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"円滑化法"延長を引き金に金融機関の貸出先チェックはどう変わるか

経営コンサルタント 久保田博三氏 ◎経営コンサルタント 久保田博三

円滑化法に基づきリスケを申請した企業に、金融機関は今後、モニタリングを本格的に実施していく。金融機関のモニタリングとはどういうもので、貸出態度はどう変わるのかを探った。

 金融庁は昨年12月、「中小企業金融円滑化法を1年間延長し、2012年3月末までとする」ことを正式に決定・公表した。

 これはデフレ経済を背景に中小企業の業況や資金繰りが依然厳しいことから取られた「措置」とみられるが、これを引き金に今後、金融機関の貸出態度(チェック)はどう変わるのかが俄に注目され出している。

「申請企業」は113万件を突破

 近年、金融庁の「中小企業金融」政策が大きく変わってきている。端的にいえば、「貸出ハードル」(要件)を段階的に引き下げてきているということだ。具体的には、(1)08年11月に金融検査マニュアルを改訂して、「実現性の高い抜本的な経営改善計画書があれば貸出緩和債権に該当しない」とした。(2)それを、金融円滑化法の施行(09年12月)に併せて再度改訂して、「経営改善計画書を提出していなくても、条件変更を実施した日から1年以内に経営改善計画書を作成する見込みがあるときは条件緩和債権に当たらない」とし、そして今回、同法を1年間延長してさらなる“円滑化”をはかることにしたわけである。

金融機関(1546社)における円滑化法の施行状況(中小企業向け) 実際、同法に基づき、これまでに中小企業が金融機関に「返済条件の変更」を申請した件数は、113万件(実効率97.3%/昨年9月末時点)を突破している。ここでいう件数とは「貸付債権」ベースのことであり、「企業数」ではないものの、仮に1社当たり平均3件(例えば取引金融機関3行に対し1件ずつ)とした場合、中小企業の実数は30数万社(113万件÷3件)になると予想される。

 例えば、A社がある金融機関に3口(件数)借りていたとする。1つは設備資金の借入で、毎月の返済額は100万円。残り2口はいずれも運転資金の借入で、返済額は10万円と20万円であったとする。当初は約定通り返済していたが、リーマン・ショックの影響で設備稼働率が落ちてきたことから「運転資金の2口については金額が小さいため従来通り返済するが、100万円の返済は厳しいので50万円に減額(あるいは返済を半年間猶予)してもらえないか。その代わり1年以内に経営改善計画書を作成します」というような形で、金融機関に返済条件の変更(リスケジューリング)を申請したのではなかろうか。

 当初(金融円滑化法が施行されて間もない頃)、リスケを申請すると、金融機関の融資態度が変わってしまうのではないかとか、新規借入が困難になるのではないかということで、躊躇していた中小企業が相当数あった。しかし、いざ蓋を開けてみると「窓口の応対はよく、実効率も高い」ということが新聞報道などで明らかになるにしたがって、申請件数がどんどん増えていったのでないかと考えられる。

 とはいえ、金融円滑化法が施行されて1年以上経過した今、問題なのはリスケを申請した中小企業のうち、どれだけの企業が「経営改善計画書」を作成・提出しているかだ。もし期日内に提出されなければ、その債権は不良債権として扱われ、債務者区分が「破綻懸念先」などに引き下げられることになる。そうなれば、金融機関はその債権の無担保部分に対して貸倒引当金を積まなければならなくなる。

 では「未提出企業」はどれくらい存在するのか――。正確なデータを持っていないため、軽々に申し上げられないが、私の講演やセミナーに出席してくれた方々(地域金融機関関係者)の印象や感触などから、提出企業は3~4割で、残りが未提出企業と推定される。それゆえ、未提出企業は早急に(期日内に)経営改善計画書を作成・提出しなければならないが、その計画には大別して2つのタイプがある。

 1つは上場企業が策定するような精緻なのものであり、もう1つは金融機関がコンサルティング機能を発揮して融資先と一緒に作成するというもの。いわゆる「簡易型」だ。簡易型とはいえ、単なる数字の羅列ではダメ。前期の売上高が20億円だったので、今期は20億3000万円、来期は20億5000万円にするというような「積み上げ方式」は計画とは呼べない。

 そうではなく、例えば売上目標に関していうなら《A製品については新規にB得意先を開拓中のため今期はこれくらい、C製品については既存ルートの掘り起こしをはかって前期比3%アップを見込む》という具合に、製品別・得意先別(あるいは事業部門別)に立てるのが望ましい。簡易型であっても“魂”(バックデータ)の入った計画でなければ《絵に描いた餅》に終わるからだ。しかしながら、その対象企業(未提出企業)が多すぎて、自行(金融機関)のマンパワーだけでは対処しきれなくなってきているのが実情だ。

 最近、TKCの『経営改善計画策定支援サービス』を利用する金融機関が相次いでいる理由は、ここにある。

金融機関のモニタリングとは

 ところで、金融庁は昨年2月から金融円滑化法に基づきリスケを申請した中小企業に、金融機関がどのように対応したかという立入検査を開始し、今年9月までには一段落(国内にある全金融機関)させる方針を打ち出している。

 つまりリスケへの対応状況(本部の受付態勢等)を検査しているわけだが、これが今年10月から「金融機関のコンサルティング機能の発揮と貸出条件緩和を行った後のモニタリング」に軸足が移されることになる。このため、経営改善計画書を提出していない企業をそのままにしておいたり、モニタリングを怠ったりすれば立入検査のときに注意されるだろう。

 図式化すると、リスケの申請→コンサルティング機能を発揮して経営改善計画書の作成サポート→それを定期的にモニタリングするという流れになるが、それは8年前に導入した「リレーションシップバンキング」を、円滑化法を触媒に、より“実”のあるものにさせていくことを金融当局は考えたのではないだろうか。

 では金融機関のモニタリングとはどういうものか。一言でいえば、経営改善計画の進捗状況をチェックするというものだが、「対象企業」によってその方法は異なる。例えば自行の貸出金が大きい融資先とそうでないところでは、第1にモニタリングする「周期」が違う。何十億円も貸し出しているところに、1年に1回の決算書で進捗状況を確認するわけにはいかず、月次ベース(試算表)で行われることになろう。

 次に「何」を見るかについては、例えば今月の製品別・得意先別の売上実績が計画に対してどうだったかとか、今月中に遊休資産(またはゴルフ会員権)を売却する予定になっていたが、本当に売却したのか、あるいは現在売却先と価格面で交渉中なのかなどをチェックするわけだ。

 第3に「誰がどのように」行うかについては、金融機関によって違うが、例えばリスケ申請先が要注意先であれば営業店が担当し、破綻懸念先以下の場合は本部の経営支援チームなどが担当することもある。その際、重点的なモニタリング項目(前述した製品別・得意先別売上計画など)を明記した所定のフォーマットに、その都度進捗状況を記録・保管し、それを金融庁は検査時にチェックするわけである。

 一方、リスケを申請せず、約定通りに借入金を返済している黒字企業(正常先)に対しては、モニタリングされないのだろうか。経営改善計画に基づいてチェックするという狭義の意味からすれば、モニタリングされないだろうが、広義の意味からすればされるといえる。理由は、金融機関が毎年融資先に決算書の提出を求め、それを時価に一部修正したうえで“企業格付け”を行っているからだ。であれば、黒字企業は(1)自主的に「5ヵ年経営計画」を作成し、その数値を会計システムに落とし込んで予実管理する仕組み(PDCAサイクル)を構築し、(2)毎月経営状況(予算対実績など)を金融機関に説明すれば、間違いなく評価は高まる。かつて地域金融機関の営業担当者は、こまめに融資先を回って「定性情報」を仕入れていたが、現在はリストラなどによってほとんどできていないのが実態だ。だから中小企業が進んで経営情報を開示すれば金融機関との信頼関係が増し、結果、格付けが上がれば金利が安くなったり、与信額も拡大されたりすることが考えられる。

 よく地域金融機関の方が口にするのは、「貸出先から提出された決算書が本当に正確なものなのかを見極めるのは非常に難しい」ということ。粉飾決算を見抜くには、決算書が出来上がるまでのプロセスをモニタリングするのが一番よいが、そこまでできている金融機関はほとんどない。それができているのは、おそらくTKC会員の税理士・公認会計士だけだろう。毎月巡回監査して経営指導にあたっているからであり、これこそが最高のモニタリングといえるかもしれない。

(インタビュー・構成/戦略経営者・岩崎敏夫)