会計・税務

基金拠出型医療法人の現況と設立時の留意点

公認会計士 税理士 医学修士 立花洋介

    平成19年4月に施行された第5次医療法改正によって医療法人制度が大きく変わり、それまで医療法人のほとんどを占めていた「持分の定めのある医療法人」が廃止されました。平成19年4月以降は、「持分の定めのない医療法人」しか設立できなくなったわけです。

    しかし、既存の「持分あり」の医療法人には、経過措置が適用され、"当分の間"存続が認められるとともに、その代わりとして「基金拠出型医療法人」が新たに制度化されたことはご存じのことだと思います。今号では、基金拠出型医療法人の要点の整理、現況などについて解説します。

1.「社団医療法人」と「財団医療法人」

  権利能力者として契約の主体となれるのは"自然人"、つまり人間と法人です。法人とは、特定の目的のために集まった団体、あるいは特定の目的のために集めた財産の集合体に法律が権利能力を認めた制度で、前者を「社団法人」、後者を「財団法人」といいます。医療法では、社団、財団で、一定の要件を満たしたものを「社団医療法人」「財団医療法人」として法人格を認めています。   平成20年3月31日現在、医療法人数は45,078件で、そのうち社団医療法人が44,672件、財団医療法人が406件となっています。

2.株式会社の株主と社団医療法人の社員

  社団法人では、団体と構成員の関係を「社員関係」で処理します。社員関係とは、各構成員の権利義務は、社員たる地位という団体に対する法律関係の内容となるというものです。つまり、株式会社も社団法人の一種で、株式会社の社員たる地位が、株式であるということです。  株式会社では、株式を所有する社員のことを株主と呼びます。株主は、会社に対し各自の有する株式の引受価額を限度として、有限の出資義務を負うのみで、会社債権者に対しては、何ら責任を負わないことになっています。会社債権者からみれば、会社財産しか担保となりえませんので、会社の財産を確保するため株式会社では、社員たる株主には退社が認められていません。

    一方、医療法人の社員は、医療法第44条2項において、定款に社員資格の得喪に関する規定を設けることを義務づけています。厚生労働省が示すモデル定款では、社員資格の取得には、社員総会の承認を必要としていますが、必ずしも出資は義務づけられていません。また、社員の退社についても、死亡などの特定事項の発生、理事長の同意を前提とした一定の理由があればそれを認めています。このように、株式会社の社員、株主と、医療法人の社員との社員関係は大きく異なっています。

3.医療法人の種類

  医療法人には大きく「社団医療法人」と「財団医療法人」があり、その多くは社団医療法人で、平成20年3月末現在、医療法人全体の99%を占めています。さらに、社団医療法人は定款で、社員退社時や解散時の残余財産について、払込出資額に応じて分配すると規定した「持ち分の定めのある社団医療法人」と、社員退社時の払い戻し請求権の規定がなく、解散時の残余財産についても社員総会の規定によるとした「持ち分の定めのない医療法人」にわけられます。平成20年3月末現在、「持分あり」の社団医療法人が社団医療法全体の97.6%を占めています。

    しかし、平成19年4月に施行された第5次医療法改正で、平成19年4月1日以降に設立する社団医療法人は、「持分なし」の社団医療法人しか設立できなくなりました。ただ、従来の「持分あり」の社団医療法人は、医療法付則第10条により"当分の間"存続が認められることとなりました。医療法に規定する特別な医療法人としては、第5次医療法改正までは、第3次医療法改正で創設された「特別医療法人」があります。これは、財団医療法人、あるいは「持分なし」の医療法人で、一定の要件に該当するものは、定款、寄附行為の定めるところにより、医療施設の経営にあてることを目的として、収益業務を行うことができるとした医療法人です。しかし、第5次医療法改正で廃止されましたが、医療法付則第8条で、第5次医療法改正の施行日から5年を経過する日までは、その効力を有するとされました。

    第5次医療法改正では、一定の要件に該当するもので、政令の定めるところにより都道府県知事の認定を受けたものは、定款、寄附行為の定めるところにより、医療施設の経営に充てることを目的として、収益業務を行うことができるとした「社会医療法人」が新たに創設されました。なお、特定医療法人は、租税特別措置法第67条の2第1項に規定される法人で、医療法で規定される法人ではありません。

4.「基金拠出型医療法人」と「出資額限度法人」

    第5次医療法改正の施行日以後、社団医療法人は、非営利性の徹底にともない、「持分なし」の社団医療法人しか設立できなくなりましたが、医療法施行規則第30条の37の規定により、「持分なし」の社団医療法人の活動資金の調達手段として、定款の定めるところにより、基金制度の採用を可能としました。この基金制度を採用した「持分なし」の社団医療法人を「基金拠出型医療法人」といいます。基金とは、「持分なし」の社団医療法人に拠出された金銭やその他の財産で、当該医療法人が拠出者に対して、定款の定めるところにより金銭の返還義務を負うものです。

    一方、「出資額限度法人」(平成16年、厚生労働省医政局長通知により設立)は、「持分あり」の社団医療法人で、定款の定めにより、社員退社時の出資持分払戻請求権や医療法人解散時の残余財産分配請求権の法人財産に及ぶ範囲を、払込出資額を限度とすることを明らかにした「持分あり」の社団医療法人の一類型です。

5.基金拠出型医療法人の設立手続

  「基金拠出型医療法人」を設立するためには、定款に基金を引き受ける者の募集をすることができる旨を規定するとともに、次の事項を合わせて規定しなければいけません。

(1)基金の拠出者の権利に関する規定  厚生労働省のモデル定款では、本社団は、基金の拠出者に対して、本社団と基金拠出者との間の合意の定めるところに従い返還義務を負うと規定しています。

(2)基金の返還の手続  厚生労働省のモデル定款では、基金の返還手続として以下のように規定しています。

    (1) 基金の返還は、定時社員総会の決議によって行わなければならないこと。 (2) ある会計年度の貸借対照表の純資産額が、基金(代替基金含む)、資本剰余金、資産につき時価を基準として評価を行ったことにより増加した貸借対照表上の純資産額の合計額を超える場合において、当該会計年度の次の会計年度の決算の決定に関する定時社員総会の前日までの間に限り、当該超過額を返還の総額の限度として返還することができること。 (3) 基金の返還にあっては、返還する基金に相当する金額を、代替基金として計上しなければならないこと。

    基金拠出型医療法人の現況を見ると、平成19年4月1日から平成20年3月末までの間に、全国で306件の基金拠出型医療法人が設立され、「持分なし」の社団医療法人の29.5%となっています。まだ、基金拠出型医療法人の設立については、都道府県によってばらつきがみられ、首都圏の設立件数が全体の半分を占めている現状にあります。

参考:基金制度の概要

  • 基金は利息を付さない債権(残余財産に含まれない)。
  • 拠出者への返還額は拠出した当時の額が限度。
  • 基金の返還は定時社員総会の決議が必要。
  • 基金の返還は、貸借対照表上の純資産額が基金の総額等を超える場合における当該超過額を限度とする。
  • 基金の返還は、当該会計年度の次の会計年度に関する定時社員総会の前日まで。
  • 基金を変換する場合は代替基金を計上。代替基金を取り崩すことは不可。
  • 基金及び代替基金は貸借対照表の純資産の部に計上する。  

(「TKC医業経営情報」2009年4月号より)

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