経営・労務・法務

これからはアウトカム評価の時代個々のニーズに応え結果を出すこと

厚生労働省の「医療計画作成指針」等に基づき作成される新たな「第7次医療計画」が2018年度からスタートする。同年度には、診療報酬・介護報酬同時改定も控え、医療機関、介護事業者等にとっては大きな変革の年とも言える。こうした環境変化に適切に対応するために、経営者にはどのような視点、考え方が求められるのか。東京大学政策ビジョン研究センターの尾形裕也特任教授に話をうかがった。

尾形裕也
東京大学
政策ビジョン研究センター
健康経営研究ユニット
特任教授

聞き手/
本誌編集委員
丹羽 篤

Ogata Hiroya
1952年兵庫県神戸市生まれ。東京大学工学部、経済学部卒業後、1978年厚生省入省。1981年からOECD事務局(在パリ)出向、1986年厚生省保険局国民健康保険課課長補佐、1989年在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官を務める。2001年より九州大学大学院医学研究医療経営・管理学講座教授。2013年より九州大学名誉教授、東京大学政策ビジョン研究センター特任教授。
主な著書に『病院経営戦略論』(日本医療企画)、『志なき医療者は去れ! 岩永勝義、病院経営を語る』(マスブレーン)等がある。


ようやく医療計画上でも
医療と介護の連携が可能に

──都道府県では2018年度から新たな「第7次医療計画」が、スタートするわけですが。
尾形 医療計画とは、地域医療の効率化・体系化を図り、日常生活圏で必要とされる医療を確保することを目的に都道府県が作成するものです。1985年の医療法改正で創設されてから5年ごとに見直されてきたわけですが、そのなかでも内容が大きく変わったのは、2008年の「第5次医療計画」です。
それまでの医療計画は、端的にいえば病床規制のためのツールでした。しかし、「第5次医療計画」では、4疾病(がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病)5事業(救急医療・周産期医療・小児医療・へき地医療・災害医療)を中心に機能分化と地域連携を図っていくことが定められたわけです。さらに、4疾病5事業について、具体的な定量的目標値を設定し、PDCAサイクルを回して、5年後に達成できているかどうかをきちんとチェックすることになった。これが「第5次医療計画」のポイントで、この点は「第7次医療計画」でも引き継がれています。
その後、2013年に「第6次医療計画」が策定されました。基本的には「第5次医療計画」の内容を踏襲しているのですが、そのなかで着目すべき見直しは、これまでの4疾病に精神疾患を加え、5疾病5事業にしたことです。認知症やメンタルヘルスの問題が与える社会への影響を鑑み、対応することになったわけです。
そして、もう1点が在宅医療です。それまでも医療計画には、在宅医療についての記載がありましたが、「第6次医療計画」からは、その取り組みを強化していくことになり、5疾病5事業と同様に、定量的目標値を定め、PDCAサイクルを回して管理していくことになりました。
──今回の「第7次医療計画」の特徴はどのようなところにあるのでしょうか。
尾形 基本的には「第6次医療計画」の内容を引き継いでいるわけですが、そのなかで変更点をあげると、まず1つ目は、今年の3月末にすべての都道府県で策定が終了した「地域医療構想」が盛り込まれる点です。
2つ目として、「1期5年」から「1期6年」に変更されることです。これは、昨今、医療と介護の連携の重要性がいわれるなかで、従来までの「1期5年」では、「1期3年」とする「介護保険事業(支援)計画」との整合性がなかなか図れないためです。これに関連し、医療計画は中間年である3年目で、介護に関わる部分を中心に見直し、「介護保険事業(支援)計画」との整合性を図ることになります。ようやく医療と介護の連携が、計画上でも“連携”がとれるようになることがポイントと言えます。

クリニックは在宅医療と
プライマリケアの強化が大事

──「第7次医療計画」では、「ロコモ」や「フレイル」などの対策について盛り込まれるとの情報もあり、注目していましたが。
尾形 厚労省の「医療計画の見直し等に関する検討会」のなかでは、5疾病5事業並みにその取り組みを強化すべきだという意見もありましたが、結果的に今回は見送られました。そういう意味で、今回は医療機関や介護事業者等は、このことに関して過剰に捉える必要はありません。ただし、そういう言葉が用語として盛り込まれたことは事実です。厚労省医政局長の通知のなかでも明示されているので、「ロコモ」「フレイル」を中心とした疾病予防等に対応する体制づくりに取り組むことは必要ですし、それは地域の高齢者ニーズに応えることにもなると思います。
──実際、「第7次医療計画」によるクリニック経営への影響をどのように見ておられますか。
尾形 着目すべきは「地域医療構想」が盛り込まれていることです。クリニックの経営者のなかには、「地域医療構想」を病院や有床診療所の話だと思っている方が見受けられますが、そうではありません。無床クリニックや介護事業者等にも影響はあります。
確かに「地域医療構想」の主旨は病床機能の分化、確立です。しかし、それとは裏表の関係で、在宅医療の重要性も打ち出されているのです。この“在宅”とは、“自宅”という狭い意味ではなく、介護施設や居住系サービス等も含まれます。この在宅医療をより強化していくということは、それを担うクリニックや介護事業者等にその取り組みがさらに求められることを意味します。
もう1つ大事なこととして、プライマリケア機能の強化があげられます。「地域医療構想」を通じて高度急性期と急性期、回復期といった機能を明確化し、必要病床数に収束させていくためには、プライマリケアの担い手であるクリニックが機能しなければなりません。最初にクリニックで診て、そこから病院に紹介するというシステムが確立されないと地域医療全体が機能しないことになります。

地域でのポジショニングの
一層の見極めが求められる

──他方、病院経営への影響についてはいかがでしょうか
尾形 誤解してほしくないのは、「地域医療構想」は、そこに示された必要病床数に必ず持っていかなければならないというものではないということ。現状の医療資源の投入量ではこういう状況だが、それを2025年の人口に合わせるとこういう病床構成になるということを示しているのです。
つまり、「地域医療構想」や「医療計画」で、その地域のすべての病床機能の将来像をしっかり把握し、そのなかでの自院の役割、ポジショニングをきちんと見極め、そのための体制をつくることが大切です。さらにいえば、2025年はあくまでも高齢社会や人口減少社会の“入口”であり、その後を見据えた自院のあり方を今からしっかり考えていく必要もあります。
──特に病院は地域でのポジショニングを明確化し、経営資源をそこに集中的に投資していくということが重要になるわけですね。
尾形 地域でのポジショニングを考える上では、2つの視点を見極める必要があります。
1つは自院では何ができるのか。自院の能力です。2つ目は地域では何が求められているか。地域ニーズです。この2つの視点からポジショニングを決めていくことが重要になります。どちらか片方だけでは機能しません。いくら地域ニーズが高くても自院に能力がなければ応えられませんし、逆に能力はあってもニーズがなければ意味がありません。

多死社会の進展で
重要性が高まる「QOD」

──介護事業所等への影響についてはどのように考えますか。
尾形 在宅は“自宅”だけを指すものではないということを認識することが大切です。
すると、在宅サービスを展開している介護事業者等は、従来の自宅に対するサービスの提供と同時に、施設や居住系サービスなどへのサービス強化がより一層、必要になってくると思います。
また、介護事業者等にとって大きく影響を受けるものとして介護医療院の創設があります。
1つは老健との関係です。老健はもともと中間施設としてつくられました。いわば在宅復帰のための施設です。しかし、現状、その役割が曖昧になっています。
そのなかで、介護医療院はある意味では老健と性格が同じなのです。どういうことかというと、介護医療院の条件には「病院ではないこと」「医療法でいう医療提供施設であること」「介護保険施設であること」という3つがあり、これは老健と共通です。
では何が違うのかといえば、介護医療院は看取りまで行う施設であるということです。つまり、老健は在宅復帰のための施設であるという本来のミッションに立ち返らなければ、その存在意義が失われることになります。逆を言えば、老健が本来の役割を担うようになる契機になると見ています。
2つ目は、「特別養護老人ホーム」への影響が非常に大きいということです。すべての特養がそうではありませんが、多くの特養はずっとケアをして、最期に病院に入院させてしまう。ところが介護医療院は看取りまでを行うので、入所者やその家族から見た時に、どちらのほうが魅力的かと言えば、やはり看取りまで行う介護医療院だと思います。
今後は、老健は別として、看取りに対応しない施設系サービス、居住系サービスは、経営が難しくなるのではないでしょうか。地域ニーズからも淘汰されていく可能性は高いと思います。
──今後、介護施設には看取り機能が求められるということですが、先生は以前から、QOD(Quality of Death)の重要性を説かれています。この点は介護施設だけでなく、病院、さらには在宅医療を提供するクリニックにとっても大事な視点ですね。
尾形 これからの日本は多死社会です。従来は医療でも介護でもQOL(Quality of Life)が重視されました。それは変わりませんが、これからはQODという考え方も重要になってきます。
日本では今までQODについてはあまり議論がされてきませんでした。ところが先進諸国を見るとQODが重視されているのです。
英国の雑誌「The Economist」で2010年と2015年の2回、世界各国のQODを比較し、ランキングを発表しています。1回目の2010年は、日本は40か国中20番台と低く評価されました。2015年は80か国中で14位と少し上がりました。ただ、「日本の医療は世界一」といわれる状況とは乖離がある結果となっています。
評価が低い要因として、ターミナルケア、緩和ケアにおけるペインコントロール、いわゆる医療用の麻薬の使用量が先進国のなかで低いことも関係します。従来、ペインコントロールのスキルを持った医師等が日本では少なかったことがあげられます。近年、そのスキルを持った医師がだいぶ増えてきましたが、これからの医療の方向性として、この点は重視していかなければならないと思います。

アウトカム評価を
意識したサービス提供を

──「第7次医療計画」は来年度の診療報酬・介護報酬同時改定にも影響すると思います。見えていない部分もありますが、その方向性をどのように見ていますか。
尾形 方向性ということでいうと、まず、「地域医療構想」「第7次医療計画」と整合性をとる形で同時改定が行われるのは確かです。
だだし、ここであえて言わせていただくと、地域医療構想や医療計画は、予算が確保され、医療法に規定された上で進められるものです。医療法を改正しない限り、変わりません。
一方、診療報酬改定というのは、語弊があるかもしれませんが、大臣告示なので、フレキシブルな制度なのです。つまり、ある年度の診療報酬改定で評価されたからといっても、それがいつまで続くかはわかりません。
診療報酬も介護報酬もそうですが、そのぐらいフレキシブルなものだと捉えるべきであり、あまり報酬改定を軸に経営を考えるのはよくありません。もちろん、現行の診療報酬のなかで最も有利なところを算定できるよう工夫するというのは経営者として当然の行動ですが、振り回されてはいけないということです。むしろ、地域医療構想や医療計画を確認し、長い目で戦略を立てていくことを優先する方がよいと思います。
その上で、1つ申し上げると、報酬改定の議論のなかでは、よく「ストラクチャー」「プロセス」「アウトカム」という話があがります。これまでの診療報酬はどうしてもストラクチャーとプロセスが中心でした。ストラクチャーというのは、7対1看護などがそうです。看護師がどれだけいるかで評価する。プロセスだったら、連携パスをつくっているなどで評価する。これらも大事なことですが、報酬上は、本来はアウトカムで評価したいのです。ただ、それは難しかったので、いわば“代理指標”としてストラクチャーやプロセスを使ってきました。
しかし、データ収集と分析の発展により、少しずつアウトカムで評価できるものが出てきました。そこは経営者は意識したほうがいいと思います。ストラクチャー、プロセスが中心なのは事実ですが、アウトカムに着目する部分が広がりつつあるということです。
診療報酬がこうした流れにあることを踏まえると、「こういうアウトカムを改善したので評価してほしい」ということを医療機関や介護事業者から発信していくという形になるのが理想だと思います。先にお金ありきではなく、アウトカム改善とか、これだけ効果があるのだということを見せていく。それが大事だと思います。
──来年度は医療機関にとっては大きな変革の年と言えると思います。最後に、経営者へのメッセージなどがありましたらお願いします。
尾形 病院もクリニックも介護事業者等も、地域でどういう役割を担うのかという、まさにポジショニングが問われています。このポジションさえ間違わなければ、経営上、過剰に心配する必要はありません。この点は他の産業とまったく違うところです。環境変化こそ厳しいですが、医療や介護が成長産業であることに変わりはありません。(平成29年10月19日/構成:本誌編集部・佐々木隆一)

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