search税理士・公認会計士のご紹介

院長先生の税務相談(13) 「消費税の基礎知識」

 消費税は、事業者を納税義務者、消費者を最終負担者として商品販売やサービス提供など消費一般に広く課税される間接税です。
 クリニックの医業収入には、政策的配慮や取引きそのものの性格などによって消費税が課税されないものが多くありますので、クリニックにかかる消費税の基本を正しく理解することが大切です。

Q1
     私は個人でクリニックを開設しています。平成16年の医業収入が約7,000万円あり、そのうち自由診療に相当する金額が1,000万円を超えました。そのため、平成18年分の申告で消費税を支払うことになるといわれたのですが、消費税の仕組みを簡単に説明してください。
A1
     クリニックの前々年の「課税売上」の合計額が1,000万円を超えている場合は、消費税の納税義務が生じることとなります。医業収入には社会保険診療収入、自賠責保険、労働災害保険など消費税が非課税になるものが多くあります。しかし、下記にあげるものは「課税売上」といい消費税が課税されますので、注意が必要です。

■主な消費税課税となるもの

  • 差額ベッド代
  • 給食の差額部分
  • 初診に係る特別の料金、
  • 予約又は時間外診察料
  • 予防接種
  • 健康診査、健康診断
  • 人口妊娠中絶
  • 美容整形
  • 治験収入
  • 団体生命保険事務手数料
  • 物品販売収入
  • 介護保険サービスのうち利用者が選定した部分
  • 要介護認定申請に係る意見書作成費用

※上記は実際には個別に検討が必要です。

 消費税の仕組みとしては、最終消費者(患者)から預かった消費税は国へ納めることになります。しかし、全額を納めるわけではありません。逆に医薬品や消耗品をはじめ、さまざまな支払いにも消費税が含まれていますので、支払った消費税を合計して、預かった消費税の合計額から控除して差額を納付することになります。
 このとき支払った消費税の合計額を計算する方法として「原則課税」と「簡易課税」の2種類があり、基準期間(前々年)の課税売上高が5,000万円以下であれば「簡易課税」の方式を選択することができます。このような仕組みは基本的には個人事業でも医療法人でも同様に取り扱われます。

Q2
     「簡易課税」の方式では、その売上の内容によって税額に差が生じると聞きましたが、消費税額は同じ5%であるにもかかわらず、どうして納税額に差がでるのですか。
A2
     「簡易課税」の方式では、納税額を計算するうえで「課税売上」にかかる消費税の合計額から医薬品や消耗品を購入するときに支払った「課税仕入」にかかる消費税の合計額を控除するのではなく、「課税売上」にかかる消費税額に「みなし仕入率」を乗じた金額をもって、支払った消費税の合計額とみなして控除することになります。そのときの「みなし仕入率」は、便宜的に事業内容によって50%から90%までの5種類に区分されています。
 クリニックの経営に関係する「みなし仕入率」は、第5種事業の50%に該当しますが、「課税売上」の内容によっては以下のように区分されることになりますので注意が必要です。

  • 病院などの売店での物品販売・・・・第2種(80%)
  • 医療機器などの売却・・・・・・・・第4種(60%)
  • 差額ベッド、美容整形、人口妊娠中絶、
  • 健康診断(人間ドック)、診断書作成料・・・・・・・・・・・・・・・・・第5種(50%)

 このように「簡易課税」の場合は、実際に支払った消費税額を計算するのではなく、売上にかかる消費税額から「簡易的に」計算するために「簡易課税」と名づけられました。しかし、実際には、取引き内容がどの事業区分に該当するかを判断し、記録しなければならないため、必ずしも簡易とはいえないものとなっています。

Q3
     私は病院を経営していますが、基準期間での課税売上が5,000万円を超えることになったため、これまでの簡易課税方式から「原則課税方式」を用いて消費税額を計算することとなります。この場合、仕入にかかる税額を控除するためには、「帳簿および請求書の保存」が必要だと聞きましたが、その際の留意点を教えてください。
A3
 「原則課税」で仕入にかかる税額を控除するための条件としては、次にあげる税額控除に関する「帳簿および請求書」を保存しなければならないことになっています。
 「帳簿」には以下の4つの事項を記載しなければならないことになりません。

  1. 課税仕入の相手先の氏名または名称
  2. 課税仕入を行った年月日
  3. 課税仕入にかかる資産または役務の内容
  4. 課税仕入にかかる支払対価の額

 また、「請求書」では、以下の5つの事項が記載されている必要があります。

  1. 書類の作成者の氏名または名称
  2. 課税資産の譲渡を行った年月日
  3. 課税資産の譲渡等の対象とされた資産または役務の内容
  4. 課税資産の譲渡等の対価の額
  5. 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称

 なお、取引きの実態を考慮して税込みでの支払額が3万円未満の場合には、請求書の保存を要せず、4つの項目が記載された帳簿の保存のみでよいこととされています。

Q4
     消費税について日本医師会などが主張してきた「ゼロ税率」あるいは、今後の課題とする「軽減税率」という言葉は、どのようなことを意味するのでしょうか、教えてください。
A4
     これまで社会保険診療収入は「社会政策的な配慮」などから非課税とされてきました。(国税庁http://www.taxanswer.nta.go.jp/6201.htm参照)
 一般企業では、収入が課税売上であれば課税仕入にかかる消費税は税額控除となります。しかし、非課税とされた医療は、最終消費者(患者)に転嫁されるべき消費税を医療機関が負担する「損税」となったまま今日に至っています。
 厚生労働省では「消費税分は薬価や診療報酬点数に上乗せしている」との見解を示していますが、消費税の負担は、各医療機関によってさまざまで、診療報酬点数の一律上乗せが不足しているとの意見もあります。つまり、医療機関の間に著しい不公平感をもたらしているのが現状です。
 そこで、消費税の取り扱いについて日本医師会などは、これまで「社会保険診療収入を課税対象とした上で『ゼロ税率』を適用する(課税仕入の5.0%を仕入税額控除として国から還付を受ける)」という意見を主張してきました。しかし、財務省は一貫して「ゼロ税率」を否定してきており、診療報酬上の補填調整が適正でないとする意見に対しても「診療報酬制度の問題」として非当事者の立場をとっています。
 医療業界はこの膠着した状況のなか、消費税率のさらなるアップが現実味を帯びてきた今日、「ゼロ税率」を主張していても現実的ではないとのことから、今後は「軽減税率」という考え方を主張したいと考えているようです。
 この考え方によれば結果的には、国から仕入税額控除に相当する金額の還付を受けるのではなく、診療報酬に消費税をかけて患者や支払基金から徴収することになります。そうなれば当然、患者の負担が大きくなり、心理的にもさらなる受療抑制が働くことも懸念されますし、クリニック内の事務的な作業も煩雑になることが予想されます。
 医療業界にとって消費税の「ゼロ税率」「軽減税率」の問題は、実際の税率アップを控えた中で、ますますクローズアップされていくことが予測されます。

(医業経営コンサルタント 税理士 石川 誠/「TKC医業経営情報」2006年10号)