TKC全国会 中堅・大企業支援研究会(中大研)

掲載日:2016.10.03

新会計基準と別表4・5のポイント解説

第3回 資産除去債務会計

公認会計士・税理士 鈴木基史

公認会計士・税理士 鈴木 基史

法人税申告書作成において、別表4、5に関する問題の論点の一つに新会計基準による申告調整があります。当コラムでは、新会計基準のうち「退職給付会計」「減損会計」「資産除去債務会計」「過年度遡及会計」について制度の概要をわかりやすく説明するとともに別表4、5の記載のポイントや実務上の留意点を解説します。

1.資産除去債務とは

 固定資産を除却する際、解体、撤去、処分等のために費用がかかることがあります。これらの費用は、固定資産の使用に伴って不可避的に発生するものであれば、資産の除却時点ではなく、それを使用する各期間の費用として計上すべきです。このような考え方から、企業会計基準委員会では「資産除去債務に関する会計基準」(平成20年3月)を定め、23年3月期決算から上場企業等に適用されています。
 ここで資産除去債務とは、有形固定資産の解体、撤去、処分に要する費用の見込み額で、これを資産の購入時に、固定負債として計上します。そして、同額を固定資産の帳簿価額に加え、減価償却を通じて各期間に費用配分します。

<購入時>

(借) 有形固定資産×××(貸) 資産除去債務×××

<決算時>

(借) 減価償却費×××(貸) 有形固定資産×××

<除却時>

(借) 資産除去債務×××(貸) 現金預金×××

2.資産除去債務の範囲

 通常、資産を処分する際には、多かれ少なかれ費用がかかります。しかし、そのすべてが債務計上の対象となるわけではありません。対象となるのは、資産の除去が法令や契約で要求される「法律上の義務」およびそれに準ずるものだけです。企業の自発的な計画に基づく処分費用はこれに該当せず、特定の法令や契約で除去が義務付けられている場合にのみ計上が要求されます。
 具体例として、資産の使用により発生する有害物質(アスベスト等)の除去が法令で定められている場合、あるいは、建物の賃貸借契約で原状回復義務が定められている場合などがあります。
 このように資産除去債務の範囲が限定されるのは、対象となる処分費用が“負債”としての要件を満たすかどうかが問題となるためです。つまり、法令や契約により資産の除去が強制される場合、その費用はほぼ確実に発生することから、現時点において企業の負債といえます。しかし、自発的な計画による場合は、費用の発生が確実ではないので負債とはいえず、これを資産除去債務として計上することは認められません。

3.割引計算の必要性

 資産除去債務を有形固定資産の購入時点で計上しても、処分費用を実際に支払うのは耐用年数が経過し処分する時点で、負債の計上から支払いまで長期間にわたります。このため、資産除去債務の計算にあたっては、“割引計算”が必要となります。
 具体的な計算方法は「退職給付会計」における割引計算と同じです。まずは、資産の購入時に将来の処分費用の見込み額を、現在価値に割り引いた金額で負債計上します。さらに毎期末の資産除去債務残高に一定の利子率を乗じて「利息費用」を算定し、これを費用として計上するとともに、資産除去債務の帳簿価額に追加します。

<購入時>

(借) 有形固定資産×××(貸) 資産除去債務×××

<決算時>

(借) 利息費用×××(貸) 資産除去債務×××
  
 債務残高×利子率 現在価値で計上 

<除却時>

(借) 資産除去債務×××(貸) 現金預金×××

4.税務上の取扱い

 法人税法上、損金は“債務確定主義”によって計上され、「債務の確定しないものを除く」と規定されています(法法22③二かっこ書き)。この観点からすれば、処分費用は資産の購入時点で債務が確定しているとは認めがたく、実際の資産除去の時点で損金算入されます。したがって、資産除去債務相当額に対する減価償却は認められず、また、割引計算による利息費用にも損金性はありません。
 会計上これらを費用計上したときは、いずれも別表4で加算し、課税所得はその分膨らみます。また、貸借対照表に計上される資産除去債務ならびに資産の帳簿価額の上乗せ額についても、税務上は認められませんので、別表5(1)で調整しなければなりません。

  • ①損益計算書に計上した資産除去債務分の“減価償却費”と“利息費用”
    → 損金不算入 ⇒ 別表4で加算
  • ②貸借対照表に計上した固定資産(“上乗せ部分”)と“資産除去債務”
    → 資産・負債から除去 ⇒ 別表5(1)に計上

5.実務上の留意点

 将来の処分見込費用を現在価値に割り引く際の利子率について、少し詳しく説明します。
 (以下、コーポレートファイナンス理論の入門編のお話です。)
 以前、「減損会計」(第2回)のコラムで紹介しましたが、実務では割引率としてWACCワック(加重平均資本コスト)を使用するのが一般的で、これは“負債コスト”と“株主資本コスト”を負債総額と自己資本総額で加重平均した利回りのことです。

 「負債コスト」は、企業が借入れや社債発行で資金調達する際の金利です(支払利息は損金算入されるので、実効税率相当額を控除します)。
 「株主資本コスト」は、CAPMキャップエム(資本資産価格モデル)の算式を使って、次のように計算するのが一般的です。

リスクフリーレート(注1)+株式のβ値(注2)×マーケットリスクプレミアム(注3)
(注1)
貨幣の時間価値のみを反映する割引率(通常、国債の利子率を使用)
(注2)
対象企業の株価の変動が、株式市場全体の株価の変動にどれだけ連動するかを示す指標
(株式市場と全く同じ動きをする場合は1、市場全体が100値上がりするときに50だけ値上がりする場合は0.5)
(注3)
すべての上場銘柄に投資したと仮定した場合の収益率(通常、TOPIXで計算)とリスクフリーレートとの差

 上記の“β値”は各企業に固有の値で、TOPIX(東証株価指数)と対象企業の株価を基に、エクセルで計算することができます。ただし、現実には外部(東証やBloomberg(米国が本社の大手総合情報会社))から、有料で入手する場合も多いようです。
 また、監査法人がWACCの妥当性を検証する場合は、バリュエーション(株価計算)を行う部署(大手監査法人にはどこでもあります)に問い合わせて検討してもらっているとのことです。
 余談ながら、企業買収の際にもWACCを使いますが、そういうときは外部の専門家(会計事務所、M&Aコンサル会社等)を利用することが多いそうです。

プロフィール

公認会計士・税理士 鈴木 基史(すずき もとふみ)
神戸大学経営学部卒業
平成15~17年 税理士試験委員
平成21~24年 公認会計士試験委員(租税法)

著書等
「対話式 法人税申告書作成ゼミナール」「法人税申告書別表4・5ゼミナール」「法人税申告の実務」「対話式 消費税申告書作成ゼミナール」「根拠法令から見た法人税申告書」「法人の修正申告実務」「鈴木基史のキーワード法人税法」(以上 清文社)、「最新法人税法」(中央経済社)「やさしい法人税」(税務経理協会)他
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