注目の判例

刑法

2019.10.23
住居侵入、強盗殺人、強盗殺人未遂被告事件(愛知の夫婦強盗殺人等事件)
LEX/DB25570481/最高裁判所第二小法廷 令和 1年 7月19日 判決 (上告審)/平成28年(あ)第1889号
被告人が、(1)平成10年6月、共犯者2名と共謀の上、強盗目的でA方に侵入し、A(当時45歳)とその妻B(当時36歳)を殺害し、その際、金品を強取したという住居侵入、強盗殺人、(2)平成18年7月、上記共犯者のうち1名と共謀の上、強盗目的でC方に侵入し、C(当時69歳)を殺害しようとしたが、死亡させるに至らず、その際、金品を強取したという住居侵入、強盗殺人未遂事件につき、第1審判決は死刑を言い渡し、原判決は第1審判決を維持したため、被告人が上告した事案で、被告人の刑事責任は極めて重大であるといわざるを得ず、被告人が被害者や遺族に対する謝罪の意を表していること、(1)の犯行時は23歳と若年であったこと、各犯行時には前科がなかったことなど、被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても、原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は、是認せざるを得ないとして、上告を棄却した事例。
2019.10.23
殺人、非現住建造物等放火被告事件(山口周南市連続殺人放火事件)
LEX/DB25570480/最高裁判所第一小法廷 令和 1年 7月11日 判決 (上告審)/平成28年(あ)第1508号
約10年間にわたり、近隣住民からうわさをされたり、挑発や嫌がらせを受けたりしているとの妄想を抱いていた被告人が、報復しようと考え、一晩のうちに、近隣の住居4軒において住人5名を殺害し、うち2軒の家屋に放火して全焼させたという殺人、非現住建造物等放火事件につき、第1審判決は死刑を言い渡し、原判決は第1審判決を維持したため、被告人が上告した事案で、前科がないことなど、被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても、被告人の刑事責任は極めて重大であり、被告人を死刑に処した第1審判決を維持した原判断について是認せざるを得ないとして、上告を棄却した事例。
2019.10.15
覚せい剤取締法違反、詐欺未遂、詐欺被告事件 
LEX/DB25570468/最高裁判所第二小法廷 令和 1年 9月27日 判決 (上告審)/平成30年(あ)第1224号
被告人は、覚せい剤取締法違反の罪(使用・所持)のほか、(1)架空の老人介護施設の入居権譲渡に関する問題を解決するために必要であるように装って現金をだまし取ろうとし、A(当時71歳)に対し、現金350万円を東京都江東区内のマンションのB宛てに宅配便で2回に分けて送付する必要がある旨うそを言い、B宛てに現金合計350万円在中の荷物を宅配便で発送させ、被告人が、マンションに設置された宅配ボックスに預けられた荷物を取り出してAから現金合計350万円の交付させた詐欺事件、(2)被告人は、同様な手口で、被害者C(当時77歳)に対し、現金150万円を東京都北区内のマンションのD宛てに宅配便で送付する必要がある旨うそを言い、D宛てに現金150万円在中の荷物を宅配便で発送させ、被告人が、マンションに設置された宅配ボックスに預けられた荷物を取り出してCから現金をだまし取ろうとしたが、Cが警察に相談して荷物の中に偽装紙幣を入れていたため、その目的を遂げなかった詐欺未遂事件において、第1審判決は、各事件を有罪としたため、訴訟手続の法令違反、事実誤認を理由に被告人が控訴し、原判決は、第1審判決を破棄し、詐欺既遂事件について無罪を言い渡したため、検察官が上告した事案で、被告人は、自己の行為が詐欺に関与するものかもしれないと認識しながら本件各荷物を取り出して受領したものと認められるから、詐欺の故意に欠けるところはなく、共犯者らとの共謀も認められ、詐欺既遂事件について被告人に詐欺の故意を認めることができないとした原判決は、詐欺の故意を推認させる事実の評価を誤り、重大な事実誤認をしたというべきであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるとして、原判決を破棄し、詐欺既遂事件について被告人に詐欺の故意及び共謀を認めた第1審判決の判断は、その結論において是認することができるとし、第1審判決を維持するのが相当であり、被告人の控訴を棄却した事例。
2019.10.08
出入国管理及び難民認定法違反幇助被告事件
LEX/DB25563568/東京高等裁判所 令和 1年 7月12日 判決 (控訴審)/平成30年(う)第2076号
被告人は、大韓民国の国籍を有する内縁の夫である甲が、平成27年2月25日、本邦に上陸後、在留期間の更新又は在留資格の変更を受けないで、その在留期限である同年5月26日を超えて不法に本邦に残留しているものであることを知りながら、同月27日頃から平成29年6月30日までの間、被告人方等に甲を居住させるなどし、同人がその在留期間を超えて不法に本邦に残留することを容易にさせてこれを幇助したとして起訴され、原審は被告人について、甲の不法残留に対する幇助犯が成立すると判断し、罰金10万円に処したため、弁護人が原判決には法令適用の誤りがあるとして控訴した事案において、被告人につき、甲の不法残留に対する幇助罪の成立を認めたのは、正犯行為の性質を的確に踏まえないまま、幇助行為の要件を形式的に捉え、本件行為の性質を誤認して、それが幇助犯に当たるとする不合理な判断をしたもので、刑法62条1項の解釈適用を誤ったものというべきであるとして、原判決を破棄し、被告人に無罪を言い渡した事例。
2019.10.08
詐欺(予備的訴因窃盗)、窃盗被告事件
LEX/DB25563868/京都地方裁判所 令和 1年 5月 7日  判決 (第一審)/平成30年(わ)第1122号 等
被告人が、共犯者らと共謀の上、警察官になりすましてキャッシュカードをだまし取ろうと考え、氏名不詳者が、被害者に対し、電話で、警察官を名乗り、金融機関の口座から現金が不正に引き出されているので被害者方を訪れる警察官にキャッシュカードを渡してほしいなどとうそを言い、被告人が、被害者方の玄関で、被害者に対し、警察官を装い、捜査協力の必要から、持参した封筒にキャッシュカード2枚を入れた上で、同玄関に同封筒を置いたまま、同封筒を封かんするのりを取りに行くよう求め、同人にその旨誤信させ、キャッシュカード2枚を封筒に入れさせた後、これをその場に残置したまま立ち去らせて同封筒を被告人の自由な支配領域内に置かせた上で、同キャッシュカード2枚を領得してその交付を受け、人を欺いて財物を交付させたとして起訴された事案で、本件は、端的にいえば被害者による財物の交付が一度もなく、欺いて被害者の注意を逸らし、その間に、財物の占有を取得する場合に当たるとみるのが自然であり、詐欺罪ではなく窃盗罪が成立すると認定し、被告人を懲役3年、執行猶予4年に処した事例。
2019.07.16
わいせつ誘拐,殺人,死体損壊,死体遺棄被告事件 
LEX/DB25570324/最高裁判所第一小法廷 令和 1年 7月 1日 決定 (上告審)/平成29年(あ)第605号
被告人が、わいせつ目的で当時6歳の被害者を自宅に誘い入れて誘拐した上、被害者の頸部にビニールロープを巻き付けて締め付け、意識を失った被害者の後頸部を包丁で複数回突き刺して殺害し、遺体を切断するなどして損壊し遺棄したという事件で、検察官が量刑不当を理由に上告した事案において、第1審の死刑判決を破棄し、被告人を無期懲役に処した原判決が、刑の量定において甚だしく不当であってこれを破棄しなければ著しく正義に反するものということはできないとして、本件上告を棄却した事例。
2019.06.18
殺人被告事件
LEX/DB25570289/東京高等裁判所 平成31年 4月24日 判決 (控訴審)/平成30年(う)第1882号
被告人は、かつて覚せい剤を使用したことにより30代頃から覚せい剤精神病にり患し、自分の頭の中に年配の男性がいるとの妄想や、同男性から自殺や殺人を命ぜられる幻聴を生じ、入退院を繰り返していた状況の中、被告人の自宅で、同男性から「人を殺せ。」と命ぜられる妄想・幻聴を何度も体験し、同妄想・幻聴によって、隣室に、家事手伝いに来ていた被害者(当時73歳)を殺害しようと決意し、被害者が1人であることを確認した後、ビニール手袋を着用し、ビニール袋で両足を覆った上、毛染め用ガウンを着て、ペティナイフを持ち、隣室に赴き、被害者に対し、本件ナイフで、その左前胸部と前頸部を突き刺し、その頸部と左手首を複数回切り付け、被害者を前頸部と左前胸部の刺突に基づく右上甲状腺動脈の完全切断と左鎖骨下静脈の損傷による失血により死亡させて殺害した事件で、原判決は、本件犯行当時、覚せい剤精神病の影響により、心神耗弱の状態にあった、という事実認定をし、懲役8年6月に処したため、弁護人が、原判決には事実の誤認があるとして控訴した事案において、被告人に、妄想・幻聴以外に犯行の原因が全くない事案であるところ、原判決は、論理則、経験則等に反して、被告人の精神障害の本件犯行への影響の強さについては過少に評価し、行動制御能力については、犯行発覚防止行為を二重の意味で過大に評価しているといわざるを得ず、被告人の精神障害が本件犯行に及ぼした影響が圧倒的なもので、被告人が、本件犯行当時、行動制御能力が失われ、心神喪失であったことの合理的疑いは残り、原判決には事実誤認があるとして、原判決を破棄し、被告人に対し、無罪を言い渡した事例。
2019.05.28
虚偽診断書作成、同行使被告事件
LEX/DB25570215/京都地方裁判所 平成31年 3月19日 判決 (第一審)/平成29年(わ)第421号
被告人は、病院のセンター所長を務める医師であり、指定暴力団総長Eの診療を担当していたものであるが、Eの病状等に関する高等検察庁検察官からの平成28年1月27日付け裁判執行関係事項照会書に対し、同月29日頃から同年2月5日までの間に、同病院で、真実はEがその当時に重篤な心室性不整脈であるなどの事実はなかったのに、『当院での現在の病状については、継続して起こる心室性の不整脈であり、その出現頻度は日によって異なるが概ね7,000回から10,000回は出現していると思われ、時間帯によって多く出現する時間帯が認められ、時には2連発までの出現が確認されている。』、『E氏の心室性不整脈は…かなり重篤な状況であるといえる。』、『特に最近については強い自覚症状を訴えて時間外に受診されることもあり』、『現在の症状から、今後、心室性不整脈が頻発し、症状が重篤化することが安易に予測できる。』などと虚偽の事実を記載して同年2月5日付け同検察官宛ての回答書を作成し、もって公務所に提出すべき診断書に虚偽の記載をした上、高等検察庁に郵送し、同月8日、同検察庁執行係職員に対し、同回答書を真正な内容のものであるように装い提出して行使したもので、本件では,被告人が作成・行使した本件回答書の記載内容が虚偽であるかどうか、すなわち、被告人が、客観的真実に反する診断内容を、自己の認識又は判断に反して記載したかどうかが争われた事案において、被告人が作成した本件回答書の記載内容が、医学的・客観的にみて真実に反するというには合理的な疑いが残り、本件回答書の記載内容が虚偽であると認めることはできないとして、被告人に対し、無罪を言い渡した事例。
2019.05.21
準強制性交等被告事件(性的犯罪 父親に無罪)
LEX/DB25562770/名古屋地方裁判所岡崎支部 平成31年 3月26日 判決 (第一審)/平成29年(わ)第549号 等
被告人は、同居の実子であるA(当時19歳)が、かねてから被告人による暴力や性的虐待等により被告人に抵抗できない精神状態で生活しており、抗拒不能の状態に陥っていることに乗じて、Aと性交しようと考え、会議室で、同人と性交し、もって人の抗拒不能に乗じて性交をした(平成29年11月7日付け起訴状記載の公訴事実)、及び、被告人は、同居の実子であるA(当時19歳)が、かねてから被告人による暴力や性的虐待等により被告人に抵抗できない精神状態で生活しており、抗拒不能の状態に陥っていることに乗じて、Aと性交しようと考え、ホテルで、同人と性交し、もって人の抗拒不能に乗じて性交をした(平成29年10月11日付け起訴状記載の公訴事実(但し,同年11月7日付け訴因変更請求書による訴因変更後のもの))事案において、Aが本件各性交当時に抗拒不能の状態にあったと認定することはできず、本件各公訴事実について、刑事訴訟法336条により、被告人に対し無罪を言い渡した事例。
2019.05.07
強制わいせつ致傷、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(千葉県)違反、建造物侵入、傷害被告事件
LEX/DB25570196/最高裁判所第二小法廷 平成31年 4月19日 判決 (上告審)/平成30年(あ)第1333号
平成28年法律第54号による改正前の刑訴法157条の3、157条の4の各規定が憲法37条1項、2項前段、82条1項に違反しないとし、本件上告を棄却した事例。
2019.04.23
窃盗被告事件 
LEX/DB25562495/千葉地方裁判所 平成31年 3月19日 判決 (第一審)/平成29年(わ)第1545号
窃盗罪等により執行猶予付判決を受けていた被告人が、その猶予期間中に再度、窃盗した事件(カフェで店長管理のポーチ1個(販売価格200円)に及んだ万引き)で、実刑か再度の執行猶予かという量刑が争点となった事案において、被告人は、万引き自体に快感を覚えているわけではなく、相応の動機、目的で万引きを繰り返しているものと考えられ、食料品でもなく、換金価値もない本件ポーチを万引きしたという本件犯行の動機、目的について、被告人はよく分からない旨を供述するが、被告人の心情に照らせば、本件ポーチを欲しいと思ったものの、少しでも出費を減らして家計を助けたいという歪んだ動機、目的があったと考えるのがもっとも自然であるとし、被告人の行為責任が一定程度軽減されることに加え、諸事情についても酌むべき点が多々認められることも考慮し、懲役1年、保護観察付き執行猶予5年を言い渡した事例。
2019.04.09
強盗殺人、営利・生命身体加害略取、逮捕・監禁、死体損壊・遺棄、窃盗、住居侵入、窃盗未遂被告事件(堺市連続強盗殺人事件)
LEX/DB25570120/最高裁判所第三小法廷 平成31年 2月12日 判決 (上告審)/平成28年(あ)第1485号
被告人が金品を奪って殺害し死体を遺棄しようと企て、商業施設の駐車場で女性(当時67歳)を車に押し込み、車ごと連れ去って現金等を強取し、食品包装用ラップフィルムを頭部に巻き付けて殺害し、山林で死体を焼却するなどし、強取したキャッシュカードで現金自動預払機から現金5万円を引き出し、その1か月弱後に、知人の元会社役員である男性(当時84歳)から金品を奪って殺害しようと企て、同人方に宅配業者を装って侵入し、粘着テープ等で拘束するなどして現金等を強取し、ラップフィルムを頭部に巻き付けて殺害し、その後強取したクレジットカードで現金自動預払機から現金を引き出そうとしたが未遂に終わった事件で、第1審及び控訴審判決は死刑を言い渡したため、被告人が上告した事案で、被告人の刑事責任は極めて重大というほかなく、被告人が反省の態度を示していることなど、被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても、原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は、やむを得ないものとして、本件上告を棄却した事例。
2019.03.19
準強制わいせつ被告事件(医師無罪:患者にわいせつ 患者麻酔で幻覚の可能性)
LEX/DB25562276/東京地方裁判所 平成31年 2月20日 判決 (第一審)/平成28年(刑わ)第2019号
特定医療法人財団病院に非常勤の外科医として勤務する被告人が、執刀した右乳腺腫瘍摘出手術の患者であるAが同手術後の診察を受けるものと誤信して抗拒不能状態にあることを利用し、同人にわいせつな行為をしようと考え、病室ベッド上に横たわる同人に対し、その着衣をめくって左乳房を露出させた上、その左乳首を舐めるなどし、同人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をしたとして起訴された事案において、Aは麻酔覚醒時のせん妄の影響を受けていた可能性があることなどからすれば、その証言の信用性には疑問を差し挟むことができ、本件アミラーゼ鑑定及び本件DNA定量検査も、信用性に疑義があり、信用性があると仮定してもその証明力は十分なものとはいえないとして、被告人に無罪を言い渡した事例。
2019.03.05
医師法違反被告事件 
「新・判例解説Watch」憲法分野 解説記事が掲載されました
LEX/DB25561598/大阪高等裁判所 平成30年11月14日 判決 (控訴審)/平成29年(う)第1117号
被告人は、医師でないのに、平成26年7月6日頃から平成27年3月8日頃までの間、タトゥーショップで、4回にわたり、Aほか2名に対し,針を取り付けた施術用具を用いて前記Aらの左上腕部等の皮膚に色素を注入する医行為を行ったことに対し、医師法31条1項1号、医師法17条を適用し、原判決が罰金15万円に処したため、被告人が控訴した事案において、医師に入れ墨(タトゥー)の施術を独占させ、医師でない者のタトゥー施術業を医師法で禁止することは、非現実的な対処方法というべきであり、そのような医師法の解釈は合理性、妥当性を有しないといわざるを得ないとして、原判決を破棄し、無罪を言い渡した事例。
2019.02.19
各業務上過失致死被告事件
LEX/DB25570016/東京高等裁判所 平成31年 1月23日 判決 (控訴審)
静岡県御殿場市の陸上自衛隊東富士演習場内に存在する入会地の野焼作業に係る業務上過失致死の罪で起訴され、第1審判決は、いずれの被告人についても過失があるとしてその成立を認め、被告人aを禁錮1年、執行猶予3年に、被告人bを禁錮10月、執行猶予3年を言い渡されたため、これに不服の被告人両名が控訴した事案において、被告人両名には、被害者ら3名等による本件着火行為による事故について、予見することができ又は予見すべきであったとも、これを回避すべき義務があったとも認められないから、被告人両名に過失を認めた原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があり、原判決を破棄し、無罪を言い渡した事例。
2019.02.19
傷害、道路交通法違反被告事件
LEX/DB25562102/大阪地方裁判所 平成31年 1月11日 判決 (第一審)/平成28年(わ)第4499号 等
被告人は、無免許運転で普通乗用自動車を運転し道路交通法違反の事案では罰金30万円を言い渡し、傷害罪について、被告人宅にて、実子であるV(乳児)に対し、その身体を揺さぶるなどの方法により、頭部に衝撃を与える暴行を加え、回復見込みのない意識障害、四肢麻痺等の後遺症を伴う急性硬膜下血腫等の傷害を負わせたとした事案においては、合理的な疑いが残り、揺さぶり行為等の暴行があったことを認定することはできないと判断し、無罪を言い渡した事例。
2019.02.12
詐欺未遂、強盗殺人、死体遺棄被告事件(資産家夫婦強盗殺人事件)
LEX/DB25449952/最高裁判所第二小法廷 平成30年12月21日 判決 (上告審)/平成28年(あ)第543号
被告人が、普通乗用自動車内にいた親交のある資産家夫妻の各頸部にロープを巻いて締め付け、両名を頸部圧迫により窒息死させて殺害した上、長財布等を強奪し、夫婦の各死体を土中に埋没させて遺棄し、強奪したクレジットカードを不正に使用して約381万円相当の新幹線回数券50冊をだまし取ろうとしたが、未遂に終わったという強盗殺人、死体遺棄、詐欺未遂の事実につき、第一審判決が死刑を言い渡し、控訴審判決もこれを維持したため、被告人が上告した事案において、死刑制度については、憲法36条に違反しないとし、量刑については、被告人の刑事責任は極めて重いというほかなく、被告人が死体遺棄及び詐欺未遂の事実を認めていること、被告人に前科がないことなど、被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても、原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は、やむを得ないものとして是認せざるを得ないとし、上告を棄却した事例。
2018.12.25
詐欺,覚せい剤取締法違反被告事件
LEX/DB25449862/最高裁判所第二小法廷 平成30年12月14日 判決 (上告審)/平成28年(あ)第1808号
第1審判決は、覚せい剤取締法違反の罪(使用)のほか,詐欺罪の犯罪事実を認定し、被告人を懲役2年6月に処したため、被告人が、第1審判決に対して量刑不当を理由に控訴し、原判決は、詐欺の事実につき、職権で判示し、詐欺の故意は認められないとして第1審判決を破棄し、無罪を言い渡したことにより、検察官が上告した事案で、被告人は、捜査段階から、荷物の中身について現金とは思わなかった、インゴット(金地金)、宝石類、他人名義の預金通帳,他人や架空名義で契約された携帯電話機等の可能性を考えたなどと供述するとともに、荷物の中身が詐欺の被害品である可能性を認識していたという趣旨の供述もしており、第1審及び原審で詐欺の公訴事実を認め、被告人の供述全体をみても、自白供述の信用性を疑わせる事情はない。それ以外に詐欺の可能性があるとの認識が排除されたことをうかがわせる事情も見当たらないとし、被告人は自己の行為が詐欺に当たるかもしれないと認識しながら荷物を受領したと認められ、詐欺の故意に欠けるところはなく、共犯者らとの共謀も認められる。それにもかかわらず、これらを認めた第1審判決に事実誤認があるとしてこれを破棄した原判決は、詐欺の故意を推認させる外形的事実及び被告人の供述の信用性に関する評価を誤り、重大な事実誤認をしたというべきであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであって,原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められ、原判決を破棄し、訴訟記録に基づいて検討すると、被告人を懲役2年6月に処した量刑判断を含め、第1審判決を維持し、被告人の控訴を棄却した事例。
2018.12.25
覚せい剤取締法違反、詐欺未遂、詐欺被告事件 
LEX/DB25449854/最高裁判所第三小法廷 平成30年12月11日 判決 (上告審)/平成29年(あ)第44号
覚せい剤取締法違反の罪(使用・所持)、詐欺並びに詐欺未遂事件につき、第1審判決は、被告人を懲役4年6月に処したため、被告人が事実誤認を理由に控訴し、原判決は、第1審判決を破棄し、無罪を言い渡した。このため、検察官が上告した事案で、被告人は、Gの指示を受けてマンションの空室に赴き,そこに配達される荷物を名宛人になりすまして受け取り、回収役に渡すなどし、加えて、被告人は、異なる場所で異なる名宛人になりすまして同様の受領行為を多数回繰り返し、1回につき約1万円の報酬等を受け取っており、被告人自身、犯罪行為に加担していると認識していたことを自認していることから、荷物が詐欺を含む犯罪に基づき送付されたことを十分に想起させるものであり、本件の手口が報道等により広く社会に周知されている状況の有無にかかわらず、それ自体から、被告人は自己の行為が詐欺に当たる可能性を認識していたことを強く推認させるものといえ、原判決のいうような能力がなければ詐欺の可能性を想起できないとするのは不合理であって是認できないとし、原判決が第1審判決を不当とする理由として指摘する論理則、経験則等は、いずれも本件詐欺の故意を推認するについて必要なものとはいえず、また、適切なものともいい難いとし、そして、被告人は、荷物の中身が拳銃や薬物だと思っていた旨供述するが、荷物の中身が拳銃や薬物であることを確認したわけでもなく、詐欺の可能性があるとの認識が排除されたことをうかがわせる事情は見当たらず、被告人は、自己の行為が詐欺に当たるかもしれないと認識しながら荷物を受領したと認められ、詐欺の故意に欠けるところはなく、共犯者らとの共謀も認められ、原判決が第1審判決の故意の推認過程に飛躍があり、被告人の詐欺の故意を認定することができないとした点には、第1審判決が摘示した間接事実相互の関係や故意の推認過程に関する判断を誤ったことによる事実誤認があるとして、原判決を破棄し、第1審判決の事実誤認を主張する被告人の控訴は理由がないことに帰するとして、控訴を棄却した事例。
2018.12.25
傷害致死被告事件
LEX/DB25561710/大阪地方裁判所 平成30年11月20日 判決 (第一審)/平成29年(わ)第3167号
被告人は、平成28年10月3日午後1時30分頃から同日午後1時59分頃までの間、被告人宅で、次男(当時生後約1か月半)が泣きやまないことにいら立ち、その頭部を複数回揺さぶるなどの暴行を加え、同人に急性硬膜下血腫、くも膜下出血及び左右多発性眼底出血等の傷害を負わせ、病院において、同月15日午後2時47分頃、前記傷害に基づく蘇生後脳症により死亡させたとして傷害致死罪で起訴された事案で、被告人が午後1時30分頃の妻の外出後の状況につき、公判廷で本件当日にした供述と異なる内容の供述をしていることなどその他の事情を踏まえても(なお、午後1時30分頃の妻の外出時までに受傷をうかがわせる事情がなかったといえるかについては、必ずしも明らかでないと判断した。)、被告人が公訴事実記載の犯行に及んだことについて、常識に照らして間違いないといえるほどの立証がされているとはいえないとし、被告人に無罪を言い渡した事例。