株式会社TKC創業50周年記念式典に続く基調講演では、DATEV社前理事長の ディーター・ケンプ教授(Prof. Dieter Kempf) に
「2025年における税理士業務」とのテーマで、税理士業界におけるデジタル化への対応について講演いただきました。
TKC全国会粟飯原一雄会長、TKC飯塚真玄会長、角一幸社長、そしてご列席の皆さま、本日はTKC創業50周年記念式典において講演の機会を与えていただき大変光栄です。
TKCとDATEVという私たち二つの組織は──「私たち」という言葉を使うことをお許しください──1972年から業務協力関係を大切に育んでまいりました。またその中で私は飯塚真玄会長と親しくさせていただき、深い友情に恵まれましたことについて、この場を借りて心から感謝申し上げます。
さて、本日のプレゼンテーションでは、税理士業の将来、特にデジタル化の進展に主眼を置いた考察について、ドイツで長年にわたり税理士業に携わってきた私の経験に基づいてお話しします。振り返れば私は、税理士業に30年前から携わってまいりました。そのうちの17年間ほどはニュルンベルク税理士会の副会長を務めております。
それでは、まずは「社会のデジタル化が実際どこまで進んでいるか?」ということを確認してみたいと思います。
スライド1をご覧ください。これは、2005年のローマ法王選出結果が発表される直前にローマのヴィア・デッラ・コンツィリアツィオーネ通りに集まった信者たちの写真です。よく見ると、手前の右端に、携帯電話で写真を撮っている信者がいるのが分かりますね。
では次に、スライド2をご覧ください。これは2013年のローマ法王選出時、同じ場所で撮影した写真です。たった8年でどう変化したのでしょうか? デジタル化が進んでいることがよく示されています。中央手前の、タブレットPCで写真を撮っている人が目立っていますが、ほかの信者たちも皆スマートフォンで写真を撮っています。誰もフィルムタイプのカメラを使っていませんね。
この時スマートフォンで撮られた写真は、おそらくその数秒後にはインターネット上にアップロードされたことでしょう。そして自分がローマで経験した瞬間を、SNSで友人たちと共有することができた──という状況が想像されます。
このように、すでにデジタル化の進んだ社会に私たちが暮らしていることは疑いの余地がありません。これからもデジタル化は急速に進んでいくことでしょう。
グーグル社(アルファベット社)のエリック・シュミット氏は、現在やりとりされているデータ量について、次のように表現しています。
「文明の夜明けから2003年までに蓄積した情報と、同じ量の情報をいまや2日間で生み出している」
データ量はパソコンが誕生した1980年代から急速に伸び、いまや1兆8000億ギガバイトを超えるといわれています。このような膨大なデータ量の推移については、グーグル社やアルファベット社のような、ビッグデータをベースとした事業モデルの会社にとって非常に大きな意味を持ちます。
しかし、ここで気になるのは、税理士業はどうかということです。税理士業もやはり、データをベースとした事業モデルであるといえるのではないでしょうか。さまざまなデータの分析・活用に依存しているのが税理士業ではないかと私は思っています。
そうであれば、税理士業もやはりデジタル化の先端に立って、関与先のためにデータに基づいた分析、データをうまく活用するビジネスモデルを見いだしていかなければいけないと思います。
現在、デジタル化のもたらす税理士への影響について、盛んに議論されています。中でも、カール・B・フライ氏とマイケル・オズボーン氏が2013年に発表した論文「雇用の未来──コンピュータ化により影響を受けやすい職業」が注目されます。これは日本でも発表されたと思いますが、活発な議論を呼びました。
この論文には、イギリスにおける702の職種について、デジタル化(コンピュータ化)により代替される可能性の低い職業が、1位から702位までランク付けされています。このランキングで、私たち税理士(正確には「税務申告書作成代行者)は第695位に、また「会計士および監査士」は第589位にランクされており、デジタル化による代替可能性は高いとされています。
もちろん「税務申告書作成代行者」というイギリスの職種を、日本の「ゼイリシ(税理士)」およびドイツの「シュトイエルベラーター(Steuerberater)」と同等と見なすことはできないと思いますが、メディアには「デジタル化・コンピュータ化が税理士を不要にする」という刺激的な見出しの記事が相次いで出ました。
このままデジタル化が進めば、税理士業は終わってしまうのでしょうか。デジタル化は、税理士業の終焉を意味するのでしょうか?
かつてビル・ゲイツ氏が言った、「バンキング(の機能)は必要だが、いまのような銀行は要らない」という言葉のように、「税務・会計(の機能)は必要だが、いまのような税理士・会計士は要らない」ということになるのでしょうか?
私はそうは思いません。デジタル化、そして法的な変化により税理士の業務が大幅に変わるだろうと確信してはいますが、税理士が不要になることはありません。
なぜ私がそう考えるかといいますと、次の二つの理由によります。①必要最低限の税負担しか背負いたくないという納税者の希望は今後も変わらない、②デジタル化の可能性を活用して事業を国際展開している中小企業もある昨今では、ますます複雑になる規定に対応する上で、経済および租税分野に精通した専門家、つまり税理士の専門的なアドバイスが求められる──ということです。
しかし、税理士の将来の成功のためには、以下の三つの前提条件に積極的に取り組む必要があるといえるでしょう。
ドイツ連邦税理士会が公表した、「年度決算書の作成に関する諸原則についての連邦税理士会の声明(2010)」は、「前提条件1」の良い事例だと思います。
税理士が業務遂行の結果作成する「ベシャイニグング(証明書)」は、依頼に従い引き受けた任務内容およびその責任の一切について、分かりやすくかつ正しい内容でなければならず、業務範囲を超えるものであってはなりません。依頼人には、追加的な作成報告書により、さらなる作業結果を詳細に伝えます。税理士の職務上の責任、特に誠実さと自己責任に鑑み、関与先の依頼により決められた税理士の業務内容と範囲が「証明書」にも明確にうたわれなければならないのです。
このため、「声明」では、作成した年度決算書に付すべき「証明書」について、その業務内容と規模により、次の三つに区分しています。
税理士は、関与先に対する責任がありますが、同時に自由業であることを忘れてはなりません。年度決算書を作成した税理士は、作成に関する「証明書」を発行することで、年度決算書に検証可能な品質備考を付すことになります。これはつまり、第三者による検証ができるということです
ドイツ連邦税理士会が2007年にとりまとめた「税理士のあるべき姿」に目を向けてみましょう。ここには、「税理士のあるべき姿」として、「私たちは重大な責任を負い、格別の信頼を得ている」「私たちは独立の立場から、自らの責任で誠実に職業を遂行する」「高度な専門知識に加えて絶えず研鑽を積み、効率的に事務所を経営し、品質を管理する」と書かれています。
先日訪問した日本税理士会連合会の文書の中にも、「独立性の堅持」について書かれており、日独共通の精神がうかがわれました。この基本的原則を遵守する税理士は、将来を恐れる必要はないと言えるでしょう。
もう一つ、将来の挑戦的課題に打ち勝つ方法があります。それはサーフィンの達人から学ぶことができます。つまり、サーフィンの極意は、スライド3の写真のように波の最先端にいることです。
私たちの二つの組織の創業者、すなわち飯塚毅博士とハインツ・セビガー博士(Dr. Heinz Sebiger)が大胆な試みをしていなければ、つまり時代の最先端に立つことを恐れていたとすれば、このように50周年記念をともに祝うことはできなかったでしょう。
この言葉を税理士の皆さまにお伝えして、将来を楽観視したいと思います。決して楽なことばかりではないでしょう。しかしこれが私たちの将来なのです。(大きな拍手)
講演の最後に、ケンプ教授からTKC飯塚会長へのプレゼント(ニュルンベルクのアーティスト、クリスチャン・フーン氏撮影による東京の写真)が贈呈された。