経営・労務・法務

地域医療づくりのカギは「アライアンス」(同盟)と「統合」

超高齢社会がまったなしで進んでいるなか、地域医療を守るためには、今後、どのような取り組みが求められるのか。石川県七尾市にある社会医療法人財団董仙会の神野正博理事長は、地域包括ケアシステムに代わる新たな「地域包括ヘルスケアシステム」づくりの必要性を指摘する。そして、この構築のためには、「連携」よりも結びつきの強い「アライアンス」(同盟)・「統合」が不可欠だと話す。

社会医療法人財団董仙会 理事長 神野正博
聞き手/
本誌編集委員
田島隆雄(医業経営コンサルタント)

Kanno Masahiro
石川県金沢市生まれ。日本医科大学を卒業後、金沢大学第二外科に入局。1986年金沢大学大学院を修了(医学博士)。92年に恵寿総合病院外科部長、93年に院長、95年に医療法人董仙会理事長に就任。 全日本病院協会副会長、七尾市医師会会長、中医協入院医療等の調査・評価分科会委員などを務める。


現実的ではない
地域包括ケアの概念

──2025年を見据え、現在、各地域では「地域包括ケアシステム」の構築が進められています。今後、地域医療を守るためにも非常に重要になりますね。
神野 厚生労働省が公表している「地域包括ケアシステムの姿」というイメージ図はご覧になったことがあると思います。高齢になっても住み慣れた地域で最期まで安心して暮らすことができるように、医療や介護、生活支援・介護予防など、あらゆるサービス提供者が連携し、支えていくものです。理想的で素晴らしい概念です。でも現実的ではありません。
たとえば、地域包括ケアシステムは、概ね30分以内に必要なサービスが提供される日常生活圏域、いわゆる“中学校区”を1つの単位としています。しかし、医療機関も介護事業者も中学校区単位で物事を考えていません。当院でも、患者さんを中学校区ごとに支えるとなれば、あまりにたくさんあり過ぎて、すべてに関わることはできないわけです。
また、高齢者が元気に生活していくためには、「生活支援」「介護予防」が重要になるわけですが、その担い手が、老人クラブや自治会、ボランティア、NPO等とされています。この方たちは、無報酬で介護予防などを行うのでしょうか。個々の善意やボランティア精神に頼るのでしょうか。仮に、町内会で徘徊する認知症の高齢者を見守ることは可能かもしれません。しかし、それは昼間の話で、深夜はできません。
もともと地域包括ケアシステムの概念は、1970年代に広島県御調町の公立みつぎ病院が中心につくった地域住民の安心生活を支えるシステムがモデルです。その御調町も今は尾道市と合併し、行政区域が広がってからは上手く機能していないようです。また、島根県日南町の日南病院を中心とした地域包括ケアシステムが機能しているとのことですが、よく聞いてみると中学校区が2つ程度の小さい町のケースです。
この七尾市は人口約56,000人と決して大きな市ではありませんが、それでもなかなか構築するのは難しい。それが10万人、20万人の都市ならなおさらです。東京は1つの区だけで100万人を優に超えます。果たして2025年までに地域包括ケアシステムが各地域で機能するのか。「できない」というのが私の持論です。

地域の資源をすべて
巻き込んだシステムが必要

──地域包括ケアシステムが現実的ではないということですが、高齢社会はまったなしで進みます。実際には、何かしらの対応、取り組みが必要になるわけですが。
神野 これは私の造語なのですが、「地域包括ヘルスケアシステム」(次頁図表参照)を構築することを目指すべきだと考えています。このイメージ図と考え方は先般の産業競争力会議でも提示させていただきました。もともと厚労省が「地域包括ケアシステムの拡大」「地域包括ケアシステムの将来」というタイトルでこのイメージ図を使用していたものです。
地域包括ケアシステムとの主な違いは、まず、かかりつけ医(在宅医療を含む)だけでなく、かかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師も一緒に患者さん、家族を支えていくということ。また、入院医療も高度急性期から慢性期まですべての病院群が関わっていく。他方、介護に目を向けると、そのなかに生活支援・介護予防を位置づけ、老人クラブや自治会等だけでなく、病院や介護施設、さらには生活関連企業もサービスを提供していくという姿を追加しました。
とにかく、ここに描かれたすべての事業者、機能等が、患者さん、家族のために垣根なくさまざまなサービスを提供する、もしくは提案できるシステムが「地域包括ヘルスケアシステム」です。
もともと地域包括ケアシステムは、介護の概念なので、“ケアシステム”となっていますが、私が描くイメージは、「住民の健康を支える」という色合いが強いので、“ヘルスケアシステム”という名称にしたわけです。
──生活支援・介護予防の担い手として、病院や介護事業者、そして生活支援企業までが組み込まれていることが特徴ですね。
神野 生活支援・介護予防には医療機関や介護事業者も取り組んでいくべきだと考えています。保険外サービスですから費用はかかりますが、その分、質を担保することができるわけです。
また、重要なカギを握るのが生活支援企業です。一般企業が入ることを驚く方もいるかもしれませんが、よく考えると、民間のフィットネスクラブは地域の方々の健康増進に取り組んでいます。昼間は高齢者で溢れていますよ。地域の弁当屋さんや配食会社のなかには、高齢者宅に食事を配っているところもあります。定期的に配っていればそれは見守りサービスでもあるのです。薬局も処方せんの調剤の他、サプリメントや健康食品を置いていますし、紙おむつやトイレットペーパー、最近では生鮮食品などを販売しているところもあります。薬を在宅に届ける際に、オーダーがあれば、生活に必要なものも一緒に届ける。これも生活支援の一貫です。
患者さんや家族を支えるために必要な地域の資源は、株式会社であっても、すべて巻き込んでいかなければなりません。
──「地域包括ヘルスケアシステム」の範囲というのはどのように考えておられますか。
神野 このなかには高度急性期から慢性期まですべての入院医療が入っています。つまり、中学校区というレベルではありません。今、議論が進んでいる「地域医療構想区域」、この区域が1つの単位です。このなかで、病床再編を行い、在宅医療や介護サービスのあり方などを検討し、それぞれの地域に合ったサービス提供体制をつくるということです。

指揮・命令が機能する
強い結びつきが不可欠

──「地域包括ヘルスケアシステム」を機能させるためには、株式会社を含めたより密な連携体制が求められるわけですが。
神野 地域のあらゆる資源が連携して、うまく機能すればよいのですが、「連携」だけでは難しいかもしれない。全体最適を図りながら、患者さん・家族にとって、ベストなサービスを提供するシステムをつくるためには、「連携」より強い結びつきが必要です。
たとえば、重度の患者さんをある介護事業者に紹介した際、「負担が大きいからできない」ということがあると、このシステムは機能しません。ある程度、「やりなさい」といえる指揮・命令、いわゆるガバナンスが機能する関係が必要です。すると、「連携」よりも結びつきが強固な、「アライアンス」(同盟)、もしくは「統合」という形がベストだと考えています。
──「同盟」「統合」という関係をつくるためには、具体的にどのようなことが重要になるのでしょうか。
神野 Win-Winの関係をつくることでしょう。ただ、「同盟」「統合」の関係を結ぶこと自体が、事業者の目的であってはなりません。
今、人口は減少しています。それにともない患者数も減っていきます。そのなかで、すべての医療機関が未来永劫、順調に経営を続けていくのは不可能です。そこでは患者さんに選ばれる医療機関にならなければなりません。
だったらどうするのか。同盟を組み、急に手術が必要になった時に入院できる、退院後は介護施設に入所できる、在宅療養に必要なサービスも提供できる、日常生活に必要なものはすぐに届ける。そんな体制になっていれば、患者さんは安心してその医療機関に任せることができるはずです。
つまり、「同盟」「統合」はこれからの医療機関の生き残り戦略の1つであって、航空会社のような特別なアライアンスをつくることが急務です。ちなみに、「同盟」となるとある程度のガバナンスが機能する関係、「統合」となると、それに加えて「ヒト・モノ・カネ」までのやりとりが出てくる関係ということをイメージしています。
──地域医療連携推進法人制度が創設され、来年4月から施行される予定となっていますが、この制度を活用することも考えられますね。
神野 「同盟」「統合」は、地域医療連携推進法人とイコールだとは思っていません。すると地域医療連携推進法人とは何が違うのかという話になるのですが、実は、最初の「非営利ホールディングカンパニー法人制度」は大賛成で、積極的に推進していこうと準備を進めてきました。ところが、その後、議論が進み、結局、大事な部分が“骨抜き”にされてしまった。
まず、自分たちで出資して新たに株式会社をつくるのは認められますが、既存の株式会社は参加しにくくなりました。あとは、参加法人の加入・脱退が任意になったこと。それでは怖くて参加法人に資金貸付等はできません。あとは議決権が1人1票であること。つまり、当法人と4つのクリニックで構成された地域連携推進法人で、私の票は5分の1に過ぎないということになります。
また、医薬品や医療材料の共同購入が認められています。当院は購入ロットが大きいので他のクリニックと比べると格段に安く仕入れをしている。でも、クリニックからすれば、薬はほとんど院外処方ですし、医療材料も、たとえば注射器1本10円が5円で購入できたとして、月に何本使用するのか。1,000本でも差益は5,000円です。それで地域医療連携推進法人をつくるメリットがあるのか。
構想が持ち上がった当初から準備を進めてきましたが、こうしたことを考えると、積極的に進める理由が見当たらないというのが現状の見方です。

地域の活性化、街づくりに
いかに関わることができるか

──「けいじゅグループ」では、恵寿総合病院を中心に、多くのクリニックや介護事業などを展開されています。
神野 私たちのモットーは、『先端医療から福祉まで「生きる」を応援します』です。急性期医療から退院後のフォローまで、つまり、「アフターサービスの充実」を目指した体制をつくってきました。これが「生きる」を応援するという言葉に集約されています。
しかし、多くの施設群を持つ組織は全国にたくさんあります。そのなかで、私たちの特徴はすべての施設がITでつながっていることです。そして、1人の患者さんを1つのIDで管理しています。これにより、グループ内のどのサービスを受けても、病歴等を確認でき、個々に合った質の高いサービスを提供できます。
もう1つ、セントラルキッチンという工場があり、ここですべての施設の食事をつくっています。1日約5,000食です。調理された食事は急速冷蔵し、各病棟等に運ばれ、コンピューター管理のもと、食事の1時間前に加温機で温め、提供しています。工場から食べる1時間前まで冷蔵状態なので衛生的にも安全です。
──他の事業者等との同盟、統合が必要ないほどの機能を持っているように感じますが。
神野 「地域包括ヘルスケアシステム」に必要なすべての機能を持ち合わせているわけではありません。そのためには、やはり地域のあらゆる資源を巻き込んだシステムづくりが必要です。
たとえば、当グループには一般居宅等向けの在宅医療はありません。訪問看護ステーションも持っていません。在宅医療はクリニックの役割だからです。私は、地域医師会長も務めているので、クリニックの先生には、在宅医療に取り組んでほしいと啓発しているところでもあります。
──今後の展望としてどのようなことを考えていますか。
神野 今後、人口減少社会のなかで、医療、介護に関する新たな機能を展開するということはないと思います。足りない部分として、生活支援・介護予防の充実を考えています。セントラルキッチンも、地域の高齢者宅への配食ということを見据えています。また、地域の交通システムの充実にも取り組んでいきたい。現在、会員制(無料)で自宅から病院までの送迎を行う「楽のり君」というサービスを行っていますが、将来的には、地域の企業と同盟を組むということも考えられます。
最終的には、人口減少に歯止めをかけるような取り組みを展開していきたいです。たとえば、都会から高齢者を呼んでこの地域に住んでいただくための魅力ある地域をつくる。そこでは、就労の場も必要なので、当グループが仕事を提供する。現在でも「けいじゅハッピーリタイアプロジェクト」といって、移住して当グループで働く高齢者を募集しています。
これからの医療機関が生き残っていくためには、地域の活性化、街づくりにいかに関わることができるかという視点が不可欠になると考えています。
(平成28年8月31日/構成・本誌編集部佐々木隆一)

セミナーのご案内

運営組織のご紹介

TKC全国会医業・会計システム研究会 (略称:TKC医会研) は、TKC全国会の中でも特に医業・会計に精通した約1,800名の会員により構成されており、約23,000件の病院・診療所の健全経営をご支援させていただいております。