい相談相手が顧問税理士です。最近は言わなくなりましたが、昔は「竈(かまど)の灰のことまでわかっているのが顧問税理士」でしたからね。

坂本 そうです。結局、この問題は現経営者の「出口」を決める話じゃないですか。で、私が関与先企業の経営者に質問するのは「65歳ないし70歳のとき、どういう会社であってほしいか」です。ここがこの問題を解決する始まりです。経営者の方に、65歳になったときの姿をイメージさせるわけです。つまり“ハッピーリタイア”をイメージさせることで、この問題の意識づけを行うわけです。すると「そのときまでには社長を退き、息子に後をまかせたい」とか、いろんなパターンが出てくるはずです。それを顧問税理士が聞き出して、事業承継計画づくりに取り組むのが望ましいやり方です。それを「あなたが亡くなったあとどうされますか」と聞くから、よくないのです。誰だって嫌な話ですからね(笑)。
 一方で、この事業承継問題というのは、単に関与先企業だけの話ではなく、我々税理士事務所の承継問題でもあるのです。「先生のところは私の息子、孫の代まで、ちゃんと見てくれるのでしょうね」というニーズに応えなければならないからです。

山本 よく政界では「一寸先は闇」といわれますが、企業経営も同じで、常に何が起こるかわかりません。だからいつ何が起きてもいいように、いろんな「カード」(対処法)を持っておくことが肝心です。今回の税制改正によって、会社存続上、有力なカードを手に入れたと見ることができるのではないでしょうか。

(構成/戦略経営者編集部・岩崎敏夫 戦略経営者2008年5月号より転載)

目標は年商50億円突破! FX4クラウド ―すべての支店から最新業績が確認できます。

セミナーのご案内

TKC経営支援セミナー2011
中小企業経営者に、経営改善、経営革新の取り組みによる業績向上のヒントを得ていただくためのセミナーです。

税理士ご紹介コーナー

  • 自分で検索する
  • 無料紹介を依頼する

TKC経営指標(BAST)

TKC全国会会員の関与先企業22万社超の決算書を集計した中小企業の経営指標。
TKCグループホームページのユーザ登録により無料で要約版をダウンロードいただけます。

  • 黒字企業の最新業績順位表

戦略経営者

戦略経営者表紙年商50億円を目指す中堅・中小企業経営者の戦略思考と経営マインドを鼓舞し、応援する経営戦略情報誌です。

  • 戦略経営者ホームページ

TKC税務Q&Aデータベース

TKC税務研究所の編集による9,500件以上の税務事例をQ&A形式で収録。
TKCグループホームページのユーザ登録により無料でご利用いただけます。

  • 税務Q&Aへ

相続税・贈与税の試算コーナー

家族状況や所有財産、将来の贈与案を入力し相続税・贈与税の総額を試算できます。

  • 試算コーナーへ

創業・経営革新アドバイザー事務所一覧

TKC計算書類公開データベース

  • TVCM