注目の判例

刑法

2021.09.28
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反、暴行被告事件
LEX/DB25590567/東京高等裁判所 令和 3年 9月 2日 判決 (控訴審)/令和3年(う)第256号
原判決は、被告人が、〔1〕2回にわたり、犯罪収益の一部である現金を、その情を知りながら、Bから受け取って、犯罪収益を収受した、〔2〕被害者の首付近を締め付ける暴行を加えたという事実を認定し、被告人を懲役1年6月及び罰金30万円に処したため、被告人が控訴した事案において、被告人の行為が、いずれも「収受」に該当するとした原判決の判断は維持することはできず、これらを認定した部分を破棄し、公訴事実中、組織的犯罪処罰法違反の点については、犯罪の証明がないので刑事訴訟法336条により無罪を言い渡し、本件暴行の点については、原判決も指摘するとおり突発的なものであり、前科も暴力を内容とするようなものでないことを踏まえ、また、組織的犯罪処罰法違反の点については上記のとおり処罰されないことを前提とすると、一方的で軽微とはいえない態様を考えても、懲役刑を選択するべき事案とまではいえず、かろうじて罰金刑を相当とする範囲にとどまるといえるから、被告人に対して、罰金30万円の刑に処した事例。
2021.09.21
傷害被告事件
LEX/DB25590540/東京地方裁判所立川支部 令和 3年 6月16日 判決 (第一審)/平成30年(わ)第1471号
被告人が、東京都立川市内のアパートで、B(当時49歳)に対し、その顔面及び腹部を拳で多数回殴るなどの暴行を加え、同人に高次脳機能障害、質性精神障害、症候性てんかんの後遺症を伴う全治まで約3か月間を要する脳挫傷等の傷害を負わせた事案において、被告人は本件犯行当時、精神障害の影響で、事物の是非善悪を弁識する能力及びこれに従って行動を制御する能力が欠けていたものであり、心神喪失の状態であったと認め、刑事訴訟法336条により被告人に対して無罪を言い渡した事例。
2021.09.07
各覚醒剤取締法違反、関税法違反被告事件
LEX/DB25590270/東京高等裁判所 令和 3年 7月13日 判決 (控訴審)/令和2年(う)第1596号
被告人両名が、国際的な密輸組織による覚せい剤密輸に被告人両名が運び屋として関与したとして、各覚せい剤取締法違反、関税法違反の罪で起訴され、原審が、被告人両名につき、それぞれ罪となるべき事実を認定し、被告人両名をそれぞれ懲役6年及び罰金200万円に処し、被告人両名から、それぞれ保管中の覚せい剤及び現金のうち4万円に相当する部分を没収する旨判決したところ、被告人両名がそれぞれ控訴した事案で、被告人両名が、日本への渡航時に、運搬する荷物の中に違法薬物等が含まれているとの具体的、現実的な可能性を認識していたとの事実は、原審証拠に照らして検討しても、合理的な疑いを容れない程度に証明されているとはいえず、被告人両名に覚せい剤輸入の故意があったと認めるには合理的疑いが残るのに、これがあったと認定した原判決には事実の誤認があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであって、原判決は破棄を免れないとして、刑事訴訟法397条1項、382条により原判決を破棄し、被告人両名に対しいずれも無罪を言い渡した事例。
2021.08.17
住居侵入被告事件
LEX/DB25590287/大阪高等裁判所 令和 3年 7月16日 判決 (控訴審)/令和2年(う)第1303号
被告人が、正当な理由がないのに、平成30年10月18日午後9時57分頃から同日午後10時10分頃までの間に、神戸市内に所在する被害者方敷地内に同敷地北西側駐車場出入口から同人方浴室付近外側まで侵入したとして被告人を有罪としたため、被告人が控訴した事案で、原判決は、長方形をなす被害者方敷地の1辺の一部にしか囲障が存在しないにもかかわらず、これをもって敷地全体について被害者方の利用のために供されている土地であることが明示されていると認めているが、その理由は実質的には何ら示されておらず、その趣旨を本件駐車スペースに限って上記のとおり認められるというものと理解したとしても、その理由は不合理なものであって是認できないとし、また、被告人が立ち入った場所に限ってみても、囲障によって被害者方の利用に供し、部外者の立入りを禁止するという居住者の意思が明示されている場所であるとは認められないとし、被告人が立ち入った場所が被害者方住居に当たると認めて被告人を住居侵入罪で有罪とした原判決には、事実の誤認があり、それが判決に影響を及ぼすことは明らかであるとして、原判決を破棄し、被告人に対し無罪を言い渡した事例。
2021.07.27
窃盗被告事件
LEX/DB25569719/大阪高等裁判所 令和 3年 3月 3日 判決 (控訴審)/令和2年(う)第900号
被告人が、a株式会社b店において、アルコールチェッカー2点等4点(販売価格合計1万6156円)を窃取したとして、窃盗の罪で懲役3年を求刑され、原審が、京都府警察本部刑事部科学捜査研究所職員dによる鑑定は十分信用でき、それによれば、犯人と被告人の同一性が相応に強く推認され、合理的な疑いを差し挟むことのない程度に犯人と被告人の同一性を強く推認することができるとして、被告人を懲役1年10か月に処したところ、事実誤認を主張して被告人が控訴した事案で、d鑑定の信用性に関する原判決の証拠評価は不合理であり、d鑑定により犯人と被告人の同一性が相当に強く推認できるという原判決の判断は不合理であること、d鑑定及び他の証拠により認められる類似点は犯人と被告人の同一性を推認させる力が高いものとはいえず、また質店における売却の事実の推認力が限定的なものに過ぎず、そして、推認力の高くない上記2つの事実を総合しても、被告人が犯人でないとしたならば合理的な説明が極めて困難な事実関係があるとまではいえず、被告人が犯人であると認定することには合理的な疑いを差し挟む余地があるというべきであるとして、原判決を破棄し、被告人に無罪を言い渡した事例。
2021.07.13
常習特殊窃盗被告事件
LEX/DB25571619/最高裁判所第一小法廷 令和 3年 6月28日 決定 (上告審)/令和2年(あ)第919号
前訴で住居侵入、窃盗につき有罪の第1審判決の宣告を受け、控訴及び上告が棄却されて同判決は確定したが、その後、起訴された本件の常習特殊窃盗を構成する住居侵入、窃盗の各行為は、いずれも前訴の第1審判決後、その確定前にされたものであることが認められ、前訴で住居侵入、窃盗の訴因につき有罪の第1審判決が確定した場合において、後訴の訴因である常習特殊窃盗を構成する住居侵入、窃盗の各行為が前訴の第1審判決後にされたものであるときは、前訴の訴因が常習性の発露として行われたか否かについて検討するまでもなく、前訴の確定判決による一事不再理効は、後訴に及ばないとし、本件について刑事訴訟法337条1号により判決で免訴の言渡しをしなかった第1審判決に誤りはないとした原判決の結論は正当として是認できるとした事例。
2021.07.13
詐欺被告事件
LEX/DB25571604/最高裁判所第三小法廷 令和 3年 6月23日 決定 (上告審)/令和2年(あ)第1528号
被告人が人を欺いて補助金等又は間接補助金等(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律2条1項、4項)の交付を受けた旨の事実について詐欺罪で公訴が提起された場合、被告人の当該行為が補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律29条1項違反の罪に該当するとしても、裁判所は当該事実について刑法246条1項を適用することができると解するのが相当であるとして、これと同旨の原判断は正当として是認できるとし、本件上告を棄却した事例。
2021.06.22
強盗致傷,犯人隠避教唆,犯人蔵匿教唆被告事件
LEX/DB25571572/最高裁判所第一小法廷 令和 3年 6月 9日 決定 (上告審)/令和3年(あ)第54号
犯人が他人を教唆して自己を蔵匿させ又は隠避させたときは、刑法103条の罪の教唆犯が成立すると解するのが相当であり、被告人について同条の罪の教唆犯の成立を認めた第1審判決を是認した原判断は正当であるとして、本件上告を棄却した事例(反対意見がある)。
2021.05.25
準強姦被告事件
LEX/DB25571498/最高裁判所第一小法廷 令和 3年 5月12日 決定 (上告審)/令和2年(あ)第343号
被告人は、飲食店で、被害者が飲酒酩酊のため抗拒不能であるのに乗じ、同人と性交をしたとし準強姦の罪に問われ、第1審判決は、被害者を含む上記飲食店にいた8名の証人尋問及び被告人質問を実施した上で、被害者が抗拒不能であったことは認めたものの、本件認識がなかった旨を述べる被告人の公判供述の信用性は否定できないから、被告人に本件認識があったことには合理的な疑いが残るとして、被告人に無罪の言渡しをしたことに対し、検察官が控訴し、控訴審判決は、訴訟記録及び第1審において取り調べた証拠に基づき、被告人は被害者が飲酒酩酊のため眠り込んでいる状態を直接見て、これに乗じて被害者と性交したから、本件認識があったことは明らかであり、第1審判決が、本件認識がなかった旨を述べる被告人の公判供述の信用性は否定できないとしたのは論理則、経験則に反し、同供述は、本件認識があったことに合理的な疑いを生じさせるものとはいえないとして、事実誤認により第1審判決を破棄し、被告人を有罪として懲役4年に処したため、被告人が上告した事案において、原審は、争点の核心部分について事実の取調べをしたということができ、その結果が第1審で取り調べた証拠以上に出なくとも、被告事件について判決をするのに熟していたといえるから、第1審が無罪とした公訴事実を認定して直ちに自ら有罪の判決をしても、刑事訴訟法400条ただし書に違反しないとして、本件上告を棄却した事例。
2021.05.18
金融商品取引法違反被告事件
LEX/DB25569083/横浜地方裁判所 令和 3年 3月12日 判決 (第一審)/令和1年(わ)第1118号
被告人A株式会社は、その発行する株券を株式会社東京証券取引所市場第一部に上場し、その平成27年3月期の連結業績予想につき、営業利益が9億円、経常利益が7億円、当期純利益が5億円である旨公表していたものであり、また被告人Dは、被告会社の実質的経営者としてその業務全般を統括していたものであり、そして、被告人Eは被告会社の代表取締役社長としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人D及び同Eは、被告会社の取締役であったFと共謀のうえ、被告会社の業務に関し、関東財務局長に対し、被告会社の平成26年4月1日から平成27年3月31日までの連結会計年度につき、営業利益が約4億9800万円、経常損失が約1800万円、当期純利益が約1億3500万円であったにもかかわらず、架空売上を計上するなどの方法により、営業利益を10億1200万円、経常利益を4億9600万円、当期純利益を4億8800万円と記載するなどした虚偽の連結損益計算書を掲載した有価証券報告書を提出し、もって重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出したとして、金融商品取引法違反の罪で、被告会社につき罰金1000万円、被告人Dにつき懲役2年6か月、被告人Eにつき懲役1年6か月を求刑された事案で、本件各取引に実態はなく、本件各取引に基づく売上等を売上高に含めることは許されないから、不動産売却益、貸付金利息、仲介手数料及び販売委託手数料を利益として計上することは認められず、被告会社は、架空売上を計上するなどの方法により虚偽の連結損益計算書を掲載した有価証券報告書を提出したといえるなどと認定し、被告人A株式会社を罰金1000万円に、被告人Dを懲役2年6か月に、被告人Eを懲役1年6か月に処し、被告人Dに対し4年間、被告人Eに対し3年間、それぞれその刑の執行を猶予した事例。
2021.04.27
強盗殺人被告事件(干物店強盗殺人事件)
LEX/DB25571457/最高裁判所第一小法廷 令和 3年 1月28日 判決 (上告審)/平成30年(あ)第1270号
金銭に窮した被告人が、以前勤務していた干物店において、経営者の女性らを殺害して現金を強取しようと決意し、同女と従業員の男性の頸部等を刃物で突き刺すなどした上、業務用冷凍庫に入れ、扉の外にバリケードを設けて閉じ込め、両名を出血性ショックにより死亡させて殺害し、その際、店の売上金等を強取したという強盗殺人の事案で、第1審判決は死刑を言い渡し、原判決も控訴を棄却したため、被告人が上告した事案で、被告人の刑事責任は極めて重大であるといわざるを得ず、当初から強盗殺人を計画した犯行であるとまでは認められないこと、犯行前は懲役前科がなかったことなど、被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても、被告人を死刑に処した第1審判決を維持した原判断は、やむを得ないものとして、上告審も死刑判決を維持した事例。
2021.02.16
わいせつ電磁的記録記録媒体陳列、公然わいせつ被告事件
LEX/DB25571273/最高裁判所第二小法廷 令和 3年 2月 1日 決定 (上告審)/平成30年(あ)第1381号
インターネットのサイトに投稿されたわいせつ画像データを、サーバに記憶、蔵置させて視聴者が閲覧可能な状態を設定し、又は、映像配信システムを利用して視聴者に配信して閲覧させたとして、同サイトの管理者らに投稿者との共謀によるわいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪や公然わいせつ罪が成立するか否かが争われた事案の上告審において、電磁的記録を保管した記録媒体がサイバー犯罪に関する条約の締約国に所在し、同記録を開示する正当な権限を有する者の合法的かつ任意の同意がある場合に、国際捜査共助によることなく同記録媒体へのリモートアクセス及び同記録の複写を行うことは許されると解すべきであるとした上で、被告人両名について、サイト会社代表者及び本件各投稿者らとの共謀を認め、わいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪及び公然わいせつ罪の各共同正犯が成立するとした原判断は正当であるとし、本件上告を棄却した事例(補足意見がある)。
2021.02.09
殺人,殺人未遂,傷害被告事件
LEX/DB25571265/最高裁判所第二小法廷 令和 3年 1月29日 判決 (上告審)/令和2年(あ)第96号
被告人は、傷害罪のほか、Aに対する殺人罪、B、C、D及びEに対する各殺人未遂罪で起訴され、被告人は、上記5名に対する殺意を争い、第1審判決は,各殺意を認定し、上記各罪により被告人を懲役24年に処したため、これに不服の被告人が控訴し、控訴審判決は、事故の相手方であるB及びEに対する殺意を認めた第1審判決には事実誤認があるとして第1審判決を破棄し、本件を地裁に差戻しを命じたことにより、検察官側、被告人側の双方が上告した事案で、被告人が、A及びDに対し、ひそかに睡眠導入剤を摂取させて自動車を運転するよう仕向けたことにより、同人らが走行中に仮睡状態等に陥って自車を対向車線に進出させて対向車に衝突させ、対向車の運転者であるB及びEに傷害を負わせたという殺人未遂被告事件について、B及びEに対する殺意を認めた第1審判決に事実誤認があるとした原判決は、第1審判決について、論理則、経験則等に照らして不合理な点があることを十分に示したものとは評価することができず、第1審判決に事実誤認があるとした原判断には刑事訴訟法382条の解釈適用を誤った違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められ、検察官の上告趣意第5は、第1審判決に事実誤認があるとした原判断を前提とするものであるから、この点について判断するまでもなく、刑事訴訟法411条1号により原判決を破棄することとし、Aに対する殺人罪並びにB、C、D及びEに対する各殺人未遂罪の成立を認めた第1審判決の判断は是認することができ、また、訴訟記録に基づいて検討すると、本件各犯行時における被告人の完全責任能力を肯定し、懲役24年に処した判断を含め、第1審判決を維持するのが相当であり、被告人の控訴を棄却した事例。
2020.12.22
殺人,窃盗,住居侵入,会社法違反被告事件
LEX/DB25571193/最高裁判所第一小法廷 令和 2年12月 7日 決定 (上告審)/令和1年(あ)第1843号
被告人は、自宅で、被害者をその嘱託を受けることなく殺害した後、この事実が捜査機関に発覚する前に、嘱託を受けて被害者を殺害した旨の虚偽の事実を記載したメモを遺体のそばに置いた状態で、自宅の外から警察署に電話をかけ、自宅に遺体があり、そのそばにあるメモを見れば経緯が分かる旨伝えるとともに、自宅の住所を告げ、その後、警察署で、司法警察員に対し、嘱託を受けて被害者を殺害した旨の虚偽の供述をしたことが認められ、被告人は、嘱託を受けた事実がないのに、嘱託を受けて被害者を殺害したと事実を偽って申告しており、自己の犯罪事実を申告したものということはできず、刑法42条1項の自首は成立しないと判示し、これと同旨の第1審判決を是認した原判決は正当であるとして、本件上告を棄却した事例。
2020.12.15
道路交通法違反、電子計算機使用詐欺被告事件
LEX/DB25567115/名古屋高等裁判所 令和 2年11月 5日 判決 (控訴審)/令和2年(う)第141号
2件の無免許運転(道路交通法違反)と自動改札機を介したキセル乗車1件(電子計算機使用詐欺)の事件につき、原判決は、無免許運転2件については有罪としたが、キセル乗車については構成要件該当性がないから無罪とし、被告人を懲役1年2月、3年間執行猶予に処したため、無免許運転2件については、被告人が控訴し、キセル乗車1件については、検察官が控訴した事案において、弁護人の控訴は理由がないとし、検察官の控訴については、原判決が、本件自動改札機が旅客の入場情報それ自体を事務処理の対象としていないことを前提にして、自動改札機による事務処理システムが予定している事務処理の目的を実質的に検討することなく限定的に解するという誤りを犯し、その結果、被告人の行為が、虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供したと認められるにもかかわらず、これを否定するという誤認に至ったものであり、判決に影響を及ぼすことは明らかであるとし、原判決を破棄したうえで、被告人は、利欲的動機からキセル乗車に及んだと推察され酌むべきものはなく、また、平成28年9月及び平成29年4月に無免許運転によりいずれも罰金刑に処せられたのに、その後2回も無免許運転に及んだものであり、無免許運転の常習性及び交通規範意識の薄さは顕著であるとして、被告人に懲役2年に処し、執行猶予4年を言い渡した事例。
2020.10.13
建造物侵入,埼玉県迷惑行為防止条例違反被告事件
LEX/DB25571088/最高裁判所第一小法廷 令和 2年10月 1日 判決 (上告審)/平成30年(あ)第845号
被告人が、共犯者と共謀の上、盗撮用の小型カメラを設置する目的で、パチンコ店の女子トイレ内に、共犯者において侵入した上、用便中の女性の姿態を同所に設置した小型カメラで撮影し、公共の場所において、人を著しく羞恥させ、かつ、人に不安を覚えさせるような卑わいな行為をしたとする事案の上告審で、数罪が科刑上一罪の関係にある場合において、各罪の主刑のうち重い刑種の刑のみを取出して軽重を比較対照した際の重い罪及び軽い罪のいずれにも選択刑として罰金刑の定めがあり、軽い罪の罰金刑の多額の方が重い罪の罰金刑の多額よりも多いときは、刑法54条1項の規定の趣旨等に鑑み、罰金刑の多額は軽い罪のそれによるべきものと解するのが相当であるとし、原判決及びこれと同趣旨の第1審判決を破棄し、更に審理を尽くさせるため本件を第1審裁判所に差し戻すこととした事例。
2020.10.13
傷害、強盗、窃盗被告事件
LEX/DB25571089/最高裁判所第二小法廷 令和 2年 9月30日 決定 (上告審)/令和1年(あ)第1751号
A及びBは、被害者に対し暴行を加えることを共謀した上、被害者のいるマンションの部屋に突入し、被害者に対し、カッターナイフで右側頭部及び左頬部を切り付け、多数回にわたり、顔面、腹部等を拳で殴り、足で蹴るなどの暴行を加え、被告人は、Aら突入の約5分後、自らも同部屋に踏み込んで、被告人は、被害者がAらから激しい暴行を受けて血まみれになっている状況を目にして、Aらに加勢しようと考え、台所にあった包丁を取出し、その刃先を被害者の顔面に向け、この時点で,被告人は被害者に暴行を加えることについてAらと暗黙のうちに共謀を遂げ、その後、同部屋で、被告人及びAは、脱出を試みて玄関に向かった被害者を2人がかりで取り押さえて引きずり、リビングルームに連れ戻し、こもごも、背部、腹部等を複数回蹴ったり踏み付けたりするなどの暴行を加え、また、Aらは、被害者に対し、顔面を拳で殴り、たばこの火を複数回耳に突っ込み、革靴の底やガラス製灰皿等で頭部を殴り付け、はさみで右手小指を切り付けるなどの暴行を加え、Aが、千枚通しで被害者の左大腿部を複数回刺した結果、被害者は、全治まで約1か月間を要する傷害を負ったとした事案において、被告人が共謀加担した前後にわたる一連の暴行は、同一の機会に行われたものであるところ、被告人は、右第六肋骨骨折の傷害を生じさせ得る危険性のある暴行を加えており、刑法207条の適用により同傷害についての責任を免れないと判示し、原判決には、被告人が同傷害についても責任を負うと判断した点で、同条の解釈適用を誤った法令違反があるといわざるを得ないが、この違法は判決に影響を及ぼすものとはいえないとして、本件上告を棄却した事例。
2020.09.08
殺人被告事件
LEX/DB25571011/最高裁判所第二小法廷 令和 2年 8月24日 決定 (上告審)/平成30年(あ)第728号
被告人は、生命維持のためにインスリンの投与が必要な1型糖尿病にり患している幼年の被害者の治療をその両親から依頼され、インスリンを投与しなければ被害者が死亡する現実的な危険性があることを認識しながら、医学的根拠もないのに、自身を信頼して指示に従っている母親に対し、インスリンは毒であり、被告人の指導に従わなければ被害者は助からないなどとして、被害者にインスリンを投与しないよう脅しめいた文言を交えた執ようかつ強度の働きかけを行い、父親に対しても、母親を介して被害者へのインスリンの不投与を指示し、両親をして、被害者へのインスリンの投与をさせず、その結果、被害者が死亡に至ったとした事案の上告審において、被告人は、未必的な殺意をもって、母親を道具として利用するとともに、不保護の故意のある父親と共謀の上、被害者の生命維持に必要なインスリンを投与せず、被害者を死亡させたものと認められ、被告人には殺人罪が成立するとし、これと同旨の第1審判決を是認した原判断は正当であるとして、本件上告を棄却した事例。
2020.09.08
業務上過失致死被告事件
「新・判例解説Watch」刑法分野 令和2年11月中旬頃解説記事の掲載を予定しております
LEX/DB25566440/東京高等裁判所 令和 2年 7月28日 判決 (控訴審)/平成31年(う)第791号
特別養護老人ホームに准看護師として勤務し、同施設の利用者に対する看護及び介護業務に従事していた被告人が、食堂で、利用者に間食を提供するに当たり、決められた形態と異なる食事を利用者に提供して摂取させれば、利用者に窒息事故等を引き起こすおそれがあるから、各利用者に提供すべき間食の形態を確認した上、これに応じた形態の間食を利用者に配膳して提供し、窒息等の事故を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、ゼリー系の間食を提供するとされていた被害者(当時85歳)に対し、提供すべき間食の形態を確認しないまま、漫然と常菜系の間食であるドーナツを配膳して提供した過失により、同人にドーナツを摂取させ、喉頭ないし気管内異物による窒息に起因する心肺停止状態に陥らせ、病院で、心肺停止に起因する低酸素脳症等により死亡させたとした事案の控訴審において、原判示の過失の成立を認めた原判決の結論は是認することはできず、本件公訴が提起されてから既に5年以上が経過し、現時点では控訴審の段階に至っている上、有罪の判断を下した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるとして原判決を破棄し、被告人が、自ら被害者に提供すべき間食の形態を確認した上、これに応じた形態の間食を被害者に配膳して提供する業務上の注意義務があったとはいえないとして、被告人に無罪を言い渡した事例。
2020.09.01
各贈賄被告事件
LEX/DB25565997/大阪高等裁判所 令和 2年 6月17日 判決 (控訴審)/平成30年(う)第1000号
a社の常務取締役及び営業部長の被告人両名は、共謀の上、国立大学法人b大学の教授であり、講座専任教授として、同大学と外部機関等との共同研究に関し、同大学の研究代表者として外部機関等と協議し、その受入れの可否を決した上、受け入れた研究を実施するなどの職務に従事していたP3に対し、3回にわたり、a社との共同研究の受入れを決した上、同研究を実施し、その結果について情報を提供してくれたことなど、a社のため有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨の下に、a社の経理担当職員を介して、f銀行本店に開設されたa社名義の当座預金口座からf銀行g支店に開設されたP3が管理する株式会社h名義の普通預金口座に、現金合計194万4000円を振込送金し、同人の職務に関して賄賂を供与したとして起訴され、原判決が、被告人両名を有罪としたことに対し、被告人両名が控訴した事案において、原判決には、賄賂ではないものを賄賂と認めた事実の誤認があり、これが被告人両名の関係で、判決に影響を及ぼすことが明らかであるとし、原判決を破棄し、被告人両名に対し無罪を言い渡した事例。