会員事務所訪問
業績検討会を徹底し「未来を一緒に考える」事務所でありたい
<経営改善支援編>
尾中 寿(南近畿会東大阪支部)

日本有数の「ものづくり企業」の集積地として知られる東大阪市。この地に事務所を構える尾中寿会員は、ISO9001を取得して所内体制を整備しながら、継続MAS活用による業績検討会での目標数値と行動計画の確認などを通じて、関与先の経営改善支援に全力を尽くしている。
黒字割合が減少し“壊滅状態”の関与先「記帳適時性証明書」を金融機関にPR
──東大阪市は日本有数の中小製造業の集積地ですが、関与先さんの状況はいかがでしょうか。
尾中 はっきり言うと、ほぼ“壊滅状態”です。関与先の黒字決算割合はリーマン・ショック以前は8割を超えていましたが、最近は5割あるかないかです。
関与先の中には規模は小さくても高い技術力を持っている企業が数多くあります。技術力が評価されて近畿経済産業局から表彰されたり、頻繁に会社見学をされたりしている企業も珍しくありません。しかし、こうした黒字経営をずっと続けてきたような企業でも資金繰りは厳しく、必要に応じてリスケも行って対応しています。
──資金繰り支援にはどう取り組まれておられるのですか。
尾中 ProFITの「緊急経済対策」なども利用しながら中小企業支援制度の情報へのアンテナを張るとともに、商工中金の有効利用や社債を活用した自己資本の充実に向けた取り組みなどの情報提供も行っています。
また金融機関に対しては信頼を得られるようなアプローチを常に意識しています。その一つとして、昨年9月の「記帳適時性証明書」の発行開始を受けて、すぐに金融機関用に「尾中税務会計事務所方針書」(資料1)を作成し、証明書の添付目的と効果について訴えました。関与先には、融資相談など金融機関との交渉ごとの際に提出する決算書には必ずこの方針書を添付するように指導しています。
それ以前から関与先には日頃、内訳書には雑収入の1円たりとも曖昧にせずに明示するよう指導しています。こうした厳しい指導によって、関与先から「金融機関からこのように評価されました」という声を聞くことがありますが、それが私たちにとって何よりの喜びです。
──昨年のTKC経営革新セミナーでは、関与先と金融機関混合のグループディスカッションを行われたそうですね。
尾中 はい。セミナーに参加された社長は、資金繰りのポイントやリスケの実態など金融機関の本音を聞くことができた点に満足されていましたが、こうした機会を設けることも会計事務所の大切な役割だと実感しています。

一期ごとに改善すべき課題を設けて社長の数字に対する関心を高めている
──約100件の関与先さんの8割以上にKFSを実践されていると伺っておりますが、経営改善支援の要となる経営改善計画の策定支援にはどう取り組まれていますか。
尾中 継続MASは基本的に全関与先に提供しています。経営改善計画を作る際、数字の見方がわからないような社長には、まず一期ごとに改善すべき課題を設けました。経営に対する社長の意識改革が最も重要になるので、外部の勉強会に参加してもらうなど意識変化に向けて根気強く取り組み、数字に対する関与先社長の意識を向上させていったのです。
ちなみに経営改善計画に関心がない社長でも、「儲かってる会社は何をしてるの?」とよく口にされます。「そういう会社は巡回監査と月次決算を早く終えて、先手を打った対応をしていますよ」とお話しすると、よい意味でライバル意識を持ち、経営改善計画の策定に取り組むきっかけになることもあります。
また経営改善指導は「企業を倒産させないための仕組みづくり」にほかならないので、企業防衛制度や中退共制度なども提案しています。資金不足に陥らないために「手形をやめる」「在庫の回転を早くする」など、当たり前のことをきちんとしているかどうかが重要なのでその確認も行っています。
──巡回監査の内容もポイントになりますね。
尾中 経営改善計画策定後のモニタリングが大切になるため、毎月の巡回監査では前年比較とともに、必ず予算と目標管理のサポートをしています。巡回監査のときに社長が同席されている点も、社長の数字を読む力を向上させる近道だと考えています。今後は中長期経営計画策定支援にも力を注いでいくつもりです。
改善事項の検証や問題点を抽出して社長と一緒に討議する
──業績検討会や決算報告会の具体的な実施手順を巡回監査担当者の辻本さんからお聞かせください。
辻本 決算報告会では、前期の改善事項や目標達成のための行動計画における実践の検証、社長にヒアリングをしながらの定性・定量両面からの企業格付けなどを行っています(資料2)。
またその前提となる業績検討会は年に4回開催して、こちらから数字上の課題や問題点を投げかけて、その後の具体的な行動を社長に考えてもらっています。社長からの経営上の問題点や課題の投げかけがあれば、税務上の判断を加えながら意見を述べています。ほかには社長が作られる予算に対して、前期と比べた状況や数字の実現可能性などをチェックしています。
尾中 業績検討会で重視しているのは、問題点を抽出して一緒に討議することです。会計事務所が「こうあるべき」と結論づけるのではなく、問題点があれば質問を投げかけ、その過程で行動計画などをまとめていく。会計事務所からの押しつけではない、一緒に考えていく場が業績検討会です。
辻本 継続MASを使って会議をしている関与先の特徴は、目標に対して現在の限界利益や労働分配率などをしっかり把握していることです。売り上げや利益への意識が高く、いつも目標を意識している。だからこそ最終的に目標に近づけ、黒字決算を実現しているのだと感じています。
また赤字であっても危機感を共有する必要性から、社員の役職に関係なく、全社員に決算報告会で業績や予算などを報告している関与先もあります。

「ISOによる質的超一流事務所」を目指して関与先を元気にしていきたい
──経営改善支援に向けた所内体制についてお話しいただけますか。
尾中 私の事務所は「ISOによる質的超一流事務所」を目指しています。経営助言などを行うベースとなる巡回監査の中で、職員は関与先の要望事項の聞き取りなどを必ず行うことになっています。そして巡回監査後は書類の精度と品質を上げるために事務所で第3者チェックを行っており、これによって事務所としての業務品質を均一に保つことができます。
また関与先の4半期業績検討会などの実施予定を年間スケジュールに盛り込んでいます。こうすれば新入職員でも例外なく担当することになりますし、できていないときは注意もできます。経営改善計画書についても、ISOの仕組みの中で全関与先に提出しなければいけない仕組みにしているのです。
このようにISOを機能させることで、職員間の業務品質のバラツキをなくせるとともに、業務に問題点が発生したらそれが改善できるようになります。ISOの柱は「予防措置」や「継続的な改善」ですから、失敗が次に生きる。所長が職員に「頼むぞ」と口頭で伝えるだけでなく、その仕組みをつくることが大切です。
──職員教育の面で工夫されていることはありますか。
尾中 事務所では月1回の会議、週1回の会議、毎日の会議と3つの会議を行っていますが、月の会議以外の運営は職員に任せています。持ち回りで講師を担当し、たとえば中長期経営計画策定支援を実際に行っている職員がプロジェクターを使いながらそのプロセスやポイントを披露し、情報共有を図っています。また議事録を必ず作成し、会議を欠席した職員にも見せています。こうした会議での討議の積み重ねが少しずつ業務品質を向上させ、経営改善支援にも生きていると考えています。
──今後の事務所のビジョンをお聞かせください。
尾中 実は今年から事務所開業以来の経営理念を次のように一新しました。
未来を一緒に考える ~Think the Future~
お客様の未来
私たちは、「超一流の品質」と「まごころ」を通じて、お客様と感動を共有し、価値ある未来を創造します。
社会の未来
私たちは、「誠実な行動」と「笑顔」を通じて、社会との信頼関係を築き、輝く未来に貢献します。
会社・社員の未来
私たちは「おしみない協力」と「情熱」を通じて、自己成長を続け、豊かで楽しい未来を実現します。
この経営理念にある「誠実な行動」「おしみない協力」などの言葉を単なるお題目とせずに、きちんと全職員と共有し、関与先のためになる具体的な行動をとことん考えていきたいと思います。
この東大阪市の中小企業は高い技術力を持っています。しかし技術力とマネジメント力は別物であるがゆえに、光り輝く中小企業がつぶれていくのは残念でなりません。新たな経営理念のもと、社長の心に火をつけられるような支援を事務所一丸となって行い、地域の企業を元気にしていきたいと思います。

(TKC出版 清水公一朗)
昭和34年兵庫県生まれ。平成2年事務所開業、TKC入会。TKC南近畿会副会長、企業防衛制度推進委員長。
(会報『TKC』平成22年6月号より転載)

































