TKC会員による実践事例

実践事例

浅野雅大税理士事務所 浅野雅大会員(TKC中部会)

巡回監査で行動計画の進捗状況をチェックし
業績改善を支援

金融機関の後押しで経営者が真剣に

浅野雅大会員

浅野雅大 会員(TKC中部会)
浅野雅大税理士事務所

〒501-0441 岐阜県本巣郡北方町曲路3-46

職員数: 6名
関与先数: 95件

── 7000プロジェクトの実績と、経営改善計画策定からモニタリングまで進んでいる案件の数をお聞かせください。

浅野 これまで経営改善計画策定支援事業の利用申請を出して受理されたのは6件です。TKC全国会が7000プロジェクトを立ち上げる前、この事業が発表されてすぐに取り組みはじめました。
 まず、関与先の中でも比較的業績が悪いお客さまをピックアップして利用申請しました。受理されるまではスムーズだったのですが、それからが大変で、経営者と一緒に経営改善計画を作成しても、金融機関の審査に通らなくて何度も作り直すなど、非常に時間がかかりました。
 現在は、経営改善計画が承認され計画の実行段階に入っているのが2件、うち1件はすでに2回モニタリング会議を行い、もう1件は3月末に最初のモニタリング会議を行う予定です。

── モニタリング実施済みの関与先について教えてください。

浅野 個人事業主の洋菓子店で、設立は平成6年、年商は約2400万円で、ケーキ職人のオーナーと販売担当の奥さん、それにアルバイト数名のお店です。
 趣向を凝らしたケーキにはコアなファンもいて、中には週に2、3回訪れて買ってくれる顧客もいるほどです。オーナーは非常に職人気質な方で、自分はケーキ作りに専念し、経理については奥さんに任せていました。だから巡回監査担当者の小川(整一郎氏・巡回監査士)が行っても、奥さんとしかお話しできない状況でした。

── 窮境要因はなんでしょうか。

浅野 設立してからずっと賃貸店舗で営業していたのですが、平成17年に地元の金融機関から約5000万円を借り入れて土地を買い、新しい店舗を建てました。その後、移転の告知不足に加え景気悪化や競合店の増加によって売上げが落ちてしまい、有効な対策も打てないまま資金繰りがどんどん厳しくなったのです。そのため金融機関に条件変更を依頼し、本来なら毎月20万円弱返済すべきところを数万円に減額してもらったのですが、それでも資金が回らずに親戚からも借金をしているという状況でした。
 巡回監査で経営改善を促しても日常の業務に忙殺されてなかなか行動に移してもらえずにいたのですが、今回この事業の利用を勧めた際、金融機関からも「このままでは月々の返済額を元に戻す可能性もあります。そうならないためにも、経営計画を作って改善に取り組んでほしい」と後押しを受け、真剣に取り組んでいただくことになりました。

販売実績と感覚のズレに驚く

── 経営改善の具体的な中身について教えてください。

小川整一郎氏

巡回監査担当者の小川整一郎氏

小川 まずは現状把握です。ケーキだけでも常に30種類くらいをそろえ、研究熱心なオーナーがクッキーやアイスクリームなども開発していたので、とにかく商品の種類が多かった。これまでも「売れ筋を増やして人気のない商品は入れ替えましょう」とアドバイスをしていたのですが、レジはレシートが出るだけの旧式のものだったので、どの商品がどれだけ売れているのか簡単には把握できず、行動に移してもらえていませんでした。
 そこで、最初は原始的に、売れたら「正」の字を書いて数えてもらいました。はじめは「手間がかかる」と反対するアルバイトの方もいましたが、現状把握の大切さを説明して実行してもらいました。

浅野 実際に販売個数と売上金額、それぞれの割合を数字で見せたら、何が売れているか自分の感覚とあまりにも違っていたこと、また売上割合が1%にも満たない商品が多く発生していたことに、オーナーも奥さんもびっくりしていましたね。

── 売上げアップの計画についてはいかがですか。

小川 まずは地域の皆さんにお店を知ってもらうことからはじめました。
 移転前の店舗は大通り沿いにあったので目につきやすかったのですが、移転先は道を一本入った分かりにくい場所なので、元の常連客にも知られていないという状況でした。お金がないので広告も出せず、客足が落ちてさらに売上げが減るという悪循環だったんです。
 また、クリスマスケーキやバースデーケーキの予約の際に聞いている住所や電話番号などの顧客情報を有効活用するよう事務所から何度も提案していたのですが、それも実行できずにいたので、計画にはそうした顧客情報の活用も盛り込みました。

浅野 今回の事業では、飲食店の経営改善が得意な中小企業診断士にも協力していただいたのですが、販促面ではその診断士さんのアドバイスを受け、「宝の山」と言える顧客リストを作って来店頻度などを把握し、常連客を中心にDMを送るなどの計画を立てました。
 他にも、新商品の情報をリアルタイムで発信するためにFacebookやPinterest(画像共有Webサイト)を始めたり、夏場に向けて新商品のかき氷を開発したりするなど、「商品管理・経費削減」と「販売促進」の両面で経営改善を図っていくことになりました。

モニタリング会議で行動計画の状況を確認

── 立てた計画がきちんと実行されているかどうか、どのようにチェックしたのですか。

小川 計画策定の段階で、オーナーや従業員とよく相談しながら、誰が、何を、いつまでに実行するのかを明確にする行動計画表を作成し、その上で毎月の巡回監査でその進捗状況を確認するようにしました。

── 金融機関を交えたモニタリング会議はどのように行っているのでしょうか。

浅野 計画が承認されたのが昨年の6月です。事業の申請時にはモニタリング会議は3カ月ごととしていたのですが、「計画の成果が出るまでもう少し経過を見ましょう」という支店長の申し出があったので、1回目は4カ月後の10月に実施しました。
 参加者はオーナーと奥さん、それに金融機関の支店長と、当事務所からは私と小川が出席しました。信用保証協会の保証付き融資でしたが、この案件では金融機関に任せるとのことで、保証協会は参加しませんでした。進行役を小川が務め、業績の数字については私から、行動計画の進捗状況についてはオーナーから支店長に説明しました。

小川 金融機関に報告する際は、行動計画表とは別に、文章化した行動計画にその実践結果を書き加えた資料を作成しています。毎月巡回監査の際にヒアリングした結果について、プラス要因とマイナス要因を色分けして書くことで金融機関もすぐ分かるように工夫しています。
 さらに、結果だけでなく今後についても、「翌月に予定している行動計画の準備ができているか」、「阻害要因はないか」などについても確認しています。

浅野 金融機関には、必ず売上高と限界利益率の変動を伝えるようにしています。また金融機関は人件費を特に気にするので、増減があればその理由を説明します。ただ数字は行動の結果ですから、数字そのものより行動計画の進捗状況の方を重視しているようです。

── ここまで細かく報告すれば、金融機関も安心するのではないですか。

浅野 そうですね。支店長も、オーナーの経営に対する姿勢が変わってきたのを感じているようで、先日も支店長に「経営改善計画を作っても本気で取り組んでいる会社は少ない。でも、こちらはちゃんと実行していることが分かるので応援したくなります」と言っていただきました。これは本当にうれしかったですね。

売上げが100万円増加し限界利益率も5%改善

── 事務所はもちろん、経営者、金融機関の3者が一体となって経営改善に取り組んでいることがよく分かります。

浅野 これは私も反省しているのですが、これまでもずっと経営改善を促してきたものの、私自身、本気度が足りなかったという面は否めません。「本気で経営改善に取り組んでもらうのだ!」と意識が変わったのは、この事業に取り組んだからこそですし、オーナーも金融機関もこの事業をきっかけに本気になっていただけたのだと感じています。

小川 業績としても、昨年12月の決算では、売上げが前年比で約100万円増えました。割合でいうと大きな伸びではありませんが、限界利益率は原材料費を抑えた効果で5%程度改善しました。
 最終的な営業利益は、人件費や広告宣伝費が増加したこともあって昨年と同水準ですが、翌期以降に向けた先行投資としていろいろな打ち手を実行できましたし、今年が本番だと思います。

関与先の紹介や職員の成長にもつながった

── 事務所経営という観点で、7000プロジェクトに取り組む意義をどのように感じていますか。

浅野 実は、この事業の費用については、最初にかかる時間を見積もって金額を計算し申請したのですが、計画が何度も作り直しになることは予測できなかったので、正直このお客さまについては赤字です(笑)。
 ただ倒産・廃業の危機にあるということは、事務所の力不足にもよるものですし、お客さまの生き残りのために支援するということは、顧問報酬が減るからという問題以前に当たり前だと思っています。その当たり前のことを、国の補助金をいただきながらできるというのは非常にありがたいことですよね。
 もちろん、お客さまの業績が改善されれば、事務所に対する金融機関からの評価も高くなり、お客さまの紹介にもつながるというメリットもあります。
 それに、職員の成長という側面も見逃せません。小川もそうですが、お客さまの事業を分析して強み・弱みを考え、経営会議にも参加し、経営者と一緒になって経営改善計画を作る。そしてその進捗状況を金融機関の支店長に説明するなど、普通はなかなか経験できないのではないでしょうか。

── 当事業の継続が決まり、7000プロジェクトも継続されることになりました。

浅野 事業が継続されるということは、事務所収益の柱の一つとして考えることも可能になったということです。お客さまを支援するための費用の一部について国から補助を受けられる本当に素晴らしい仕組みなので、これからも継続していきたいと思います。

経営改善計画モニタリングのポイント

  • 計画策定の段階で具体的な行動計画表を作成する。
  • 行動計画の進捗状況は経営者から金融機関に説明してもらう。
  • 売上げ、限界利益率、人件費の変動については必ず金融機関に原因を説明する。

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