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院長先生の税務相談(1) 「医業収入」

「医業収入」は、「診療収入」と「医業付随収入」に大きく分類されますが、税金を計算する際は収入の種類で計算の仕方が異なります。経営上の重要課題の1つである「医業収入」を管理するためにも、正しく理解しておきましょう。

Q1   税金や経営に関する言葉は、意味がわかりづらいことがあります。病医院における「収入」「利益」「所得」の意味の違いを教えてください。

A1    「収入」は、患者から直接いただく窓口収入や支払基金・国保連合会からの振込入金のように、入ってきた金額の総額のことです。これに対し、「利益」や「所得」は「収入」から経費や控除を引いた差額を意味します。したがって、診療所の「収入」と言えば、通常は窓口の入金額と社会保険診療報酬の振込額、自由診療報酬等の入金額の合計を指します。

 ちなみに、支払基金からの振込金額は源泉所得税が差し引かれていますので、その分を加えた金額の総額が「収入」となります。

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Q2    レセプト請求は診療行為を実施した翌月初めに行います。しかし、支払基金・国保連合会からの振込入金は、さらに翌月の25日頃にならないと入金がありません。返戻レセプトがあると、さらに2か月延びてしまい、結果として窓口入金から4か月のずれが生じ、年を越してしまうこともあります。このような場合は、入金があった年の「収入」でよいのでしょうか。

A2    院長個人(診療所)の税金を計算する場合、患者を12月に診療したのであれば、たとえ振込入金が2月になったとしても年末の時点で「未収入金」として把握した金額を、その年分の「収入」に含めて計算することになります。

Q3    私は診療所の他にも学校医をしたり、講演や原稿料などの収入があります。これは先ほどの「収入」になりますか。

A3    確かに「収入」と言えます。しかし、税金を計算する前提として「収入」を種類ごとに分類する必要があります。その「収入」の種類ごとに経費を引いたり、特定の計算をしたりして「所得」を算出します。「所得」の種類は図表②で示す10種類です。
 ちなみに、講演料や原稿料の「収入」は「雑所得」に分類されます。

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Q4    「収入」が5,000万円以下の場合には、「とくそ」を適用できると聞きましたが、有利になるのですか。ちょうど5,000万円を超えそうなので、窓口収入を値引き調整しても構いませんか。

A4    「とくそ」とは租税特別措置法で認められている「概算経費の計算方法」のことで、有利になるかどうかはケースバイケースです。しかもこの場合の「収入」は、窓口収入を含めた社会保険診療報酬に限りますので、任意の契約等による社会保険に類似した行為や自由診療収入は含まれません。ただし、何が社会保険診療報酬に含まれるかは複雑ですので確認が必要です。

 さて、窓口収入を値引き調整して5,000万円以内に抑えようとする案ですが、社会保険診療に係る患者負担金は、健康保険法などで必ず徴収しなければならないとされています。従って正しくは診療値引きをする前の金額で「収入」を計上する一方で、値引き金額を経費として処理しますので、5,000万円に収まるように窓口収入で調整することはできません。

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Q5    税務調査が行われた場合、「収入」に関してはどのような調べがなされるのですか。

A5    患者の自己負担分の窓口入金がどのくらいあるかは、支払基金・国保連合会への請求点数によりおおよそ推定できますので、少ない場合は問題となります。 

 また、自由診療収入が比較的多い歯科や産婦人科の場合は、収入除外や計上漏れがないかを重点的に調査することとなります。具体的には、現金の出納帳の記帳状況と現金残高の照合がなされているか、または過不足をどのように処理しているかが問われることになります。
 また、患者が確定申告のために領収書の再発行を求めてくることがありますが、基本的に再発行には、ルールを決めて対応する必要があります。特に図表(4)示す4点がポイントとして挙げられます。

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Q6    「収入」が1,000万円を超えると消費税がかかると聞きましたが、医療機関でも消費税を納める必要があるのですか。

A6    「収入」のうち「差額ベッド料金」、「給食差額」、「健康診断」、「売店収入」などは「課税売上」(図表(5)参照)として消費税の対象になります。

 これまでは、前々事業年度の「課税売上高」が3,000万円以下であれば、消費税を納める義務は免除されていました。しかし、医療法人の場合は平成17年3月期の決算、また個人経営の場合は平成17年分の確定申告から、免税とされる基準が1,000万円に引き下げられました。

 従って、これまで自由診療の収入が3,000万円以下で消費税が免除されていた医療機関についても、今後は、納税しなければならないところが相当増えると予測されます。歯科の自由診療や産婦人科など自由診療の割合が高い診療科に限らず、すべての医療機関は「課税売上」を再検討しておく必要があります。

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(医業経営コンサルタント・税理士 石川 誠/TKC医業経営情報2005年10月号より)