TKC会員による実践事例

実践事例

高橋税理士事務所 高橋美由紀会員(TKC関東信越会)

7000プロジェクトは
日頃の巡回監査とKFS実践の延長

支援先企業の概要

業  種: プラスチック加工業
年  商: 約9,000万円
従業員数: 15名(パート含む)
借  入: 地方銀行1行(保証協会つき)から6,700万円
経営状況: リーマンショックで売上げが激減し、新規事業にも失敗して借入金が膨らみリスケをしていた。その後売上げは徐々に回復してきたものの借入金が過大であるため、経営改善計画策定支援事業を利用し返済計画の見直しを図った。

リーマンショックで売上げが半減

高橋美由紀会員

高橋美由紀 会員(TKC関東信越会)
高橋税理士事務所

群馬県太田市新道町1386-2

職員数: 3名(うち巡回監査担当者2名)
関与先件数: 50件
経営方針: 経営者の親身な相談相手になる

── 経営改善計画策定支援事業の対象企業について教えてください。

高橋 業種はプラスチック加工業で、取引先から原料の提供を受け「一つ型を抜いていくら」という分かりやすい業態です。十数年前からのお客様なので社長とはもう長いつきあいで、何でも相談してもらえます。
 現在の年商は約9,000万円ですが、業績が好調な時は1億4,000万円弱ありました。それが2008年のリーマンショックで大口得意先3社からの受注が軒並み減少し、売上げが半分の7,000万円まで激減してしまったのです。
 しかもその数年前に、特殊な設備を備えた新工場に移転するため、銀行から数千万円を借り入れていました。当時は業績が良かったので、銀行からすんなり借りられたんですね。
 さらに悪いことに、減った分の売上げを埋めるためにプラスチック製品の卸売りに挑戦したのですが、これが裏目に出て、そこでも損失を出してしまいました。その結果5,000万円弱だった借入金がどんどん増えて、一時は8,000万円まで膨らみました。本当に絵に描いたような悪循環で、負のスパイラルにはまってしまったのです。
 ただ、もともと技術力がある会社で、社長にもいろんなつてを探して仕事を取ってくる営業力があるので、今では売上げは徐々に戻りつつあります。利益も前期は出ていますし、今期も黒字の見込みです。

── 比較的業績が好調でも事業の対象になるのでしょうか。

高橋 確かにここ数年の業績は悪くありませんし、運転資金も借りなくて済むように計画を立て、社長も頑張っています。ただ売上げ9,000万円に対し、借入金は少し減らしたといってもまだ大半が残っていますから、このまま返済していったのではいつ完済できるかわかりません。それにいつまでもリスケをしているわけにはいきませんので、経営改善計画を作ってしっかり返済していこうと判断したのです。

── 他にも対象となる関与先はありますか。

高橋 私がこの制度の対象として考えているのは、月々の返済額が大きく、放置できないお客様です。これまでは赤字でも金融機関は貸してくれていたのですが、そうすると借入金がどんどん膨らんでいきます。業績が持ち直すまで返済を少し止めてもらっても根本的な解決にならないし、いつ貸してもらえなくなるかを考えると怖いですよね。
 ただ、資金繰りも含めた経営改善支援は突然はじめたことではなく日頃からしてきたことなので、この事業の対象となるお客様はそこまで多くありません。当事務所では前述の会社の他に、2社といったところでしょうか。

銀行の納得を得られず半年間滞る

── 社長への提案から利用申請受理までどのように進めたのでしょうか。

高橋 まず社長に「経営改善計画策定支援事業」について「今度こういう制度ができて、少し費用はかかるけど、返済計画の見通しが立つというメリットはあるのでやってみませんか」と説明したところ「先生が必要だと言うなら」とすぐ了承をいただけました。
 それが今年の1月だったと思います。

── 社長からの信頼が厚いのですね。

高橋 開業当初から「親身な相談相手」となることを心がけており「巡回監査率100%」にこだわってきました。以前は私がすべての関与先に巡回監査に行って社長と話をしていましたし、職員に巡回監査を任せるようになってからも、必ず数カ月に一度は同行して社長と直接話すようにしています。そうやって常に社長からのさまざまな相談に乗ってきたことが良かったのかもしれません。
 ただ、申請書提出の手順がよく分からなかったので、群馬県の経営改善支援センターに電話をしてみました。担当者が非常に親切で、その後も何度か電話やメールでやりとりをしたのですが、その都度、質問に丁寧に答えてくれました。
 その後、申請の受理まで手続きが滞ってしまったのですが、何度も「あの案件はどうなりましたか」と電話をいただくなど本当に協力的でした。

── 手続きが滞った理由は何だったのでしょうか。

高橋 銀行には社長から説明してもらったのですが、なかなかハンコを押してくれなかったのです。借入先はメインの1行だけで、複数金融機関の調整は必要なかったのですぐに同意をもらえるだろうと楽観的に考えていましたが、見通しが甘かったですね。
 納得いただけなかった理由については、計画書の内容の不備というより、担当者が上にあげなかったようです。現状が黒字で返済も問題ないので、新しいことをする意味がないと判断されたのかもしれません。
 そうこうしているうちにTKC全国会で「7000プロジェクト」が発足しましたが、何も進まない状態が数カ月続きました。半年経っても動かないのでとうとう「私が銀行に説明に行く」と社長に伝えたところ、社長が「銀行の担当者が変わったので、もう一度行ってくる」ということで再度話してもらったところ、あっさりハンコをもらい、ようやく1件達成できました。それが6月末です。
 同じ金融機関の中でも、この経営改善計画策定支援事業に対する認識に温度差があることを感じましたね。

根拠のある数字に基づいた計画書が重要

── 実際の経営改善計画の作成についてはどのように進めたのでしょうか。

高橋 売上げについては、大口得意先3社からの受注は減少したものの、社長が新規顧客を開拓してくるので、その点は非常に心強かったです。高いお金をかけて作った新工場には完全にクリーンな環境で加工ができるという特長があり、これが他社との差別化につながっているのです。
 また、社長もそうした強みをしっかり説明して顧客を開拓してくるので売上げの見通しが立ちます。あとは費用の部分をしっかりと見てあげて、借入金を返済した後も毎月会社にキャッシュが残るように計画を立てました。

── 「実践会」にも参加されたとお聞きしました。

高橋 はい。特に「ビジネスモデル俯瞰図」の作成は絶対に必要だと思います。TKC会員には継続MASがあるので、とりあえず数値を入れてしまえば計画書は簡単にできてしまいます。でも売上げの根拠がどこにあるのか、窮境原因をきちんと把握した上でそこをどう改善するかというストーリーがしっかり描けていないと、絵に描いた餅になりかねません。
 「ビジネスモデル俯瞰図」を作ることで、数字の根拠を私たちもきちっと把握し、その数値を落とし込んだ経営改善計画書を作ることができるわけですし、そこまでしないと金融機関が納得する計画書にならないと思うんです。
 私もお客様とできるだけ深く関わってきたつもりでしたが、「こんな得意先があったのか」とか「確かにこの新規顧客からはこのくらいの売上げが見込める根拠があるな」など新たな発見があって、非常に勉強になりました。

認定支援機関なら最低1件実践しよう

── 事務所としてのメリットについてはどのようにお考えですか。

高橋 経営改善計画策定とモニタリングによる報酬はもちろんありがたいですが、私は、これは特別な業務ではなく、今まで巡回監査とKFSの実践を通して取り組んできた関与先支援の延長線上にあるものと捉えています。
 例えば、書面添付も別途報酬をいただいているわけではありませんが、調査省略になればお客様の負担が減って喜んでもらえるだけでなく、実践を通じて事務所の業務品質も職員のレベルも向上しますよね。これも同じだと思うんです。
 さらに、金融機関からも「TKC会員が作成する経営改善計画書は信頼できる」と感じてもらえるチャンスでもあります。金融機関との信頼関係の構築という点でも、しっかり取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。

── 群馬県の推進リーダーという立場からメッセージをお願いします。

高橋 認定支援機関になっている会員は最低1件実践していただきたいです。今TKC全国会が必要な資料や研修を全部用意してくれているし、すでに提出している会員に聞けばノウハウもいただけます。ここまでお膳立てしてくれていて、いわば「いいとこ取り」できる状態なのに「今やらないでいつやるの?」と思います。
 群馬支部の会員には、役員会など会合の際の告知だけでなく、メール、FAXなどを使ってとにかく情報を提供し、あとは個別に推進していただけそうな先生にお声がけします。
 今生き残っている中小企業はリーマンショックを乗り越えてきたわけですから、そうした中小企業にこれからも活躍してもらうためにも、私たち税理士がしっかりサポートしていきたいと思います。

経営改善計画策定支援のポイント

  • 業績にかかわらず、借入金が過大な関与先を抽出
  • 分からないことがあれば支援センターに相談し疑問を解消

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