更新日 2017.08.07

事業承継税制と株価評価

第3回 納税猶予と相続時精算課税

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 税理士 坪多晶子

TKC全国会 中央研修所租税法研修小委員長
中堅・大企業支援研究会会員
税理士 坪多 晶子

平成29年度税制改正においては、取引相場のない株式の評価の見直し、相続税・贈与税の納税猶予制度の見直しなど、事業承継に係る制度改正が行われています。
当コラムでは、株式評価の原則的な計算方法等を解説するとともに、今回の税制改正において行われた事業承継税制に係る改正の内容とその影響について解説します。

 今回は、平成29年度税制改正で変更となった「納税猶予」です。前回の株価評価と同様、大きく改正されましたので改正内容とその影響を解説致します。

1.非上場株式等の納税猶予制度

 一定要件を満たす中小企業である非上場会社等が都道府県知事の認定を受けて、一定要件を満たす筆頭株主である先代経営者から現代表者である後継者に一定数の非上場株式等が贈与された場合、その贈与税について納税が猶予される制度があります。
 贈与をした先代経営者に相続が発生した場合、この制度の適用により猶予を受けた贈与税は免除され、贈与により取得した株式等の贈与時の評価額が新たに相続税の課税対象とされます。この相続時においても都道府県知事の確認を受けることができた場合には、さらに相続税の納税猶予の適用を受けることができます。
 いずれの場合も、先代経営者から相続等又は贈与により取得した株式等のうち、後継者が相続等又は贈与前から保有していた株式を含めて、発行済議決権株式総数の3分の2に達するまでの部分にしか納税猶予は適用されません。
 また、非上場株式等の贈与税の納税猶予制度を選択せずとも、一定要件を満たしていれば単独で非上場株式等の相続税の納税猶予制度を選択することができます。
 なお、図表(事業承継税制の全体像のイメージ)からも分かるように、贈与税の納税猶予後に相続税の納税猶予を受ける場合と、単独で相続税の納税猶予を受ける場合では、それぞれの適用要件が異なっています。

2.贈与税の納税猶予制度と相続時精算課税制度の併用が可能に

Point
①贈与税の納税猶予が取消されると猶予贈与税額とその利子税の納付が必要に
②改正により贈与時の納税猶予と相続時精算課税制度の併用が可能に
③併用すれば取り消し後のトータルの税額は同じとなり、リスクが減少
(1) 贈与税の納税猶予が取り消された場合の問題点

①非上場株式等の納税猶予制度の全体像
 非上場会社等の事業承継において、後継者に株式等を贈与することは他の相続人との関係においてスムーズに事業承継を行う上で有効な手法といえます。しかし、非上場株式等の贈与税の納税猶予の規定があるにもかかわらず、その活用は進んでいません。その理由の一つが、「経営承継期間(5年間)」に一定の要件に該当し認定が取り消された場合には、その日から2か月を経過する日をもって贈与税の猶予期限が確定し、猶予税額と猶予税額に対応する利子税を納付しなければならないことです。(1参照)
 特に、贈与の場合、納税猶予対象株式は暦年課税で計算しますので、猶予税額は非常に高額になっています。もし、何らかの事情で認定が取り消され、猶予期限が確定し猶予税額を払うとなると、例えば、1,000万円を超える株式評価の場合、超える部分の贈与税率が40%以上にもなり、後継者の資金繰りにとっては死活問題です。

(2) 改正とその影響

①相続時精算課税制度との併用が可能に
 改正前は、非上場株式等の贈与税の納税猶予の適用を受けている場合には、相続時精算課税制度の適用を受けることができず、認定取消しによる高額な贈与税負担がかかる可能性が、大きなリスクとなっていました。
 このリスクを軽減するために、一定の要件を満たした非上場株式等の贈与をした場合において、相続時精算課税制度を選択した上で、納税猶予制度を併用して選択することができるように改正が行われました。
 図表によりますと、改正前においては、贈与税の納税猶予の適用後に認定を取り消された場合(②)には、非常に高額な税負担(約1億300万円)となっていました。
 しかし、改正により、贈与時に相続時精算課税制度を選択しておけば、認定取り消し時に負担する贈与税が軽減されるとともに、相続時に贈与時の価額で相続したとみなされて相続税額が計算され精算されます。相続により非上場株式を取得した場合(①)の相続税額負担額と、改正後の贈与税の納税猶予の適用後に認定を取り消された場合(③)の贈与税と相続税負担額が同額となります。これで、非上場株式等の贈与税の納税猶予の適用を受けても税額が大きく増加するというリスクは小さくなりました。

②適用関係と既に贈与税の納税猶予の適用を受けている場合
 この改正は平成29年1月1日以後の相続又は遺贈若しくは贈与から適用されます。
 既に過去において贈与税の納税猶予の適用を受けている場合には、何らかの事由で取消しとなった場合においても相続時精算課税制度へ移行することができませんので、ご注意ください。

③今後考慮すべきこと
 収益力が高く内部留保も多額な非上場会社等が贈与後も順調に成長し株式評価額が上昇した場合でも、贈与時の価額で相続税が計算される上、相続時に納税猶予を再び適用することができます。この相続時精算課税制度と贈与税の納税猶予制度の併用による非上場株式等の贈与は、相続税負担の面では非常にメリットの多い方法と言えるでしょう。
 よって、今後自社株式の贈与について精算課税制度の選択を考えておられる方は、贈与税の納税猶予制度の適用が受けられるかどうか必ず検討されることをおすすめします。

プロフィール

税理士 坪多 晶子(つぼた あきこ)
TKC全国会中央研修所租税法研修小委員長
中堅・大企業支援研究会会員

略歴
京都市出身。大阪府立茨木高校卒業。神戸商科大学卒業。1990 年坪多税理士事務所設立。
1990年 有限会社トータルマネジメントブレーン設立、代表取締役に就任。
2012年 税理士法人トータルマネジメントブレーン設立。代表社員に就任。
上場会社の非常勤監査役やNPO 法人の理事及び監事等を歴任、現在TKC 全国会中央研修所租税法研修小委員長、TKC 全国会資産対策研究会研修企画委員長。上場会社や中小企業の資本政策、資産家や企業オーナーの資産承継や事業承継、さらに税務や相続対策などのコンサルティングには、顧客の満足度が高いと定評がある。また、全国で講演活動を行っており、各種税務に関する書籍も多数執筆。
著書等

 他多数

主宰会社
税理士法人 トータルマネジメントブレーン
有限会社 トータルマネジメントブレーン
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