インタビュー
世界の会計教育の潮流と「新月プログラム」の意義
関西学院大学教授 平松一夫氏
と き:平成22年4月23日(金) ところ:関西学院会館
第7期「TKC・関西学院大学新月プログラム」が100名の受講者を集めて開催されている。関西学院大学前学長で本講座のコーディネーター役の平松一夫教授に刈谷敏久中央研修所会計・経営研修小委員長が本講座の意義を中心に伺った。
◎同席 TKC全国会事務局部長 浅香智之
重要な会計専門家への共通の教育
刈谷 今年も「TKC・関西学院大学新月プログラム」がスタートしました。今回は全国から約100名の会員が参加します。そこで第1回の講義前の貴重なお時間を頂戴し、本講座の意義を中心にいろいろなお話を伺いたいと思います。はじめに、国際的な会計の潮流が日本に与える影響をお聞かせ下さい。

平松 現在、国際会計基準(IFRS)が大きな話題になっていますが、昨年6月に金融庁企業会計審議会から中間報告が出され、公認会計士とその監査対象のクライアント、これは子会社や関連会社を含みますが、そのあたりが必死になって基準導入に向けて準備しています。ただ、任意適用は認められており、日本ではこの3月期から日本電波工業という会社が適用しそうです。
また、大学の教員も必死です。私どもは学者ですから世界の学会によく出かけるわけですが、アメリカの学会もそうです。最近行ったブラジルも台湾も韓国もそう。特に韓国は来年導入ですから。
国際監査基準が採用されるとなると、会計士業界にとっても大きな問題となります。それと何と言っても会計専門家への教育が必要です。昨年、日本会計教育学会が設立され、第1回大会ではこれからの会計教育のあり方が大きな話題となりました。
ちょっと話が変わりますが、世界から見ると、税理士を含めた会計専門家の育成については、カリキュラムの水準をある程度統一しておかないと認められないという問題があります。そういう議論が既に始まっており、これが今度の公認会計士試験制度の見直しにも若干影響を及ぼすかもしれません。税理士試験制度にも絡んでくる可能性がある領域です。
世界的には、会計専門家への共通の教育があって、その共通のベースから監査を担当する公認会計士の試験と税務を担当する税理士の試験が分かれていくという発想がある。その仕組みがあることが世界の基準ですが、日本ではそれぞれの監督官庁が違うこともあって、話がなかなか前に進まないようです。
資格者の教育水準維持に貢献

刈谷 そうしますと、会計基準の国際化の課題として、世界の会計教育の潮流を踏まえる必要がありそうですね。
平松 日本の税理士や公認会計士という専門家は、国際的に認められるべき資格ですから、国際基準に従ってきちんとやっているということを示す。そうすれば、日本は世界から尊敬され得る国になるということです。今まさにそのスタートラインに立っています。その意味では、大勢の税理士を抱える日本税理士会連合会が国際会計士連盟(IFAC:世界の500万人を対象とする組織)に入っていないのはどうかと感じています。
浅香 そのIFACに加盟していないと、日税連にはどんな影響がありますか。
平松 国際基準において会計人のプロフェッショナルと見なされるためには、大学入学程度の学歴や一定の実務経験が必要です。また、CPD(コンティニュアス・プロフェッショナル・ディベロップメント)と言って、継続的な勉強で資格が維持されるという仕組みも必要です。つまりIFACでは、会計専門家の資格取得前と取得後の教育基準の国際的なコンバージェンスを目指しています。一度資格を取ればいいのではなく、世の中の激しい変化に応じて常に勉強し続ける姿勢が求められているわけです。
ここ数年の動きとして、2012年12月までに今作業している国際会計教育基準がある程度確定しますから、そのタイミングで名を連ねていない団体は、本当にプロフェッショナルと言えるのかと世界から判断されてしまいかねません。
刈谷 これまでそのような議論はあまりなかったように思いますが。
平松 私自身が今年1月から国際会計教育基準審議会(IAESB)のメンバーになったこともあって、昨年からその分野のことを勉強して少しずつ状況が分かってきました。
いずれにしても、世の中の動向を踏まえた議論をきちんとした上で対応することが重要でしょう。また、教育水準の維持という意味では、まさに我々の「新月プログラム」もその一環として機能できると考えています。自らを高めることで、将来にわたって日本はもとより、世界の会計業界にも貢献できる力を身に付けておく。このような取り組みがこれからの会計専門家には必要です。
中小企業会計指針もテーマに
刈谷 今年「新月プログラム」は第7期を迎え、これまでに延べ462名が受講しています。私は4回参加していますが、最初は普段身近に接している中小企業の会計とのギャップに驚きました。しかし講義を聞けば聞くほど会計への考え方が広がってきたように思います。とはいえ、本講座に参加するのは初めてという会員が大半なので、今回から中小企業の会計指針もカリキュラムに組み入れていただきました。この講義は甲南大学会計大学院院長の河﨑照行教授が担当されます。
平松 私が毎回講義に先立って受講者の皆さんに必ず申し上げているのは、勉強したことがすぐ日々の仕事に直結するわけではないということです。やはり広い意味で、会計専門家として一つの見識を備えられるような内容のご提供を目指しています。講師陣は、わが国における各分野の第一人者ばかりですから、どこに出しても恥ずかしくないカリキュラムと陣容になっています。これを咀嚼し、仕事に、そして将来に生かされるのは受講者本人にかかっています。
中小企業の会計指針については、今動いている「非上場会社の会計基準に関する懇談会」(企業会計基準委員会)の議論と重なる部分があり、税理士業界のみならず日本の会計制度にとっても重要であり、非常に時宜を得たテーマだと思います。
刈谷 平松教授はその懇談会メンバーのお一人で、6月にはある程度の方向性が示されるようですから、本講座で予定されている10月開催のパネルディスカッションでは、あるべき中小企業の会計などをテーマにお話をうかがえればありがたいと考えています。
日本を守る「IFRS出島論」
刈谷 日本には確定決算主義があるので、会計とTKC全国会が取り組む書面添付の関係についても、今回の講座からとり入れられます。
平松 そのテーマも重要です。確定決算主義を守るためには、税と会計のいわゆる「税・会一致」というか、ここのところの考え方を会計基準が変わったとしても整理しておかなければいけません。
刈谷 アジア戦略も含めて早くその結論を出しておかないと、手遅れになるのではないかと実は心配しています。
平松 関係省庁等には連携してしっかりとその辺の話を詰めてもらう必要があると思いますが、いろいろな分野で日本が内向きになっているのが懸念されます。その中でもIFRSは世界を向いています。これについては、今日の私の講義レジュメの最後に、私見として「IFRS出島論」と書いておきました。
浅香 実はその言葉が気になっていたのです。どんな意味ですか。
平松 日本は日本として、やはり守らねばいけないものがある。中小企業の会計についてもきちんと守っていく。もし、すべてをオープンにしたら、日本はかなり辛い立場に追い込まれるように思います。従って当面は、IFRSについては上場会社でしっかり対応してもらって、これを「出島」として世界にアピールすればいいと考えています。
特に、税務は国ごとに違います。確定決算主義という制度を持っている日本は、その制度との関連で会計基準をよく考えておかないと、中小企業に対して混乱を招きます。極論に聞こえるかもしれませんが、日本の現状を考えると、国際化についてはそのくらいの覚悟が必要となるでしょう。

経営に役立つ中小企業会計を
浅香 4月7日の「非上場会社の会計基準に関する懇談会」において、TKC政経研の久田英詞政審委員長が参考人として意見具申しました。非上場会社を3層モデル((1)金商法対象会社及び会社法上の大会社(2)会計参与設置会社等(3)その他の中小・小規模企業)とし、その他の中小・小規模企業については「税法を考慮しながらも、相当な減価償却の計上、賞与引当金の計上など、少し手を伸ばせば届くくらいの会計基準」にすることが望ましいと提言いたしました。
平松 会計参与制度は会社法と結びついており、それは関係者の合意のもとで作られているわけですから、それはそれで尊重したらいい。ただ、中小企業会計指針をすべての中小企業に当てはめることを目指すのには無理があると思います。
では、これを使えない中小企業はどうすればいいのか。日本の場合、税務基準が最も大きなベースとなっていますが、税務基準は会計基準ではないので、中小企業に相応しいものを作る努力をしたらどうかと思います。現実的に使えるもので、かつ広く経営管理にも役に立つ基準を持っておくという意識がないと、中小企業の発展性を狭めてしまいかねません。
浅香 やはり「経営に役立つ会計」「会計が会社を強くする」という観点が必要ということでしょうか。
平松 まさに、そういう問題意識を持っています。
相互啓発でシナジー効果が上がる
刈谷 「新月プログラム」を今後も末永く継続していくために、TKC会員に一言メッセージをお願いできますか。
平松 皆さんは、TKC全国会の創設者・飯塚毅先生の理念を理解するだけでなく、それを実践しようとされている。職業会計人としての使命感を持って、その職に当たるために自らを高めようとする意識、これが非常に強いことにいつも感銘を受けています。私どもも皆さんとの交流の中で、自らを高める機会をいただいています。持っている知識を一生懸命ご提供することで、相互に啓発し、いわゆるシナジー効果を上げられたらいいなと思っています。
理念を大切にされて、自らを高め、クライアントのために、そしてそれが結果として日本経済のために役立つ、こういう活動を引き続きしていただきたい。「新月プログラム」がその一助になれば、これほど嬉しいことはありません。
(構成/TKC出版 古市 学)
現在、日本会計研究学会会長、アメリカ会計学会副会長、国際会計士連盟・国際会計教育基準審議会委員、金融庁企業会計審議会委員、企業会計基準委員会委員等として活躍。
(会報『TKC』平成22年6月号より転載)

































