TKC全国会会長メッセージ

海を渡る中小企業。その時支えてくれるパートナーは?

2012.01.20  (1/3ページ) 大武健一郎座談会

とき:平成23年9月7日(水) ところ:ホテル日航東京

少子高齢化に加え東日本大震災後の電力不足の影響等により、大企業のみならず中小企業においても海外展開による新市場開拓や販路拡大等へのニーズが急速に高まっている。そうした中、TKC東京中央会は秋期セミナーにおいて「中小企業のアジア展開」をテーマとするパネルディスカッションを実施した。TKC全国会大武健一郎会長がコーディネーターを務め、パネリスト4名が現地の金融支援と人材不足の現状や今後の方向性を語り合った。

パネルディスカッション
出席者(敬称略・順不同)
■コーディネーター
 TKC全国会会長        大武健一郎
■パネリスト
 中小企業庁次長        宮川 正
 西武信用金庫理事長      落合 寛司
 クロスボーダー・グループ代表 矢野 暁
 TKC東京中央会会長     松本 憲二

大震災以降、中小企業からの相談が2~3倍の勢いで増えている

大武健一郎TKC全国会会長

大武健一郎TKC全国会会長

 大武 今、大変な勢いで中小企業が海外展開、特にアジア展開を検討せざるを得ない状況になっています。その原因として、国内の人口減少の問題、あるいは原発の問題などがあると思います。パネリストの皆さんには、中小企業のアジア展開の実情や可能性を語っていただきます。まず、シンガポールに在住してコンサルティングをされている矢野さんからお願いいたします。

 矢野 私は25年前にインドネシアのODA(政府開発援助)に関わり、それ以来ずっと東南アジアを中心に仕事をしてきました。17年前にベトナムに移り、その後シンガポールに行って10年になりますが、まさに今、大きな変化がアジアに訪れています。以前のようにモノを作る拠点としてではなく、潜在していた「市場」としての価値が顕在化して、日本のみならず世界中の企業がアジアでモノを売ろうという段階にまで来ています。そこが従来のアジア展開とは決定的に違うところです。
 現に、金融危機が一応収束した2010年ぐらいから、大企業だけではなく、中小企業からも多くの相談が寄せられるようになりました。そして今年3月11日の東日本大震災以降、それまでの2倍から3倍の勢いで相談件数が増えています。新しい傾向としては、製造業のみならずITや外食などサービス産業の皆さんが大挙して来られています。ただ、そうはいっても、盲目的に海外に出るのは非常に危険だなとも思っています。大企業は慎重になり過ぎて逆に出遅れている面もありますが、中小企業の場合、社長の一声で何もかも決まってしまうようなところがあるので、実態を踏まえて決断されるべきだと感じます。
 これは大企業でも中小企業でも同じなのですが、海外展開で一番のネックは何かと聞かれたら、迷わず「人材不足」とお答えします。残念ながらアジアに限らず事業を海外で進めるにあたっての人材が日本には不十分だなというのは日々痛感しています。とはいえ、せっかく世の中のマインドがアジアへ向かっていますので、できるだけのお手伝いをしたいと考えています。

 大武 おそらく金融機関に対しても中小企業からの相談が殺到しているのではないかと思いますが、その点について西武信金さんではどんな対応をされているのか、理事長の落合さんからお話しいただけますか。

 落合 ご承知の通り、地域金融機関は国内の中小企業や個人事業の方々のご支援をしているわけですが、世界経済の主役が先進国から新興国に変わるという、この大きな変化の中で、私たちが中小企業へのグローバル化支援を一生懸命やっていこうとしているのは、世界シェア約7割を持ち、30年以上前から海外で成功している、ある取引先の社長の話がきっかけになっています。
 その社長から「とにかく一度現地に行ってみてごらん」と勧められ、幾つかの日本企業を視察してきました。そこで何がなされていたかというと、すっかり現地に溶け込んで、地域やお客様に喜びを与えているのです。そのときに、「これが真のグローバル化なのか」と気付きました。そして「日本経済の空洞化の問題もあるが、グローバル化を進めることにより、逆に海外企業の国内誘致などによって、WIN・WINの関係も築けるに違いない。このまま日本だけで閉塞感で固まっていては何も始まらないんだな」と確信しました。そこで当金庫内に「海外展開サポートデスク」というセクションを設け、そこに海外における経験豊かな人材を中途採用するなどして体制を整えています。
 ただ、一つだけ心配なのは、海外にさえ行けば事業が成功すると考えている経営者が意外に多いということです。本当に海外に出るべきなのか、出るにしても間接的なのか直接的なのか、いろいろな選択肢があるわけです。当金庫では、研修や専門家派遣などを通じて、個別企業に最適なパターンを提供してご支援したいと考えています。

 大武 次に、経済産業省・中小企業庁次長の宮川さんから、国による中小企業の海外展開支援施策の要点についてご説明いただけますか。

宮川 正中小企業庁次長

宮川 正中小企業庁次長

 宮川 私が2年前に名古屋で中部経済産業局長を務めていたときに、ロンドン郊外で行われた有名なエアショーに航空機部品関連業者の皆さんと参加して、日本の技術が非常に高く評価されたのを喜んで帰ってきたということがありました。その意味では、自分たちの技術が世界でどのくらい通用するのか手応えを感じていただくところから始めるのが一番重要なのではないかと思っています。
 私どもの海外展開支援には、入り口として「輸出」と「投資」という2つの側面があります。輸出支援では、ビジネスマッチングのためにセミナーを行ったり、海外のバイヤーを連れてきて見本市を開いたりしています。また投資支援では、これから出て行かんとする国の情報について、JETRO(日本貿易振興機構)やJICA(国際協力機構)、JBIC(国際協力銀行)などを通じてご提供しています。
 もう一つ大事なのは人材支援でして、留学生をご紹介し、税務や財務などのセミナーを経営者に受講していただくような取組みもあります。更に、海外に出て行った後のフォローとしては、金融支援が最も重要になるので、特に現地と国内の金融機関の連携を強めるなどの方策を具体的に進めています。

 大武 TKC東京中央会の松本会長からは、会計人としてどういう海外展開支援をしてこられたのか、長年のご経験を交えてお話し願えればと思います。

 松本 私からは失敗談をご披露しましょう。今から23年前に初めて海外で仕事をしたときのこと。香港と深で革製品の工場をやっている関与先があり、現地の試算表を見せてもらうと、仮払金などのいわゆる未清算勘定が異常に多い。そこで、「社長、これおかしくない?」と聞きました。そうしたら、「じゃあ先生、一度、香港に行って調べてみてよ」と言うので、後日現地に行くことになりました。
 香港空港に着くやいなや、駐在員が飛んできて「先生、大変だ。昨晩、泥棒が入った。工場の革製品と帳簿を全部持っていかれた。だから、来ても意味なかったよ」と。確かに現場には香港警察も来ていて驚きましたね。まるでジャッキー・チェンの映画の一場面のようでした。しょうがないから弁護士と会計士を呼んで、「当座の照合表を見せてほしい」と頼むと、「そんなものはない。残高は毎日銀行に電話で確認している」と。これには完全に騙されました。実際には「バンクノート」という別の帳簿を銀行が持っていたんです。そんなことも知らずに海外に出ていったということです。
 もう一つ、これも中国の例で恐縮なのですが、ある美容院チェーンが上海に出店したときの話です。お店のシャンプーやリンスがあっという間になくなるのでチェックを入れてみると、スタッフがそそくさと鞄に入れて家に持って帰っていました。それだけではなく、勝手に休みの土日に自宅で美容院もやっていた(笑)。
 このように、海外に果敢に挑戦しながら相当酷い目にも何度も遭ってきたわけですが、まさに時代はアジアに向いており、多様な機関が中小企業支援に力を注いでいます。それに呼応して、失敗を教訓にしながらこれからも頑張っていきたいなと思っております。

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