TKC会員による実践事例

実践事例

温井会計事務所 温井德子会員(TKC東京中央会)

熱意と本音のお付き合いで
経営者の改善意欲を喚起

支援先企業の概要

業  種: ①自動車販売業(A社)/②自動車整備業(B社)
年  商: ①約3億円/②約7,000万円
従業員数: ①16名/②5名
借  入: ①地方銀行1行(保証協会つき)、都市銀行1行、商工中金
②地方銀行1行(A社と同様)、日本公庫、信用金庫1庫
経営状況: A社、B社ともに経営陣は同じ。景気低迷、メーカーの大規模リコールなどにより売上が減少、営業キャッシュ・フローが悪化。社長の個人資産により資金繰りをカバーしていたが、A・B両社間で不動産賃貸や売買を繰り返しているなど、資金の流れが不透明で正確な経営状況の把握が困難となっていた。

説明会に参加していち早く利用申請

温井德子会員

温井德子 会員(TKC東京中央会)
温井会計事務所

東京都中央区八重洲1‐6‐3 八重洲ビル4階

職員数: 4名
関与先件数: 80件(法人のみ)

── 2件申請をされているとお聞きしました。支援先の概要を教えてください。

温井 1社は自動車ディーラーで年商約3億円(A社)、もう1社は自動車整備業で年商約7,000万円(B社)の会社です。ただこの2社は社長さんと常務さんが一緒で、メイン行も同じ。ですから申請手続きや支援としては実質1社分でした。
 A社で販売した車のメンテナンスをB社が受注するようなビジネスモデルで、20年ほど前にはA社の年商も10億円超あったそうなんですが、景気悪化やメーカーの大規模リコール、リーマン・ショックの影響などにより徐々に売り上げが低下。複数あった店舗も閉鎖が続いて現在は1店舗のみ。B社にもその影響が及び、2社で多額の借入金がありました。有効な打ち手を打てないまま時間がたち、3年ほど元金の返済をストップしてもらっているということでした。
 ここ数年は後継者の常務が経営を担っているものの、直近月のキャッシュ・フローしか見ていなかったようで。当月にショートしそうになったら社長に頼み、社長がずっと持ち出しを繰り返していました。
 顧問税理士は別にいましたが、いわゆる「年一決算」。A社が3月決算、B社が9月決算なのですが、決算書を見ても内容の分からない科目が多いし、おまけに不動産の賃貸や売買を両社間で繰り返していて、資金の流れがかなり不透明。決算書や附属明細書も年商規模の割に簡易で、社長も常務も実際の経営状況はよく分からない、という状況でした。

── 支援のきっかけは?

温井 昨年3月頃、「なんとか助けてあげられないか」と知人に紹介されたのがきっかけです。ちょうどその頃、中小企業庁の説明会で「認定支援機関による経営改善計画策定支援事業」が始まるという話を聞いていました。良いタイミングだと思ったので、「補助金が出ますよ」と伝えながらこの事業の利用を提案したらスムーズに同意いただけました。特に自動車業界はこれまで補助金の恩恵を受けていた業界ということもあってか、事業利用への抵抗感は少なかったようです。
 また、当初は経営改善計画策定支援だけの契約でしたが、やはり月次で正確な数字が見えてこないと難しいという話をしたところ、ご依頼もあり、去年の4月に月次関与がスタートしました。

保証協会の「経営サポート会議」開催を

── 金融機関の反応はいかがでしたか。

温井 関与が決まってすぐ、経営改善計画のドラフトを作ってメイン行にご挨拶に行き、この事業を利用する旨をお伝えしました。すでに元金を3年も据え置いていますから、当然財務状況や社内の状況も把握されていまして。そのため最初は「もっと思い切ってコスト削減する計画にしてもらわないと上には上げられません」と。そこで「社内の意識も変えるよう頑張りますのでご協力をお願いします」と常務と一緒に頭を下げました。
 その後は事業利用へのご理解もいただき、計画策定段階に入ると非常に協力的に対応してくださいました。月1回は常務と一緒にメイン行に出向いて、何回も経営改善計画について検討を重ねていきました。最初は担当者と融資課長の2人でしたが、10月くらいからは支店長も参加してくださって、固定費の削減案や債務償還年数の見直しなど細かな部分まで指摘してくれました。また、進捗状況を担当者にメールすると必ず電話があり、その都度いろいろな相談にも乗っていただけるようになりました。

── 利用申請書はいつ出されたのでしょうか。

温井 利用申請書は2件とも昨年5月に出しました。ただ当時は申請受付開始直後ということもあり、受理に少し時間はかかったと思います。「受理通知書」が出たのは7月に入ってからでしたから。でも、その後は経営改善支援センターの担当者が毎月1回は「この2社どうなっていますか」という連絡をくれるようになりました。金融機関をはじめ、皆がこまめに企業の面倒を見てくださるようになったのが本当にありがたいことだと思います。
 その後、何回か経営改善計画を練り直して仕上げ、経営改善支援センターの担当者から、信用保証協会が事務局となって開催する「経営サポート会議」利用の提案がありました。バンクミーティングは若干ハードルが高いと感じていたので、信用保証協会の方に段取りしていただいたのは本当に心強かった。その後、実際に「経営サポート会議」を開催して各行の合意が得られたのは、今年の9月末のことです。

── 合意はスムーズに得られましたか。

温井 実はA社に融資をしていた都市銀行の方が会議を欠席してしまって……。なおかつ、計画への合意も難しいかもしれないという反応でした。
 このままだと次の段階に移れないと思い、信用保証協会の方から電話を入れてもらいました。その結果、一週間ほどで合意の連絡がきたのでホッとしましたね。借入金が少なかったこともあったと思いますが、温度差はあるんだなと。信用保証協会の方が間に入ってくださって本当によかった。信用保証協会も債権者ではありますが、中小企業に寄り添ってくださっているのがよく分かりました。「経営サポート会議」の開催を、ぜひお勧めしますね!

改善意欲が生まれ雰囲気も明るく

── 関与スタートから金融機関の合意まで最も苦労された点は何でしょう。

温井 なかなか常務が本腰を入れてくれなかったことです。実は常務は社長の娘婿さんなんですね。「どういう会社にしたいですか?」とヒアリングをしていても、あまり事業への意欲や熱意が見えないように思えて、何度か廃業を提案したこともありました。でもその度に「自分は婿に入った身だし、入った以上は会社を建て直したい」と言う。それでもなかなか行動に移してくれるまで時間がかかったのが、もどかしいところでした。

── どんなことに力を注がれましたか。

温井 まずは、しつこく言い続けることでした。「社長になるんだからここで意識を変えなくては!」「もっと自分で営業回りましょう!」等、当たり前のことながら、訪問時だけでなくて、しょっちゅう電話やメールで働きかけていました(笑)。
 それから、財務状況と経営状況をきちんと正確に把握するために、関与してすぐA社にはFX2を、B社にはe21まいスターを導入して、部門管理と原価管理を徹底してもらいました。最初の数カ月は事務所で入力していましたが、夏明けには月次の数字がきちんと上がってくるようになったので、新車販売の部門で余計なコストがかかっていたことに常務も気付かれるようになりました。
 そして並行して、金融機関と作っていた経営改善計画の予算をFX2に登録して、変動損益計算書の画面を見ながら話をしていたら、半年後の利益予測や決算での着地点について話ができるようになってきました。B社の決算が終わり、正確な数字が見えてきた昨年11月頃から、やっと具体的な改善案が常務から出てくるように。そこで、①営業体制の強化、②固定費の見直し、③遊休資産の処分──を中心に計画を作ることになりました。
 特に③については、積水ハウスの担当者に遊休資産の査定をしてもらい、売却への道筋をつけました。売れるか否かは正直未知数ですが、銀行は「遊休不動産の処分についに動いたんですね!」と、ハウスメーカーと専売契約を結んだことに対して評価をしてくれました。
 常務が変わったことで、社員さんも前向きになりました。関与当初に比べると会社の雰囲気もよくなったし、一人ひとりが明るい顔をしているなと思います。

事務所の存在を知ってもらうチャンス!

── 事務所としての推進目標は。

温井 「7000プロジェクト」は、金融機関との連携を深めて事務所の存在を広く知ってもらうチャンスでもあると考えていますので、現在は「1人1件申請しよう!」という方針です。
 OMSの「関与先カルテ」を見て、保証協会つきの借入があり、営業キャッシュ・フローの数字があまり良くない企業を選ぶこととしていますが、結局企業の状態を一番よく分かっているのは担当者。ですから、数字だけでなく経営者の性格等も加味して「やりやすいところからでいいよ」という話もしました。現在、2件が申請に向けて準備中です。このプロジェクトはとても勉強になるので、現在は職員を中心に手続きを進めてもらっています。5件以上の実績は挙げたいと考えていますね。

── 推進の難しさを感じたことは?

温井 ある関与先から、支援事業の利用を提案した時に「お金かけてまで中期計画作る必要あるの?」「見通しなんて今と同じでいい」と言われたことがありました。「中期計画は大企業が作るもの」というイメージがあったようでしたね。そこで「大企業でなくても、伸びている企業は中期計画を作っています。中期計画策定は経営の流行りですよ!」「中期計画を作れば、5年先の見通しを話せるようになって金融機関も喜ぶし、今よりもっと良いお付き合いができますよ」などと提案すると、比較的皆さまが納得してくれました。
 実際に推進して分かったことですが、この事業は密なコミュニケーションと本音のお付き合いが必要になる分、関与先とも深いお付き合いができるようになるということ。今後も金融機関や保証協会、経営改善支援センターの方と良い関係を作りながら頑張っていきたいと思います。

経営改善計画策定支援のポイント

  • 経営者と金融機関の同意が得られたらすぐに利用申請書を提出する。
  • 熱意を持って、まずは経営者の意識改革に注力する。
  • 金融機関と良い関係づくりができることを強調して事業利用への理解を得る。

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