1997年1月号Vol.2

【トレンドView】注目の『地域カード』サービス今春登場

コンピュータジャーナリスト 中尾英二

 マイクロプロセッサーと読み出し専用のメモリー・チップを埋め込んだ、名刺大のプラスチック・カードが、情報システムの利用に..というより、社会生活に..大きな変革を起こしつつある。1cm四方の半導体チップに、16メガ・ビット(1600万ビット、1文字を記録するには8ビットが必要なので200万文字)..つまり、一人の人間が生まれてから死ぬまでの記録はおよそ収まってしまう。「自分の人生はたったこれっぽっちか」と物悲しくなってしまうが、感情までは記録できない。

 このカードは一般に『ICカード』と呼ばれている。大きくプログラム内蔵型とデータ記録型の2種類に分けられ、プログラム内蔵型の最もポピュラーなものは電子手帳用のカードだ。あるいはゲーム・ソフトやパソコン用のFAXモデムカードもあり、高いもので数万円で、大概は5000円から買える。パソコンを小さくしたような携帯情報端末が普及すると、データ記録型のICカードの需要が一気に伸びると見られている。誰だって少しでも多くの情報を持って歩きたい、と思う……かもしれない。

 このカードは、アイデア次第でさまざまな用途が考えられるのだが、真っ先に飛び付きそうな金融機関は実用化実験にとどまっている。利用者に無償配布できる品物は、単価が千円以内という規制があるためだ。もっともメモリー・チップの価格は昨年一年間で3分の1に急落したので(原因はメーカーの過剰生産だった)、カード単価が千円以下になるのは時間の問題だが…。こんなことから、まだ金融機関には普及しておらず、クレジット業や各種のサービス業でも多くは磁気ストライプ型カードで間に合わせている。

 さて、一般に地方公共団体の情報化の動きは「民間と比べ2年程度遅れている」といわれるが、ことICカードに関しては民間をはるかに先行している。要因を詳細に分析している紙幅はないが、①民間企業のように自らの資金リスクを負わない(従って実験的なプロジェクトを組みやすい)、②「点から面」への行政サービスの展開、③複合的な利用目的が具体化しやすい、などが背景になっている。ICカードの導入が票に結びついたという話を聞いたことはないが、「福祉・医療の充実」「地域文化・教育の振興」は住民に受け入れられやすい。

 こうした事情から、地方公共団体ではすでに90年代の初めから「モデル実験」の形でICカードの導入が進められていた。自治省が打ち出した『地域コミュニティ・ネットワーク構想』が引き金になったのである。対象は、「公共施設案内・予約システム」「図書館情報ネットワークシステム」「地域カードシステム」の3つで、それぞれ複数の地方公共団体がモデルプロジェクト推進団体の指定を受け実用化に取り組んでいる。自治省の地方交付税と、通産/郵政省などの国庫支援を適用する“親方日の丸”的な発想は否定できないが、カード1枚でさまざまな地域行政サービスを受ける手続きが簡素化されるなら(さらに、それによって行財政改革が進むなら)、税金の有効活用といえなくもない。

 人口規模の観点から注目されているのは、岡山市のケースだろう。市内の関連公共機関にICカード読み取り装置を配備し、65歳以上の高齢者全員に『岡山ふれあいカード』と名付けたICカードを配布したのだ。各種手続申請、公共施設の利用、医療・福祉サービスの給付など、ICカードが多目的に適用されている。

 また、全長400mを超える巨大な古墳群で知られる羽曳野市は、ICカードを20歳以上の全住民に配布し、公共証明書自動発行システムと組合せている。「便利さを理解してもらうには、最も身近で分かりやすい」のが理由だが、「これからの市役所は、手続き機関ではなくサービス機関に」(戸谷寿夫・情報管理課長)というコンセプトがなければ“1日平均2000件”の利用は実現しなかっただろう。

 地方自治情報センターの調査によると、福祉関連行政について、全国の地方公共団体の8割が「円滑な情報の提供」を求めている。そのためには「個人情報データベースが必要」(62.5%)だが、個人情報をデータベース化すれば“機密保持とプライバシーの保護”という課題が浮かんでくる。

 なまじコンピュータに情報を蓄積するから、漏洩が懸念される。利用者の立場から見たとき、自身の情報を自分が保有し、多目的に利用できるというICカードの特徴が見えてくるのではないだろうか。

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