寄稿

TKCブランドで社会を変える

ブランドとは、継続的価値を生む顧客への約束

TKC全国会会長 粟飯原一雄

TKC全国会会長
粟飯原一雄

 TKC全国会創設50周年(2021年)に向けた活動のゴールは、「TKCブランドで社会を変える」です。

 ちなみに「ブランド」とは、家畜の牛に付けられた焼き印を指し、モノの所有者や出自を保証する印が語源と言われています。

 その後、商標等を通して品質の保証を担う意味となり、マスマーケティング時代に入ると、企業や商品の総合的なイメージを表す言葉として定着しました。

 さらに今日のマスメディア時代には、相互理解に基づき「顧客と共に創造する」ことがブランド戦略のキーワードとされています。すなわち商品等の提供側と利用側の相互理解に基づく創造的コミュニケーションが重要と言われています。

 このようにブランドの意味や価値観は時代とともに変わってきているのです。

 ブランド論の第一人者と言われるデービッド・アーカー名誉教授(カリフォルニア大学バークレー校)によれば、ブランドは未来の成功のための足場であり、その組織のために継続的な価値を生み出すものであるとして、次のように述べています。

「それは単なるブランド名やロゴマークより遙かに大きなものだ。それは組織から顧客への約束である。そのブランドが表すものが、機能面だけでなく、情緒面や自己表現、人間関係においても役立つという約束を守ることである。しかし、約束を守ることがブランドなのかと言えば、それでも足りない。ブランドとは、長い旅路のようなものである。顧客がそのブランドに触れるたびに生まれる感触や体験をもとにして、次々に積み重なり変化していく顧客との関係なのだ」(『ブランド論』デービッド・アーカー著、阿久津聡訳、ダイヤモンド社)

 今日における強いブランドとは、「品質がよい」「高機能」というだけでなく、それに加えて「驚き」「気づき」「新たな発見」「親しみやすさ」「かっこよさ」など、人間の感性や情緒に訴える魅力となるものが必要になったということです。

TKCブランド構築のグランドデザイン

 我々が取り組んでいる活動を、『ソーシャル時代のブランドコミュニティ戦略』(小西圭介著、ダイヤモンド社)の掲載図(105頁)を参考にして、「TKCブランド構築のグランドデザイン」として描いてみました。(下図)

TKCブランド構築のグランドデザイン

 中央にある「アイデンティティ」とはブランド構築によって目指すべき目標です。

 TKC会計人の活動で言えば「会計で会社を強くする」ことが「TKCブランド」の究極的な目標です。関与先企業の経営課題に向き合い、経営者自身が、自社の経営が変わる体験をしていく中で、「会計で会社を強くする」感動や喜びを実感してもらうのです。

 そのためには、左側の「会員及び組織」に示した「TKC会計人の理念」のもとで、既に示しているミッションや戦略目標、そして強みの源泉としての「KFS活動」を通じて事務所総合力を強化することが不可欠です。

 右側の「ブランドコネクション」(価値共創)とは、双方向の対話を通じて相互に学んでいく中で、気づきや発見をして、共に価値を創り上げることを指します。TKC会計人のブランドコネクション(価値共創)は、関与先経営者とのコミュニケーション能力を高めることで成り立ちます。

 そこで基軸となるアクションは、TKC方式による自計化や継続MASシステム活用による経営計画や経営改善計画の策定支援、さらには税理士法第33条の2による書面添付を中心とする決算書の信頼性を高める支援などです。

 これらを通じて、経営者とのダイアログにより、会計で会社を強くしていく経験をしてもらうのです。

全TKC会員の愚直な行動力が必要

 ブランド構築にはメディアの活用が欠かせないというのが一般的な認識です。しかし、我々が日頃接しているターゲットは関与先を中心とする中小企業経営者であり、必ずしもメディアを強く意識する必要はないと考えます。

 しかし、一部のTKC会員が動くだけではTKCブランドの構築は成り立ちません。すべてのTKC会員が、強みであるKFS活動を日常業務の中で活かしていく愚直な行動力が強く求められます。

 赤字決算企業割合の高止まり、経営者の高齢化や事業承継問題など、今日の中小企業経営には、さまざまな経営課題があります。「TKC会計人の行動基準書」では、月次巡回監査において、経営助言業務として、経営の健全性の吟味に努めることを求めています。

 ちなみに本年度の年度重要テーマ研修は、実動会員の約54%にあたる5千事務所が受講されました。関与先企業に高品質なサービス(KFS活動)を提供し、高付加価値経営を実現することを眼目とする本年の年度重要テーマ研修は大きな成果がありました。しかし、「いい話だった」で終わらせないことです。

自分自身の思考の惰性から脱却する

 かつて飯塚毅博士は講演で、「解行一致(げぎょういっち)」と語っておられました。「理解できた、しかし実行(実践)できない」。こういう方が意外に多いのではないでしょうか。どうすれば実践できるかについて、飯塚毅博士の著書『会計人の原点』には次のように書かれています。

「それは素直であり、純粋であることを要する。このことは大変困難なことであるが、努力することによって達成可能である。即ち、雑念妄想よ、さようなら、という修練を積むことによって可能である」

 そのためには坐禅、瞑想に多くの時間を割き、自己探求に努めるべきと考えます。「坐禅」の目的は雑念妄想の根源を絶ちきり、無念無想の自己修練を積むことにあるようですが、なかなかゆっくり時間をとって修練するひまがない方は、せめて瞑想の時間をとられてはと思います。「瞑想」とは、『仏教辞典』(岩波書店)によれば「目を閉じて深く思索すること」ですが、飯塚毅博士は次のように述べています。

「瞑想とは、自分の心が、自分の心の中を深く観察する状態の実践のことだ。大日経には『実の如く自心を識(し)る』という言葉がある。これが瞑想だ。人間は、瞑想を媒介とする場合に限って、自己変革ができる。自己変革の可能性をもつ動物は、人間だけである。ここに人間の霊性がある。瞑想を断行できない者は、自分の思考の惰性から脱却できず、(傍線筆者)従って、自分の運命形成を支配できない、多くの人はここを理解していない」(TKC鹿児島計算センター開設記念講演より要約・『TKC会報』昭和59年5月号)。

 飯塚毅博士の言にしたがって、TKC会員各位は、時には、自分自身の心の中をじっくり探索する静かな時間をもってはいかがでしょうか。

(会報『TKC』平成28年9月号より転載)