経営・労務・法務

30年改定でどう変わるか注目される地域包括ケア病棟の今後

地域包括ケアシステムを支える病床として平成26年に創設された「地域包括ケア病棟」。一方では急性期病院の基準の厳格化などから、同病棟への一部転換も進み、「地域完結型の医療」に逆行するような動きも見られる。平成30年の同時改定において地域包括ケア病棟の方向性が整理されていくことになる。全日本病院協会副会長の猪口雄二氏(医療法人財団寿康会病院理事長)に、地域包括ケア病棟の現状と課題、転換する場合のポイントなどをうかがった。

猪口雄二
公益社団法人全日本病院協会副会長
医療法人財団寿康会寿康会病院理事長

聞き手/
本誌編集委員
佐藤正雄


Inokuchi Yuji
昭和30年生まれ。昭和54年獨協医科大学卒業後、同大学病院リハビリテーション科臨床研修医。昭和61年医療法人財団 寿康会 寿康会病院副院長、翌62年より同財団理事長。
ほかに全日本病院協会副会長、中央社会保険医療協議会委員、地域包括ケア病棟協会副会長などを務める。


本来の役割と異なる側面が
30年改定でどうなるか注目

──地域医療構想のもと病床機能の分化を進める中で、中小病院においては地域包括ケア病棟へ転換するケースが増えていますが、今後この傾向はどうなるのか、転換する際のポイントなど、地域包括ケア病棟について、お話をうかがっていきたいと思います。
猪口 まず地域包括ケア病棟とは何かというと、26年改定で創設され、「病棟」というだけでなく「病床」でもよいものです。正確には「病室」ですね。その目的は、急性期からのリハビリ等の受け入れ(ポストアキュート)が1つ、もう1つは在宅などのいわゆる地域の入院が必要になった人の受け入れ(サブアキュート)、そして在宅復帰を支援するという3つがあります。地域包括ケアシステムをつくっていくにあたり、必要となる機能を形にしたものです。
もともとは全日病で十数年前に「地域一般病棟」を提唱しましたが、それがかなり近い概念です。高齢者入院医療を考えるというところで、地域に根差し、医療資源をたくさん使う急性期ではない入院を主に受け持ち、リハビリテーション機能や連携機能を持つというものです。そういう中で平成16年改定において「亜急性期入院医療管理料」ができ、それと同じような形で地域包括ケア病棟の入院医療管理料となって、そこですでに地域包括ケア病棟の概念がおおむねできあがったといえます。
ですから、当院の場合も、一般病床の中に亜急性期入院管理料をすでに入れていたので、あまり苦労をしないで地域包括ケア病棟に移行できました。地域包括ケア病棟の取得では在宅復帰率や入院期間の制限、データ提出などが必要となりますが、当院の場合はデータ提出が少し大変だったくらいで、済んでいます。ベッド数は、当初は全49床のうち24床を地域包括ケア病床にしましたが、近隣の病院からどんどん紹介があり回らなくなったため、現在は29床に増やしています。
──急性期から地域包括ケア病棟に移行するケースが多いですね。
猪口 中小病院と地域包括ケア病棟という結びつきを先ほど言われましたが、現状は必ずしもそういう形になっていません。26年改定で、7対1の基準が厳しくなり、かなり大きい病院が7対1のベッドが空いてしまうことから、1病棟を地域包括ケア病棟にするケースがとても多い。つまり、自院の急性期から自院の地域包括ケア病棟に回すということになっているので、本来の地域包括ケア病棟の意味合いとは異なっているところがあります。本来は、その地域の患者さんを中心に、他の病院とも連携しながら在宅医療などを下支えする病棟であり、病院全体がどういう位置づけで運営するかということが重要なのです。ところが、大きい急性期病院の一部分となって、地域完結から病院完結に戻るような流れは要注意です。
そういうこともあって、28年改定で500床以上の病床やICU等のユニットケアを持つ病院は1病棟までという制限がついたのはよいのですが、それでもかなり7対1から移ってきているというデータも出ています。
間もなく中医協の入院医療分科会が開かれ、そこではデータ提出によって地域包括ケア病棟の実態が明らかとなる中で次期改定に向けた審議が行われます。地域包括ケア病棟が30年改定でどういうふうに色が変わるのか、ここでおおよそ決まります。
──急性期病院にとって、重症度、医療・看護必要度の要件を加え、7対1の基準を厳格化したのは、けっこう大きいと思います。
猪口 しかし、急性期の病院には重症度、医療・看護必要度が満たない患者さんもたくさんいるわけです。全科の入院がなければいけないということで考えれば、本当は7対1を減らして地域包括ケア病棟にするのではなく、10対1となるところです。だけど、いまは地域包括ケア病棟しかないというのであれば、病棟群制度をもう少し取りやすくして、恒久的な仕組みをつくるべきだと思います。
もう1つあって、7対1の急性期病院が地域包括ケア病棟をつくり、ポストアキュートだけの役目を負わせている場合、回復期リハビリと何が違うのかということが出てきます。この2つは違うものでなければいけないと思っているので、大きい病院がただポストアキュートだけで地域包括ケア病棟を取り出すと、そういう意味からも異なる形になるのです。

地域包括ケア病棟は
連携室とリハビリが肝

──病院も時代に合った形に変わらなければならないわけですが、その中で中小病院にとって地域包括ケア病棟というのは第一の選択肢だと思っているのですが。
猪口 日本は民間の中小病院が多く、これだけ医療も高度化すると、小さい病院で高度な医療をやるのは苦しくなってくるのは間違いありません。救急はそうやって集約され、増えていく高齢者や少し入院が必要な高齢者を受け持つのは地域にある中小病院でいいのではないかという考え方だとしっくりきます。
しかし、病床機能報告制度の高度急性期、急性期、回復期、慢性期にしても、回復期というのは、うまく定義できていません。よくサブアキュートといいますが、よく意味がわかりません。高齢者の入院がある程度の期間必要な状態という定義とすれば、そこを受け持つのは急性期ではなく、回復期の地域包括ケア病棟でよいのかもしれません。しかし、その一方には、そこが急性期で、全部回復期に入れるのはおかしいという考え方もあり、なかなか整理が難しい。といいますか、4つに整理すること自体が機能を考慮した整理ではないので、難しいのです。点数としては、地域包括ケア病棟入院料と入院管理料の包括になっていますが、機能が明らかになったところで議論になるのだと思います。
──地域包括ケア病棟に移行する場合、スタッフの問題もあったりして、ハードルが高いわけですが、重要なポイントとなるのは何でしょうか。
猪口 一番はリハ施設がなければなれません。リハビリは必須で、リハビリのない回復期機能はあり得ませんので、病床を減らしてでもリハ施設をつくったほうがいいと思います。スタッフの問題は、MSWが当然必要で、退院支援や前方支援をやらないと連携も何もできません。連携室とリハビリが肝だと思います。
──リハビリはきちんとやっているところが少ないという話も聞きますね。
猪口 要は、医療の質であって、患者さんに認められる医療でなければなりません。ましてや地域包括ケアの中で在宅に戻さなければいけないわけでしょう。そういう病院に患者さんは行かなくなります。当院の在宅復帰率は90%というところですが、月によっては100%というときもあります。退院支援は入院してきた途端に始めます。
もっと大きな問題としてあるのは、人口当たりの病床数です。人口はだんだん減っていき、いろいろな介護施設がどんどんでき、療養病床も今度は介護施設の一部になったり、特定施設になったりします。人口当たりの病床数はある程度整理されざるを得ません。
──そういう中にあって地域包括ケア病棟のベッド数はどうなるのでしょうか。
猪口 まだ機能分化されていないので、もっと増えると思います。僕の考えでは、7対1というのは本当の急性期の疾患を扱う標準装備で、10対1は軽い急性期、そうすると、13対1や15対1、それから障害者病棟がこれからどういうふうに動いていくのかというのが1つのポイントになるかもしれませんね。つまり、そういうところが地域包括ケア病棟みたいな役割をしてきますから、病院全体がだいぶスリム化されていくということになるのだと思います。
中医協のいろいろな資料を見ていると、とにかくいまは医療費自体が増えていく、その歯止めをかけたいという基本的なスタンスがあるとすれば、今度の30年改定は相当厳しく、病床の区分についてもその方向づけをしていくことになるのではないでしょうか。まさにこれからの議論です。

診療のあり方はもちろん
質が問われている

──地域包括ケア病棟における診療のあり方なども急性期などとは違ってくると思いますが、そのあたりはいかがでしょうか。
猪口 7対1の急性期の医師が、いきなり地域包括ケアでリハビリのことを考え、在宅に復帰することを考えるといっても、慣れていませんから難しいわけです。地域包括ケアでやるのであれば、それなりの知識とやり方をきちんと持たなければいけません。そうすると、それができるドクターがいるかどうか、これが大きな要素になります。
そのドクターというのは、日医でいうとかかりつけ医、診療報酬でいうと地域包括診療料。特に高齢者ですから、ある程度、総合的に診てあげることが必要で、入院でもそういう形が絶対必要なのです。だから、それをやるのは急性期の科別の世界ではなくて、地域包括ケア病棟で全般的に診られる医者がいるということが一番重要になるのです。
たとえば、糖尿病でインスリンを使っている人がたくさんいます。そういう中で、血糖値がよければいいという考えだけではだめです。独居に帰さなければいけない場合もあるし、認知症もある。そうなれば内服薬でどこまで調整できるのか、仮にインスリンを打つとしても、ヘルパーや訪問看護はどこまで看てあげられるのか。そういうところまで視野に入れなければいけません。
ほかにも、高齢者に薬を出す場合はできるだけ1日1回に絞ってあげるとか、なおかつ、デイサービスを使って、体力と気力を維持させられるような、そういう持っていき方をしなければいけないのです。そこは、年齢、その人の状態にふさわしい医療で、どうすれば本人にとっても、家族にとっても、周りにとってもハッピーになるか。そういうことを考えてあげるのが地域包括ケア病棟です。
──都市部の中小病院の状況はいかがですか。
猪口 都市部はどうかというと、実は都内の100床以下の中小病院は減り続けています。統計で東京都のベッド数別の病院数を見ると、圧倒的に減っているのが100床以下なのです。病院はどんどん厳しくなり、人をどんどん増やさなければ加算がとれないし、高度な手術などやりたいこともできない。ですから、小さいところは苦しいと思います。ただ、都市部ではさまざまな機能を持つ病院がそれぞれあります。高度な手術は急性期の病院と連携、そのあとは他の地域包括ケア病棟で診るというような連携がしやすいという側面があると思います。
──地方では慢性期の患者中心の中小病院でも、地域包括ケア病棟に移行したケースもあるように聞きましたが。
猪口 療養から地域包括ケア病棟へは、数パーセントしかまだありません。それは非常に厳しい。人も増やさなければなりません。病棟丸ごとではなく、入院医療管理料でもいいのですが、一部を地域包括ケア病床に持っていくためには最低13対1の看護師が必要です。療養だから医師の数は48対1でいいのですが、看護師が非常に厳しい。
──データの関係も厳しいということを聞きましたね。
猪口 療養の部分のデータ提出もしなければいけなくなる。これは厳しいです。ただ、「地域包括ケア病棟入院料2」は、在宅復帰率が要件から外れていますので、しばらくは2に行って、データをきちんとつくって、1に行くという方法はあるでしょうね。この場合もいまの点数設定での話なので、今後どうなるかわかりませんが、いずれにしてもハードルは高いと思います。
──猪口先生の病院では、いまの29床から今後、もう少し増やすということはあるのでしょうか。
猪口 どうでしょう。それこそ地域包括ケア病棟の診療報酬によってくるのではないでしょうか。現状だと、どうしても一般病床に入れて落ち着いてから地域包括ケア病床に回さないとなりません。ちょっとした骨折とか直受けもしますけれども、基本的にはまず一般病床で受け入れ、必要があれば地域包括ケア病床に移すというふうにしなければ、ちょっと厳しいですね。
よく講演のときに言うのですが、地域包括ケア病棟は同じ点数だから極力検査もしない、リハビリも必要最小限という運営の仕方をしていたら、データに全部反映するので、それこそ「地域包括ケア病棟の明日はない」ということになります。必要なことは包括の点数の中で全部やらなければいけない。それは当然、利益率は下がるけれども、それが課せられた命題だと思うし、将来を考えたらそこはきちんと行わなければなりません。

「何がよいのか」を
きちんと考えられること

──最初のところで、病院全体の位置づけを決めることが大事だという話がありました。そこは、患者数やどういう疾患が多いのか等を把握して位置づけを決めるということですね。
猪口 たぶん、その疾患の発生率が地域によって、年齢によって違うのかというと、そんなに大きくは違わない。むしろ高齢者になったら当然増える疾患というのがあって、それにどう対応するかということだと思います。認知症の場合は診ないというような急性期病院ではだめです。多くが高齢者なのですから。
──高齢者のことがよくわかっている医師に変わっていかなければ、病院自体が成り立たなくなるということですね。
猪口 そう思います。世界的に見れば、アメリカもイギリスもまず全科を診れるように、いわゆるGeneral Physicianや家庭医がいて、あとは専門が必要な場合に、専門に分けていくというのが一般的だけれども、日本は下まで専門になってしまっている。そこは横割りの医療をわかっているドクターが増えないと、医者をいくらつくっても足りなくなります。
家庭医とか、プライマリケア医を教育している専門医の人に聞けば、「プライマリケア医がいればすべての疾患の8割がそこで終わる。専門医に回さないとできないのはもう2割だ」と言います。
終局的には、地域包括ケア病棟というのは、そういう診療の仕方ができる医者がいて、そういう入院ができて、なおかつ、高齢者にとって何がよいのかをきちんと考えてあげられるということなのだと思います。
(平成29年1月24日/構成・本誌編集部柿崎法夫)

セミナーのご案内

運営組織のご紹介

TKC全国会医業・会計システム研究会 (略称:TKC医会研) は、TKC全国会の中でも特に医業・会計に精通した約1,800名の会員により構成されており、約23,000件の病院・診療所の健全経営をご支援させていただいております。