1997年4月号Vol.3

【特別インタビュー】地方自治体の外部監査~行財政再建を目指して~

米田正巳・日本公認会計士協会 公会計委員会専門部会長 / 聞き手 本誌編集委員・杉山 宏

地方制度調査会が「監査制度の改革に関する答申」を公表し、98年度から導入される見通しとなった。一方で「地方分権」など、自治体を取り巻く環境も大きく変わろうとしている。このような中、自治体の行財政再建はどうあるべきか。長年、公会計について調査研究を続けている、日本公認会計士協会・公会計委員会の米田正巳専門部会長にお話をうかがった。

──ここにきて、外部監査が注目されていますが。

米田 ええ。日本公認会計士協会では、現在、4つの専門委員会を設置し、地方自治体公会計と監査の研究を10数年前から行っていますが、このように話題になったのはここ1~2年のことです。市民オンブズマンによる情報開示請求でカラ出張などスキャンダラスな部分が浮き彫りになったためですが、このまま一過性で終わってはいけません。もっとも、そうであれば日本の財政はさほど悪くないともいえるわけですが、自治体にとって今後はもっと厳しい状況になるでしょうね。行財政改革のためにも外部監査が必要と思います。

──自治体の監査制度について教えて下さい。

米田 歴史的背景から説明すると、日本では5世紀頃から会計検査に関する制度があり、徳川時代には勘定吟味役が事前・事後にわたり厳重な会計検査を行っていました。地方自治体の財務制度としては明治23年、府県制が制定されてスタートしました。その後、昭和21年に監査委員制度が創設され、翌22年の地方自治法の制定を経て現在に至っています。その後、昭和31年の監査権限の充実等、数度にわたって改正され、平成3年が最後です。この時の改正ポイントは、1つ目は行政監査まで職務権限が拡大し、2つ目は〈人格高潔で優れた識見を有する者〉と監査委員の資格要件が厳しくなり、〈監査委員の数が2人以上なら内1人以上は選任前5年間は職員でなかったもの〉という制限が設定されたこと。これについては、さらに制限しようという動きもあります。3つ目は〈都道府県および人口が25万人以上の政令都市は、常勤の監査委員を1人以上置く〉こと。このように、監査委員制度は時代とともに充実してきましたが、その効果の浸透や独自性について指摘もありました。地方分権推進法による地方分権推進委員会は、これを受けて平成8年に出した中間報告で「透明性の確保と向上のため、外部監査機能の導入も含めて充実強化する必要がある」とし、平成8年6月より第25次地方制度調査会は、監査機能の充実方策について検討を行っています。

外部監査の具体化には検討課題が山積み

──会計監査について欧米の事例をお聞かせ下さい。

米田 米国が3E監査、英国がVFM監査を行っています。基本的な考え方はどちらもほぼ同じで、監査に『支出の経済性・効率性・有効性』の3つの視点を求めています。両者の違いは、英国ではVFM監査も含めて監査委員会から任命された会計士等が実施し、米国では3E監査は会計検査院などが担当し、財務監査等を公認会計士が担当していることです。日本でも財務監査にこの3つの視点は必要です。また、行政監査については法適合性という面を考慮すべきでしょう。行革の流れから考えても英国方式が参考になると思います。ただ、欧米と日本では根本的な違いがあります。アカウンタビリティ(説明責任)という言葉があり、これは〈資源を預かって、それをいかに管理し帳簿を作り、それを情報として公表し説明して初めて責任が全うされる〉という考え方です。公会計は、まさにアカウンタビリティであるべきですが、残念ながら日本ではこの意識が低いですね。これには国民性の違いがあると思います。司馬遼太郎氏も「日本のような稲作中心の農業国は情報を大事にせず、むしろ排除するのが日本的な風土。しかし、欧米のような狩猟民族にとって情報は必要なもので、このため情報を大事にする一方で情報は公表するという風土ができた」といっており、また宗教的な違いもあります。この情報に対する考え方の違いは大きいかもしれません。

──なるほど。日本の外部監査制度はどうなるとお考えですか。

米田 第25次地方制度調査会の「たたき台」(平成8年12月)では、財務監査、行政監査、要求監査を外部監査する方向で考えられていますが、制度自体が固まるまでには、まだ紆余曲折があるでしょう。外部監査は、専門性からいっても米国のように公認会計士が組織的に担当するのが適していると思います。すでに公認会計士を監査委員に選任している自治体も少なくありませんし、協会としてもそのような公認会計士を集めた専門部会を設置しています。ただ、自治体の財務監査は、我われ公認会計士が考える財務監査とは少し違います。つまり、自治体の財務監査とは随時監査だけなんですね。我われはいわゆる財務諸表としての監査を考えており、財務監査と財務諸表の監査とは違うものと考えています。この場合の財務諸表とは決算報告までを含めたものですが、いまの段階では決算審査は監査委員の仕事であり、外部監査の範囲には含まれていません。現状では外部監査は単なるコンサルタントとしてとらえられているようです。また、自治体の場合、予算は議会の議決が必要ですが決算は認定だけで、仮に認定されなくても何の影響もないわけです。一般企業の場合は株主総会で決算が承認されないと、大変なことになります。もともと日本が模倣した独の制度には「決算は議決し、承認されて初めて責任解除される」という条文が入っていましたが、府県制ではこの条文が外され、100年以上そのままになっています。このような問題を解決しなければ、外部監査を行っても効果はあまり期待できないでしょう。

──自治体固有の問題があるわけですね。

米田 はい。公会計情報は、外部監査という第三者の公平な監査を経て、その内容が適正であると立証できるわけです。しかし、日本の場合、「監査委員による監査は法的に内部的な監査ではない」という意見もありますが、契約や雇用関係から考えるとやはり内部監査といわざるをえません。また、欧米には「一般に認められた会計原則と監査基準」に準拠した監査を行い、監査意見を公表することが社会的責任を果たすこと、との認識がありますが、日本の監査委員には監査責任がなく、監査基準さえも明文化されていません。このように、解決すべき問題はまだたくさんありますが、将来的には、商法上の大会社の監査役監査と会計監査人のように、自治体も監査委員監査と外部監査のそれぞれの役割と責任を明確に区分し、2つが両輪となっていくことが望ましいと考えています。

非財務情報も含めた情報公開で
効率的な財政運用をアピールせよ

──地方分権という時代に向け、自治体の財務処理は今後どのように展開すべきなのでしょうか。

米田 まず、自治体自身の行財政改革がなされるべきでしょう。いろいろな意味で合理化すべき点がありますね。洋服を着ていると気にならないおなかの脂肪も、裸になると引っ込めようと思うでしょう(笑)。これと同じで、効率的な監査を実施するためにはディスクローズ(行財政情報の開示)が重要な要件になります。

開示されれば誰の目にもおかしい点が明らかになり、それが間接的な監査になります。これにより、無駄を改善しようという職員1人ひとりの意識改革へつながるのではないでしょうか。そのためには、まず財務諸表を作るべきです。自治体が作成しているのは歳入歳出を表した決算書で、これだけでは十分ではありません。そうなると自治法改正という話になりますが、欧米のようにストック情報を含めて、いかに効率的に財政が運用されたかを住民にPRすべきだと思います。

──情報を公開して白日の下にさらすことが、第一歩ということですね。

米田 はい。開示した情報が自治体の行財政の評価につながるべきです。つまり「お金はかかったが利用者は何人いて、こんな多くのサービスを提供している」という非財務情報も含めて情報を開示するわけです。専門家でなくとも、誰にでも分かる形で、本来開示すべき情報はすべて公開する──。行財政再建はそこからスタートするのではないでしょうか。

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