会計・税務

[特別寄稿] 医療機関における消費税問題

TKC医会研 消費税問題研究プロジェクト 船本  智睦

消費税増税議論が最終段階に突入

 菅直人首相は、1月24日に召集された第177回通常国会の施政方針演説で、焦点の社会保障と税の一体改革において「6月までに社会保障改革の全体像とともに必要な財源を確保するための消費税を含む税制抜本改革の基本方針を示す」として、消費税増税を含めた国民の負担増は避けられないことを宣言した。

  昨今の厳しい財政事情を受け、消費税をはじめとする政府の税収確保路線が明確になってきた。今後、消費税率が引き上げられた場合は、さらなる負担増を強いられることから、医療業界は平成元年の消費税創設以来の問題として最重要課題に取り上げる。

医療機関における消費税の取り扱いの現状

(1)消費税の非課税制度

  医療機関における収入の大部分は社会保険診療報酬等(介護報酬含む)による公的保険収入であり、平成元年施行の消費税法において、社会保険診療等に係る療養、医療等については「政策的配慮に基づく非課税取引」とされている。

  一方、医薬品・診療材料、委託費などの経常経費に係るもの、また、医療機器の取得、大規模修繕など設備投資関連については課税取引により税負担が生じている。

  現行の消費税計算規定では「非課税に対応した仕入税額控除」は認められておらず、結果的に医療機関側がコスト(控除対象外消費税)として負担することとなり、利益を圧迫する要因となっている。

(2)価格転嫁ができない医療機関

  非課税業種である教育、金融、不動産貸付業(居住用)についても同様の問題が生じるが、企業側は価格に付加(学校法人は授業料、不動産賃貸業では家賃の値上げ)することで、価格の自由裁量に基づき税負担を回避する余地がある。

  一方の医療機関は、診療報酬に転嫁することは可能だろうか。薬価、診療報酬は、診療行為ごと、あるいは疾病グループ別に公定価格が定められているために医療機関の価格裁定権はなく、患者に対して値上げ等の負担を求めることはできない。したがって、医療機関はサービスの最終消費者ではないが、実質的には税負担を課されている。そして、税率の上昇に比例して税負担が増加する構造となっている。

(3)厚生労働省の対応(診療報酬の上乗せによる補填)

  厚生労働省の説明によれば、医療機関が仕入れに際して支払った消費税のうち、社会保険診療報酬に対応する部分は、消費税創設時(平成元年)に0.76%、税率改定時(平成9年)に0.77%を上乗せし、適正に価格転嫁がなされているとしているが、診療報酬改定は2年ごと(介護報酬は3年ごと)に行われるため、その都度消費税を考慮した改定内容としているといった事実はない。さらに度重なるマイナス改定による項目の廃止や削除、包括化など、現在診療報酬等に対して消費税がどの程度補填されているかが不明瞭な状況が続いている。1.53%という補填効果の検証は困難とさえいわれている。

【控除対象外消費税(損税)の現況】

 控除対象外消費税は、保険診療を行っている医療機関であれば、規模の大小を問わず必ず発生する。特に大きな影響を受けるのは、大学病院など高度急性期を担う医療機関とされている。

  例えば、日本私立医科大学協会(加盟29大学)が公表した消費税の実質負担総額によると、1990年度の142.3億円から2008年度は406億円にまで増大している。消費税率が1%引き上げられることで2.8億円の負担増と試算している。また、私立医科大学は基本的に医学の教育機関であり、教育についても同様に非課税のため、多額の控除対象外消費税が発生する。さらに加盟29大学の医療施設である82病院の負担総額は2008年度で297億円にも及ぶ。これは、1病院あたり平均3.6憶円負担していることになる。

  日本医業経営コンサルタント協会(医療費の財源に関する検討会)による控除対象外消費税算出データでは、平成20年度の医科診療所(総額・概算推計)で、 2,018億円(1診療所・単純平均推計で2,028千円/99,545診療所)、病院で1,974億円(1病院・単純平均推計で22,523千円/8,766病院)の「控除対象外消費税」を負担しているという分析結果が出ている。

  また、『TKC医業経営指標』において、医療法人の損税を医業収益に対する控除対象外消費税の影響度合いを推計した結果では、税率5%の場合、無床診療所で平均1.5%〜1.7%、病院で平均1.5%〜1.7%であり、これが10%となった場合は、無床診療所で平均3.2%、病院で平均3.1%〜3.4% となった。

  このように現行の非課税規定の状態で税率が引き上げられた場合の影響度合いは計り知れず、平成18年度のマイナス報酬改定以上の悪影響が十分に考えられる。

  さらに、医療業界は設備装置型産業ともいわれ、老朽化した施設の建て替えや大規模修繕など多額の建築費用や高額医療機器の購入が発生した場合、ますます控除対象外消費税が拡大し、医業経営が困窮していくことは必至である。

【損税解消策とその課題】

 税率の引き上げが実施された場合、医療機関は消費税問題の解消策として、社会保険診療報酬等を「非課税取引から課税取引に改める」ことを要望している。課税取引へ変更される場合、「標準税率」「軽減税率」、あるいは「ゼロ税率」といった税率の設定が重要となる。

 そこで、医療機関(主として病院・診療所等)の控除対象外消費税を(1)既存(非課税規定)の計算方法、(2)課税扱い(普通税率)、(3)課税扱い(軽減税率)、(4)課税扱い(免税扱いで税率はゼロ)といった4つのパターンでデータによる検証を試みたが、結果は(2)の普通税率(3)軽減税率 (4)ゼロ税率に関しては、税率の違いこそあれ、いずれも課税取引により仕入税額控除が全額可能となり、医療機関にマイナス影響を与えることはない。

 社会保険診療報酬等を課税取引に改めた場合、理論的には医療機関の負担はなく、消費税問題を解消するのに妥当な対応方法であるが、患者負担を求めることになるため、慎重に対応する必要がある。

 (3)の軽減税率は、例えば消費税率が10%に引き上げられた場合に医療は5%の税率に留めるなどの逆進性対策の一環として、患者負担の大幅増を回避できる。その一方で、医療に限らず軽減税率対象品目の選定は困難を要する。複数税率を採用している諸外国はインボイス方式により実現しているが、現在、我が国で採用されている帳簿方式からの移行については民主党も難色を示している。

 (4)の課税扱い(ゼロ税率)については、課税取引であるにもかかわらず、税率が0%のため、免税取引と同様に仕入税額控除が可能となる。したがって、医療機関と患者負担の双方に負担のない理想的な対処法であるといえる。しかし、税収不足の財政状況下において課税当局は、各医療機関の還付手続きによる多大な行政コストの増加、ゼロ税率の業種選定やEU指令をはじめ諸外国においても否定的見解を示しているだけにゼロ税率への変更は容認しないであろうと推測できる。

 現在、政府内で税率が引き上げられたことを前提に、逆進性対策として「給付付き税額控除」と併せて「納税者番号制度」の対応を巡り急ピッチで議論が進められている。医療機関は、医療が課税取引となった場合に患者対策、資金繰り対策等のクリアすべき課題を十分検討した上で、適切な医療・介護提供が行えるよう経営対応策を講じていく必要があろう。

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(「TKC医業経営情報」2011年3月号より)

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