経営・労務・法務

7つのドメインで課題の「見える化」が必要

2025年に向けて構築が進められている地域包括ケアシステム。しかし、複数の要因が絡まり合い、その進み具合に地域差が出ている。そうしたなか、独立行政法人科学技術振興機構「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」の研究領域として、在宅医療を推進する「地域診断標準ツール」を開発した医療法人アスムス理事長の太田秀樹氏。同氏に在宅医療や、地域包括ケアの構築を進めるための視点、考え方について話をうかがった。

太田秀樹
医療法人アスムス理事長201505_01.jpg
聞き手/
本誌編集委員
岩田修一(医業経営コンサルタント)

Hideki Ota
1979年、日本大学医学部を卒業し、自治医科大学大学院修了後、同大専任講師を経て、1992年に「おやま城北クリニック」を開設。現在、隣接する栃木市、結城市に在宅療養支援診療所を運営、機能強化型在宅療養支援診療所として在宅医療に取り組む。医学博士・日本整形外科学会認定専門医・麻酔科標榜医・介護支援専門員。日医在宅医療連絡協議会委員、厚労省チーム医療検討会委員、全国知事会先進政策頭脳センター委員、全国在宅療養支援診療所連絡会事務局長などを務める。2010~2013年にプロジェクト「在宅医療推進地域診断ツールの開発」を受託し在宅医療推進に関する研究を行う。


在宅医療が機能する地域は
地域包括ケアができている

──地域包括ケアシステムの構築が進められているなか、その現状や問題点についてどのように見ておられますか。

太田 「地域包括ケアシステム」という言葉だけを見ると、何だかとても難しいもののように感じられますが、シンプルに考えれば、“住み慣れた地域で最期まで暮らすための仕組み”ということです。さらにいえば、“高齢者が自宅で亡くなることができるようにする”ことです。40年前までは当たり前だったことが、いつの間にか社会から消えてしまった。だから、もう一度、そうした社会を取り戻そうというのが地域包括ケアです。
 各地の状況を見ると、上手く機能しているところと、そうではないところがあります。というのも、地域包括ケアは「医療」「介護」「保健」「福祉」「住宅」の5つの要素で構成されたシステムなのですが、それらを上手く管理、コントロールできない側面があるからです。なかでも「住宅」についていえば、そのほとんどを民間企業が担っています。地域に根差すことが大前提なのに、たとえば、東京の不動産業者が近隣の都市でサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を建設し、「ここで最期まで暮らすことができますよ」といっても地域に溶け込めるわけがありません。ましてや居住者を東京から連れてくるとなれば、それこそ地域包括ケアは崩壊です。
 もう1点、地域包括ケアの仕組みづくりを評価する“モノサシ”がないことが、問題点としてあげられます。だから自治体は具体的にどうすればよいのかわからない。とりあえず「多職種が顔の見える会議に参加をしなさい」と医療機関や介護事業者に求めてくる。それでは会議の開催が目的になっている。本来、そうした会議は“手段”であり目的ではありません。

──自治体がどれだけ地域包括ケアの理念を理解しているか、どれだけ具体的に取り組んでいるかが重要になりますね。

太田 首長がしっかりと方針を打ち出しているところは上手くいっているわけです。たとえば、茨城県つくば市では、条例でサ高住の運営基準がより厳格に強化されました。神奈川県横須賀市では、在宅看取りを積極的に進め、その割合が30%を超えたといいます。

──太田先生は長年、在宅医療等に力を入れ、患者さんの在宅生活から看取りまでを支えてこられたわけですが。

太田 私が在宅医療に取り組むようになって四半世紀が経ちますが、当院の患者さんは自宅で最期を迎えることができます。高齢者の在宅生活を支えるための機能を1つひとつ拡充し、多職種協働のシステムをつくってきたからです。当院の患者さんや家族から見れば、地域包括ケアが機能しているといえます。かといって、町全体で地域包括ケア体制ができているかは別問題です。
 実際には、市町村単位で地域包括ケアを整備するとしても、中学校区、いわゆる生活圏域のエリアで、地域包括ケアが機能していなければならない。そして、それができていなければ在宅医療も機能しないのです。
 地域包括ケアには在宅医療がとても重要だといわれていますが、在宅医療から見れば、地域包括ケアが成立していなければ機能できないのです。だって、住宅がないとできないし、介護サービスや福祉サービスがないところで、在宅医療だけが進むことはあり得ない。当院の患者さんの家では、それらがすべて有機的につながってサービスとして提供されている。だから在宅医療が成り立っているのです。
 全国を見渡すと、在宅医療が浸透してきた地域はたくさんあります。そのほとんどでは、地域包括ケアが自ずとできているということです。

評価する7つのドメインの
課題を「見える化」

──先ほど、地域包括ケアの仕組みを評価する“モノサシ”がないという指摘をされていましたが、太田先生は、独立行政法人科学技術振興機構「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」の研究領域の1つとして、在宅医療を推進する地域診断標準ツールの開発に取り組まれました。

太田 この地域診断標準ツールは、端的にいうと、在宅医療を地域に根づかせるためには何が必要なのかを明らかにしたもので、具体的に7つの評価ドメインを設定しました。そして、それぞれを数値化し、偏差値化することで、地域の強みや弱みを「見える化」したわけです。なかなか在宅医療が根づかないという地域では、評価ドメインのいずれかに課題を抱えているということがいえます。また、このツールは地域の在宅医療について評価するものとして開発されましたが、前述したように在宅医療と地域包括ケアは相関関係にありますから、地域包括ケアを評価するツールともいえます。

──それぞれの評価ドメインについて教えてください。

太田 具体的な評価ドメインは、「在宅医療」「入院・外来医療」「在宅ケア」「基礎自治体」「地域連携」「コミュニティ」「利用者意識」の7つです。
 まず、「在宅医療」は、その言葉どおり、在宅医療を提供する環境がどれぐらい整備されているか、地域に在宅医療を提供する力がどの程度、備わっているか、在宅看取り率はどれぐらいかなどを表しています。
 次に、「入院・外来医療」は、いくら在宅医療の環境が整っていても、入院医療を担う病院が患者さんを地域に帰さなければ成り立ちませんし、在宅療養中の患者さんを必要に応じて円滑に受け入れてもらうことも必要です。在宅医療について病院にどれだけの理解があるかどうかを示すものです。
 「在宅ケア」は、在宅生活を行う患者さん、利用者さんの身の回りのケアなどを行う介護サービスが十分かどうか、ケアプランを策定するケアマネジャーの質はどうか、介護施設等は十分かということを評価したものです。

──「基礎自治体」とは何を現しているのですか。

太田 「基礎自治体」は、行政がどれだけ積極的に支援しているかということです。コーディネート機能を果たしているか、地域全体をつなげる役割を果たしているかということです。
 続いて、「地域連携」は、いくら地域に医療や介護の資源がたくさんあっても、それらがつながっていなければ、サービスの質は担保できないわけですから、その体制がどれぐらい整備されているかを評価した指標となります。
 「コミュニティ」は、自助互助のことです。端的にいうと地域の見守りの文化がどれだけ醸成されているか、ご近所同士のつながりがあるかを表しています。たとえば、認知症の患者さんが町を徘徊していたとしても、その姿を見かけたら地域住民がすぐに声をかける習慣が根づいている。つまり、高齢者の徘徊ではなく、散歩になっているということです。
 最後に「利用者意識」ですが、どんなに素晴らしい医療提供体制がつくられていても、住民の病院への依存度が高かったり、在宅医療の存在そのものを知らなかったりすれば、利用されないということになります。利用者意識が醸成されていることが不可欠です。
 本当にざっくりとした説明ですが、7つの評価ドメインのそれぞれの問題点を考えていかなければ、地域包括ケアは具体的に見えてきません。

ツールで現状を“診断”し
“治療”につなげる

──とても興味深い研究ですね。たとえば、都市部と地方で共通する課題が見えたりするのですか。

太田 このツールは人口規模20万人以下を対象としています。というのも人口20万人以上の都市部は、それぞれが抱える課題が異質で、一概に評価できません。ですから、初めから20万人以下の都市に絞り込んでいます。
 たとえば、東京23区で「コミュニティ」を調査しても、そもそも住民同士のつながりが希薄ですし、その地域に誇りを持っている方もごく少数でしょう。群馬県館林市から宇宙飛行士が出れば、町をあげて喜び、多くの住民が誇りに感じるわけですが、都市部に住む住民が同じように誇りを感じるかといえばそうではありません。また、東京・北区では、平成23年の年間死亡者数が3,435人で、そのうち約550人が在宅死です。だからといって在宅看取りが進んでいるわけではなく、その約65%が孤立死なのです。本人の尊厳が守られなければ意味がありません。
 ちなみに全国約1,700の自治体のうち、人口20万人以上は110か所ぐらいですので、20万人以上といっても1割にも満たない。ですから、このツールでほとんどを評価することができます。

──人口20万人以下というと、この栃木県であれば宇都宮市以外はすべて対象となるわけですね。

太田 たとえば、栃木市(図②)を見ると非常にうまくいっていることがわかると思います。でも結城市(図②)を見ると、2.5点の標準以下のドメインがいくつか見受けられます。また、「基礎自治体」と「コミュニティ」の低さが顕著ですが、この2つは全体的な傾向として弱いということがわかっています。
 このツールは、現状を“診断”するものであり、“治療”するものではありません。今、自分の地域のどこに問題があるのかを明確に把握し、その問題点の改善につなげていただきたいのです。
 たとえば、「利用者意識」が低いところは、その啓発活動に重点をおいていく。市や医療機関が、広報誌や新聞、時には市民フォーラムなどを開催して、在宅医療のよさをアピールするなどが考えられます。また、「コミュニティ」が弱いところであれば、地域住民が触れ合う場を積極的に設けたり、お祭りを盛り上げたりといったことが考えられます。

医療と介護の
“ハイブリット型”経営を

──今後、地域のクリニックに求められることは何でしょうか。

太田 クリニックの院長先生に問いたいのは、今、「外来患者数は増えていますか?」ということです。多くのクリニックで外来患者の受療率は減少しているはずです。それは、患者さんの高齢化が進んで通院できなくなっているからです。これはどんどん進んでいくわけです。そこで必要なことは在宅医療です。いつも来ていた患者さんが来なくなったら、気軽に往診に応じていただきたいです。
 たとえば、24時間365日の担保が難しいという声も聞きますが、実際はそんなに頻繁に呼び出されることはありません。地域の他のクリニックの院長2~3人でチームを組む方法も効果的です。難しいことは何もない。私は講演会等で話す時、よく「午前は外来、午後から地域へ」ということを訴えています。

──医療機関が介護サービスを展開していくということも求められますね。

太田 ものすごく重要です。これからのクリニックは、医療と介護の“ハイブリッド型”でなければいけないと思っています。これは、地域ニーズに適切に対応するという理由だけではありません。経営者として当然の選択だと思っています。というのも、医療保険はもうパイが決まっています。医療保険の三十数兆円というお金を増やさないようにするために財布を分けて介護保険をつくりました。つまり、医療保険をこれ以上増やしたくないわけです。介護保険のパイは伸びていく可能性があります。地域に安定的に医療サービスを提供できる経営基盤を構築するため、医療保険からも介護保険からも収益が得られるようにするのは経営者として当たり前のことではないでしょうか。その時に大事なことは、医師が行う介護であるということです。そういう分野がいいと思います。
 ちなみに、介護サービスに関連して、サ高住も増えていますが、評判のよくないところもあります。そういう意味では、医療機関がやったほうがいい。利用者の安心感は格段に違いますから。

──地域包括ケアを進めるためには、病院の意識、役割も重要ということでしたが。

太田 特に自治体病院の医師の意識が変わるといいですね。多くの医師が「このような状態の患者さんを在宅で診ることはできない」と思い込んでいますが、実際、ほとんどの状態を在宅で対応できている。特に地域連携室が在宅医療を知らないという問題があります。そこのスタッフが在宅医療について正しく認識し、地域の在宅医療の力を適切に評価できるようになることがとても重要だと考えています。

──最後に、太田先生が今後、地域住民を支えていくなかで、力を入れていきたいこと、取り組んでいきたいことなどについてお聞かせください。

太田 今後、地域の方々の意識が変わるようなフォーラムなどを積極的に開催する予定です。確かに、地域包括ケアを2次医療圏レベルで構築していくためには、行政の意識が変わらなければいけないし、クリニックの院長、病院の医師の意識も高めていかなければいけませんが、私は、まずは利用者意識の変革だと思うのです。最期まで自宅で過ごしたいと願う高齢者の想いに応える家族の心構え、覚悟、そして、それが可能だということ、在宅医療とはどのようなものなのかという理解。こうしたことが地域に広がれば、連動して行政も変わらざるを得ないし、医療者も変わるはずです。「先生は、往診しないんですか?」などと言われれば、やらざるを得ないと思います。
 私は、7つの評価ドメインの「利用者意識」の側面からアプローチしていくつもりです。
(平成27年3月23日/構成・本誌編集部佐々木隆一)
 

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