経営・労務・法務

高度急性期医療から在宅までを結ぶ"最大・最強"の地域包括ケア病棟

2025年に向けた医療提供体制のなかで、高度急性期から在宅までを結ぶ“要”として期待される、ポストアキュート、サブアキュート、在宅・生活復帰支援機能の3つの機能を併せ持つ「地域包括ケア病棟」は、今後の病院経営を考える上で不可欠である。地域包括ケア病棟協会の仲井培雄会長(医療法人社団和楽仁・理事長)は、「地域のさまざまな環境に順応しやすい“最強”の病棟」と語る。

仲井培雄
地域包括ケア病棟協会 会長201508_01.jpg
医療法人社団和楽仁
芳珠記念病院 理事長
聞き手/
本誌編集委員
岩田修一(医業経営コンサルタント)

Nakai Masuo
自治医科大学を卒業後、消化器外科医として大学病院等の勤務を経て1999年、芳珠記念病院に勤務。2002年に同法人副理事長、2004年に理事長に就任。2014年、地域包括ケア病棟協会の会長に就任。現在に至る。日本消化器病学会指導医・専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。


高度急性期から在宅までを
結ぶ“要”として期待

──2014年度診療報酬改定において「地域包括ケア病棟」が新設されたわけですが。
仲井 2025年には、75歳以上の後期高齢者が1,400万人(2010年)から2,200万人に増加し、高齢者世帯は1,000万世帯から1,400万世帯に増えることが見込まれています。認知症高齢者数は700万人ともいわれています。65歳以上が3人に1人、75歳以上が5人に1人という社会が到来するのです。
 こうした社会に対応するため、国、都道府県、市町村では、さまざまな施策を打ち出しています。全体の病床数と病床構成の見直しや、従来型医療から生活支援型の医療への転換、在宅医療の推進、医療と介護の連携強化なども進められています。また、軽中等症の高齢者の救急医療を地域でどのように担うのか、そのシステムづくりも検討されています。地域ごとに医療需要のピークは異なるので、それぞれの需要に合った“ご当地医療”も求められています。
 こうした2025年に向けた医療提供体制のなかで、高度急性期・急性期医療から在宅医療までを結ぶ“要”として期待されているのが「地域包括ケア病棟」です。これから最も使い勝手がよくなる病棟だと見ています。私は、よく「最大で最強の地域包括ケア病棟」という言葉で表現しています。
──その具体的な機能、特徴について教えてください。
仲井 厚生労働省では、「急性期からの受け入れ」(ポストアキュート)、「緊急時の受け入れ」(サブアキュート)、「在宅・生活復帰支援機能」の3つの機能をあげていますが、地域包括ケア病棟協会では、「その他の受け入れ機能」を加えた4つの機能を持ち合わせていると提唱しています。
 まず、ポストアキュートは、高度急性期病院で急性心筋梗塞や脳卒中、がんなどの治療を受けた後の受け皿としての機能を果たすわけですが、従来の回復期リハビリテーション病棟とは何が違うのか。回復期は中重度の脳卒中や脊椎疾患の術後などに対応する“専門店”のようなイメージですが、地域包括ケア病棟は、何でも受け入れる。“懐が深い駆け込み寺”というイメージです。
 サブアキュートは、障害児(者)から高齢者まで対応し、年齢は不問です。また、在宅や介護施設で療養生活をする方の軽中等症の急性疾患やがん緩和ケア、医療必要度の高い方のレスパイトなどまで受け入れます。
 他方、「その他の受け入れ」は、「短期滞在手術等基本料3※」を算定できる患者さんや、慢性期の定期的な抗悪性腫瘍剤治療、緩和ケア、糖尿病教育入院等の患者さんを受け入れます。10:1、13:1の一般病床の代替機能として、出来高算定可能な患者さんを含めて対応する機能です。

“ときどき入院、ほぼ在宅”が
可能な地域を目指す

──「在宅・生活復帰支援」についてはいかがでしょうか。
仲井 在宅・生活復帰支援は大きく2段階に分かれます。
 1段階目として、受け入れた患者さんに対して、院内で多職種協働のチーム医療を実施し、リハビリや摂食機能療法、口腔ケア、栄養指導、服薬指導、退院支援、退院調整などを行い、在宅復帰をサポートします。
 2段階目は、地域内の多職種協働までを活性化していく。最高60日を目安に在宅生活への復帰を目指し、院内のケアマネジャーやソーシャルワーカーがその段取りを行います。そして、医療や介護などの「フォーマルサービス」や、民生委員やNPO法人、ボランティアといった「インフォーマルサービス」を提供する地域の多様なプレーヤーと連携しながら多職種協働の活性化を図るわけです。
──院内の在宅・生活復帰支援を進めるための要点は何ですか。
仲井 患者さんや家族を含めた多職種のチームで課題を解決するような医療に変える必要があります。ポイントは、患者さんや家族を中心に置くのではなく、チームのなかに含めるということです。
 また、情報や場の共有、業務の標準化、チームメンバーの教育啓発、患者さんや家族への指導ということもチーム医療の活性化のキーワードになるでしょう。
 あとは、高齢者にとっては栄養も重要ですし、どのようなリハビリを行うのかも在宅復帰のカギを握ります。そこでは、今回の診療報酬改定で評価された「生活回復リハビリ」に取り組むことが必要です。これまでの疾患別リハビリは、主に機能回復を目的としたものですが、包括化された生活回復リハビリは、時間にも、単位数にも、場所にも、個別や集団にも縛られない、柔軟な患者中心のリハビリです。当院では、個別の「POC(Point of Care)リハビリ」を実施し、排泄や食事、入浴等のIADL改善の要求にオンデマンドでリアルタイムに応えています。
──地域内の多職種協働の推進についてはいかがですか。
仲井 「地域包括ケアシステム」を活性化することです。地域で誰かが取り組んでいれば、その人たちと一緒に活動する。とにかく、積極的に地域に出ていくことです。そのなかで地域包括ケア病棟は入院医療の“入口”と“出口”になります。その結果、“ときどき入院、ほぼ在宅”ということが可能な地域にすることが重要です。

“最強”の所以は
地域に順応できること

──現在、地域包括ケア病棟はどれぐらいあるのでしょうか。
仲井 全国で1,205病院(平成27年5月届出)です。創設から1年強での数字ですから、“最大”の病棟への道を歩んでいると思います。
 移行した病院のタイプですが、大きく3つに分類されると仮定しています。1つは、急性期病院が、病棟の一部をポストアキュートを主とした病棟に転換するタイプ。2つ目は、これまで回復期、慢性期の病院が、一部の病棟を転換したケース、いわゆる“ポストアキュート連携型”と呼ばれるタイプです。これは高度急性期病院と連携して、完全にポストアキュートで経営します。3つ目は、自ら在宅医療や介護サービスを展開しながら、地域で患者さんを診ていくタイプです。ケースに応じ、ポストアキュートにもサブアキュートにも取り組みます。
 どの機能を重視し、どのタイプの病院をつくるのかは、施設基準さえ守れば裁量は自由なのです。つまり、地域の人口構成や疾病構造の変化、医療・介護の需要と供給の変化などに順応しやすい。これが“最強”という所以です。それらの変化に応じて、自院の受け入れ機能を変えれば、同じ施設基準で幅広くいろいろな患者さんに対応できるわけです。
──芳珠記念病院でも病棟構成を見直し、一部を地域包括ケア病棟に転換されたということですが。
仲井 2014年4月末の病棟構成は7対1が140床、亜急性期が28床、障害者が32床、医療療養型が60床、介護療養型が60床でした。同年9月からは、7対1と亜急性期の構成を見直し、HCU(高度治療室)を10床、7対1を78床、地域包括ケア病棟を80床としました。そのなかで、10床をHCUにしたことがよかった。“川下”に下りたわけではなく、一部は“川上”に上ったことで、医師のモチベーションの維持につながりました。
 受け入れ機能別の実績ですが、サブアキュートが34%で、ポストアキュートが25%、その他の受け入れが41%です。サブアキュートの患者さんの80%は緊急入院で、そのうちの30%が救急車による搬送です。ポストアキュートの患者さんの4%は紹介入院で、その他は当院の7対1等の病棟からの転棟です。その他の受け入れの患者さんですが、47%が短期滞在手術基本料3の方で、次いで糖尿病、がん化学療法と続きます。
 退院先については、85%が自宅に帰っています。あとは介護老人保健施設や介護老人福祉施設、住宅型老人ホームが数%あります。
 平均在院日数は短く、ポストアキュートが24.1日、サブアキュートが14.7日です。60日以上の患者さんはほとんどいませんが、時々、がんのターミナルケアの患者さんが超えることがあります。

在宅復帰を支えるのは
生活機能リハやNST等

──在宅復帰率の高さや在院日数の短さを支えるのは、リハビリということになるのですか。
仲井 特にポストアキュートでは、POCリハビリを積極的に実施し、排泄や入浴、箸の使い方など、在宅生活で必要な機能を高めています。POCリハビリのメリットは、家族と一緒に行うことで、家族にもその知識が身につくことです。これにより、家族は安心し、在宅復帰が進みました。疾患別リハビリにもたくさん取り組んでいましたが、当初と比べると減っています。POCリハビリを実施すると、疾患別リハビリはそんなにやらなくてもいいことがわかってきたのです。疾患別リハビリは、身体機能を回復させるものですがPOCリハビリは在宅生活に必要な“技”を磨くイメージです。
 もう1つ、当院の特徴として、NST(栄養サポートチーム)は、栄養と摂食・嚥下、褥瘡の横断的なチームとなっています。歯科医がリーダーとなり、多職種協働の提案型NSTを実践しています。こうした取り組みも、在宅復帰につながっています。
──移行したことで、変化したことはありますか。
仲井 在宅重視の文化と仕組みを院内でつくらなければなりません。そのなかで看護師の重要性が高まりました。高度急性期病院からの転院では看護師がコーディネートの役割を果たし、自宅に帰った後の継続看護を担うのも当院の訪問看護ステーションです。
 院内の知的資産を集約したことも大きな変化です。入退院調整室や医療福祉相談室、連携室、広報企画担当などを「安心窓口センター統括室」として1つの部署にし、情報共有と業務の効率化を図りました。地域連携の活性化、地域住民を素早く受け入れることができるなどの効果が出ています。
──実際、地域の受け入れ体制も整っていなければ在宅復帰は難しいですね。
仲井 チャンピオンケースとして、ケアマネがプランを立て、ゴミ出しや買い物支援はNPOや町内会の方々、在宅サービスは訪問看護、訪問介護の事業所、福祉は能美市と社協等が担うなど、患者さんが自宅に帰っても安心して暮らせるように、地域のさまざまな多職種が手を結び支えるネットワークを構築したことが1つ、スムーズな要因です。
 また、この地域には、医療・介護の連携促進と認知症対策として、市医師会と行政が中心となりつくった「メモリーケアネットワーク能美」(MCN)という組織があります。ここには、医師や看護師、介護士、保健師だけでなくさまざまな職種、さまざまな医療・介護団体の方々が参加し、自宅で療養する患者さんを支えるだけでなく、地域の人々に在宅医療や認知症に関する知識の啓発活動なども定期的に行っています。

受け入れ機能を高める視点が
安定経営には必要

──地域包括ケア病棟協会としての展望をお聞かせください。
仲井 これからは、地域医療構想や地域包括ケアシステムのなかで地域包括ケア病棟が役立つということを、医療関係者だけでなく、地域の方々にも知っていただけるような活動をしていきたいと思っています。また、長期的には、人材育成に力を入れていきたいです。地域包括ケア病棟では多職種が関わります。専門職の質向上を実現し、地域の患者さんが、よりよい医療を受けることができる環境にしたいと考えています。
──最後に、地域包括ケア病棟の経営者などにメッセージなどがあればお願いします。
仲井 安定的に経営するためには、受け入れ機能をいかに高めるかという視点が大切です。自院では何が得意なのかを見極めることです。たとえば、療養病床から転換し、いきなりサブアキュートをたくさん受け入れるのは難しいでしょうし、逆に、急性期病院がポストアキュートのリハビリを目玉にしようと思っても同じことがいえます。受け入れ機能の何を強化していくのか、それを自院の能力と地域のなかでのポジションを見ながら決めていくのです。
 さまざまな外的要因、内的要因を加味し、どういう形の病院をつくるのかを、自由に決められるのが地域包括ケア病棟の特色です。地域の実情をよく知り、自院が担わなければならない医療を提供していく。そうすることで、地域包括ケア病棟の存在価値が高まっていくのではないかと考えています。(平成27年6月19日/構成:本誌編集部 佐々木隆一)

※短期滞在手術等基本料3:一定程度標準化された検査・手術等(4泊5日入院まで)に対して算定。「ヘルニア手術5鼠径ヘルニア」「下肢静脈瘤手術硬化療法」等、23項目の検査と手術。
 

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