経営・労務・法務

環境変化が著しい今こそ恐れずに“一歩踏み出す”べき

少子高齢社会の進展により、人口構造が大きく変わろうとしている。それにともない、政策面においては、医療・介護提供体制の改革が進められ、同時に社会保障費の抑制策も講じられている。外部環境が目まぐるしく変化するなか、これからの医業経営者は、どのように対応し、どのような資質が求められるのか。理事長就任当初から組織改革を断行して、赤字病院を立て直し、今では、経営面・サービス面の両面において、全国屈指の病院をつくり上げた社会医療法人財団慈泉会相澤病院の相澤孝夫氏に話をうかがった。

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会相澤病院理事長・院長

聞き手/
TKC医会研代表幹事
海来美鶴

Aizawa Takao
長野県松本市生まれ。東京慈恵会医科大学卒業後、信州大学医学部第二内科入局。1981年、相澤病院副院長就任。1983年、信州大学医学博士学位取得。1994年より現職。
一般社団法人日本病院会 副会長。全国病院経営管理学会 会長、日本人間ドック学会 副理事長、日本透析医会 理事、長野県透析医会 会長などの公職を多数兼務。


環境変化が意味することを
真剣に考えなければならない

──まずは、病院を取り巻く経営環境の現状や課題についてどのように見ておられるのか、お聞かせください。
相澤 病院経営に最も影響すると考えられるのが人口構造の変化でしょう。とはいっても、その変化の推移は全国一律ではなく、大きく3タイプに分けられます。
1つは「過疎地域型」です。すでに人口のピークが過ぎ、急激に人口が減少している地域です。2つ目は「都市型」で、東京都などの大都市が該当します。現時点が人口のピークで、今後、緩やかに人口が減っていくという地域です。そして、3つ目が「地方都市型」。すでに人口のピークが過ぎ、今後、緩やかに人口が減少していく地域です。当院が位置する長野県松本市はこのタイプになります。
このように、一言で人口構造の変化といっても、地域によってその特徴は異なるわけですが、ここで重要な視点は、こうした環境変化が病院にとって何を意味するのかということです。その最たるは、地域の人々に必要とされる医療サービスが変わるということです。つまり、今後30年間で、医療需要が目まぐるしく変化する。経営者は、このことを深刻に捉え、自院の経営戦略を検討していかなければならないと思います。そうしなければ、需要と供給のギャップはますます広がるばかりです。
──医療政策に目を向けると、病床機能の再編が行われ、「医療介護総合確保推進法」に基づく「病床機能報告制度」の施行や「地域医療構想」の策定などが進められています。制度的にも過渡期を迎えているわけですが。
相澤 昨今の医療政策は、これまでとは意味が少し異なります。従来は、「医療政策の方向性に合わせて自院の姿を変えていく」という戦略を取ればよかった。しかし、そういう趣旨のものではないということです。
本来、医療機関は、地域の需要に合わせた医療サービスを提供することで初めて経営が成り立ち、継続できるわけです。しかし、私たちは、この大前提を疎かにしてきた。その理由の1つは、診療報酬で手厚く経営を“保護”されてきたからでしょう。でも、国にその余裕がなくなった。そこで、地域の医療需要に合わせた供給体制をつくるために、医療機関が自ら考え、変わってほしい。昨今の医療政策には、そういうメッセージが込められているのです。
経営者の皆さんには是非、これまでの自分の行動を振り返っていただきたい。自分が“やりたい医療”を具現化するために自院の体制を整備してきたのではないでしょうか。これからは、“地域に求められる医療”を提供する体制をつくらなければならないということです。“やりたい医療”と“やるべき医療”には必ずギャップがあります。このことに早く気づき、組織を変えていかなければ、地域のなかで生き残ることは難しくなると考えられます。

改善できる余地はまだある
もっと効率化等に努めるべき

──医療提供体制等の改革が進められる一方で、社会保障費の抑制策も講じられています。この点について、経営者はどのように捉え、対応すべきでしょうか。
相澤 今の経営は、本当に生産性が高いのか、効率化されているのか。おそらく改善点はたくさんあると思います。もちろん、「経営努力をしていない」とはいいません。しかし、その取り組み自体はまだまだ弱いのではないでしょうか。当院でも、地域ニーズに合わせ、また生産性、効率性の向上を目指して、急性期病床をダウンサイジングしました。それにともない、スタッフの働き方も配置も変えました。それでも、まだ改善できる余地はあると思っています。もう一度、自院の経営のあり方を見直し、よりよい形に変えていくことが求められます。
もう1点、病院単体で考えるのではなく、地域医療全体を最適にしていく取り組みが必要ではないでしょうか。それが、社会保障費全体の削減等につながっていくと見ています。
──相澤先生は、医療機関の自助努力で医療費等の抑制は可能だと考えておられるわけですね。
相澤 私はそう思っています。たとえば、7対1の病院のなかには、内服薬や食事といったことだけで入院させている期間がまだまだあるのです。それをすべてなくすだけで、私の試算ですが、年間500億円~700億円ぐらいの金額は簡単に出てきます。
そういう意味で、私たちは、まだまだ経営の効率化、生産性の向上を図ることができる余地があるということです。
ただ、実際にそれを行動に移すのは、言葉でいうほど簡単ではないことも理解しています。多くの経営者は「このままではいけない」と思っている。それでも、これまで自分たちがやってきたことを変えるのは勇気が必要です。失敗したわけではなく、それなりに上手く経営してきたのですから。
その気持ちを理解した上で、それでも私たちは、少しでも医療費等の抑制につながるように、経営の効率化等に努めなければならない。それが経営者としての責務です。日本の社会保障が破綻するという大きな衝撃が起きてからでは遅いのです。

“病院総合医”によって
専門医も大きく変わる

──現在、地域医療構想の策定が進められています。そのなかで、特に高度急性期、急性期を担う病院は岐路に立たされているという印象を受けますが。
相澤 病床機能の転換、縮小をしなければならない急性期病院も多く、本当に大変だと思います。なかでも難しいのが、今までの院内の仕組みを変えることです。当院にもいえることですが、実際に、ダウンサイジングをしても、今までの業務の流れを変えることは本当に難しく、また働くスタッフを急に減らすわけにもいきません。結局、500床から400床にしても、これまでと同じような仕事のやり方をすることになってしまう。
ただ、ここを改革するためには、1年では上手くいかず、感覚としては2~3年はかかると見ています。そして、それが上手く機能した時、以前よりも生産性や効率性の向上が期待できる。それまでは結果を焦らず、とにかく新たな業務の流れを回し、その定着に力を入れていくことが大切です。
──200床、300床の急性期病院のなかには、1病棟を地域包括ケア病棟に、1病棟を回復期リハビリテーション病棟に、そして急性期病棟も残すという形を選択するところも増えているようです。
相澤 そういう体制の病院は地域に必要だと思いますが、そうした病院は、高度急性期機能を失うことを自覚しなければなりません。全身麻酔が必要な重症の患者さんの手術はやらない。しかし、そういう患者さんを受け入れて、少し行っているというのが実態です。それでは、質も担保できませんし、地域での役割を考えても非常に中途半端です。
もう1つ、そうした高度な手術等を行わない病院には、専門医は必要ないと私は考えています。そこで必要なのは、総合的に診て、「大病院に転院したほうがよい」「抗生物質の投与でよくなる」などを診断できる総合医です。これは、開業医としての総合医ではありません。適切な入院管理ができる“病院総合医”という意味です。これが病院に定着すれば、日本の医療は効率化されるはずです。病院で勤務する総合医を育てることを推し進めるべきです。
──病院総合医というのは非常に興味深いお考えですね。
相澤 私が考えているのは、米国のように、専門医は手術を行う。手術が終わった後の入院管理は、病院総合医が担う。そして、その総合医が退院に向けた調整をしたり、今後、起こり得る合併症等を未然に防いだり、食事指導を行ったりするわけです。
病院総合医が増えれば、今のような専門医の数はいらなくなります。すると、手術を行う高度急性期病院に専門医が集まり、患者さんも集約化されるということが起こってくると考えています。

“文鎮型組織”で
改革のスピードが劇的に向上

──相澤先生は、理事長就任当初から組織改革を断行して、赤字病院を立て直したという実績をお持ちですが。
相澤 就任当時は、当院が急速に大規模化していた時期でした。病床数が増え、診療科も増えてきたなかで、個々のベクトルがバラバラになっていた。ガバナンスもまったく機能しておらず、各診療科は自由に医療サービスを提供し、それが生産性の低下を招き、赤字経営となっていたわけです。
そのなかで、最初に取り組んだのは、“文鎮型”の組織をつくるということです。当時、私は若かったこともり、決して強いリーダーシップがあるとはいえなかった。そのなかで、リーダーシップを発揮しやすい組織にするためには、各部門、診療科をトップ直轄の形に変える必要があったのです。すべての部門、診療科はトップの指示・命令で動く。各部門等に問題が起きた時は、すぐにトップに上がってくる。こういう組織体制をつくったわけです。
実際、これにより院内改革のスピードが劇的に上がりました。また、私の考えていることと現場の行動の齟齬がほとんどなくなり、バラバラだったみんなのベクトルも同じ方向に合わせることができました。ただ、その結果が出るまでに、各部門の課長と毎月1時間ぐらい話し合う場を設けるなど、私自身、多大な時間と労力を費やしたことは、今でも鮮明に覚えています。しかし、リーダーシップを発揮するためには、部下との会話にどれだけの時間をかけられるかが重要なポイントになることはわかっていたので、それを実践してきたということです。
──当時、診療科が増えていたということですが、その医師はどのように確保されたのでしょうか。
相澤 大学病院等からの支援はほとんどなかったので、自分たちで何とかするしかありませんでした。そこで、1つは、自分たちで全国から中堅以上の医師を集めること。もう1つは、自分たちで医師を育成すること。初期臨床研修制度が始まる前から研修医を募集し、当院で学んでいただき、1人でも2人でも残ってもらおうということをしてきました。医師を確保できなければ、各診療科を活性化することはできないので、この点は戦略的に取り組みました。

「やってみないとわからない」
変革を恐れるな

──これからの病院経営において重要な視点とはどのようなことだとお考えですか。
相澤 まずは、自院が提供する医療サービスを正確に把握することです。現在、どのような医療サービスを提供していて、それは地域のなかでどんな地位を占めているのか、地域のシェア率はどうなっているのか、手術件数は他の病院と比べてどうなのか。そうしたことをデータで正確に把握して、「続けていくのか」「撤退するのか」を意思決定していくことがとても重要になります。
あとは、病院のマネジメントのあり方を見直すことも大切です。人の問題、組織の問題、院内規程やルールの問題などを1つひとつ再確認し、「時代にマッチしていない」「ニーズに合致していない」ということがあれば、そこは勇気を持って変革していくということが必要でしょう。
──これまでのお話を聞くなかで、常に時代やニーズ、状況などに応じて変革していくことの重要性を改めて感じました。
相澤 私のモットーは「やってみないとわからない」です。行動して失敗したら撤退すればいいだけなのです。しかし、ほとんどの経営者は、一歩、踏み出すことを恐れているように見えます。私からすると、一歩、踏み出さなければその先は見えません。
現在、これだけ経営環境が著しく変化し、国は何とか医療費等を抑制しようと動いています。こうしたなかで、これまでどおりの経営を続けることは、“座して死を待つ”と同じです。全国の経営者には、「まずは一歩、踏み出してほしい」と伝えたいです。それでダメなら、新たな方策を考えればいいだけなのです。その決断と勇気を持つことこそが、これからの経営者に欠かせない最も重要な資質だと考えています。
──経営環境が目まぐるしく変化する今だからこそ、経営者は、これまでの既成概念を払拭し、変化を恐れてはいけないわけですね。
相澤 もう1点、経営者が持つべき資質として大事なのは、医師としての誇りや熱意がどれだけあるかということだと思います。その想いが弱ければ、地域の人々に質の高い医療サービスを提供し続けることはできません。
──ちなみに相澤先生は、その精神をどのように育まれてこられたのでしょうか。
相澤 先代の父親の影響が大きいかもしれませんね。私が子どもの頃、病院はまだ小さく、往診を行っていたのですが、その際、父親が私をオートバイの後ろに乗せて、よく患者さんの自宅に連れて行ってくれました。当時は、オートバイに乗ることが楽しくてついていったわけですが、今、考えると、そこで医師としての心構えのようなものを教えられていた気がします。帰り際に、家族が涙ながらに「ありがとうございました」と父親の手を握っているシーンを何度も見ていくなかで、子どもながらに、患者さんや家族の医療に対する感謝の気持ちを強く感じ取ることができました。そして、いつしか「医療というのは素晴らしいものだ」「これを継続し、守っていかなければならない」と思うようになったのです。私の医療者としての原点です。
そういう意味でいうと、医療は日本の文化だと思うのです。米国やヨーロッパにはない、日本独自の優しくて温かい医療の素晴らしさがあります。今、超高齢社会が進展し、財政が厳しくなり、医療費等を抑制しなければならない、そのために医療機関には生産性、効率性が求められている。だからといって、これまでの日本の医療をなかったことにして、ゼロベースで再構築するとういのは論外で、また別の問題を生むことになると思うのです。でも、国が瀕しているわけですから、私たちもできる限り工夫して、地域の人々の要望、想いに応えていかなければなりません。
私たちがこれまで医療を続けてきたのは何のためなのか。この原点を1人ひとりの経営者が見つめ直すことで、おのずと自院が地域のなかでやるべきことが見えてくるはずです。
──本日は貴重なお話をありがとうございました。是非、日本の病院医療のリーダーとして、国民が安心して暮らし続けられる地域医療づくりを期待しています
(平成28年11月29日/構成・本誌編集部 佐々木隆一)


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TEL:0263-33-8600 FAX:0263-32-6763 HP:http://www.ai-hosp.or.jp/
○病床数:460床(入院基本料7:1)
○診療科:内科・呼吸器内科・循環器内科・消化器内科・神経内科・人工透析内科 ・腎臓内科・疼痛緩和内科・糖尿病内科・内視鏡内科・外科・気管食道外科・呼吸器外科・形成外科・歯科口腔外科・消化器外科・小児外科・心臓血管外科・整形外科・脳神経外科・乳腺外科・眼科・救急科・産婦人科・耳鼻いんこう科・腫瘍精神科・小児科・精神科・泌尿器科・病理診断科・放射線診断科・放射線治療科・皮膚科・麻酔科・リウマチ科・リハビリテーション科・臨床検査科

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