会計・税務

TKC医業会計データベースMX2・MX3活用事例 地域の精神医療の拠点として患者さんの社会生活を支援したい

img_b0290_01.jpg■   特定医療法人樟風会 早津江病院

■   理事長 松永 啓介(まつなが けいすけ)

 佐賀県佐賀市にある特定医療法人樟風会早津江病院は昭和31年の開業から約50年にわたって、地域の精神医療を支えてきた。4代目の理事長の松永啓介氏は、特に患者さんの社会生活の支援に力を入れ、そのための草の根的な活動を続けている。「今後も地域の精神医療の拠点として、患者さんをサポートしていくためには、『TKC医業会計データベース(MX2)』を活用した適切な経営管理が欠かせない」と語る松永理事長に、これまでの取り組みやMX2の活用について話をうかがった。

DATA:特定医療法人樟風会 早津江病院
所在地 佐賀県佐賀市川副町大字福富 827

 

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平成5年に新築移転した300床の早津江病院
診療科目

精神科、神経科、内科

病床

300床
(一般精神病棟 60 床、男性精神療養病棟60床、女性精神病棟60床、老人精神療養病棟60床、認知症病棟60床)
・精神科デイケア
・精神科デイナイトケア
・精神科訪問看護
相談支援事業所くすの木
精神障害者社会復帰施設
福祉ホームB型はなの木

精神疾患の患者さんの社会参加に力を注いできた

──特定医療法人樟風会の概要を教えてください。

松永 私の祖父が昭和31年に、佐賀県南東部の川副町早津江の海軍所跡地で、精神科・神経科の60床の早津江保養院を開設したのがもともとの始まりです。その後、昭和63 年に法人名を「樟風会」、病院名を「早津江病院」に変更。平成4年に4代目の理事長として私が就任した翌年には、手狭になったことなどを理由に、佐賀平野ののどかな環境の場所に新築移転しました。特定医療法人化したのは平成15年のことです。

  現在は、一般精神病棟、男性・女性それぞれの精神療養病棟、老人の精神療養病棟、認知症病棟の5病棟(各60床)で構成する早津江病院を中心に、精神科デイケアやデイナイトケア、訪問看護に取り組むとともに、入居20人とショートステイの社会復帰施設である福祉ホームB型はなの木、相談支援事業所くすの木なども運営しています。また、社会福祉法人こもれび会を平成3年に開設し、定員50人の特別養護老人ホームけやき荘なども展開しています。

  早津江病院の病床稼働率は約95%で、平均在院日数は病棟によって異なりますが約318日です。看護配置基準は15:1を算定しています。1日の平均外来患者数は約85人となっています。昨今、認知症を含めた高齢者の精神疾患や躁うつ病の患者さんが増えてきたこともあり、外来患者数は徐々に増加傾向にあります。

──昭和31年の設立から約50年にわたり、地域の精神医療を支えてこられたわけですが、松永啓介先生が理事長に就任されてからは、特にどのようなことに力を入れてこられましたか。

松永 現在でも精神疾患に対する社会の偏見は根強く残っていますが、当時は今よりも強いものでした。精神病院というと閉鎖的なイメージがつきまとい、精神疾患の患者さんが町を歩くだけで警察に通報されるなんてことも日常的にあったわけです。私は、そうした状況に以前から大きな疑問を感じていました。精神疾患は誰もが患う可能性がある病気です。だったら患者さんが安心して地域で生活できるようにみんなで支えていくべきではないだろうかと。ちょうどその頃、社会的に精神疾患の患者さんへの偏見が問題視され始めた時期でもありました。そうしたことから、特に患者さんの社会参加、復帰には力を入れてきました。

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患者さんの作品等が展示されている作業療法室

──具体的にどのようなことに取り組んでこられましたか。

松永 患者さんが地域で安心して生活するためには、まず、地域の方々の精神疾患に対する理解が不可欠です。そこで、民生委員や老人クラブなどの集会に積極的に参加し、精神疾患とはどのようなものか、決して敬遠するような患者さんではないことなどを伝え、少しでも偏見を払拭するための活動をしてきました。

  また毎月、市の施設で「心の相談」を開催してきました。これは地域の方々の精神疾患に関する相談を無料で受けてアドバイスを行うものです。相談内容は、父親はアルコール依存症ではないか、引きこもりの息子をどうすればいいかなど、相談者の家族の悩みが多いようです。相談件数は月3件程度と少ないですが、約 20年間続けています。少なからず、地域の方々の精神疾患への理解につながっていると考えています。

  十数年前と比べれば偏見もなくなってきましたが、それでも不十分だと感じます。たとえば、精神疾患の患者さんが事件を起こしニュースになると、そのたびに「精神障害者は怖いものだ」というイメージが膨らんでしまう。実際、健常者の方が事件を起こす確率のほうがずっと高いのですが、偏見が根強く残っているためにそう思われてしまうのでしょう。今後も地道にこうした活動を続けていきたいと考えています。

──患者さんの社会参加をサポートするために、草の根的な活動を続けてこられたわけですね。

松永 現実的に患者さんが地域で生活を送るためには、1人で毎朝起きて、毎晩寝るといった規則正しい生活を送ることができなければなりません。薬を決まった時間に服用することも大切ですし、身だしなみを整えること、挨拶ができることなども不可欠です。

  当院で精神科訪問看護や精神科デイケア、デイナイトケアを設置したのは、患者さんの在宅での生活を少しでも支援したいとの思いからです。

──社会復帰という意味では、就労支援ということも非常に重要になると思います。

松永 確かに就労支援までをしっかり行うことができればベストです。当院でもこれまで、できる限りのサポートをしてきましたが、まだまだ不十分だと感じます。就労支援は景気に左右されやすく、昨今はさらに難しい状況にあります。本当に精神疾患の患者さんに向いているのかという問題はありますが、農業や介護など、人手不足といわれている業種とうまくコラボレーションしていきたいと考えています。

  患者さんが本当の意味で生活していくためには、何かしらの社会活動をしていかなければならない。それが患者さんの生きがいにつながることからも非常に重要なことで、これからの当院の課題といえます。

患者・家族の不安を解消するため精神科救急に取り組んでいきたい

──精神疾患の患者さんの場合、接する上で留意しなければならないこともあるのでしょうね。

松永 精神疾患の患者さんだからといって特別なことはありません。どんな診療科にもいえることだと思いますが、重要なのは「話をしっかり聞く」ということです。その分、1人ひとりの診療時間は長くなりますが、患者さんに自分自身の内面を語らせるということをしないと、コミュニケーションは取れませんし、信頼関係も生まれません。

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写真中が松永啓介理事長、右が森茂樹税理士、左が監査担当の小城原健

──サービスの質を高めるために病診連携も大切になります。

松永
 特に増加傾向にある躁うつ病の患者さんに適切に対応するためには不可欠なことです。昨今、そうした患者さんが増加していることから、心療内科などのクリニックが増えています。しかし、外来だけではどうしても治りにくいケースがあります。当院では、地域の心療内科クリニックと連携を密にし、入院医療が必要な場合は積極的に受け入れ、症状がよくなればクリニックに戻すなど、患者さんが適切な医療サービスを受けられるような体制づくりを行っています。

  また、佐賀市には「かわそえネットワーク」という組織があります。これは、患者さんによりよい医療・保健・福祉サービスを提供するために、地域のこれらのサービスに従事する方々、そして行政担当者まで集まり、密な連携を行うとともに、定期的な情報交換や勉強会などを開催するもので、平成7年に設立されました。現在、当院で勤務する田代謙一郎医師が会長を務めています。地域の従事者らとお互いに顔の見える関係ができているので地域連携は非常にスムーズです。

──今後、特に力を入れて取り組んでいかなければならないことなどはございますか。

松永 その1つとして精神科救急があげられます。たとえば、患者さんが生活していて突然、症状が悪化したり、事故などが起きたとしても、一般の病院ではその対応が難しいわけです。その受け皿が限られていることで患者さんも家族も不安なのです。

  現在、患者さんに対して「不測の事態が起きた時はすぐに受け入れるので連絡をください」という対応をとっていますが、それを精神科救急という形でしっかり取り組んでいきたいと考えています。

  そのためには、昨今の医師、看護師などの人材不足が大きな障壁となっています。現在、常勤医6人で回しているのですが、それ以上の確保が非常に難しい。看護師も同じ状況です。私の出身大学である久留米大学などとさらに密に連携し、いつでも優秀な人材を確保できるような体制を整えていきたいと思います。

MX2によるタイムリーな経営管理が医療サービスの質向上につながっている

──地域の精神医療を支えていくためには、経営面もしっかり管理していくことが重要です。

松永 外部環境の変化が激しい状況のなか、持続的に地域の精神医療をサポートしていくためには、安定した経営を維持していくことが不可欠です。当院では、適切な経営管理を行うために、「TKC医業会計データベース(MX2)」を導入しています。

  MX2は、特に5つの病棟ごとの業績管理に役立てています。収益やコストなどを病棟ごとにしっかり管理することで、それぞれの経営面の強み、弱みが明らかになり、より的確な改善策に結びつけることができます。なかでも、それぞれの入院患者数は気をつけて見ています。これは、医業収益に直接関係する数値です。入院患者数が減っていることがわかれば、なぜ減っているのかという問題点の洗い出しと、その改善策の検討を行いますし、増えているということがわかれば、患者さんが入院医療を受けられないということがないように適切にコントロールします。

  また、中川・森会計事務所の指導のもと、MX2のデータから四半期ごとに全体の業績検討会を実施しています。ここでも財務の視点から見た、現状の課題や今後の方向性を明らかにします。たとえば、外来患者数が伸びているということがわかれば、外来体制の強化策を検討できますし、躁うつ病の患者さんの割合が増えていることがわかれば、その対応策を話し合うことができる。そういう意味では、経営面だけでなく、医療サービスの質の維持、向上にも役立っています。

──適切な経営管理が医療サービスの質向上にもつながっているわけですね。

松永 将来的には病室の個室化をしていきたいと考えています。特に増加している躁うつ病の患者さんには、開放的な個室で治療することで、その効果は高まります。その際、その患者数をしっかり抑えていかなければなりませんし、個室の整備費にどれぐらい必要なのか、どれぐらい投資できるのかなども把握しなければなりません。そうした投資に回せる経常利益などの財務データと、躁うつ病の患者数などの医事データの両方の数値をタイムリーに把握できることがMX2の大きな利点だと感じています。

──MX2は、財務と医事の両データの把握に役立っているのですね。これからの展望をお聞かせください。

松永 これからも精神疾患の患者さんが地域で生活できるように、そのサポートに一層、力を入れていきたいと思います。精神疾患に対する地域の方々の理解を深め、患者さんの生活支援、就労支援などを積極的に行い、将来的には精神科救急に取り組む。こうした体制を確立し、佐賀市南部の精神医療の拠点として、その牽引役を果たしていきたいと考えています。

img_b0290_05.jpg医業経営コンサルタントからの一言

    院長先生の想いを実現するため全力でサポートします

    税理士法人中川・森会計事務所
    代表社員 森 茂樹

  松永啓介先生は理事長就任以来、精神疾患の患者さんに対する偏見を払拭するために、地域の方々への理解と啓蒙活動を続けられています。相談支援事業所等を設置し、患者さんの社会参加、復帰にも力を入れておられます。また、MX2を活用し、毎月の経営状況の把握、四半期ごとの業績検討会を実施され、適切な意思決定につなげています。
  今後も院長先生の「患者さんが安心して生活できる地域をつくる」という想いを実現できるように会計・税務面から全力でサポートさせていただきたいと考えています。

(平成21年11月30日/「TKC医業経営情報」2010年1月号より」)

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TKC全国会医業・会計システム研究会 (略称:TKC医会研) は、TKC全国会の中でも特に医業・会計に精通した約1,800名の会員により構成されており、約23,000件の病院・診療所の健全経営をご支援させていただいております。