更新日 2012.12.25

連結納税の基礎

連結納税適用の検討から連結申告(初年度)までの主なイベント

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税理士 藤井規生TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士 藤井 規生
制度創設から10年が経過し、繰越欠損金の持ち込み制限の緩和や復興特別税の創設等、連結納税制度の適用を検討するためのポイントも変遷しています。
そのため、このコラムでは、連結納税制度の適用を検討するにあたり必要となる制度の基礎的な理解や制度創設時とは変わった点について、わかりやすく解説します。

 前回お知らせのとおり「連結納税下での税効果会計」について解説したいのですが、その前に、連結納税適用の影響がいつからどのように発生するかを整理すると理解が進むと思います。そのため今回は、連結納税適用の検討から連結申告(初年度)までの主なイベントに沿ってそれぞれのポイントを整理します。

例:連結納税適用の検討から連結申告(初年度)までの主なイベント
※3月決算の普通法人のケース

<各イベントでのポイント>

1.連結納税適用の検討(X年4月~6月)

  1. まずは、連結納税適用のメリットを整理しましょう。これについては、当コラム「連結納税の適用による6つのメリット」をご参考にしてください。
  2. デメリットの整理も必要です。特に、時価評価適用となる子法人(含み益課税や繰越欠損金の切捨て)については十分な検討が必要です。これについては、当コラム「連結納税制度適用の注意点」(時価評価と繰越欠損金)をご参考にしてください。
  3. 決算月が異なる子法人がある場合は、業務効率を考慮して、決算月を親法人にあわせることも検討しましょう。

 連結納税適用の検討では、一般的には、対象となる子法人の申告書を収集し、その所得金額や税額を基に節税メリットを検討しますが、それだけでは足りません。
 対象となる子法人の経理体制(税務担当の有無や税務業務の外部委託状況)を把握し、円滑に業務を遂行するための体制を検討する必要があります。連結納税は親・子法人間での連携が要ですから、円滑なコミュニケーション(連絡事項、質疑応答等)を行うため「窓口」を決定しておくとよいでしょう。
 親法人は、1)事業セグメント単位で担当を設ける、2)関連分野(法人税、地方税、税効果等)単位で担当を設けるといった体制が考えられます。子法人は、少人数で複数業務を行う環境でしょうから、税務担当がいることは稀で、「会計・税務兼任の担当がいる」「総務・人事も兼任している」「税務は外部委託」等、状況は様々だと考えられます。親法人が子法人の税務業務の現状を把握し、内部支援・外部協力といった双方の観点から「打ち手」を検討し、子法人の税務業務をサポートする体制を構築することが肝要です。
 また、この段階で業務システムを選定しておくことをお勧めします。経験のない分野で、業務システムの選定と今後のイベントを並行させると負担が大きくなります。これについては、下記にご相談されてみてはいかがでしょうか?

【お問い合わせ先】
(株)TKC 企業情報システム営業本部

東日本営業部
東   京:03-3266-9055
名 古 屋:052-571-1102
西日本営業部
大   阪:06-6212-8621
中国・九州:092-752-5663

【TKC連結グループソリューション】

税効果会計システム 連結納税システム

2.主要子法人等へのアナウンス(X年7月~9月)

 連結納税の適用をあらかた決定した後は、その目的や背景を明確にし、「主要子法人」及び「時価評価適用となる子法人」には、速やかに事前アナウンスをしておく必要があるでしょう。部分最適より全体最適を意図し、グループ全体でメリットを享受する狙いを定量的に理解していただく必要があります。

3.連結納税適用の意思決定(X年7月~9月)

 3月決算企業の場合、「連結納税の承認の申請書」(以下、承認申請書)の提出期限は12月末です(設立事業年度等の申請の特例を除く)。意思決定が9月では「早い」と思われるかもしれませんが、これでもギリギリくらいです。10月~11月は、第2四半期決算や単体の中間申告があり、あっという間に提出期限が訪れることになりますし、承認申請書の作成には子法人での対応を要するためです。

4.監査人等への説明(X年10月~12月)

 連結納税事業年度の税金費用の計算方法(四半期「原則」「簡便」「四半期特有」のいずれを選択するか)や、税金費用の計算フローの変更について、監査法人や内部監査人等に説明・検討し、監査資料の整理や監査スケジュールの調整をしておくと、直前でバタバタする必要がなくなります。
 連結納税は単体申告と計算順序が異なりますから、当然、単体申告時に描いた計算フローを変更しなければなりません。これは、導入する業務システムに沿うことで整理しやすくなります。計算に関わる全体業務のなかで、親・子法人間の役割が視覚的に捉えやすく、計算結果が確認しやすいものがよいでしょう。

5.承認申請書の作成・収集・提出(X年10月~12月)

 連結納税を適用するには、最初の連結事業年度としようとする期間の開始の日の3月前の日までに、親法人とそのグループ内の全ての100%子法人の連名で国税庁長官に承認申請書を提出し、承認を受ける必要があります。よって、3月決算の場合は、12月末までに承認申請書を提出し、承認されなければ適用できません。
 この承認申請書は、「100%子法人の連名」となっていますから、子法人で書類を作成し、親法人が収集して提出する必要があります。子法人数が多い場合、前もって対応する必要がありますので注意して下さい。
 詳しくは、TKCグループのホームページ「承認申請書の書き方」を入手できます。以下のリンクから資料請求できますので、ご参考にされてはいかがでしょうか。

「承認申請書の書き方」はこちら

6.決算方針説明、単体申告最終事業年度の本決算(X+1年1月~4月)

 単体申告最終事業年度の税金費用計算は特に注意が必要です

<注意点>

  • 「法人税等」→単体申告制度に基づいて税額計算
  • 「法人税等調整額」→連結納税制度に基づいて回収可能性を判断
詳細は、企業会計基準委員会 実務対応報告第5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」Q12-2をご参照。

「えっ、なんで?」と思われた方も多いと思います。非常に違和感を覚えると思います。

  1. 「法人税等」については、単体申告事業年度の決算はあくまで単体申告ですから、各法人が単体申告ベースで税額計算することは理解しやすいと思います。
  2. 「法人税等調整額」についてはどうでしょう。
     税効果会計を大ざっぱに言えば、期末時点の将来減算一時差異等が「将来の課税所得」と相殺できるならば、実効税率分を繰延税金資産として計上するものです。ここで、翌年度から連結納税を適用するために承認申請書を提出したということは、将来は連結納税を適用している前提で、「将来の課税所得」を見積もる必要があるということです。特に、繰越欠損金がある場合、将来の課税所得の見積は重要です。連結納税ベースでの将来の課税所得を計算するにはスプレッドシートでの対応は困難だと思います。この課題を確実にクリアできる業務システムを選定しておきましょう。

7.最終の単体申告(X+1年5月~6月)

 時価評価適用となる子法人は、このタイミングで時価評価損益を反映させることになります。

8.連結納税の開始事業年度の四半期決算

 監査人等と事前に決定した方法で税金費用を計算します。原則法を採用する場合は、このタイミングから連結納税に基づいた税金費用をきっちり計算することになります。

9.連結中間申告(X+1年10月~11月)

  1. 連結法人税は、「仮決算による中間申告」又は「予定申告」となります。
  2. 事業税・住民税は、「予定申告」(仮決算による中間申告は不可)となります。

10.連結納税での本決算(X+2年4月)

 連結納税事業年度の本決算ですから、原則法で連結納税に基づいた税金費用を計算します。
 四半期決算において、原則法で税金費用計算を行ってきた場合は、ある意味、本決算へのリハーサルを繰り返し行っている訳です。余程のことがない限り、工数見積と実績に大きな差異は発生しないと考えられます。
 一方、簡便法等を採用してきた場合は、原則法での連結納税に基づいた税金費用計算を本決算で初めて行うことになります。そのような場合は、業務前倒しの目的をもって、当期業績予測や予算・利益計画策定の際に原則法での計算を実施しておくことをお勧めします。

11.申告期限の延長の特例の申請(X+2年4月~5月)

 連結確定申告書は、原則として連結事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内に提出する必要がありますが、申告期限の延長の特例の申請を行うことにより、提出期限を原則2ヶ月延長することができます。3月決算の場合は、原則が5月末、延長して7月末となります。この特例を受けるには、申請理由等を記載した申請書を、最初連結事業年度終了の翌日から45日以内に、連結親法人が所轄税務署長に提出する必要があります。
 また、法人税について期限延長の処分があった場合は、各連結法人にて、事業税・住民税の申告期限の延長手続きを行う必要があります。この手続きにも期限がありますので、忘れないように注意しましょう。

12.連結確定申告、連結納税での第1四半期決算(X+2年6月~7月)

 上述の通り、3月決算企業で申告期限の延長を行った場合、申告期限は7月末となりますが、連結納税2年目の第1四半期が時期的に重なります。連結納税申告は、6月末までに完了させるスケジュールで対応することをお勧めします。

 以上、ポイントとなる点を整理してみました。
 月並みですが、前もって対応することが成功のポイントです。

 次回は、「連結納税下での税効果会計」について解説します。今回登場した「連結納税に基づいて回収可能性を判断」についても解説しますのでご参考にしてください。

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 TKC企業グループ税務システム普及部会会員 税理士 藤井規生

税理士 藤井 規生(ふじい のりお)

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員

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税理士法人創経

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