更新日 2016.01.18

国際税務の実務ポイント~押さえておきたい話題の事例~

第1回 海外子会社への従業員の出張に係る負担(その1)

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長 英樹

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税理士 朝長 英樹

日本の親会社が従業員を海外子会社に出張させたり出向させる場合に負担する金額等の課税問題が話題となっています。当コラムでは、話題の国際税務の事例として「海外子会社への従業員の出張に係る負担(第1回、第2回)」、「海外子会社への従業員の出向に係る負担(第3回、第4回)」について、根拠法令等の確認から、その実務ポイントまで解説します。

 日本の親会社が従業員を海外子会社に出張させ、その従業員がその海外子会社で技術支援等を行っている場合に、その従業員の出張に伴って日本の親会社に生ずる直接経費(人件費、旅費、宿泊費等)と間接経費(販管費等)の合計額に相当する金額が国外関連者への寄附金として課税されるというケースが著しく増加しています。

1.根拠法令等

 この課税の根拠となっているのは、租税特別措置法66条の4第3項(国外関連者への寄附金の損金不算入)と「移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)」(以下、「事務運営指針」といいます。)です。
 この租税特別措置法66条の4第3項は、周知のとおり、国外関連者への寄附金の全額を損金不算入とするものです。
 事務運営指針の本稿のテーマに関係する部分は、次のとおりです。

(原価基準法に準ずる方法と同等の方法による役務提供取引の検討)

2-10

(1)法人が国外関連者との間で行う役務提供のうち、当該法人又は当該国外関連者の本来の業務に付随した役務提供について調査を行う場合には、必要に応じ、当該役務提供の総原価の額を独立企業間価格とする原価基準法に準ずる方法と同等の方法の適用について検討する。
 この場合において、本来の業務に付随した役務提供とは、例えば、海外子会社から製品を輸入している法人が当該海外子会社の製造設備に対して行う技術指導等、役務提供を主たる事業としていない法人又は国外関連者が、本来の業務に付随して又はこれに関連して行う役務提供をいう。また、役務提供に係る総原価には、原則として、当該役務提供に関連する直接費のみならず合理的な配賦基準によって計算された担当部門及び補助部門の一般管理費等間接費まで含まれることに留意する。

(注)本来の業務に付随した役務提供に該当するかどうかは、原則として、当該役務提供の目的等により判断するのであるが、次に掲げる場合には、本文の取扱いは適用しない。

  • イ 役務提供に要した費用が、法人又は国外関連者の当該役務提供を行った事業年度の原価又は費用の額の相当部分を占める場合
  • ロ 役務提供を行う際に無形資産を使用する場合等当該役務提供の対価の額を当該役務提供の総原価とすることが相当ではないと認められる場合

 上記の事務運営指針2-10によれば、「当該法人又は当該国外関連者の本来の業務に付随した役務提供」に関しては、「当該役務提供の総原価の額を独立企業間価格とする原価基準法に準ずる方法と同等の方法」を適用することができる、ということになります。
 この「当該役務提供の総原価の額を独立企業間価格とする」という部分は、「原価基準法」ではなく、「同等の方法」にかかるものです。「原価基準法」は、原価の額に通常の利潤の額を加算するものであり、「総原価の額を独立企業間価格とする」ものではありません。この「同等の方法」は、通常の利潤の額を上乗せしなくても良い方法とされているわけです。
 この事務運営指針2-10に関しては、そもそも、通常の利潤の額を上乗せしないものを「独立企業間価格」と呼ぶことができるのかという疑問があり、また、「独立企業間価格」に係る「同等の方法」について定めた事務運営指針2-10を拠り所にして同条3項の国外関連者への寄附金課税を行い得るのか(注)という疑問もありますが、現実には、本稿のテーマとなっているようなものに対しては、この事務運営指針2-10に基づき、国外関連者への寄附金の損金不算入制度による課税が行われています。

(注)「独立企業間価格」に基づいて課税を行うこととされているのは、租税特別措置法66条の4第1項の移転価格税制であって、同条3項の国外関連者への寄附金の損金不算入制度においては、国外関連者への「寄附金の額」を損金不算入とすることとされており、同条2項に規定されている「独立企業間価格」に基づいて課税を行うこととされているわけではありません。

 この事務運営指針2-10の対象は、上記引用にあるとおり、「本来の業務に付随した役務提供」とされています。
 これは、このような役務提供が行われるケースにおいては、本来の業務とそれに付随した役務提供とが一体として行われており、本来業務に付随した役務提供だけで利益を上げることが企図されているわけではないことを考慮したものと考えられます。
 また、「役務提供に係る総原価」には、「直接費」とともに、「合理的な配賦基準によって計算された担当部門及び補助部門の一般管理費等」の「間接費」まで含まれるものとされています。
 この「直接費」とは、旅費交通費・宿泊費・日当などの実費、給与・賞与・社会保険料の法人負担分・退職給付費用などの人件費及び人件費関連費用と考えてよいでしょう。
 また、「合理的な配賦基準によって計算された担当部門及び補助部門の一般管理費等」の「間接費」とは、出張者の所属部門の販売費及び管理費を合理的な配賦基準によって配賦した金額、共通部門(総務・人事・経理など)の販売費及び管理費を合理的な配賦基準によって配賦した金額と考えて良いものと思われます。

2.海外子会社への従業員の出張に係る旅費等の処理の実情

 日本経済新聞の平成27年4月6日の「グループ内取引 課税拡大」というタイトルの記事によれば、「2012年7月から13年6月までに日本の企業が海外との取引で当局から申告漏れを指摘された事例のうち、約60%が寄付金課税として追徴課税された。」「移転価格税制の適用は約20%にとどまった。」とされています。
 この「約60%」という割合は、実に驚くべきものですが、この中で最も多いのは、間違いなく、海外子会社への従業員の出張に係る旅費等の費用を日本の親会社が負担したまま、海外子会社に請求していないか又は請求不足となっているもの、つまり、本稿のテーマとなっているものであると想定されます。
 実際に、税務調査で否認されたケースをみてみると、「直接費」の中の旅費交通費・宿泊費・日当などの実費に関しては相当額を海外子会社に請求しているものの、給与・賞与・社会保険料の法人負担分・退職給付費用などの人件費及び人件費関連費用と「間接費」に相当するものを請求していないという例が非常に多くなっています。

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長英樹

税理士 朝長 英樹(ともなが ひでき)

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日本税制研究所 代表理事

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