経営・労務・法務

「介護医療院」への転換には迅速な意思決定が求められる

介護療養病床や25対1の医療療養病床が廃止されるなど、経営環境が大きく変化している慢性期病院。廃止にともなう転換先として「介護医療院」の動向に注目が集まっている。これからの療養病床はどのような方向に進むべきか。日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長(医療法人池慶会池端病院 理事長・院長)に話をうかがった。

池端幸彦
日本慢性期医療協会 副会長


聞き手/
本誌編集人
石川 誠


Ikebata Yukihiko
医療法人池慶会池端病院理事長・院長、社会福祉法人雛岳園理事長。1955年、福井県越前市生まれ。1980年慶應義塾大学医学部卒業後、同大学病院一般消化器外科勤務を経て、1986年池端病院副院長、1989年より現職。主な役職は日本慢性期医療協会副会長、中医協 入院医療等の調査・評価分科会委員、日本病院団体協議会診療報酬実務者会議委員長、日本医師会代議員、福井県医師会副会長、福井大学医学部臨床教授 他。介護支援専門員、認知症サポート医。


行き場のない患者を支える
新たな施設「介護医療院」

──今国会で、介護保険法等の一部を改正する法律案が可決され、「日常的な医学管理」や「看取り・ターミナル機能」と「生活施設」としての機能を合わせ持つ「介護医療院」が創設されようとしているわけですが。
池端 従来、介護療養病床には、本当は自宅に帰ることができるのにもかかわらず、何らかの事情で入院生活を続けなければならない患者さんがたくさんいるといわれてきました。財政逼迫のなか、医療費削減などの観点からこのままではいけないということで、約12年前にその廃止が決まりました。
しかし、介護療養病床が不要だといい切れるのか。確かに、12年前は社会的入院といわれる患者さんが一定数、いたかもしれません。しかし、今や医療が必要な患者さんで溢れています。
現在、医療療養病床に入院する患者さんの多くは、医療区分2・3の重度の方です。20対1では、その割合が8割以上と定められ、25対1でも5割以上が要件となっています。では、介護療養病床が受け入れている医療区分1の患者さんはどのような方なのか。
たとえば、がん末期で食事ができない、点滴が必要、肝硬変の末期で黄疸が出ている、喀痰吸引1日7回以下となります。何かしらの医療が必要な方で、急性期病院にも入院できず、医療療養病床にも入院できない。そういう方を受け入れている介護療養病床を廃止すれば、多くの患者さんが行き場をなくしてしまうでしょう。その対応として、「介護医療院」(参考①)が新たにつくられたわけです。

介護医療院への転換を見据え
今から準備することが大切

──介護医療院の具体的な施設基準については、政省令で定められます。また、その報酬についても、2018年度診療報酬・介護報酬同時改定の点数が明らかにされる来年2月頃にわかると思います。現時点では、まだまだ見えていない部分が多いですね。
池端 現在までの情報を見る限り、現状の介護療養病床の、重度療養加算「A・B」に該当する患者さんが8割以上の場合は「Ⅰ」、その該当者が少ない場合は「Ⅱ」となるでしょう。今の介護療養病床とほぼ同じ施設基準が介護医療院の「1-Ⅰ」「1-Ⅱ」(参考②)になっているので、ここに移行するケースが多いと思います。「2」(参考③)というのはサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)並みのものですから、もっと軽い患者さんの場合です。
いずれにせよ、今さら廃止や転換に反対してもどうしようもありません。とにかく転換の準備を今から進めておくこと。厚生労働省では今後、条件を詳細に詰めていく作業に入りますが、当協会としては、今提示されている介護医療院の施設基準を厳しくすることは避けてほしいと伝えています。
ただし、今までは介護療養病床を持っていたら、いつでも医療療養病床に転換することができましたが、介護医療院は施設です。“病院ではなくなる”ので、移ったら二度と病院には戻れません。それをどう決断するかということになります。
──病院ではありませんが、医療は提供されるということで、なかなかイメージしにくい形になりますね。
池端 端的には、医療を提供する介護施設です。100床当たり医師3人が配置されるという基準を残したまま、介護施設と位置付けるのは画期的です。また検討部会の会議では、転換した場合に限って、従来の病院名はそのまま残してもよいことになっています。
──病院ではなくなる以上、転換するかどうかの意思決定は、医師としてはなかなか難しいことのように思いますが。
池端 確かにそのとおりですが、現実問題として何らかの病棟に転換するしかないのです。実際、医療療養病床への転換も選択肢としてありますが、そんなに簡単ではありません。25対1については、経過措置が今後認められるとしても、同時改定でさらに厳しい報酬改定も予測されます。
転換のイメージとしては、医療療養病床に重度(医療区分2・3)の患者さんをある程度集めて、それ以外は介護医療院にする。そういう形を取る病院が多いのではないでしょうか。
今の介護療養病床と同等以上の報酬となれば転換は進むでしょう。報酬面から転換を後押しすることが必要です。
──転換を進める上での留意点としてどのようなことが考えられますか。
池端 介護療養病床の経過措置期間が6年間、延長されましたが、それをギリギリまで待っていては手遅れです。
介護医療院は、介護保険法の本則に定められた新しい施設です。介護療養病床の転換だけに絞った限定法ではありません。つまり、新規参入も認めているのです。
今のところ厚労省は転換を優先する意向を示していますが、それが6年間続くのかといえばそうではないでしょう。本則である以上、たとえば、「3年後には新規参入を認める」ということになってもおかしくありません。そうなった時、一気に競争が激しくなります。しかも、これは介護保険法で定められた介護保険施設ですから、平成30年度からの市区町村の第7期介護保険事業計画に盛り込まれ、施設数も計画に織り込まれていく。新規参入が入ってきてその枠を満たしてしまえば、いざ転換しようとした時には認められないことも考えられます。
──転換のタイミングについてはどう考えておられますか。
池端 同時改定で報酬が決まっても、1年、2年は、いろいろなことが変わる可能性があるので、私はタイミング的には、3年以内の転換がベストだと考えています。3年以内に決断できなければ、もっと選択肢の少ない決断をしなければならなくなります。それは利用者にとっても、患者さんにとっても、職員さんにとっても、法人にとっても不幸なことです。
また、25対1の医療療養型病床にとっても同じことがいえます。やはり3年以内に20対1や地域包括ケア病棟などへ移行、あるいは介護医療院等へ転換するための体制づくりに今から取り組んでいくことが重要だと思います。

20対1が取り組むべきは
リハビリと在宅復帰機能の強化

──20対1の医療療養病床の今後の方向性についてはいかがですか。
池端 20対1の医療療養病床は、療養病床といえども、医療機能を高めて、一定程度の急性期医療、亜急性期医療も含め、医療をしっかり提供できる体制を整えるべきです。急性期病院にはないリハビリテーション機能を高め、それを地域の介護事業者としっかり連携をしながら、最終的には在宅復帰を目指していく。つまり、リハビリテーション機能と在宅復帰支援機能の強化がキーワードです。
──リハビリ機能や在宅復帰支援機能を高めるためには、具体的にどういうことに取り組んでいくべきでしょうか。
池端 リハビリスタッフを手厚く配置することに尽きます。また、それを在宅復帰にまでつなげないと意味がありませんから、しっかりと地域連携室や退院支援室を設置する、あるいは専門の担当者を決めるだけでもよいかもしれませんが、とにかく地域とスムーズに連携が取れる体制を整え、患者さんを地域に帰していく。そういう流れを確立することです。
──患者さんのなかには、症状が重くてどうしても地域に帰れないという方もおられると思いますが。
池端 あくまでも医療療養病床は可能な限り治療をして在宅に帰すための病院ですが、最終的に看取らなければならない場合は、その方の人生の最期をいかに尊厳をもって看取っていくか、家族支援とかそういうことも含めて取り組んでいく。看取り機能を持つということも大事な役割になります。厚労省も療養病床に看取り機能を担ってほしいという趣旨のことを示しています。
看取り機能を高めるには、医師・看護師以外の多職種が求められます。管理栄養士もそうでしょう、ケアマネジャーとの密な連携も必要です。ある程度の多職種を病棟に配置することが必要です。

医療区分割合の見直しや
多職種の配置基準の設定も

──2018年度診療報酬・介護報酬同時改定が控えていますが、慢性期医療に関する方向性についてはどのように見ておられますか。
池端 注目しているのは、まず療養病床の医療区分割合を変えるのかどうかということ。また、7対1から25対1まで、今は看護配置基準だけですが、そこに多職種の配置についても定めるという話が出ていることです。
あとは、療養病床といっても長期入院するようなことがないように、もしかしたら平均在院日数の縛りが入ってくる可能性もあります。少なくとも平均在日数が短かったら加算がつくなど。
なかには、「平均在院人数の縛りが入るなんて…」と思う経営者もおられるかもしれませんが、医療療養病床に残るというのは、医療の質が求められると同時に、アウトカムも求められるということです。それだけの覚悟が必要なのです。それでついていけないという場合は、介護医療院に転換するしかないと考えています。
──先ほども少し触れていただきましたが、介護医療院の介護報酬についてはいかがでしょうか。
池端 おそらく今の介護療養病床と同等か、もう少しインセンティブがつくのではないかと見ています。しかも、現案の介護医療院は入所者1人当たり8㎡/床(1-Ⅰ・1-Ⅱ)、13㎡/床(2)との基準が出ていますが、経過措置で大規模改修をするまで6.4㎡/床でも認められる。こういう経過措置があるのは、介護療養病床が応援されている証拠です。早く移行して、少しでも高い報酬で早く償却してくださいというメッセージでもあるのです。

慢性期医療が元気でなければ
日本の医療は成り立たない

──ちなみに池端先生が経営する池端病院は、20対1と介護療養病床をお持ちですが、今後、どのような方向に動く予定ですか。
池端 当院は介護療養病床と医療療養病床の混合病棟で経営していますが、現在は地域包括ケア病棟に移行しようと13対1の体制としています。昨年、移行しようと思って、DPC加算も取り、看護師も集めたのですが、申請段階で、正看比率7割以上という基準を満たしていなかった。あと2人ほど夜勤ができる正看が足りなかったのです。地方なのでなかなか確保することが難しいのですが、でき次第、移行する計画です。
──療養病床から地域包括ケア病棟への転換は理想の形ですね。
池端 1病棟30床という小規模病院ですが、計画では11床を地域包括ケア病棟にして、19床を20対1に残します。そうすれば、地域包括ケア病棟から在宅に帰し、60日以内では帰すことができない人は療養病床でみることができます。
──池端病院の他にも、訪問看護ステーションやヘルパーステーション、通所リハビリ、デイサービスなど、介護事業も幅広く展開されておられますが。
池端 こうした在宅支援機能や介護機能がなければ在宅復帰ができないのです。もちろん、地域のなかにあるさまざまな事業者と連携を取ることもありますが、特に医療必要度が高い患者さんを地域に帰す場合は、ある程度、医療のことがわかっていなければ難しい側面があります。たとえば、気管切開した患者さんでもうちのデイサービスなら利用できます。
私たちは、この体制を「医療介護福祉ミニ複合体」と呼んでいますが、これがあるからこそ、当院の平均在院日数は64日(平成28年度実績)ぐらいで回していけるということがあります。全国の医療療養病床の平均在院日数が250日程度であることを見ても、うまく機能しているのではないかと考えています。
──最後になりますが、慢性期病院の経営者にメッセージなどがありましたらお願いします。
池端 超高齢社会を迎えた今、在宅を含め全体の7~8割の患者さんは慢性期医療を必要としています。そのなかで、私たちが“元気”でなければ、日本の人々を支えられないと思うのです。私たちが良質な慢性期医療を提供しなければ日本の医療は成り立ちません。事実、地域包括ケアシステムでは、医療機能がなければその実現はあり得ませんが、その医療機能の中心は急性期医療ではなく慢性期医療です。慢性期病院がしっかりとその役割を果たすことで、上手く機能させることができる。そういう気概を持って日々、地域医療に邁進していただきたいと願っています。(平成29年5月31日/構成・本誌編集部佐々木隆一)

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