2020年の大混乱は、社会や企業のあり方を根本から変えた。今後はウィズ・アフターコロナへの具体的な対応が、生き残りの最大のポイントとなる。2021年、世界の、日本の、そしてわれわれの進むべき道はどこにあるのか。時代の先端を走る識者4名に語ってもらった。

プロフィール
おちあい・よういち●1987年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター センター長、准教授・JST CREST xDiversityプロジェクト研究代表。『デジタルネイチャー』(PLANETS)、『2030年の世界地図帳(SBクリエイティブ)』など著書多数。「物化する計算機自然と対峙し、質量と映像の間にある憧憬や情念を反芻する」をステートメントに、研究や芸術活動の枠を自由に越境し、探求と表現を継続している。オンラインサロン「落合陽一塾」主宰。
落合陽一 氏

落合陽一 氏

 昨年来のコロナ禍によって、日本の社会・産業界はどう変わったのか。

 少なくとも、デジタルトランスフォーメーション(DX)が一気に進んだことは衆目の一致するところだろう。テレワークやオンラインでの会議・商談など、もともと欧米では当たり前に行われていたことが、パンデミックを契機にようやく日本の産業界にも普及してきた。そうした背景のなか、雇用のあり方と働き方も大きく変わりつつある。テレワークによって通勤・労働時間が減少したのと同時に、在宅時間の増加によって家事・教育と仕事の両立の難しさが浮きぼりになった。

 リモートワークは企業の人事考課システムの転換を促す。各人のやるべき仕事を明記したジョブディスプリクション(職務記述書)を作成し、成果物で厳格に評価する仕組みが必要になるからだ。必然的に無駄な業務は削り取られ、各人の能力が鮮明になる。メンバーシップ型の雇用に慣れてきた日本企業はしばらくは戸惑うかもしれないが、きちんと運用すればメリットは大きいだろう。とはいえ、エッセンシャルワーカーやドライバーなどフィジカルな仕事をする人には、この仕組みはなじまないので、必然的に1社のなかで異なる人事考課システムが必要になるケースが出てくる。そうした場合にはIT技術によるソリューションが不可欠だろう。

「職」と「住」の境界線が溶ける

 従来の日本の都市構造は工業社会型だった。「職」と「住」が分かれていて、「住」の近くにはレジャー施設、「職」の近くには飲食店とインフラ基盤といった構造であるが、それがいま、変わり始めている。「住」の近くにリモート会議に使えるスペースが増えたり、駅構内にボックスが出来たり、あるいは、ワーケーションなどの制度を活用してホテルで働く人も出てきた。これまで画然と分割されていた「職」と「住」の境界線がコロナ禍によって溶けつつあるといえる。

 そうしたなかで、現在、業績を伸ばしているのはEC関連やコンテンツ制作などIT系の事業者、そして情報サービスを軸にした事業者だ。彼らは概して追い風を受けている。一方で、旅行業、飲食業などフィジカルな事業は苦しい。飲食業では間仕切りの設置とソーシャルディスタンシングで席数やスペースが減少し、不利な状況が少なくともしばらくは続く。旅行業は言わずもがなだ。

 日本にあった工業的な枠組みは今後、試練を迎える。大量生産大量消費型製品に関わる企業は2系統に分かれるだろう。1系統はアップルのようにインフラ化、プラットフォーム化してハードウエアを量産していくスタイル。しかし、これができるほど力のある企業は限られる。それ以外のほとんどの企業にとって、乗り越えるべきハードルは決して低くない。とくに、コロナ禍のなかで国内外のサプライチェーン網をどう維持するのかは重要な課題だ。これまで、現地に足を運んで商談をまとめていた企業も、オンラインで完了させなければならないケースも出てくるだろう。対応が急がれる。

朝令暮改を辞さない柔軟性

 そうした状況のなか、企業経営者には何が求められるだろうか。

 コロナ騒動の先行きは不透明である。ワクチンの開発が完全な「終息」を導くのかというと、誰もそれを断言できない。すべての人に予防接種が行きわたるとはとても思えないからだ。グローバルなサプライチェーンを持っている企業などは、コロナ禍による国際情勢の機微に翻弄(ほんろう)される危険性もある。だからこそ企業経営者にいま求められているのは、朝令暮改を辞さない柔軟性だと思う。広く長期的な視座を持ち、間違いを間違いと認めながら素早い意思決定を行うこと。そうしないと、刻一刻の変化を乗り越えることはできない。従来のリーダーには「初志貫徹」型が多かった。もちろんそれはそれで良いところもあるが、下した意思決定に引っ張られてしまうのでどうしても変化への対応が遅くなる。長期的な視座と朝令暮改をいとわない短期的な意思決定は、ウィズコロナ時代の経営者の必要条件だと思う。

 中小企業の苦戦がしきりに伝えられるが、プラスの面もある。DXの進捗(しんちょく)による「限界費用」の低下だ。会計や予算、勤怠管理、人事系システムの導入による効率化、テレワークによるオフィスなどの固定費圧縮を行いやすくなったのだ。「中央から地方へ」という分散型システムへの移行の流れも、固定費圧縮に一役買うだろう。さらに、儀礼的なリアルの会議や商談は省けるし、オンラインだと忙しい商談相手もつかまえやすく、これまで声をかけられなかった人とコミュニケーションをとることもできるようになる。町工場や商店街も、ウェブショップ、デリバリー、キャッシュレスなどのツールを利用しながら工夫次第ではこれまでの商慣習のらち外でモノを売ることができる。

「筋肉質」の組織体へ

 中小企業の利点は足回りのすばやさである。私は折に触れて中小企業を「高速企業」、大企業を「低速企業」と表現しているが、中小企業の機動力のポテンシャルはさらに増しつつある。なにしろ、オフィスに人が集まらなくて良く、その上DXを進めることで固定費が減少し、高速な意思決定が可能になるのだ。これはもう確実に労働生産性の向上につながっていくといえる。そして、無駄をそぎ落としながら効率化を進めることで「筋肉質」の組織体となっていく。

 私は「ピンチはチャンス」ではないと思う。コロナがチャンスのはずはない。が、DXをチャンスにすることはできる。今後、われわれがDXの普及を〝祝祭〟とみなして盛り上がっていけるかが日本浮上のポイントだと思っている。「憂国の士という連中がいて、彼らが国を亡ぼす」と言ったのは勝海舟だが、ケチをつけるばかりが能ではないということだ。

 ともあれ、DXを進めつつ、ローカル、ニッチエリアでクリエイティブな事業を展開できれば、中小企業は必ず生き残ることができる。ニーズは確実にある。

 2021年が、みなさんにとって明るい年になりますように。

(インタビュー・構成/本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2021年1月号