経営・労務・法務

訪問看護ステーションは他機関・多職種との連携拠点に

2025年に向けて、地域包括ケアシステムを構築し、在宅療養の環境を整備することが必須となっている。そこでは訪問看護ステーションが核となり、多職種とともに必要なサービス(介護、生活支援)を一体で届けることが求められている。訪問看護が目指す姿を「訪問看護アクションプラン2025」に3団体(日本看護協会・日本訪問看護財団・全国訪問看護事業協会)が取りまとめた。地域包括ケアのカギを握る訪問看護の今後の方向性を伊藤雅治・全国訪問看護事業協会会長に海来美鶴TKC医会研代表幹事がうかがった。

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一般社団法人
全国訪問看護事業協会 会長

聞き手
海来美鶴
TKC全国会
医業・会計システム研究会 代表幹事
(医業経営コンサルタント 税理士)

Ito Masaharu
昭和17年新潟県生まれ。
昭和43年新潟大学医学部卒業後、新潟県新津保健所兼衛生部公衆衛生課勤務。
昭和46年厚生省入省。約30年間にわたり公衆衛生行政、医療行政に従事。この間、地域保健法の改正、訪問看護制度の創設、介護保険準備室、医師臨床研修制度の創設等に従事。平成13年厚生労働省医政局長を最後に退官。
平成13年8月全国社会保険協会連合会(参事。平成15年~24年10月まで理事長)、患者の声協議会副代表世話人。
平成26年3月 全国訪問看護事業協会会長


規模の拡大と多機能化が
2025年に向けて必要

──今後、地域包括ケアシステムを構築していく中で、在宅療養環境の整備が必要となっており、そこでは訪問看護ステーションの役割が重要となっていますね。

伊藤 2025年に向けて、それぞれの地域で地域包括ケアシステムをどのように構築していくのか。訪問看護が中核となって地域で仕組みをつくっていく必要があると、協会会長という立場からだけでなく、客観的に見て、そのように考えております。

──ただ、現状としては規模が小さい事業所が多いということになりますね。

伊藤 訪問看護ステーションは、1992年に老人保健法を改正して「老人訪問看護ステーション」としてスタートしました。そのとき、事業所の人員基準が常勤換算で2.5人となりました。いま20数年が経過して、事業所数は約8,000か所と増えてきましたが、看護師の数は3人とか4人の小規模のところが多い。地域包括ケアシステムでは24時間365日、いつでも必要なサービスを届けられる体制にしなければなりませんが、そういう体制は現状の小規模ステーション単独ではなかなか難しい。したがって、事業所の規模を拡大すること、さらに地域で小規模ステーションが集まってグループとして対応する仕組みをつくっていくことが必要になっています。いかに小規模ステーションの抱えている問題に対応していくかが1つの課題だと思います。

──スタートが2.5人という人員基準や、女性が中心ということもあるのかもしれませんが、事業規模が拡大していない現状を見れば、脱皮できるのかと心配です。

伊藤 そこは私は、経営者として優秀な看護師も出てきていますので、少し希望が出てきていると見ています。
 もともと医師が管理者の病院や診療所に診療報酬が支払われていたのが、看護師が管理者の事業所に社会保険の報酬が払われる仕組みができたことは、制度としてかなり画期的なことです。そこでは看護職が管理者の資質を備えるための養成を行ってきました。そういう中で、看護師自身が起業して開設するステーションの中に、大規模で24時間365日の体制を敷いて、とにかくいいサービスを提供するというステーションが出てきています。管理者というより“起業ナース”です。この起業ナースを協会としても今後、支援していくことが重要なのではないかと考えています。

──そのほかとして、どんな課題があると考えておられますか。

伊藤 規模の拡大はもちろん必要ですがそれだけでなく、多機能化についても取り組んでいかなければならない1つの柱です。老人訪問看護からスタートして、当時はリハビリを重視して看護師と作業療法士(OT)、理学療法士(PT)などが訪問して、お年寄りを寝たきりにさせないということでしたが、そこから老人という言葉が取れて対象が拡大し、その後さらに介護保険制度のサービスとなりました。そういう中で最近は、新生児特定集中治療室(NICU)を退院した赤ちゃん、がん末期の人、さまざまな難病の人、それから人工呼吸器などをつけた医療依存度の高い人や精神障害を抱える人など、訪問看護サービスを必要とする対象者は多様化しています。それに専門的な知識とスキルで的確に対応できるステーションになっていかなければなりません。すると、3人とか4人のステーションでは専門性のある看護師をそろえるのは難しいですから、大規模にして多様な利用者に対応できる多機能化が必要になっているのです。

規模拡大が制度全体の
効率化につながる

──私は10数年前からACT(包括型地域生活支援プログラム)の立ち上げに携わってきましたが、精神保健福祉士(PSW)など、多職種で支援されていて、ACTに関係しているステーションは進んでいるように思いますね。
 全国訪問看護事業協会では、今おっしゃった規模の拡大や多機能化など、アクションプランとしてまとめておられますね。

伊藤
 日本看護協会と日本訪問看護財団、そして全国訪問看護事業協会の3団体で、2025年に向けて、地域包括ケアの中で訪問看護が目指す姿を「訪問看護アクションプラン2025」として取りまとめました。「量的拡大」「機能拡大」「質の向上」「地域包括ケアへの対応」を4つの柱に据えています。
 先ほどの量的拡大には1つの事業所の規模だけでなく、全体的な量的拡大も含まれます。いま在宅で最期を迎えたいけれどもそれがかなわない人たちが多いわけです。全体では在宅死は約13%です。その数字を上げていくためには訪問看護師の数を、現在の3倍程度、約15万人に引き上げていく必要があるのではないかと、目標にしています。
 そして、もう1つの柱は訪問看護の質です。これは訪問看護の専門性をきちんと磨いてよいサービスを提供すること。それに加えて、サービスを受ける立場の人は訪問看護だけでは問題が解決しない人が多いので、多職種協働ができるステーションにしていくことも含めた質の向上です。

──看護師の数は3倍の15万人ということですが、現在約8,000の事業所の数をどこまで増やすかという目標はないのでしょうか。

伊藤 基本的には事業所の数というより訪問看護に従事する看護師の数を増やすことなのです。というのも、大規模化してくれば事業所の数を3倍にしなくてもよくなるわけですから。

──経営面から見た場合はどうなのでしょうか。経営効率がよい人員数というのがあると思います。

伊藤 経営状況は歴然としていて、規模別の経営状況を見ると、職員数が7.5人以上では約70%が黒字なのですが、規模が小さくなるにつれ黒字の割合は少なくなっていき、2.5人~3人では約26%となります。規模の拡大によって経営も安定してくる。はっきりしています。
 規模が小さいことの問題点というのは、たとえば24時間オンコール対応にしても、休日や夜間の待機日数は、看護職員数が2.5人~3人未満だと1か月15日を超え、疲弊した状況にあります。これが10人以上の大規模事業所では6.6日まで下がります。また、1人当たり訪問件数にしても事業規模が小さいほど少ない傾向にあり、深夜、夜間、早朝の訪問も大規模のほうがよく訪問している。課題となっている在宅看取りの件数についても大規模のところほどよくやっています。
 このようなデータが指し示すように規模の拡大というのは制度全体の効率化につながっていくということです。ただし、それが日本全国どこでもあてはまるわけではなく、地域の状況に応じて対応しなければなりません。

“コールセンター”などの
連携推進が不可欠

──規模の拡大や多機能化、質向上などをして地域包括ケアの体制をつくっていくことになるわけですが、これがなかなか大変だと思います。

伊藤 その仕組みづくりというのは、医療にしても介護にしても縦割りの制度ですが、それを地域では全部横串でつないで、機能する地域をつくっていかなくてはいけません。たとえば、病棟の退院調整の看護師にしてみれば、地域にさまざまな訪問看護ステーションがあってもどこにつなげばよいのかわからない。それをどこか1か所につなげば患者さんの病状や家族の状況に応じて、「そういう患者さんであればこのステーションが一番適切ですよ」と紹介してもらい、退院前から打ち合わせをして、退院翌日からきちんと在宅で療養できる。そういう地域でつないでいく仕組みづくりというのはこれからなのです。今後は訪問看護ステーションの管理者、開設者は、自分のステーションの経営状況だけでなく、地域全体でどういう仕組みをつくっていったらよいのかという視点が必要になります。また、1つのステーションにしても、どんな患者さんにも100%対応できるというところは少ないでしょうから、同じ地域の他のステーションとお互いに連携体制をつくることも重要です。

──そのような体制をつくっていくには、何か仕掛けが必要だと思いますが。

伊藤 それで全国訪問看護事業協会では厚生労働省から補助金をいただき、いま申し上げたようなモデル事業を行ってきました。地域の訪問看護ステーションが集まって共通のコールセンターをつくり、地域のステーションの受入可否の状況や得意分野の情報を共有し、適切なステーションを紹介する取り組みです。モデル事業としてはよい成果があったと思いますが、それをモデル事業に終わらせないで、普及させていくことが今後は必要だと考えています。

──訪問看護師の数を増やしていくことが課題としてあるわけですが、報酬面の伸びしろが厳しい中で、処遇面もしっかり手当てし、有休の消化であるとか、研修に出られるような体制もつくっていかなければならないわけですね。

伊藤 大きな課題です。かつては看護師になって病棟勤務の経験を積んでから訪問看護にいくという考え方が強かったのですが、最近は病棟と訪問看護に求められる基本的な能力が違うということで、はじめから訪問看護の看護師を養成する取り組みが行われています。私は非常にいいことだと思います。最大の課題となるのは、訪問して1人で判断しなければいけないシチュエーションが多いということが病棟看護師との違いであり、大変なところです。

──知人の病院でも訪問看護を以前から行っているのですが、そこでは病棟師長以上の経験者が行うようにしていて、地域からも信頼を得ています。そういう入口部分の教育の一方で、訪問看護ステーションの所長は、いわば社長ですから経営者としての教育も必要だと思いますが。

伊藤 訪問看護事業協会の研修コースには従来から管理者向けの研修コースはあったのですが今度、新しく経営者向けの研修コースを平成27年度プログラムからスタートします。要するに財務諸表の見方から、経営状態の把握・評価、マーケティングなど、看護師教育にはない、経営者としての基本的なことを勉強していただく研修コースです。

──われわれTKC医会研の会員が全国に約1,800名おりますので、ご協力できるところはさせていただきます。

多職種協働の
拠点となるステーションを

──冒頭の量的拡大のお話の中に、グループ化について触れられていましたが、グループ化というのはうまくいくのでしょうか。

伊藤 開設者が異なるのを、1つの企業に統合するようにはいかないと思いますが、訪問看護同士だけでなく、介護サービスを含めたサービスを一体的に提供することは可能なのではないでしょうか。そのような体制は、今後ますます重要になっていくと思います。
 このことは、アクションプラン2025では、4つめの柱である「地域包括ケアへの対応」の1つに、「地域での生活を包括的に支援する訪問看護ステーションの機能強化」として掲げています。私は当初、訪問看護ステーションという言葉とはせずに、サービスを受ける側から見て、“在宅ケア総合ステーション”のような名前にしてはどうかと考えたのです。最終的には訪問看護ステーションとなりましたが、訪問看護ステーションを拠点に多職種と協働してケアを提供する体制をつくっていこうというものです。
 さらに、今後は高齢者の嚥下性肺炎を減らしていくための歯科衛生士、管理栄養士や、精神の関係ではPSWなど協働する幅も広がっていきます。常勤でなくても訪問看護ステーションを拠点にして必要なサービスを提供できるようにしていかなければなりません。そのような多機能化について、制度的にも厚労省に検討してもらうように申し上げているのです。

──アクションプランには政策提言も盛り込まれていますね。

伊藤 医療介護一括推進法によって、2025年を見据えた地域の医療計画をつくっていくとき、在宅については市町村が中心となって進められますが、その計画策定プロセスに、訪問看護の立場から参画して、きちんと意見を言って関わっていくことが重要です。ところが、医師会組織は都道府県単位も郡市単位もあります。しかし看護の組織は、都道府県単位は連絡協議会の組織がありますが、市町村単位はありません。郡市単位で訪問看護ステーションが集まって、そして政策提言していけるような団体にならなければいけないと考えています。
 もう1つ、国民のみなさまへのメッセージとして、訪問看護とはどういうものかを掲載しています。これはアクションプランをつくるときに、3団体だけでなく、客観的な意見を採り入れようと第三者の人にも意見を聞きました。その際に消費生活アドバイザーの立場から、国民は訪問看護のことをよく理解していないと言われ、盛り込むことにしたものです。訪問看護ステーション、訪問看護師自らが国民に向かって、訪問看護とはどういう内容のもので、医療機器を使っていても自宅で生活できるとか、退院前からご相談に応じますとか、自宅で最期まで過ごすことができるということをそれぞれの事業所の人たちから地域に発信してもらおうと。自ら発信し、理解してもらうことが大切なことだと思います。

──本日はありがとうございました。2025年に向かって、このアクションプランを実現できることをお祈りします。
(平成27年4月24日/構成・本誌編集部 柿崎法夫)

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