更新日 2014.04.14

ROE向上に向けたグローバル税務管理の奨め

第6回 ②海外オペレーション時 ~中間持株会社の活用と連結実効税率への影響

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税理士・中小企業診断士 西村道浩

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士・中小企業診断士 西村 道浩

グローバル展開する企業にとって、国際税務の知識は必須です。このコラムでは、海外進出から撤退の段階別に、関連する国際税務の個別論点を取り上げ解説いたします。

 今回は、②海外オペレーション時(海外事業のライフ・サイクルにおける"成長期・成熟期"に相当)の最終回として、中間持株会社を活用し、日本の親会社まで資金・利益を還流させずに現地で再投資する方針を採用する場合における国際税務上の取扱いと連結実効税率への影響について検討します。

I 連結実効税率の低減に向けた"現地で再投資"する仕組み(=中間持株会社の活用)の検討

 これまで外国子会社から日本の親会社への資金・利益の還流について、以下の確認を行ってきました。

(1)外国子会社の資金・利益を日本の親会社に還流させずに“現地で再投資”する方針を採用している場合等では、外国子会社の留保利益に対する繰延税金負債の計上が不要となるため、日本の法定実効税率と現地の法人税率との税率差を最大限に活かした連結実効税率の低減(その結果、ROEは向上)が可能になること。

(2)日本の親会社の配当可能利益が会社法上は個別財務諸表ベースで計算される等の理由により、外国子会社から“日本の親会社に対する資金・利益の還流”がやむを得ず必要となる場合には、資金・利益の還流方法の違いにより、資金還流コストや連結実効税率への影響が異なること。

 つまり、外国子会社から日本の親会社への資金・利益の還流ポリシーの違い(上記(1)の“現地で再投資”、又は、上記(2)の“日本の親会社に対する資金・利益の還流”)により連結実効税率(及びROE)が大きく影響を受けることから、資金・利益の還流ポリシーの検討に際しては、上記(1)の“現地で再投資”する仕組みを構築するためのオプションとして、中間持株会社の活用も視野に入れておく必要があります。

II 中間持株会社の活用と連結実効税率への影響

 日本の親会社(利益1,000、実効税率40%)、外国子会社(利益1,000、現地実効税率25%、親会社への配当に係る源泉税率10%、中間持株会社への配当に係る源泉税率は免税)という前提で、【配当により、”日本の親会社に対する資金・利益の還流”を行う場合】および、【中間持株会社を活用し、"現地で再投資"する方針の場合】について連結実効税率への影響を確認しましょう。

 このケースでは、外国子会社の留保利益に係る税効果として180(=1,500X5%X40%+1,500X10% )を認識することから、グループ全体の実効税率は36%(=1,080÷3,000)となっています。

 このケースでは、中間持株会社の活用により日本の親会社へ配当せず現地で再投資する方針を採用しているため、留保利益に係る税効果を認識しないことから、グループ全体の実効税率は30%(=900÷3,000)となります。したがって、日本の親会社における法人税負担30(=1,500X5%X40%)及び外国子会社からの配当源泉税の差150(=1,500X(10%-0%))の合計額180だけ、中間持株会社を活用し、"現地で再投資"する場合の方が連結実効税率の低減(その結果、ROEの向上)が可能となっています。
 また、日本の親会社で資金の需要がある場合には、中間持株会社から日本の親会社に貸付を行えば、高税率の日本で支払利子が計上され、低税率の中間持株会社で受取利息を計上することによる税率差を認識できるため、更なる連結実効税率の低減(その結果、ROEの向上)が可能となります(但し、過大支払利子の損金不算入には留意する必要があります)。

III 中間持株会社の設立に係る留意点

 中間持株会社は、最適な設立国を選定することが重要です。アジアではシンガポールや香港、欧州では英国やオランダに設立されることが一般的ですが、以下の5つの観点から最適な設立国を選定するとよいでしょう。

(1)設立国の法人税率(優遇税制の有無を含む)

 設立国の法人税率が低いほど中間持株会社で留保される資金・利益が増加することになりますが、設立国の法人税率が20%以下の場合には、タックス・ヘイブン税制の『適用除外要件』を充足しなければ、中間持株会社で発生した利益につき、タックス・ヘイブン税制による合算課税を受けることになります。
 法人税率は、香港(16.5%)、シンガポール(17%)、オランダ(25%)、英国(21%)であり、設立国を香港・シンガポールとした場合には、基本的に『適用除外要件』の充足が必要となります。

(2)設立国の租税条約網と傘下の外国子会社からの配当・利子に係る源泉税率

 設立国と傘下の外国子会社の所在地国との租税条約により、配当・利子に係る源泉税率が減免されていれば、中間持株会社で留保される資金・利益が増加することになります。

(3)傘下の外国子会社からの受取配当に係る設立国での課税関係

 傘下の外国子会社からの配当に対する設立国での課税が減免されていれば、中間持株会社で留保される資金・利益が増加することになります。
 オランダでは発行済株式総数の5%以上を保有する子会社からの配当は資本参加免税により非課税とされており、シンガポール・英国・香港でも基本的に非課税とされています。

(4)傘下の外国子会社の株式売却に係る設立国での課税関係

 傘下の外国子会社からの配当に対する設立国での課税が減免されていれば、中間持株会社で留保される資金・利益が増加することになります。
 オランダでは資本参加免税の適用により株式売却益は非課税、英国では一定の要件を満たす株式売却益は非課税とされており、シンガポール・香港でも株式売却益は基本的に非課税とされています。
 上記(1)の通りオランダや英国の法人税率は20%を上回りますが、非課税とされた株式売却益は以下の租税負担割合の算定式の分母に『非課税所得』として加算されるため、株式売却益の発生年度においては租税負担割合が20%以下となり、タックス・ヘイブン税制の適用を受ける可能性があります。

(5)日本の親会社におけるタックス・ヘイブン税制の適用の有無

 上記(1)および(4)の通り、設立国の法人税率、又は、株式売却益の発生年度における租税負担割合が20%以下となる場合には、適用除外要件を充足しない限り、タックス・ヘイブン税制の適用により、中間持株会社で発生した利益が合算課税されることになります。

IV 中間持株会社の活用と本社主導による税務管理の必要性

 中間持株会社を香港やシンガポールに設立する場合には現地の法人税率が20%以下であること、さらに、法人税率が20%を超える英国やオランダに設立する場合でも株式売却益の発生年度においては租税負担割合が20%以下となる可能性があることから、中間持株会社で発生した利益につきタックス・ヘイブン税制の適用を受けないためには、『適用除外要件』を充足しておく必要があります。
 中間持株会社に固有の論点として、中間持株会社の主たる事業が"株式の保有等"に該当する場合には、『適用除外要件』のうちの "事業基準"を充足できません。しかし、 "株式の保有等"が主たる事業の場合であっても、中間持株会社が『統括会社』の要件を充足すれば、例外的に"事業基準"を充足できることから、中間持株会社では通常の『適用除外要件』に加えて『統括会社』の要件も充足しておく必要があります。
 『適用除外要件』の充足に係る判定は"事実認定"の問題であり、後の税務調査で問題となることが多いため、本社が主導して、『適用除外要件』の充足が争点となった過去の判決等に基づくポリシーを決定し、それぞれの基準を満たしていることを説明できる資料を準備しておくとよいでしょう。
 また、中間持株会社の傘下の子会社が『被統括会社』の要件を満たしていること、及び、中間持株会社で資産性所得として合算課税の対象となる資産を保有していないこと、等について継続的にモニタリングすることも重要です。

 第3回より、②海外オペレーション時における主要な論点である、移転価格税制タックス・ヘイブン税制、及び、日本の親会社への資金・利益の還流に係る国際税務上の取扱い等について、連結実効税率の低減(及び、ROEの向上)の観点から検討・確認を行ってきました。
 次回の第7回では、「③海外撤退時(海外事業のライフ・サイクルにおける“衰退期”に相当における国際税務上の論点について検討を行います。

参考文献

  • 大河原健、須藤一郎 『国際取引のグループ戦略』 東洋経済新報社
  • 仲谷栄一郎、井上康一、梅辻雅春、藍原滋 『外国企業との取引と税務(第4版)』  商事法務研究会
  • 佐和周 『海外進出企業の資金・為替管理Q&A』 中央経済社
  • 手塚仙夫 『税効果会計の実務(第8版)』 清文社

プロフィール

税理士・中小企業診断士 西村 道浩(にしむら みちひろ)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

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西村&パートナーズ総合会計事務所

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