経営・労務・法務

多職種連携で“面”で支える体制づくりの改定

2018年4月には診療報酬・介護報酬の同時改定を控え、病院やクリニック、介護事業者等にとっては大きな環境変化の年と言える。今回の同時改定によって医業経営はどのように変わるのか。診療報酬・介護報酬の専門家で、医業経営コンサルタントの細谷邦夫氏に、今改定の基本方針や中医協での議論経過を踏まえ、その方向性と影響について解説いただいた。

細谷邦夫
㈲メディカル・サポート・システムズ
代表取締役社長

聞き手/
本誌編集委員
丹羽 篤

Hosoya Kunio

大学を卒業後、湘南鎌倉病院(現在・医療法人沖縄徳洲会湘南鎌倉総合病院)に入職し、総務課・医事課外来・入院係主任等を歴任。その後、一般企業等での勤務を経て、平成14年に有限会社メディカル・サポート・システムズ代表取締役社長に就任。豊橋創造大学短期大学部医療事務ユニット専任講師、豊橋創造大学産業・政策研究所客員准教授等を歴任。世田谷区医師会レセプト点検アドバイザー、日本医業経営コンサルタント協会神奈川県支部副支部長、東京医科大学保険診療委員会外部委員。


医科・歯科・薬局・介護の
連携が求められている

──2018年度診療報酬・介護報酬同時改定における改定率は、診療報酬本体がプラス0.55%、介護報酬がプラス0.54%で決着しましたが、そもそも今改定の特徴について先生はどのように見ておられるのでしょうか。
細谷 今改定の基本方針を見ると、診療報酬、介護報酬ともに、在宅サービスを中心とした地域包括ケアシステムの構築、そして地域連携がキーワードになっていると考えています。
そして、地域連携については、これまでの診診連携、病病連携、病診連携だけでなく、医科・歯科・薬局・介護の連携が求められます。これまでもその重要性は言われていましたが、多職種が本当の意味で密に連携し、患者や高齢者等を“点”ではなく“面”で支える地域づくりに本格的にシフトしていくということです。
もう1つ、病院とクリニックに共通していることとして、「経済財政運営と改革の基本方針2017」(骨太方針)にも関係していますが「ICT(Information and Communication Technology)の活用」があげられます。ICTで地域診療ネットワークを構築し、地域連携を促進する方針が示されています。たとえば、今までは、みんなが実際に集まってカンファレンスなどを行ってきましたが、それをテレビ会議などでも可能なような仕組みにする話があがっています。
また、ICTの活用に関連し、遠隔診療がしっかり評価される見込みです。これはクリニックにおける今改定の1つの目玉になるのではないでしょうか。
──同時改定ということで医療と介護の整合性を合わせることができるのも今回の大きなポイントになりますね。
細谷 そのとおりです。主なところでいうと、たとえば、前回の診療報酬改定では、在宅医療に「単一建物診療患者数」という考え方が入ってきましたが、それが今改定では介護にも盛り込まれる方向です。
また、それに関連し、「看取り」についても、医療だけでなく介護でも積極的に行うことができるようにする流れにあり、前回の介護報酬改定では、グループホームをはじめ多くの施設で看取りの算定が拡充しましたが、今改定では特別養護老人ホーム等の入所者に対して、外部の医療機関や訪問看護ステーションがターミナルケアを含む往診・訪問診療等を提供した場合、施設の体制に応じて、ターミナルケアに係る診療報酬等の算定を可能する議論が出ています。

在宅医療に関する改定が主
遠隔診療の取り組みも評価

──今改定にともなうクリニック経営への影響等について教えてください。
細谷 現時点の情報になりますが、クリニックについては、初・再診料が改定されるわけではないので、それほど大きな変動はないと考えています。
そのなかで、留意したいのは在宅医療を提供するクリニックです。今までの「在宅患者訪問診療料」や「在宅時医学総合管理料」は1人の医師しか算定できませんでしたが、複数の医師が算定できる方向で議論が進んでいます。内科医が在宅患者を中心的に管理することは変わりませんが、たとえば、在宅で褥瘡の治療を行う皮膚科医なども算定できるようになるわけです。1人の患者に対して複数の医師が在宅で関わることができるような仕組みがつくられようとしていて、ここでも連携重視の方向性が表れていると思います。
ただし、複数の医師が関わることになるので、その点数は下がるのではないでしょうか。そういう意味では、在宅医療を行う内科医にとってはマイナス要因になるかもしれません。
あとは、在宅医の負担軽減の一環として、在宅酸素療法の遠隔モニタリングが点数化される方向にあります。
在宅医療での遠隔診療の取り組みを評価し、それがより活用されるように誘導しようとしているわけですが、今、実際に遠隔診療を実施しているクリニックを見ると、都心の忙しいビジネスマンを対象にしているところがほとんどです。医療の効率化につながると言われる遠隔診療が今改定で在宅医療にどこまで浸透していくかは注目したいところです。
──今後はニーズの高まりもあり、クリニックは積極的に在宅医療に取り組んでいかなければならないのでしょうね。
細谷 開業して10年ぐらいは、在宅医療に取り組みたくてもなかなかその余裕がないというのが現状でしょう。ただ、20年目を迎える頃には外来患者も高齢化し、自分で通院することが難しくなります。その時に、在宅医療に対応しているのかどうかで経営は大きく違います。そこは自院の患者の高齢者割合等の状況と院長の方針を照らし合わせながら、しっかり意思決定したいところです。また、仮に在宅医療を提供しないとしても、高齢の患者が来院しやすいようにバリアフリー化するなどの設備投資は必要となります。そのことまでを含めてどうするのかを検討しなければなりません。

薬局との連携を評価
日頃からの関わりが重要

──高齢社会の進展にともない認知症への取り組みも重要となっていますが。
細谷 認知症は専門性が高く、一般のクリニックですべてを対応するというのは難しい。近隣の適切に診断・治療ができる医療機関、あるいは認知症を積極的に受け入れる介護事業者との連携がポイントになります。
この点については、介護報酬改定において認知症の患者を積極的に受け入れる事業者に加算がつく方向で進んでいます。
──前回の診療報酬改定では病院においてアウトカム評価が入りましたが、今改定では、少なからずクリニックにも盛り込まれるのでしょうか
細谷 今回は、介護報酬改定において、リハビリテーションに対するアウトカム評価が拡充されるようですが、クリニックについては、もう少し先の話になるのではないでしょうか。
とはいえ、今これだけ電子カルテが普及して、2020年には支払基金の審査システムの入れ替えも予定されています。それにともない、レセプト審査がAIで行われる時代が到来すると、疾病の分析が簡単にできるようになるので、遠くない将来にはクリニックでもレセプト分析からアウトカム評価が行われる時代になると思います。
──その他、クリニック経営に関係する改定のポイントとしてどのようなことがあげられますか
細谷 中央社会保険医療協議会(中医協)の議論のなかで、歯科との連携について、診療情報の提供に加算をつけるべきではないかという話題があがりました。
歯科は医科と密に連携したいと考えています。たとえば、入れ歯や金属によるアレルギー症状が出た場合、その検査は歯科ではできないので、そこでの医科との連携に点数がつくと医科歯科連携はとても進むと思います。今、歯科と介護は口腔管理でしっかり手を結んでいる状況ですから、同じように医科とも連携が取れれば、本当の意味での地域包括ケアシステムが構築されると思います。ただ、それが点数化されるのは、今改定ではなくその先の改定になりそうです。
あとは薬局との連携で、薬局に対しての情報提供が点数化されるかもしれません。これは薬局に対して検査数値を提供した上で薬剤師が薬剤指導し、その結果を医療機関にフィードバックするというもので、医療機関側にはそのフィードバックの担当者を配置するという方向になっています。
しかし、クリニックの院長というのは普段、あまり薬局とコミュニケーションをとっていませんから、いざ加算がつくという話になった時、「何を話せばいいのか」などと戸惑うケースが増えると考えられます。そういう意味では、今のうちからクリニックは薬局と密に関わっていくことが重要になります。

中小病院の目玉は介護医療院
6年間で自院の役割を明確に

──他方、中小病院への影響についてはいかがでしょうか。
細谷 今回は、入院基本料の評価体系の概念が大きく変わることが予測されます。10対1、15対1をベースとする看護基準に実績部分の評価が加わり、たとえば、今まで余裕で7対1をクリアできていたところは問題ありませんが、ギリギリ算定できていたという病院については点数が下がることが考えられます。15対1だった病院などが療養病床に転換せざるを得ないというケースも出てくると思います。
あとは目玉になるのは、話題にもなっている療養病床病院の介護医療院への転換でしょう。療養病床は医療法上の経過措置が6年延長になりましたが、今回は完全に逃げ道が塞がれました。療養病床は、介護報酬の医療介護院への転換を視野に、どうするのかを真剣に考える必要があります。
──実際、介護医療院への転換は進むのでしょうか。
細谷 それは点数次第だと思います。ただ現時点の介護医療院の機能的な評価は高いので、点数に関わらず、病床機能の一部をそちらに移行するという病院も出てくると思います。いずれにしても、透析をやっている、在宅支援に力を入れているなどの強みがない療養病床は本当にこの6年間でかなりまずい状況へ追い込まれることは確かです。
療養病床は、特に自院の地域での役割を明確にし、どういう方向に進むのかを見極めなければなりません。
──先程、アウトカム評価の話がありましたが、今改定では、さらに病院に影響が出てくるということになりますか。
細谷 少なくとも回復期リハビリテーション病棟は前回の改定でアウトカム評価が明確に導入されたので、当然その延長で他にもいろいろと波及してくると思います。
ただ、アウトカム評価というのはハードルが高いように思うかもしれませんが、病気を治して地域に帰すという病院の本来の役割に立ち返るということです。その意識が経営者にあり、実践するかどうかです。
──その他についてはいかがでしょうか。
細谷 病院は、患者を治療して終わりというのではなく、退院後の生活をどうするかということまでを考えるのが地域連携の目的でもありました。それは「退院支援加算」や「地域連携評価加算」などで評価されていたのですが、今改定では「退院支援加算」が「入退院支援加算」と名称が変わる方向になっています。
つまり、入院してから「普段飲んでいる薬は何ですか」「普段どんな生活しているのですか」などと聞くのではなく、入院前の段階から患者の情報を収集して、入院した瞬間から治療が始められるようにするということです。それが入院期間の短縮にもつながるわけです。ここには病院は病気を治すだけでなく、生活の延長に入院があり、自宅に帰った後も支援していくことが求められているということが表れています。
あとは、主だったところをお話ししますと、7対1の重症患者割合25%(看護必要度)について、診療側は25%は譲れないといっていますが、支払側が30%以上にすべきということで、その攻防がどのようになるかということだと思います。そこは平均在院日数も含めてハードルが上がる可能性があると思います。

介護のアウトカム評価が拡充
医療との役割分担と連携推進

──今改定における介護事業者等に関する影響について教えてください。
細谷 まず、先ほども話が出ましたが、介護のアウトカム評価が拡充されるということが1点。特に通所介護や介護予防訪問リハビリテーションでは新たにアウトカム評価が新設されそうです。前改定で通所リハビリテーションに設けられた、6か月で目標を達成できなかった場合の減算規定は要介護者のみでしたが、要支援者にも広がるようですので、そういう意味では医療系のサービスではよりアウトカム評価を求められる方向にあります。
あとは先ほどお話しした、看取りへの対応、認知症への対応の他、入退院時の連携というところがポイントになると思います。
看取りなどをはじめとした医療と介護の連携を踏まえると、ますます医療と介護の境目がわからなくなってきている。2000年に介護保険制度が創設された際、その経緯を知る人からすると「何のために分けたのか」という話も出ています。2025年に向けてもう1度、同時改定がありますから、そこで本当にどうなるかだと思います。

自院でデータ分析をする時代
専門家の活用が不可欠

──最後になりますが、今回の同時改定、そして、その先までを見据え、医業経営者にメッセージなどがありましたらお願いします。
細谷 今、レセプトは電子化されていて、電子カルテも広く普及しているなかで、医師たちの診療内容のほとんどはデータ化されています。そのなかで昔ながらに医療事務を行っているスタッフが、単にレセプトを出し、請求するだけということでは、経営環境の変化が厳しい時代を生き残ることはできないのではないかと考えています。
レセプトデータから、自院の強みや弱み、そして地域での立ち位置をしっかり分析し、それを迅速な経営意思決定に活用していくことが重要です。自院のデータを自院で分析できなければ、医業収益を伸ばすどころか、これまでの医業収益を確保することすら難しいでしょう。
もちろん、そのような優秀な事務部門を持つことがコスト的に難しい医療機関が多いことも知っています。そこで活用していただきたいのが税理士事務所やコンサルタントなど外部の専門家です。そうした専門家から適切なアドバイスをもらえる体制を構築することこそが、これからの安定経営に不可欠だと思います。(平成29年12月27日/構成・本誌編集部 佐々木隆一)

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