更新日 2011.02.28

連結納税制度への対応のポイント

第8回 連結納税の申告と子法人のサポート

  • twitter
  • Facebook

税理士・公認会計士 中野伸也 TKC全国会中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
税理士・公認会計士 中野伸也
連結納税制度適用の有利・不利判定や、連結納税の承認の申請書の書き方から、連結納税制度適用後の組織再編、子法人のフォローアップ、また、電子申告の実践、タックスプランニングの実行にいたるまで、連結納税制度への対応ポイントを解説します。

当コラムの第3回では、連結納税制度導入直前期での体制構築について説明しました。第8回では、連結納税制度を選択した後の体制構築について説明します。

連結納税は、完全支配関係にある内国子法人全ての協力がなければ行うことができません。システムとしてTKC連結納税システムeConsoliTax(以下、eConsoliTaxと言います。)を使用していることを前提に、連結納税を確実に行うために、子会社に対しどのように対応すべきなのかといったことについて考えてみます。

eConsoliTaxは、①全てのプロセスにおいて親子間でのデータの送受信を自動で行い、②全親子法人の最新データをサーバーで一括管理しています。③計算開始から帳票出力までの時間も速い(100社連結でも15分程度で管理帳票、申告書の印刷開始可能)ので、データ修正等による再計算も簡単にでき、④全ての子法人で個別帰属額の届出書や地方税申告書を印刷できます。これらの結果として、親法人はデータ受け渡しや印刷業務の煩わしさから解放され、全体の申告作業の進捗状況の監督、子会社のサポートに注力できます。

これらのシステムの特徴について詳しくはeConsoliTaxのHPをご覧ください。

1.申告までのスケジュールの確認

最初に決定すべき点は、①申告書の作成を親法人がまとめて行うのか、子法人も各法人で申告書作成のためのデータ入力を行うのか、②会計で計上する法人税等の額をどこまで正確に行うか、という2点です。

上に記載したeConsoliTaxの特徴は、当初から各子法人で入力し、その計算結果の法人税等の額を会計で計上するという想定で開発したことによるものです。

連結納税はグループ全体で所得を通算します。グループ全体が黒字で繰越連結欠損金もないのならば、各子法人は受取配当の益金不算入や外国税額控除を除くと、原則として単体申告と同様の計算で大きな違いが出ません。しかしグループ全体が赤字基調であり、繰越欠損金もあるというのであれば、各法人の負担すべき個別帰属額は全体計算をしてみなければ正確な数値は得られません。

会計としては、どれだけ正確な法人税等の金額と税効果の数値を限られた時間内に得られるかです。グループ全体のボリュームがそう大きくなく、各法人の税額計算も複雑な外税控除などもないのであれば、決算時にeConsoliTaxを使用して正確な数値を計上することもできます。しかしながらeConsoliTaxは申告書作成システムですから、申告書作成のための細かなデータ入力が必要です。多くの企業グループでは決算時にそこまでのことはできません。決算時には別途、税額計算を行い、税効果の計上を行います(このためのシステムとしてTKCの税効果会計システム(eTaxEffect)があります)。

2.前提としてのマスター統制、会計処理方法の統一等

以下は、実際の申告業務を開始する前に決めておかなければならないことです。

(1) 所得計算等に関係する事項
  1. 有価証券(受取配当等の益金不算入等)
    受取配当等に係る株式が「関係法人株式等」に該当するか否かは、連結納税グループ全体の保有株式で判断することになっています。また、受取配当等の益金不算入の規定を適用しない短期保有株式についても、連結グループ全体で判断することになっています。そのため、保有有価証券についてはグループ全体で把握する体制を作る必要があります。現状で保有有価証券を把握しているのなら、それを利用しますが、eConsoliTaxでも保有有価証券を登録し、期中での増減をその都度入力して管理する方法を用意しています。
    また、配当等に係る源泉税額控除の計算方法は、個別法か銘柄別簡便法か、グループ全体でどちらかの方法によることになります。銘柄別簡便法による場合は、グループ全体での保有を基に一括計算するので、期中での増減をきちんと把握しておく必要があります。
  2. 外国税額控除等
    外国税額控除を受ける子法人がある場合は、その控除計算をeConsoliTaxで行うのか、別途計算して結果だけを入力するのかを決めておく必要があります。試験研究費等の税額控除の上乗せ部分の計算を試験研究費増加額で行うのか、売上高10%超で行うのか、あるいは有利な方法を毎年選択するのかといったことも、収集すべきデータが異なることになるので前もって決定しておくべきことです。
(2) 法人税等の会計処理方法と別表処理の統一

多くの導入事例で問題になるのが、法人税等の会計処理方法がグループ全体で統一されていないことです。小さな子会社、孫会社で控除対象となる源泉税等を販管費中の租税公課勘定で処理したりしていて、グループ全体で統一した処理となっていない例が多く見受けられます。法人税等の別表処理は、申告書作成の上で最も考え方の難しいところです。これをグループ全体で統一しておかないとチェックが大変です。

法人税等の会計処理と別表調整で統一しておいたほうが良いと思われる事項は次の通りです。

  1. 源泉税等の会計処理と別表処理
  2. 外国税額の会計処理と別表処理
  3. 個別帰属法人税額の会計処理と別表処理
  4. 法人住民税(含む利子割、予定申告額)の会計処理と別表処理
  5. 事業税(含む地方法人特別税、予定申告額)の会計処理と別表処理
(3) その他のマスター統制

別表4・5の区分名と、交際費の科目名を統一して共通摘要として、各法人に使用させるようにすることができます。

eConsoliTaxでは表示行の順番に関係なく文字列で検索集計するので、横並びで各社を比較する場合に、科目名等を統一しておいたほうが比較しやすくなります。また、申告調整の方法(期ずれ売上の消費税の処理等)もできるだけ統一しておいたほうが、子会社のフォローをするときに楽です。各社ごとに複数人で同時に入力することもできるので、事前に業務を分担しておけば入力を早期に終わらせることができます。

(4) マニュアル、チェックリストの作成等

実際の申告書作成業務に入るまでに、上記の(1)から(3)までの事項を含んだ会社特有の処理を前提とした入力マニュアルとチェックリストを作成しておきます。具体的にどのようなマニュアル、チェックリストが必要かは、連結納税グループの規模、子会社の数や税務処理の水準などにより異なったものになります。子会社の数が多く、各子会社に入力させるのであれば、このマニュアルとチェックリストが申告書の品質を左右します。

(5) 財務諸表その他の必要資料の収集方法

eConsoliTaxに入力されるのは申告書データだけですので、申告書に添付する財務諸表や勘定科目内訳明細書、外税関係のバウチャー等をどのように、いつまでに収集するかも、事前に決めておかなければなりません。

3.子法人のサポート等

子法人の会計処理、税務処理のレベルは親法人が考えている以上にばらつきがあるのが普通です。税理士が関与していても、上場企業に適用される会計基準や連結納税制度に精通していない場合は、思わぬ誤った処理をしている場合もあります。子法人に対するサポート体制の構築が、連結納税では重要です。

(1) 事前研修

連結納税制度採用時の研修のほかに、決算前に連結会計のための会議を持つでしょうから、その時に上記2で決めたことや、申告書作成のために必要なデータ収集とeConsoliTaxへの入力依頼、入力締日等の日程等を伝えます。また、新規加入法人については、別途ヒアリングを行い、その時に他の法人に対して行ったような事前研修を行います。

(2) 入力援助

申告書作成に入った場合、親会社は子法人の質問に対応する窓口を開設します。特定の担当者を決めておいたほうがスムーズに運用できます。

子会社数が多く、人事異動等により担当者が変わるなどしてレベルにばらつきがある場合には、特定の日に子会社を集めて実データによる入力指導を行うことも、有効な方法です。これにより子法人がレベルアップし、入力の進捗もそろえることができます。

(3) 申告書のチェック・修正

親法人は各子法人の入力が完了した後にすべての連結法人の入力データに基づき全体計算を行い、申告書のチェックを行います。マニュアルどおりの入力がなされ、別途収集した財務諸表との整合性が取れているかをチェックリストに沿って検討します。誤りがあったならば子会社に連絡し、時間を切って修正入力を行わせます。

租税公課の処理を除いて、誤りの多い個所は、受取配当金の益金不算入計算に必要な資産総額等の入力漏れ、試験研究費の税額控除のためのデータの入力漏れなど、単体納税では必要としなかったデータの入力漏れです。

(4) 申告書等の印刷と提出

申告書の内容が確定した後は、各子会社で個別帰属額の届出書や地方税申告書を印刷します。各子会社は、財務諸表や科目内訳書等を添付して、所轄税務署などに提出します。親会社は、子会社が実際に提出した申告書等の控えを送付してもらいます。親法人は、子法人が最後の申告手続きまで確実に行っていることを確かめておかなければなりません。

筆者紹介(中野伸也)

税理士・公認会計士 中野伸也(なかの しんや)

TKC全国会中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
TKC連結納税システム推進プロジェクト会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員長

ホームページURL
中野会計事務所

免責事項

  1. 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
  2. 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
  3. 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。