財務局長に聞く
全国ネットワークを活用した中小企業支援に期待しています
中国財務局長 村中健一氏
とき:平成23年9月2日(金) ところ:中国財務局(広島市中区)
仙台国税局長の経歴を持ち今年6月に中国財務局長に就任した村中健一氏に、管内地域の経済状況や中小企業の金融円滑化等について伺った。
為替レートと電力供給制約の問題で製造業の海外シフト拡大を懸念
──村中局長には、仙台国税局長のときに本誌でインタビューをさせていただいております(2008年11月号)。その節は、大変お世話になりました。
村中健一氏
村中 こちらこそ、ありがとうございました。特に、TKC会員の皆さんには、電子申告と書面添付の推進につきまして、本当によくやっていただいたという思いがあります。
──この6月に中国財務局長にご就任されたわけですが、国税局長を経て財務局長をお務めになることで、感じていらっしゃることはありますか。
村中 あれから3年経って、今回財務局長になったわけですけれども、実はその間も毎年、職場と仕事の内容が変わっておりまして、そういう意味ではいろいろな経験をさせていただいています。私にとっては今年度いっぱいでちょうど勤続30年になり、その中で財務局での経験は今回が初めてです。
ご承知のように国税局というのは、すごく組織が大きいのです。仙台にも3千人強の職員がおり、どちらかというとその内部管理や組織管理の仕事の割合が高く、外部との接点はそれほどありませんでした。一方、財務局の場合は、地域の経済情勢、あるいは財務省や金融庁の行政に対する地域の方々のご要望やご意見を把握するというのが第1の仕事になりますので、外部の方々との接点が非常に多いのです。大勢の方とお目にかかっていろいろなお話を伺えるのが楽しみであり、また実際に楽しんでいるところです。
三木 局長のプロフィールを拝見しますと、ご出身は岡山県だそうで、中国地方とは縁が深いのですね。
村中 親はもともと山口県ですけれども、岡山にいる間に私が生まれ、高校までおりましたから、地元での勤務の機会が与えられたということに大変感謝をしています。
──経済情勢について伺いたいのですが、東日本大震災の発生によって、直接的な被害を受けていない地域でも間接的な被害が全国に広がっています。中国地方にこの影響はございますか。
村中 震災発生直後からしばらくの間は、実害を受けたというよりも、消費マインドの低下、あるいは自粛ムードがかなり広がりましたので、その中で、不要不急の消費を控えるという動きがあって、個人消費が大分落ち込みました。生産活動も、特に自動車産業を中心にサプライチェーンが寸断され、これも大幅に減少しました。自動車の生産が止まったことで輸出も落ち込み、かなりの影響が見られました。
震災から半年近く経とうとしている現状において、個人消費については高額品を中心に動きが依然鈍いようです。ただマインドの面はかなり回復してきていて、消費抑制の動きもおおむね緩和されつつあります。生産活動もサプライチェーンの立て直しに伴って、特に自動車については生産が回復してきており、そういう意味で、中国地方の経済全体としては、上向きの動きが見られます。
電力供給制限に関しては、中国電力がもともと原子力発電の依存度が低いということもあり、自家発電設備を持っている工場も結構あるので、電力の安定供給が他地域より比較的確保しやすい環境にあります。
──今後の見通しはいかがでしょう。
村中 個人消費につきましては自粛の解消などによって、今後、緩やかな持ち直しの動きが続くだろうと見ています。生産活動についても、サプライチェーンの問題の解消であるとか、新興国の海外需要などが依然として強いところもあり、さらに回復していくと見ており、当面は、景気は持ち直していく傾向が続くと期待しております。
ただ、ここに来て急激に進んだ為替レートの問題と、全国的な電力供給制約の問題があって、これらのことをきっかけに、特に製造業の方々が海外に生産をシフトされる、あるいは海外に出ていくという動きが今後拡大していくということが懸念されます。
三木 製造業に関しては、我々のクライアントも操業停止というケースがありましたが、部品供給不足は徐々に解消されてきて、製造業の生産そのものは改善しています。ただ、さっきおっしゃったように、円高で物凄く困っていまして、ほとんどその対策に追われているという企業もあります。
一方において、中小企業は消費の落ち込みの影響をもろに受けています。そういう意味では、大手企業の状況はおしなべて上がってきているようですけれども、我々のクライアントの多くは回復にはまだ至っておらず、本当に大変だと思っています。
経営改善計画の策定の遅れや計画どおり進捗していない例がある
──「中小企業金融円滑化法」について、金融庁による7月末速報値によれば、全国で約165万件、約45兆円の中小企業への貸付条件の変更等の実行実績がありました。中国管内の経営改善計画の策定状況はいかがですか。
村中 管内の金融機関としては、銀行9行、信用金庫22金庫、信用組合11組合が存在するわけですけれども、トータルの条件変更等の実施状況を見ますと、件数では約10万件、金額にしますと約2.3兆円となっています(平成23年3月末時点)。
そういう意味では、条件変更に向けた取り組みは着実に進んでいると思います。他方で、実際に経営改善が図られるためには、単に貸付条件を変更するだけではなく、貸付条件の変更によって債務者の返済負担が軽減されている間に、その時間的な猶予を使って「実現可能性の高い抜本的な経営再建計画」(実抜計画)を作っていただかなければいけません。それが本来的な目的なわけです。
その経営改善計画の策定状況ですが、これについては実は定期的な報告対象とはしておりませんので、具体的な数値を把握していません。しかし、金融機関に対する監督検査等での個別のヒアリングによれば、例えば、地域経済の悪化などによって先行きの見通しが立たないといった理由から、経営改善計画の策定が遅れている例や、計画は作ったもののその計画どおりに進捗ができていないという例もあるようです。そういう意味では、金融機関には「中小企業金融円滑化法」に基づいて、債務者の返済負担を軽減するだけではなく、本来の趣旨に則って、その返済猶予が行われている間に実抜計画を策定し、その役割を果たしていただきたいと思っています。
三木中国会会長(右)と黒島全国会事務局長
三木 我々としましても、今回の「中小企業金融円滑化法」の政策効果は非常に高いと思っています。
実際、資金調達に苦しんでいる中小企業はかなり少なくなっているように感じます。このことについては非常に喜ばしいのですが、そうした政策的なバックアップを受けた企業の売り上げが伸びたかというと必ずしもそうではない。利益が創出できる企業になったのかといえば、なかなかそうはなっていないわけです。これは切実な問題です。その一方で、実抜計画がしっかり立てられてそれが実行されているのか、かなり懸念されます。
実態として更にいえば、もしかしたら実抜計画はあるけれども、社長さんの血の通ったものになっておらず、資金のバックアップを受けたことでホッとしてしまい、本来の経営の立て直しまで踏み込まれていないのではないかと心配しています。
信頼できる書面添付が金融の面でも活かせるのはよいこと
──そのような状況の中でTKC会員は、地域金融機関と連携した経営改善計画の策定支援に力を入れております。この活動について、黒島事務局長から説明してもらえますか。
黒島 TKC全国会では昨年10月に、「TKC経営改善計画支援プロジェクト」を発足しました。本来、経営改善計画は金融機関のご指導のもとリスケ先の中小企業が作らなければいけないわけですが、それをTKC会員も側面からサポートしようということで始められました。この活動については、現在全国で約120の金融機関と覚書が締結されています。
併行して、5月16日に「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(「地域密着型金融の推進」関連部分)が改正され、企業のライフステージごとに、必要に応じて税理士等の外部専門家と連携することなどが明記されました。これを受けて、より一層金融機関とのパイプを太くして、中小企業の支援に向けた活動が進められているところです。
村中 確かに、地銀さんとか信金さんでも大きなところはしっかりと人材を抱えておられて、経営改善計画についても自前で十分中身のあるものを作る能力もあるし、そういう体制も整えておられます。しかし、やはり小規模の金融機関になると必ずしもそうではないようです。そういう金融機関に対しては、監督指針にも示されているように、税理士さんなどの第三者の知見をお借りして、そこを補ってやっていくことがこれからは重要になってくると思います。
黒島 7月13~14日に横浜にて開催されたTKC全国役員大会において、金融庁の畑中龍太郎監督局長(現長官)に「地域金融機関における地域密着型金融の推進と税理士に期待する役割」というテーマでご講演いただきました。その中で畑中長官は、ドイツの信用保証制度を例示して帳簿の信頼性を確保することの重要性に触れられ、巡回監査に基づく書面添付の普及は税理士にとって究極の姿かもしれないとの見解を述べられました。
三木 書面添付の推進運動は、税務申告書の適正性を証するものとして取り組んでいるものですが、これを機にして「記帳適時性証明書」の意義と併せて金融機関の方々にも広く知っていただかなくてはいけないと考えています。
村中 税理士さんが普段から企業をよく見ているという内容が書面添付で分かれば、それを信頼して税務調査などの対象からその企業を除くことができるので、税務当局としても省力化等の面で凄く助かるわけです。そういう制度が、今度は金融の面でも活かせるのであれば、それはとてもよいことだと思います。
──TKC会員へのご要望も含めてメッセージを頂戴できますか。
村中 TKC会員の皆さんは、全国的なネットワークのもとで、中小企業に関する非常に幅広いデータをお持ちと伺っています。それを活用していただいて、例えばビジネスマッチングなどにおいても、会員同士が協力して中小企業を結びつけるなどすれば、地域密着型金融を推進する上で金融機関としてもありがたいでしょうし、そこには非常に期待しております。
三木 我々も金融機関の皆さんとの連携を密にして、税理士法第1条の使命条項を踏まえ、営利を超えたビジネスドクターとして中小企業の経営改善に向けて一生懸命取り組んでまいります。そして、中国地方から全国に「元気」を発信したいと思っています。今後ともご指導のほどお願いいたします。
村中 こちらこそよろしくお願いいたします。
中国財務局村中局長を囲んで(右から黒島全国会事務局長、
三木中国会会長、石岡編集長、渡邊中国会事務局長)
(構成/TKC出版 古市 学)
岡山県出身、52歳。1982年大阪大学卒業、大蔵省入省、仙台国税局長、郵便貯金・簡易生命保険管理機構理事、造幣局東京支局長、2011年6月現職。
(会報『TKC』平成23年10月号より転載)

































