2018年1月号Vol.109

【特集1】AIネットワーク化で行政はさらに高度に

AIネットワーク社会推進会議 議長/東京大学大学院情報学環教授 須藤 修氏

スマートフォンを中心としたIoTデバイスの普及により、膨大な量のデータが流通している。“新たな天然資源”となりつつある多種多様なデータを、さまざまな用途で分析・利活用すべく、いま世界中で人工知能(AI)の研究が進められている。そのなかで「AIネットワーク化」という概念も生まれた。行政に与える影響とは、社会がどう変わるのか──AIネットワーク社会推進会議議長の須藤修氏に聞く。

須藤 修(すどう・おさむ)

須藤 修(すどう・おさむ)
1955年生まれ、1985年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士(東京大学)。静岡大学助教授、東京大学助教授を経て、1999年4月より東京大学教授。2012年4月、東京大学大学院情報学環長・学際情報学府長(〜2015年3月)。「個人番号カード・公的個人認証サービス等の利活用推進の在り方に関する懇談会」座長、「AIネットワーク化検討会議」座長など政府の各種委員会等へも多数参加。

──「AIネットワーク社会推進会議」の目的・活動内容を教えてください。

須藤 AIネットワーク社会推進会議はAIの開発原則や指針の策定に向けた検討を行うとともに、AIネットワーク化がもたらす具体的な影響とリスクの評価など、その推進に向けた社会的、経済的、倫理的、法的課題を総合的に検討することを目的に2016年10月から開催されています。
 AIに「ネットワーク」が加わっているのは、両者が切り離せない関係にあるためです。スマートフォンなど各種デバイスから得られるデータをクラウド上のサービスに送信し、AIを使って分析することも、ネットワークなしでは成立しません。このことからも、AIを構成要素とする情報通信ネットワークシステムまでを含めた「AIネットワークシステム」として考える必要があるのです。
 なお、AIについては世界的な調整が必要となることから、OECD等の場で国際的な議論を進めることになっています。推進会議では、『国際的な議論のためのAI開発ガイドライン案』などを示すため、17年7月に『報告書2017』を公表しました。

──AI開発ガイドラインとは、どのようなものなのでしょうか。

須藤 開発ガイドラインはAI開発の原則を提唱したもので、その一項目としてデータ形式の統一が挙げられています。現状では、それぞれの研究機関が独自に研究を進めており、データ形式などは統一されていません。これでは、ネットワークを形成しても、AIシステム相互間でコミュニケーションをとることができません。
 具体的には、車の自動運転を例に挙げると分かりやすいでしょう。例えば、高速道路を走行する車を自動運転で追い越すのは比較的難しいことではありません。しかし、交差点で2台の車が信号待ちをしている際には、どちらが先に進むのかAI同士でコミュニケーションを行い、正しく判断しなければ衝突事故につながってしまいます。AI同士でコミュニケーションをとるシーンでは、データ形式を揃える必要があります。AIがネットワーク化された時の社会秩序を構築するためにも、そうした開発原則やガイドラインが必要となるのです。

社会インフラとしてAIはより身近なものに

──国の戦略では、AIをどのように位置付けているのでしょうか。

須藤 16年12月、「官民データ活用推進基本法」が成立しました。これは、大量に流通しているデータを活用し、さまざまな社会問題の解決につなげるためのもので、AIやIoTなど先端技術の活用が法律上に明記されています。同法では、これに加えてオープンデータの推進も自治体に求めています。オープンデータを公開している団体はまだ少ない状況ですが、自治体でもどんどん進めてほしいですね。さらには、国が提示するデータの標準形式を採用してもらえれば、AIにも対応しやすいと考えられます。
 また、日本政府の総合科学技術・イノベーション会議では、「ソサエティー5.0」という新たなコンセプトが示されています。これはドイツの「インダストリー4.0」が産業分野に限定されているものに対して、ICTを社会全体に適用しようという考え方です。人類がこれまで歩んできた社会──狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く新たな社会を生み出すという意味が込められています。
 このソサエティー5.0では、全ての分野においてサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)とが高度に融合し、必要な物やサービスが必要な人に、必要な分だけ提供でき、人々に豊かさをもたらす「超スマート社会」の実現を掲げています。
 これを実現するため、第1段階では各主体で個別にAI利活用を推進させ、20年頃の第2段階では個別の領域を超えてAIの一般利用の進展、さらに25〜30年頃には公共部門をはじめとするさまざまな分野でのデータ標準化に加え、各分野がつながり合う「エコシステム」を構築する計画です。

自治体でもAIはきわめて重要なツールに

出典 内閣府ホームページ

出典 内閣府ホームページ

──行政分野では、どのような利活用方法が考えられるでしょうか。

須藤 いま、世の中を見ると40歳前後の団塊ジュニア世代の子供の数が少なく、40年には少子高齢社会が加速度的に進展することになります。そうなると、これまでの仕事のやり方を踏襲し続けることは不可能で、クラウド化やAIの利活用など限られた資源でどう乗り切るかを考える必要があります。これはもはや避けようがない事実です。
 行政分野で考えられる具体的な利活用方法としては、まずは窓口業務において、住民からの問い合わせをAIが代行する──ことです。これまでの応対履歴などの大量データがあれば、正答率は高まります。現に、チャットボット(※)やロボットを使う自治体がすでに登場していますし、スマートフォンの普及などを背景に、こうした取り組みに抵抗を示さない層も増えてきていると思います。
 ただ、こうした取り組みが進展すると、これまで「上司を出せ」と言われていたものが、「人間を出せ」と言われるような時代になるのかもしれませんね(笑)。
 また、民間企業では内部事務の人事給与や税務処理、社会保険関係でAIが活用され始めています。これらを担当する社員数を削減できたなど具体的な効果も出ており、いずれは自治体においても同様の取り組みがされることになるでしょう。
 加えて、シミュレーションもAIの得意分野です。特に公共事業のシミュレーションなどは、人間が行うよりもはるかに正確に行えることが想定されるため、どんどん活用されていく領域になるでしょう。
 話は変わりますが、ある特別養護老人ホームでは、ベッドにセンサーを取り付けてデータ収集するとともに、対話型のAI(ロボット)が介護士に変わって認知症患者の相手をするという事例もあります。さらにはロボットが認知症患者から学び、仮想的に認知症の症状や患者の行動などを再現してくれることで、養成職員や介護士の研修に使っているそうです。これと同じように、行政でも専門知識をため込んだロボットが、新任職員に研修をするということもあり得るかもしれません。

本誌編集委員 中村 浩

本誌編集委員 中村 浩

──AIを導入・利活用していく上での留意事項は何でしょうか。

須藤 一つは、情報セキュリティー対策です。昨今騒がれているマルウエアなどにより、AIシステムやロボットがハッキングされ、不正操作・機能不全に陥るおそれや、個人情報・機密情報が流出するおそれなどが考えられます。さらに、今後はサイバー攻撃もAIが行うようになるでしょう。そうなると攻撃方法を瞬時に切り替えるなど、人間にはとても対抗できません。AIからの攻撃はAIが防ぐという時代になっていくことは間違いありません。そのためにも、セキュリティー確保の在り方について検討を進めていく必要があります。
 また、AIが誤った判断をした場合、あるいは事故につながってしまった場合の法的責任のあり方などの検討も必要です。AIがどのような判断を下しても、それを採用するかどうかは人間が責任をもって最終的に判断することになります。この辺りもまだまだ検討を重ねていく必要があると言えます。
 このように検討課題は山積しており、すぐ解決できるようなものではありません。しかしながら、AIの利活用なくして少子高齢社会をはじめとするわが国が抱える諸課題の解決は図れないでしょう。
 今後は『AI利活用ガイドライン』(仮称)の策定など、利活用のガバナンスの在り方についても国際的な議論を見据えた整備を進め、世界に先駆けた「超スマート社会」の実現に取り組んでいきたいと考えています。

※掲載の内容、および当社製品の機能、サービス内容などは、取材当時のものです。

※掲載団体様への直接のお問い合わせはご遠慮くださいますようお願いいたします。

  • 特設 マイナンバー
  • 特設 コンビニ交付
  • 特設 公会計
  • TASKクラウドシステムソリューションへ
  • TASKクラウドシステムユーザー事例
  • TKCインターネットサービスセンター「TISC」のご紹介